水槽に広がる小さな生態系。自分だけの世界を表現できる「アクアリウム」の魅力とは

水槽に広がる小さな生態系。自分だけの世界を表現できる「アクアリウム」の魅力とは

水槽に広がる小さな生態系。自分だけの世界を表現できる「アクアリウム」の魅力とは

おうち時間が増える中で、密かに人気を集めている「アクアリウム」。水槽の中で美しい魚たちが揺らめく姿に多くの人々が癒されています。今回はそんなアクアリウムの魅力について、株式会社アクアレンタリウム代表取締役の木下裕人さんに聞きました。

人気再燃中のアクアリウム。その魅力とは?

アクアリウムは、英語の「Aquarium(水族館)」から派生した言葉です。日本ではより広義に捉えられており、「熱帯魚や金魚、メダカなどの水生生物を水槽で飼育、鑑賞して楽しむ行為」を指しています。

90年代のグッピーブームや2000年代の海水魚ブームに続き、ここ最近人気が再燃している熱帯魚。水族館やアートアクアリウムの美術館へ足を運ぶだけでなく、「自分だけの世界」を求めて自宅の水槽環境を整える「アクアリウム」を楽しむ人も少なくありません。

では、なぜ今、再びアクアリウムが人気を集めているのでしょうか。

水槽のレンタルや販売、管理などを行う株式会社アクアレンタリウム代表取締役の木下裕人さんは、時世が影響しているといいます。

「コロナ禍のおこもり生活の中で『新しい趣味を見つけたい』とアクアリウムを始める方が増えています。最近は性別や年代を問わず幅広い層から人気を集めていて、実際にコロナ禍でもアクアリウム業界は業績を伸ばしています」

アクアリウムの最大の魅力は、自分が思い描くままの世界を「小さな水槽」にぎゅっと凝縮できることです。美しい魚たちが悠々と泳ぐ姿は、まさにジオラマのよう。好みの水槽に水草や流木、石などを自在に加えながら、「この子(魚)はこういう場所で生きたいんだろうな」というイメージを膨らませていきます。

マニアの中には、実際に魚が生息している現地で確認したリアルな情景を再現する人もいるのだとか。際限なく自分のこだわりを追求できるのも、アクアリウムの魅力なのです。

アクアリウム設置事例1
アクアリウム設置事例1
木下さんにアクアリウムの設置事例を見せていただいた

初心者が飼育しやすい熱帯魚は?

初心者が飼育しやすい熱帯魚は?
90年代に人気を博したグッピー

アクアリウム業界が発展するに伴い、順調に業績を伸ばしているのが熱帯魚市場(水槽やフィルターなどの設備も含む)です。一口に「熱帯魚」といっても多種多様で、生息地や遊泳層、繁殖方法などに様々な違いがあります。

一般によく知られている「グッピー」と「クマノミ」はどちらも南国原産の魚ですが、細かく分類すると前者は熱帯性淡水魚、後者は熱帯性海水魚となります。一般的に熱帯魚と呼ばれるのは淡水魚の方で、初心者でも飼育しやすい個体が多く、販売価格も比較的に安価です。

「飼いやすい個体が多い熱帯性淡水魚の中でも、特におすすめなのが赤く染まったひれが特徴的な『アカヒレ』。多くの熱帯魚が25度の水温を好むのに対し、適応範囲の広い同種は18度ぐらいまで下がっても問題なく飼育できます。そのほか、ネオンテトラやグッピーも初心者向けですね」

アカヒレ
アカヒレ
ネオンテトラ
ネオンテトラ

最初は飼育しやすいスタンダードな個体から入り、少しずつ希少価値のある種類にチャレンジするのが上手に飼育を続けるコツなのだそう。

ちなみに今、熱帯魚好きから熱い視線を注がれているのは、美しい色彩のひれをもつ南米原産の「アピストグラマ」。産地によって微妙に変化するカラーや形に惹かれるマニアが多く、個体によっては数万円の値が付くケースもあるそうです。

アピストグラマ
アピストグラマ

始めるなら知っておきたい、アクアリウムの基本の「き」

次に、アクアリウムを始めるときに知っておきたい、「飼育環境」「水槽選び」「初期費用」について伺いました。

アクアリウム設置事例2
アクアリウム設置事例2

飼育環境

変温動物である熱帯魚は水温の変化に弱いため、直射日光のあたる窓際や開閉によって冷たい風が入る玄関付近はNG。水温を一定に維持できる場所に静置するのが基本です。

設置場所に悩んだときは、専門店のスタッフに水槽周辺の写真を見せて相談することをおすすめします。日差しや周辺環境が見えるように広角で写真を撮り、プロにチェックしてもらうと安心です。

水槽選び

意外に思われるかもしれませんが、木下さんいわく、実は大きな水槽の方が初心者向きなのだとか。費用や置き場所の問題はありますが、水量が多い分だけ水質の変化が抑えられ、失敗するリスクも下がります。また小さな水槽では週1回ペースのお手入れが基本となりますが、大きな水槽であれば2〜3週間の頻度で良いケースもあるそうです。

「最近は凝った形状や極端に小さな水槽も多いですが、プロの目から見ても手がかかるなと思います。慣れていない方には、60センチメートルのスタンダードな水槽がおすすめ。ただの『箱』のようなシンプルな見た目ですが、水量があるので魚が生きやすい環境を作りやすいですね」

