自費出版とは

本を作る方法は、一般的に大きく2つに分かれます。原稿作成や製本といった出版にかかる費用全般を出版社が負担する「商業出版」と、筆者自らが費用を負担して本を出版する「自費出版」です。ここでは、自分で本を作る自費出版について詳しく見ていきましょう。
自分で出版費用を負担する自費出版
自費出版は出版に伴うすべての責任・費用を負う一方で、出版社からの制約や要望を受けることなく、自身の判断やアイデアに沿って「詩・小説・漫画・写真集・レシピ本・旅行記・ルポタージュ」など自由に作れる良さがあります。
作った本を流通させる場合、一般的にはネットやイベントなどを通じて自らで販売を行いますが、自費出版物専門の書店で扱ってもらうケースもあります。なお、出版社の中には、原稿執筆のサポート・印刷・書店への流通など、商業出版と同じ工程を提供して自費出版を請け負う会社もあります。費用は制作部数100部以上を基準に決められていることが多く、数十万〜数百万円になるようです。
自費出版の種類

一般的に、自費出版は制作部数も少なめで、その多くは「同人誌」「ZINE(ジン)」「リトルプレス」と呼ばれます。ただし、中には1万部以上と多く制作される場合もあるため、明確に定義されているわけではありません。諸説ある中で、一般的にイメージされる定義について紹介します。
同人誌
同人誌は「同好の士(同人)」、つまり、趣味趣向が似た人同士が費用を出し合って制作する「同人雑誌」の略語です。既存作品の二次創作が盛り込まれた作品であることが多く、コミックやアニメ関連が多いイメージを持つ方も多いと思いますが、明治時代を代表する作家たちが作った文芸雑誌『我楽多文庫』がルーツであるといわれています。小説家の武者小路実篤(むしゃのこうじ・さねあつ)や志賀直哉が参加した『白樺』なども同人誌の一つです。
ZINE
ZINEは「Magazine(雑誌)」が語源といわれ、1950年代のアメリカが発祥といわれています。主流となっているのはコラムや写真集などのオリジナル作品で、デザイン性が高く、綴じ方や判型にも幅があるという特徴があります。こだわった綴じ方には、中身が見えない「袋とじ」や横長の1枚紙を蛇腹状に折りたたむ「折本」といった方法があります。
リトルプレス
リトスプレスは「Little(少数)+Press(出版)」を組み合わせた和製英語です。言葉通りの意味だと同人誌やZINEの総称ともいえますが、同人誌よりもオリジナル作品が多く、ZINEよりもしっかりとした装丁で作られることが多いです。
本を作る楽しさとは

ここまで自費出版できる本の大まかな種類について解説してきましたが、「どうして自分の本を作りたいの?」と思う方もいるかもしれません。そこで、ここからは自分の本を作ることの魅力について、筆者の体験も交えつつ紹介します。
創作意欲が満たされる
「何かを作りたい」という創作意欲を満たせる本作り。自分のアイデアをそのまま反映でき、道具や材料といった制限も受けにくいため、思う存分創作意欲を満たすことができます。また、アイデアを思い立ったらすぐ取りかかれるのもメリットです。
創作のために世界が広がっていく
いつもと同じ通勤ルートや電車から見える風景であっても、創作意欲があると「執筆に使えるネタはないかな」と探す癖がついてきます。なかなか行く機会のなかったお店や街にも、ネタ探しのために行ってみるなど、創作のために世界が広がっていくのも創作活動の楽しさの一つでしょう。
現物ができあがる喜びがある
本には、アイデアが形になり現物が存在するという魅力があります。場合によっては月や年単位でかかる本作りですが、世に残るモノとして完成したときの喜びはひとしおです。さらに、現物として存在するからこそ、ふとした時に誰かに読んでもらえることもあるでしょう。
本作りを通じて自分と共通の趣味を持った仲間を見つけられる
コミュニティーを広げられることも、本作りの楽しさの一つです。前述の通り、作った本はネットやイベントを通じて販売することもできます。購入者の中には、趣味が合う人もいるはず。本を通じ、共通の趣味を持つ仲間を見つけることができるかもしれません。また、趣味思考の合う人たちが集まって、複数人で一冊の本作りに取り組むケースもあります。本を作る苦労や喜びを仲間と分かち合えるのも、本作りの魅力の一つといえます。
本作りの流れをご紹介

