シニアと大学生による異世代ホームシェアが、超高齢化社会にもたらすものとは

シニアと大学生による異世代ホームシェアが、超高齢化社会にもたらすものとは

シニアと大学生による異世代ホームシェアが、超高齢化社会にもたらすものとは

一人暮らしの元気なシニア世代の人が、大学生に自宅の空き部屋を貸して同居するホームシェアをご存じでしょうか。ポジティブな意識や絆が育まれるというこの「異世代ホームシェア」について、取り組みをサポートするNPO法人リブアンドリブに伺いました。

シニアと大学生が同居する、異世代ホームシェアとは?

シニアと大学生が同居する、異世代ホームシェアとは?

異世代ホームシェアは1991年にスペインで始まったとされ、シニアが自宅の空き部屋を大学生に貸して同居するという居住スタイルです。2009年からフランスで開催されている「世界ホームシェア会議」には、ホームシェア活動を行う団体の代表者らが参加し、交流を通じてホームシェアの発展をめざしています。その参加国数・人数は徐々に増えており、2019年にベルギーで開催された第6回には、日本を含む17ヵ国から約200人が参加しています。

首都圏で一人暮らしをするシニアと、親元を離れて学ぶ大学生のマッチングから、入居・同居中のサポートまで、異世代ホームシェア事業に取り組むNPO法人リブアンドリブ代表の石橋鍈子さんは、シニアの思いや抱える不安について次のように話します。

「老人ホームへ入居する方の中には、本当は住み慣れた自宅で過ごしたいと思われている方も多いようです。とはいえ、自宅に同居する配偶者や子が居ない場合は、コミュニケーション不足になりがちで孤立状態に陥ってしまうことがあります。超高齢化社会における独居老人の孤独死問題は、そのようなコミュニケーション不足も一因。また、特別健康上の不安がないシニアであっても、万が一の時の不安は少なからず抱えているでしょう」

さらに、社会からの孤立は一人で暮らす活力のある元気なシニアほど注意したほうが良いといいます。例えば、老人ホームへ入所すれば日々何らかのコミュニケーションが発生しますが、一人で暮らすシニアはどうしてもコミュニケーションの機会が少なくなる傾向にあるため、孤立の問題を抱えてしまうというのです。

異世代ホームシェアは、「住み慣れた自宅で安心して過ごしたい」「何気ないコミュニケーションが自然に生じて孤立しない」といった、一人暮らしのシニアの思いや懸念をフォローすることができます。また、シニア、学生ともに、体調を崩した際にはすぐ気付いて家族などに連絡してもらえるため、安心感を持って暮らせるという利点があるのです。

世代の異なる他人同士が同居するための工夫

世代の異なる他人同士が同居するための工夫

前述のような利点がある異世代ホームシェア。とはいえ、世代が異なる他人が同居して上手に暮らしていくためには、お互いの心構えや工夫が必要だといいます。

リブアンドリブがサポートするシニアと学生は、同居開始時に話し合い、同意した生活上のルールを作ります。それぞれのペアでルールは異なり、問題が生じた際も臨機応変に様々な解決方法がとられているようです。

「例えば、お風呂のお湯一つにおいても、『お風呂は毎日入れ替えたい』という学生の希望を受け入れているペア、『もったいないから2日くらいはそのままがいい』というシニアの考えを受け入れているペアとそれぞれです。人によって生活スタイルは異なり、シニア層と若年層といった年齢で一概に判断することもできません。だからこそ、丁寧な話し合いが大切となり、お互いのことを理解しようとするコミュニケーションが自然に生まれます」

また、直接相手にいいにくい問題が生じた際は、リブアンドリブが潤滑油として間に入り、大きな問題になる前に芽を摘むようにしているといいます。とはいえ、リブアンドリブ側からは明確なルールを提示しておらず、ただ、週に1回か2回は一緒に食事をするなどコミュニケーションを取るようにお願いしているとのこと。

「例えば、看護科に通う学生とシニアで、毎朝血圧を測定する習慣を設けているペアがいます。自然発生的に始まったようですが、学生は高齢の患者に接する際の経験、シニアは毎日の健康管理の手助けになる。さらに、この習慣があることで、自然と温かいコミュニケーションが生まれているのです」

