アドレスホッパー先駆者に聞く、旅しながら豊かに暮らす「多拠点生活」の心得

アドレスホッパー先駆者に聞く、旅しながら豊かに暮らす「多拠点生活」の心得

アドレスホッパー先駆者に聞く、旅しながら豊かに暮らす「多拠点生活」の心得

旅するように暮らす「アドレスホッピング」が、働き方や生活スタイルの変化にともなって注目されつつあるようです。日本におけるアドレスホッパーの先駆者、市橋正太郎さんにインタビュー。気になる暮らしぶりや魅力についてご紹介します。

アドレスホッパーとは?

アドレスホッパーとは?

「アドレスホッパー」とは、その名の通り定住するアドレス(住所)を持たず、ホッピング(転々と)する人のことです。2拠点生活(デュアルライフ)と混同されがちですが、特定の場所に定住せずに様々な場所を拠点にしているという点において、より自由度の高い生活スタイルといえます。

アドレスホッパーが世間に広く認知されたのは、2020年のこと。コロナ禍のリモートワーク推奨の流れを受けて都市部から地方へ移住する人が増加する中、ライフスタイルのかたちとしてアドレスホッピングを選択するアドレスホッパーが増え始めたようです。家を持たなければいけないという従来の固定概念が、働き方の多様化によって薄くなり、アドレスホッピングが幅広い層に認知され始めたとも考えられます。

転職をきっかけに感じた「家って本当に必要?」

日本におけるアドレスホッピングの先駆者ともいわれる市橋正太郎さんが、このライフスタイルを始めたのは2017年末のことでした。きっかけは、大手IT企業からスタートアップに転職して年収が半減、固定費の削減を意識し始めたこと。さらに、金銭的な理由に加えて、「仕事は都心で、休日は自然のある街で暮らす」という理想の暮らしを叶えるため、必要なときに必要な場所にいる生活へとシフトチェンジしていったそうです。

アドレスホッパーになって生活費はいくら変わった?

アドレスホッパーになって生活費はいくら変わった?
写真提供:市橋正太郎さん

そこから4年間以上、オンライン中心のワークスタイルを築きながらアドレスホッピングを続けてきた市橋さん。実際にどのような金銭的変化があったのでしょうか。

アドレスホッピングの強みは、毎月の出費をコントロールできること

アドレスホッピングで大きく変わったのは、家賃や光熱費、Wi-Fi代などの「固定費」が、宿泊費や移動費といった「変動費」になったことです。その結果、宿泊場所や移動手段を柔軟に調整することで、お財布事情や気分などに合わせて毎月の出費をコントロールできるようになったといいます。定住していた頃の固定費と比べてみました。

・原宿のシェアハウスに定住していた頃の月の固定費(2017年) 
家賃約13万円+Wi-Fi代約5,000円+光熱費約1万5, 000円=合計約15万円

・アドレスホッピングで必要となる月の変動費(2022年)
宿泊費(地方のゲストハウス)約4.5~15万円+移動費約0.5~3万円=合計約5~18万円

現在はパートナーと暮らしているため、宿泊費が以前よりもやや高くなっているといいますが、独身時代は月額コストを1/3程度まで抑えられていた月もあったようです。また、住宅の賃貸借契約のように初期費用や更新料が発生しないのもアドレスホッパーの大きな魅力だといいます。

固定費削減だけじゃない!アドレスホッパーのメリットとは

固定費削減だけじゃない!アドレスホッパーのメリットとは

アドレスホッピングを続けるライフスタイルにおいて、市橋さんは、固定費削減以外に「間接的なコストの削減」「本当に必要なモノに気付く」「心が豊かになる新しい出会い」の魅力にも気付いたといいます。

間接的なコストを削減して時間を有効活用できる

部屋の掃除、消耗品や日用品を気に掛けるといった「時間や手間などの間接的なコスト」を削減できるのもアドレスホッピングの魅力の一つです。空いた時間を仕事や趣味、自分を見つめ直す時間にあてられるため、生活の質の向上にもつながるといいます。

身軽に旅する日々で、本当に必要なモノに気付く

アドレスホッピングを始めるにあたって、自宅に置いていた物を整理した市橋さん。フリマアプリを利用した売却や処分を進める過程で、服飾類や家具雑貨などを必要以上に所有していた事実に気付き、驚いたといいます。

宅配を使い、必要に応じて荷物をトランクルームから出し入れする「宅配収納サービス」を活用している現在は、必要な物だけを厳選して所有する意識が根付き、ムダな出費も減ったそうです。

訪れた土地での、心が豊かになる出会い

訪れた土地での心温まる交流もアドレスホッピングの魅力の一つ。市橋さんも地元の方々と過ごす時間を大切にしており、例えば、島根県や福島県を訪れたときには農家や酒蔵といった地元の生産者たちと酒を酌み交わしたそうです。

「インターネットが普及して、オンラインでのコミュニケーションも珍しくない今だからこそ、直接会って築く人間関係に大きな価値があると思います。暮らしの実験として軽い気持ちで始めたアドレスホッピングですが、4年経って思うことは、人間関係からくる心の豊かさを得られたことが一番の魅力ですね」

まるで故郷のように出迎えてくれる人たち。そんな優しい世界に触れられるのも、アドレスホッパーならではの魅力なのです。

郵便物はどうなるの?