では、実際に本はどのように作っていくのでしょうか。ここではその一例を紹介します。
1.作りたい本の内容や体裁を決める
どのような本を作りたいのか、内容はもちろん装丁や印刷方法も自分で決めていきます。自費出版における印刷方法は大きく「オフセット本」「コピー本」に分かれるため、まずそこから考える必要があるでしょう。
制作部数が多い場合はオフセット本

オフセット本の「オフセット」とは、オフセット印刷のこと。オフセット印刷とは、原版となる金属の版を作成して印刷する技術で、基本的には印刷所に発注する印刷方法となります。
オフセット本は、色合いのムラやかすれが少なく美しい仕上がりになるのが特徴です。制作部数に関わらず、版が1セット必要となるため、部数が多いほど1ページ単価は割安になります。B5サイズで10ページのオフセット本を作ろうとした場合、制作部数300部で印刷費5万円からという例も。納期より数ヵ月以上前に印刷データを渡すことで割引をしてくれる印刷所もあるようです。
また、オフセット本はホッチキスや接着剤で綴じる方法が一般的です。もし、1枚の用紙を折りたたんで一つの冊子にする折り本など、特徴的な綴じ方をしたい場合には、これから説明するコピー本の方が向いているかもしれません。
制作部数が少ない場合はコピー本

コピー本とは、1枚1枚コピー機やプリンターで印刷して作る本のことです。費用は印刷枚数によるため、部数と費用が比例します。
印刷所に依頼しなくても自宅のプリンターやコンビニエンスストアなどのコピー機といった身近な場所で印刷ができるため、オフセット本に比べ、制作部数や納期などを気にせず手軽に作れるというメリットがあります。とくに、コンビニエンスストアなどにある「マルチコピー機」は印刷の質が高いものも多いため、有効な選択肢の一つとなります。(部数に応じて、お店のご都合を配慮しましょう)
2.原稿を作る

本の内容や装丁、印刷方法を決めたら執筆に入っていきます。原稿はワープロソフトやデザインソフトといったパソコン用ソフトなどを使って作成します。もちろん、手書きで執筆されている方もいます。
ソフトに制限はありませんが、日頃、仕事などで馴染みのあるソフトを使った方が進めやすいでしょう。文字のフォントや画像の配置場所、余白や字間といった調整、デザインなどの作業もすべて行います。地味な作業ですが、アイデアを形にしていく作業も本を作る楽しさの一つ。パソコンが苦手な方は、例えば、手書きの原稿に写真を貼り付けてスキャンして取り込めば、スクラップのように味のあるデザインが作れるかもしれません。
3.印刷する
原稿ができたらいよいよ印刷です。オフセット本でもコピー本でも、まずは印刷の基となる原稿が必要となります。原稿は紙でもデータでも問題ありませんが、データしか受け付けていない印刷所もあるので事前に確認しておきましょう。
また、コピー本では製本作業が必要です。針金や紐で綴じる、糊付けする、あるいは大きな1枚の紙に印刷して折りたたむなど、綴じ方を自分なりに工夫する楽しみがあります。

4.完成
オフセット本なら印刷所から本が届いて、コピー本なら製本作業が終わった段階で「自分の本」の完成です。悩んだり、やり直したり、紆余曲折を経てイメージ通りの本ができた時の喜びは格別でしょう。
完成した本は、前述した自費出版物を扱う書店やネット、イベントなど通じて販売することもできます。広く誰かに読んでもらえる、値段をつけた本が売れることでモチベーションも高まるはずです。
キャリアアップにつながる可能性も

ライフワークとして本作りの時間を取り入れることで、日常生活にメリハリがつくこともあります。あるいは、「もっと創作の時間を確保したい!」と時間の使い方を見つめ直すきっかけにもなるかもしれません。
また、キャリア形成を見据えると、作った本は実績を示すポートフォリオとして利用できる可能性があります。自費出版で販売した本が話題になり、商業出版やテレビドラマ化を果たした例もあります。
本作りの魅力は、創作意欲を満たしてくれる、実物がある、共通の趣味を持つ仲間が見つかるといったことだけに留まらず、将来の可能性を広げることもあるのです。テレワークの普及で自宅時間が増えた今、長年温めてきたアイデアを「本」という形に残してみてはいかがでしょうか。
ライタープロフィール

主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。
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