異世代ホームシェアから生まれる高齢者の生きがい

異世代ホームシェアは、孤立問題のような社会課題だけでなくシニア個人の生きがいにもつながると石橋さんはいいます。

「高齢になると退職されている方も多く、社会との接点はどうしても減ってしまいます。さらに、一人暮らしともなると、家庭内で誰かを気に掛けることもなくなってしまう。ホームシェアによって生じる、例えば『自分と同居する学生分のご飯を作る』といったことが、生きがいにつながることもあるのです」

シニアが食事を作るというケースも当事者同士の話し合いの結果ですが、中には、「学生にご飯を作ってあげたい」という思いでホームシェアを始めた方や、「今晩何を作ろうか」と考えるだけで毎日の買い物が楽しみになったという方もいるようです。学生にとっても、食事を作る手間が省ける、誰かと一緒に食卓を囲みたい、健康面の不安解消などに有意義なケースといえるでしょう。

さらに、あるシニアは一人で暮らしているときは手入れが手間で面倒だった庭のユズの木が、学生と一緒にユズを取ることが小さな楽しみとなり、「手入れや剪定も楽しくなった」といいます。ちょっとした行動ですが、ポジティブな原動力になっていることが伺えるケースです。

異世代ホームシェアが作る、新しい絆と安心感

大学卒業などに伴いホームシェアの期間が終了しても、もっと学生たちの助けになりたいといってホストを継続し、再び学生を受け入れるシニアも多いと石橋さんはいいます。

「ホームシェアを何人かと続けたシニアのもとに、歴代の同居学生が集まってランチ会を開催するなど、新たな交流の場も生まれています」

また、学生にとっては一人暮らしするより家賃を抑えられるという経済的なメリットはもちろん、経験豊かなシニアの人生観に触れられたり、前述したように安心感を持って生活したりすることができます。

加えて、リブアンドリブのような第三者がシニアと学生の間に入ることで、学生の親にも安心感を持ってもらえます。親は、事前面談で、ホストになるシニアの人柄を知ることができ、ホームシェア期間には共同生活の客観的な話が聞けるため、安心して任せられるわけです。

異世代ホームシェアからつながる、世代を超えた優しい社会

異世代ホームシェアからつながる、世代を超えた優しい社会

ホームシェアを経験した学生からは前述したように「生活費が抑えられる」「食事などの役割分担ができるので勉強に集中できる」「世代が違う人の価値観を学ぶ機会になる」といった前向きな感想が多かった。一方シニアの場合、当初は「世代の違う者同士の同居は価値観がすれ違ってコミュニケーションは難しいのでは」と不安の声があがっていたものの、実際に同居してみると、「生きがい」「安心感」といった精神的な充実を感じるという感想に変わっていくことが多いようです。

異世代ホームシェアがもたらす、安心できる生活環境、張り合いのある日々の生活。そのような直接的なメリットはもちろん、そこで育んだ価値観や関係性は、世代を超えて支え合う「より優しい社会」へとつながっていく可能性があります。

石橋さんは、「他人を家に入れることを躊躇するシニアが多く、実際にホームシェアに踏み出す方は多くありません。一方で、ご自身のできる範囲で、誰かの役に立ちたいと考えているシニアの方は多くいらっしゃる」といいます。人生100年時代を楽しむため、一つの選択肢として異世代ホームシェアを考えてみてはいかがでしょうか。

この人に聞いてみた
石橋鍈子さん
NPO法人リブアンドリブ代表
石橋鍈子さん
アメリカの大学で行動科学を学び、帰国後米国大使館にて長年国際文化交流に携わる。のち、日本マイクロソフト株式会社にて社会貢献事業を担当。2012年にNPO法人リブアンドリブを設立。異世代ホームシェア活動に従事。
ライタープロフィール
八坂 都子
八坂 都子
育児系雑誌の編集アシスタント、美術系出版社にて編集記者を経て2020年にペロンパワークス・プロダクション入社。マネー系を中心にカルチャーなど幅広いテーマで記事執筆・コンテンツ制作を行う。

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