「みらいカルタ」で想像した宇都宮の未来。 良い街は“絆”を実感できる

「みらいカルタ」で想像した宇都宮の未来。 良い街は“絆”を実感できる

「みらいカルタ」で想像した宇都宮の未来。 良い街は“絆”を実感できる

豊かな想像力を持つ子供だから、描ける未来がある。今夏、宇都宮の子供たちが「みらいカルタ」に挑戦しました。白紙のカルタに描いた未来は、将来の姿を想像するきっかけになったのではないでしょうか。宇都宮青年会議所の青柳正寛さんに聞きました。

「白紙のカルタ」で街の未来を考える

「みらいカルタ」とは?

「みらいカルタ」とは?

ワクワクする未来を想像しながら、白紙の読み札と絵札に自由に描いて完成させるのが「みらいカルタ」です。

テクノロジーの進化とともに、とてつもない速さで生活環境が変化している現代では、未来の社会について具体的にイメージすることがますます難しくなっています。誰かのアイデアや情報によって社会も個人の生活も大きく変わる時代であるからこそ、それぞれが未来を拓く想像力を掘り起こし、将来の可能性を考えるきっかけを与えてくれる「みらいカルタ」のようなツールの重要性が、ますます高まっているともいえます。

宇都宮青年会議所ではこのみらいカルタを使って、街の未来を見つめ直す「EXCITING DREAM 未来うつのみや」という取り組みを実施しました。

未来を想像する方法を自ら体験してもらう

未来を想像する方法を自ら体験してもらう

宇都宮青年会議所では明るくて豊かな社会の実現をめざし、宇都宮を盛りあげていく活動を行っています。その一環として、2020年6月15日から7月19日に開催した希望溢れるまちの未来を描く事業「EXCITING DREAM 未来うつのみや」では、みらいカルタを使って手を動かしながら、宇都宮の子供たちに未来を描いてもらう体験の場を提供しました。

そもそもなぜ、未来を想像するきっかけを促すツールとしてカルタを選んだのでしょうか。青柳さんは「知らない人も多いかもしれませんが、実は宇都宮は百人一首の発祥の地なんです」と話します。

「未来をカルタで表現したら面白いんじゃないかって調べてみたら、みずほ銀行さんが大切な人の未来を楽しく想像することをテーマに『みらいカルタ』を制作しているのを知りました。そこで学童を中心とした市内の子供たちには家族の未来を、一般の宇都宮市民からは街の未来を描いた札を募集し、みらいカルタの宇都宮版を作ることにしました」
例えば『手洗い うがい できることから感染対策! 守ろう! 大切な命!』といった日常で大切にしたいフレーズから、宇都宮青年会議所が力を入れて行うふるさと宮まつりに「ロボットがやってくる」という近未来的な札まで。子供たち独特の視点で未来の宇都宮を想像しながら描かれた内容が、カルタとして採用されました。

未来を想像する方法を自ら体験してもらう

「あくまでも『自由に未来を想像してください』と募集した企画でしたので、面白い札もたくさんありました。個人的に気に入っているのは、わんこそばならぬ『わんこ餃子』の札です(笑)」

未来を想像する方法を自ら体験してもらう

大人の視点の外側にある未来を想像する

前向きな考え方が未来を描く鍵

青柳さんは未来を自由に想像するためには、物事を前向きに捉える力が必要だと言います。

「日本の子供は世界的に見て、自己肯定感が低い傾向にあるといわれています。そのため僕ら大人が、子供たちに明るい未来を考えるきっかけを与えるべきなのでしょうが、例えば青年会議所が『講演を通じて未来の描き方を教える』かたちだと、強引に押しつける感じになってしまう。でもみらいカルタなら、誰からも強制されることもなく、子供たち自身の手で自然と未来を想像できると感じたんです」