郵便物はどうなるの?

「移動生活」における郵便物などの受け取りはどうしているのでしょうか。

デジタル化によって郵送物の受け取りも楽に

「よく、書類のやりとりや郵便物は困らないの?と心配されますが、僕としては、出張の多い会社員と同じ感覚」だと市橋さんはいいます。デジタル化によって、現物でなければならない書類も減ってきているため不自由はないそうです。

ただ、公的な郵便物は住民票のある住所に届くため、家族などに転送を依頼したり、転送サービスを活用したりして、届けてもらう必要があります。一方、インターネットショッピングなどの民間サービスは、そのとき暮らしている場所の住所が有効なため、都度届けてもらう場所を指定すれば、定住生活の場合と同様に利用できます。

アドレスホッパーになりたい!心得や気を付けるポイントとは?

アドレスホッパーになりたい!心得や気を付けるポイントとは?

従来、アドレスホッパーは、デザイナーやライターなど、オンラインで仕事を完結させやすい職業に就く人が中心でしたが、コロナ禍で働き方が多様化した今、その状況も変わりつつあります。今後もリモートワークの活用が進むにつれて、誰もがアドレスホッパーになれる時代となるかもしれません。

では、実際にアドレスホッパーとして暮らすうえで、どのようなポイントに気を付ければよいのでしょうか。市橋さんに、健やかなアドレスホッピングのススメを聞きました。

アドレスホッピング、最初の一歩と続けるために大切なこと

「最初の一歩は、持ち物を整理すること。また、『とりあえず家は解約しないでおこう』なんて思っていると、どうしても行動に制限がかかってしまう。『ダメだったらやめよう』とラフに考えて、思い切って飛び込んでみてください!」

また、アドレスホッパーとして暮らすためには、健康管理も大切になるのだそう。訪れた土地の美味しい食べ物に囲まれる移動生活は、どうしても暴飲暴食になりがち。「できるだけ自炊をする」「決まった時間に眠る」「サウナや銭湯に入る」など、自分なりの工夫をしなければ心身ともに疲れてしまいます。刺激を感じる日々だからこそ、心と体を休息させるための「ルーティン」も必要になってくるのです。

市橋さんのルーティンはこの4つ

市橋さんは、生活リズムをつくるために、以下のルーティンを続けているそうです。

・毎朝、味噌汁を作る
・夜は、温泉やサウナでリラックス。必ず水風呂か冷水シャワーを浴びる
・寝る前のストレッチで体の疲れをほぐす
・できるだけ22時までには就寝。早寝早起きのリズムをつける
・早朝に坐禅をして気持ちを整える

最近はキッチン付きのホステルやゲストハウスも多く、規則正しい生活を送るための環境を整えやすくなっています。まずは、1箇所の居住期間を長めに設定しながら、自分なりのアドレスホッピングを確立していきましょう。

まとめ

旅するように暮らす。誰もが一度は憧れたことがあるそんな暮らしは、働き方もライフスタイルも多様化しつつある今の時代において、実現の可能性を広げつつあります。コロナ禍でリモートワークが加速し、家で過ごす時間が多くなり、生活を見つめ直す機会が増えたからこそ、住む場所にこだわらず、柔軟な暮らしを追求することを考えてみてもいいのかもしれません。

この人に聞きました
市橋正太郎さん
市橋正太郎さん
ライフスタイルイノベーター
1987年兵庫県生まれ。京都大学卒業後、IT企業勤務を経て、2019年Address Hopper Inc.を創業。2017年末より転職をきっかけに家を捨て、非定住の移動型ライフスタイルを始める。移動暮らしを身近な選択肢にするため「Address Hopping」と名付け、広く発信。2021年に料理家・市橋加奈美さんと結婚し、夫婦で移動を開始。循環と食をテーマに各地を巡りながら、様々な社会課題の解決をめざしてプロジェクトを行う。
ライタープロフィール
山本 杏奈
山本 杏奈
金融機関勤務を経て、フリーライター/編集者に転身。現在は企業パンフレットや商業誌の執筆・編集、採用ページのブランディング、ウェブ媒体のディレクションなど、幅広く担当している。

山本 杏奈の記事一覧はこちら

RECOMMEND
オススメ情報

RANKING
ランキング