「農業+観光」イタリアで発展したアグリツーリズモとは

都会の喧騒から離れて自然に囲まれた農家でのんびり滞在しながら、食文化を始めその土地が育んできた文化を体験できるアグリツーリズモ(Agriturismo)。イタリア語で農業を意味するアグリコルトゥーラ(agricoltura)と観光を意味するツーリズモ(turismo)が一つになってこの言葉が生まれました。
ヨーロッパ発祥といわれているアグリツーリズモがイタリアで始まったのは、1960年代。仕事を求めて若者が都市へと出ていく状況の中、農村部では空いた部屋や建物を宿泊施設にして旅行者を受け入れたのがきっかけといいます。1985年には、アグリツーリズモに関する法律が制定。以後、イタリア全土へと急速に広まっていきました。現在ではイタリアを中心に、世界各国でアグリツーリズモを楽しむことができます。

農家が農業の傍ら、旅行客を泊めて食事を提供するのがアグリツーリズモの基本的な形ですが、中には宿泊施設を持たず、料理を提供するだけというところもあります。宿泊施設については、自宅や離れに手を加えた部屋、キッチン付きのコテージタイプ、プール付きの豪華な施設など様々です。食事については、法律や条例によって「宿泊客に提供する食材は運営する農家が生産したもの、もしくはその地域の特産品を使うこと」と義務付けられています。
また乗馬やトレッキング、農作物の収穫、ワインやオリーブオイル、チーズなど特産品の製造現場の見学といったアクティビティも提供されています。

農業や食に興味がある人はもちろんですが、自然の中に身を置いてリラックスしたい人、オーナー家族のあたたかなもてなしを求めてやってくる人も多いアグリツーリズモ。観光名所をめぐる旅ではなかなか体験できない、その土地の魅力にたっぷりと触れられるはずです。
日本型アグリツーリズモに注目!今後の可能性と展開
アグリツーリズモは、日本においても高く注目され、民泊や日帰り観光施設など様々な形で実践されています。2019年11月には、日本初のアグリツーリズモリゾートとして「星野リゾート リゾナーレ那須」が栃木県・那須町に開業。那須高原に広がる4万2,000坪の敷地で、農業体験や自然体験を楽しむことができます。
施設内には畑や温室で野菜やハーブを育てている農園「アグリガーデン」があります。地元農家のアドバイスを受けて、年間約80種類以上の野菜、約100種類のハーブを有機農法で育てています。また、この農園は、農業体験にも使用されています。

(画像提供:星野リゾート)

(画像提供:星野リゾート)

(画像提供:星野リゾート)
ヨーロッパなどと同じように、今後日本でもアグリツーリズモが観光のスタイルとして定着していくのでしょうか。「星野リゾート リゾナーレ那須」の松田直子 総支配人にお話を伺いました。
——日本におけるアグリツーリズモの可能性について、どのようにお考えですか?
松田総支配人:旅の普遍的なニーズは「その時、その場所でしか体験できない事との出会い」です。農業は十分にそのニーズを満たせる媒体であり、地域の人と旅人をつなぐ架け橋になり得るでしょう。四季がはっきりとし、変化や個性に富んだ土地を有する日本において、農業を軸とした取り組みは、その地域に根ざしつつ大きく広がっていくと考えています。
——今後、日本のアグリツーリズモはどういった展開をみせると思われますか?
松田総支配人:「リゾナーレ那須」では「リゾート」という形態をとっていますが、旅のスタイルが高級リゾート、シティホテル、民泊、キャンプ、日帰りなど様々な形態をとるように、アグリツーリズモもバリエーション豊かで個性的な展開を見せてくれるのではないでしょうか。
「リゾナーレ那須」では今後、地元農家の皆さんの協力を得て、地域とお客さまをつなぐ取り組みを進めていきたいとのことでした。

(画像提供:星野リゾート)
まとめ
自然の恵みを五感で感じることのできるアグリツーリズモ。地域の活性化にも結びつくことで「観光と地域の共生」が実現する、サスティナブルな旅のスタイルだと感じました。また食を通しての地元の人との交流は、「その時、その場所でしか体験できないこと」であり、まさしく旅の醍醐味といえます。日本型アグリツーリズモの今後が、とても楽しみです。
※この記事は、編集部が取材をもとに制作したものであり、特定のサービスの販売促進を目的としたものではありません。
ライタープロフィール

大学卒業後、出版社に入社。 雑誌編集として約8年勤務の後 フリーランスのライター・カメラマンに。 WEB、雑誌、広報誌など、さまざまな媒体で取材・執筆を行っている。得意とする分野は旅・食・健康。温泉とお酒には特に目がない。
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