みらいカルタは「前向きな考え方を自然と養うツール」でもあると話す青柳さん。子供たちが自由な発想で作成したカルタの例も、教えてもらいました。

子供が作ったカルタは大人には思いつかない内容が書かれていて、とにかく面白いんです

「子供が作ったカルタは大人には思いつかない内容が書かれていて、とにかく面白いんです。もちろん『明日こそ100点取ってほめられたい』とか、『身近なとこからコロナ対策しよう』とか現実的な内容もあったけど、実現不可能で大人は絶対書かないような夢を書く子が多かったのが印象的でした。僕ら大人なら『宝くじが当たる!』とか現実的な手段を書くところを、子供は『朝起きたら札束がある』って書くんですよ。あとは生活感があるものもあって、面白かったのは『パパの靴下が良い匂いになる』とか(笑)こういうのを家でやると楽しいですよね」

青柳さんは大人が未来のことを想像するとき、目の前にある課題の解決ありきで物事を考えると言います。これが子供の書いたカルタと、発想の仕方に違いが生まれる理由なのだそうです。

「例えば『友達がいない』という課題から『友達を100人作る』という未来だけじゃなくて、問題の解決以外にも無限に可能性は広がっているわけです。極端な話、友達がいなくても楽しめる未来を想像しても良い。大人が無理に『友達と仲良くしなきゃダメ』と子供を押さえつけてしまうと、想像できる未来も限定的になってしまうかもしれませんよね」

「こうやりなさい」ではなく「何が楽しいの?」でカルタ作りを促す

「こうやりなさい」ではなく「何が楽しいの?」でカルタ作りを促す

学童保育所を中心に実施したみらいカルタ制作に、青柳さんを始めとする宇都宮青年会議所のメンバーも各施設へサポートに入りました。200人を超える子供が参加したみらいカルタ作りで、未来を描く能力には得意不得意の差を感じることもあったそうです。

「2時間で20枚という比較的速いペースで仕上げていく子供もいれば、1〜2枚を数時間かけてようやく作る子供もなかにはいて、違いがはっきり分かれていました。

なかなか書けない子は、もともと新しいことに対して苦手意識が少なからずあるようです。『何を書いたらいいのか分からない』という子供も少なくありません。考えることってみんな日常的にやっていると思うけど、日頃から前向きな人と慎重に物事に対応する人とでは、頭のなかを巡っている内容は違いますよね。みらいカルタは未来を想像するという前向きな視点を持ち込む必要もあるので、普段、頭のなかで慎重に物事を考える子にとっては負担が大きい部分もあるのだと思います。それで、1枚目がなかなか書き始められないのかもしれませんね」

とはいえ、書き始められない子供には「こうやりなさい」とは言わずに「楽しいことや好きなことは何?」と聞いて『じゃあそれを書いてみようか!』と、自由に書けるように促したそうです。筆が進まない子も、次第に要領を掴んで次々と書けるようになっていき、楽しんでいたと青柳さんは語ってくれました。

『これは何の絵?』と聞くと、嬉しそうに自分が書いた札の説明をしてくれる

「『これは何の絵?』と聞くと、嬉しそうに自分が書いた札の説明をしてくれる場面もありました。参加した子供の家庭では、親に自分が描いた未来を楽しそうに話すといったやり取りもあったようです。みらいカルタを通じて自分の考えを人に伝えるという自己表現力も、遊びながら感じることができたと思いますね」

普段は見られない子供の姿も発見

3人の子供を持つ青柳さんの家庭でも、みらいカルタを通じて子供の考えを知る機会になったそうです。

「漠然とした『これからも何でもチャレンジ! 頑張ろう!』という札や『果物いっぱいの世界』とか子供ならではの発想の札、『戸締まりしっかりできるかな』と、現実的な内容まであってすごく面白かったです。それでどんな意味の札なのかを訊くと、自信満々に子どもが答えてくれる。普段見られないくらい楽しそうな様子でしたね。