60センチメートルの水槽は、アクアリウム業界で最も基本的な規格で、様々なメーカーが専用機材を多く展開。機材のカスタマイズ性が高く、必要なものがすぐに手に入ることもメリットです。

初期費用

木下さんがおすすめする60センチメートルのスタンダードな水槽を軸に、濾過器やヒーター、エアポンプなどをすべて揃えた場合、初期費用は約5万円程度。価格を3万円前後に抑えることもできますが、初期投資を抑えた分メンテナンスの手間や失敗するリスクも高くなります。アクアリウムは「生き物を飼うこと」なので、妥協せずに必要な環境をしっかり整えていきましょう。

初心者は気を付けたい!失敗しないための3つの注意点

初心者は気を付けたい!失敗しないための3つの注意点

アクアリウム業界初の水槽コンサルティングサービスを展開する木村さん。実際によく目にする初心者がやりがちな失敗例を基に、注意すべきポイントを伺いました。

1.最初の1週間は、水槽に熱帯魚を入れない

アクアリウムを準備したら、すぐに魚たちが元気に泳ぐ姿を見たくなるもの。しかし、きれいな水(水道水)を注いだばかりの水槽には、水中の汚れを分解する「バクテリア」がいないため、魚たちに悪影響を及ぼす物質がどんどん増殖してしまいます。最適な環境を整えるためにも、1週間は魚を入れずに、しばらく水をなじませた後、少しずつ魚を増やしていくと良いそうです。

2.餌を過剰に与えない

餌の与えすぎは、初心者に多い失敗の一つです。魚が食べきれなかった過剰な餌は、水槽の汚れや水質汚濁の原因になります。水を頻繁に交換したり濾過設備を強化したりと、余計な手間がかかるため、個体ごとの適正量を守った餌やりを心がけましょう。

3.水槽掃除のときにも水温は一定に

「急に魚たちが弱ってしまった…」というときに多く見られるのが、水槽掃除にまつわるトラブルです。多くの熱帯魚は変温動物で、水温の変化を敏感にキャッチしてしまうため、水槽掃除の後の水温管理は注意が必要です。

「25度をキープしている水槽に、冷たい水道水を注いで水温が5度下がったとしましょう。人間の場合、急激な5度の気温差が生じても大きな問題はありませんが、水槽に戻された魚の体温は急激に5度下がってしまいます。魚が急に病気になったり、のちに弱ったりするリスクもあるので、掃除をするときには水温を一定に保つよう注意しましょう」

なお、水中の汚れを分解するバクテリアは、水中だけでなく底床や濾過フィルターにも生息しています。フィルターに定着するバクテリアが大半を占めているので、水を替えてもバクテリアが急減する心配はないそうです。

アクアリウム設置事例3
アクアリウム設置事例3

アクアリウムが始めやすくなる!最新技術

最後に、アクアリウムの最新事情について伺いました。

木下さんは、アクアリウム人気が高まった理由の一つに、「ツールの進化」があるといいます。留守中にも餌やりができるタイマー式魚用自動給餌器(自動餌やり機)や、飼育水と汚れのみをピンポイントに吸引してくれる水換えホースなど、画期的な技術を搭載した最新ツールによって、ひと昔前までの「アクアリウムは難しい」というイメージは刷新されたそうです。

最新ツールが数多く展開される中でも特に木下さんを驚かせたのは、LED照明の進化なのだそう。

「アクアリウムの世界におけるLED照明の進化は、目を見張るものがあります。導入当初は『水草が育たないのでは?』『魚へのストレスは?』という疑問の声も多かったのですが、メーカー各社の企業努力によってどんどん性能が高まっていきました。簡単にカラーを変更できたり、外出先からもオンオフの調整ができたりと、便利な機能が搭載されたモデルも多いんですよ」

実際に、木下さん自身もワンタッチでカラーを操作できるマルチカラーLEDを愛用中。気軽に水槽のイメージを変えられるので、模様替えや水槽掃除に慣れていないアクアリウム初心者にもおすすめのアイテムとのことです。

まとめ

「長く続けるほどに新しい楽しみを見出せる、それこそがアクアリウムの楽しさです」と、微笑みながら語ってくれた木下さん。水槽を愛おしそうに見つめる瞳からは、アクアリウムへの大きな愛を感じました。

新しい趣味との出合いは、何気ない日常を豊かにしてくれるもの。おうち時間が増えている今こそ、水槽の中の「小さな生態系」と向き合ってみてはいかがでしょうか。

この人に聞きました
木下裕人さん
木下裕人さん
1982年、東京都生まれ。株式会社アクアレンタリウム代表。動物専門学校卒業後、水槽レンタル・メンテナンス業界に進み、現場責任者を経て取締役に就任。約15年の経験を積んだのち、2018年10月に独立。現在は、熱帯魚水槽のレンタルや販売・管理行うほか、水槽解説のYouTubeチャンネル「アクアリウム大学」の運営や専門家としてのメディア出演など、マルチに活動している。
Instagramアカウント:@hiroto_no_suiso
ライタープロフィール
山本 杏奈
山本 杏奈
金融機関勤務を経て、フリーライター/編集者に転身。現在は企業パンフレットや商業誌の執筆・編集、採用ページのブランディング、ウェブ媒体のディレクションなど、幅広く担当している。

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