ほかにも『近所の公園にいきたい』っていう札があったんですが、なんでその公園なのか最初見たときは理解できなかったんです。アスレチックがあるとかでもなく、住宅地のなかにある本当にごく普通の公園なんです。けれど話を聞くと、家族でお弁当を持ってピクニックをした経験が記憶に残っているようで。『楽しかったからまた行きたい!』ということだったんです」

青柳さんの子供はどちらかというとシャイで、やりたいことや夢を話してくれる姿は日常ではあまり見なかったそうです。しかし、子供が公園に行きたがっていたことをみらいカルタをやってみて初めて知ることができました。その後、一緒に公園へ行ったら喜んでくれたと話します。

「私たち大人にとっては特別なお店でもない普通の料理屋に行きたいとも書いてて、子供からすると席で好きなように遊んでいても怒られないからっていうんです。子供は『〇〇に行く』という目的よりも、行った先でどんな経験ができるのかが大切なんだと気づきました」

さらにほかの家庭でみらいカルタを楽しんでいる様子を、動画で見る機会もあったと言う青柳さん。人とのつながりを感じる機会になったようです。

「コロナの影響で人とつながる機会が減ったことを、僕自身はすごく寂しく感じました……。しかし親子で『みらいカルタ』を楽しんでいる姿を見て『自分が企画した仕事で誰かが喜んでくれる瞬間が一番嬉しい!』と改めて思ったんです。もちろん物理的には離れているわけですが、映像を介したやり取りでも人とのつながりは充分に感じることができました」

親子で『みらいカルタ』を楽しんでいる姿を見て『自分が企画した仕事で誰かが喜んでくれる瞬間が一番嬉しい!』

宇都宮から新しい観光のかたちを発信していく

今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で人が集まるのが難しいなか、宇都宮青年会議所ではインターネットを使った取り組みも導入しました。

例えば宇都宮の夏の風物詩であるふるさと宮まつりにおいて、人が集まれなかった今年はペーパークラフトや露光アートの写真をSNSで投稿する「おうちでふるさと宮まつり」として、人がつながる場所を作りました。

「今後は、外出が制限されていても宇都宮の魅力を発掘できる企画を実施していきます。その一つが、宇都宮の城址公園を出発し、日光東照宮をめざす『オンラインツアー』です。皆さんにはマイカーで参加してもらい、専門の案内人が動画で日光東照宮を案内した後、芸人さんを呼んでイベントを行う予定です。新しい観光のかたちとして宇都宮の魅力を多くの人に発信できるよう、進めていきたいと考えています」

新型コロナウイルス感染症が広まる前のように「簡単に人とつながれる状況にはもう戻れないのでは」と、不安を抱く方もいるかもしれません。しかし青柳さんは悲観するわけではなく、インターネットの活用で地域の市民同士が自然とつながる、新しい未来を模索しています。

「今はコロナに翻弄され、直接集まることがどうしても制限される場面も多いです。ただ、やはり『市民同士がつながっている』という絆を実感できて『良い街だな』と思える。物理的な接触が難しい状況ですが、だからこそインターネットを使ったつながる機会を、もっともっと増やしていきたいと考えています」

今回、みらいカルタを通して、街の未来を見つめ直す取り組みを実施した宇都宮青年会議所。街だけでなく、子どもとの接し方を見つめ直す一助になった家庭も多かったと言います。未来を考える力は、街や身近な家庭を明るくする力を持っているのかもしれませんね。


みらいカルタのダウンロードはこちら

この人に聞いてみた
青柳 正寛さん
公益社団法人 宇都宮青年会議所
2020年度 まちの未来創造委員会 委員長
青柳 正寛さん

1981年生まれ。理学療法士として病院勤務のかたわらキネステティクス®トレーナーとしても活動。現在は、社会福祉法人朝日会、特別養護老人ホームはりがや夢希の杜施設長。3児の父。
ライタープロフィール
八坂 都子
八坂 都子
育児系雑誌の編集アシスタント、美術系出版社にて編集記者を経て2020年にペロンパ入社。マネー系を中心にカルチャーなど幅広いテーマで記事執筆・コンテンツ制作を行う。

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