お雑煮アレンジはいかが?バラエティ豊かなご当地雑煮の世界

お雑煮アレンジはいかが?バラエティ豊かなご当地雑煮の世界

お雑煮アレンジはいかが?バラエティ豊かなご当地雑煮の世界

今年はどんなお雑煮を食べましたか?地域によって味付けや具材ががらりと変わるお雑煮。家庭ですぐに真似できるアレンジ方法について専門誌『お雑煮マニアックス』の著者で全国各地のお雑煮に詳しい粕谷浩子さんに聞きました。

お雑煮は地域によって全然違う!

お雑煮は地域によって全然違う!

お正月の定番料理といえば、お雑煮。毎年何気なく食べているこのお雑煮が、実はとてもバラエティ豊かな料理であることをご存知でしたか?

「実は、お雑煮は地域ごとの特色が濃いお料理なんです」

そう教えてくれたのはお雑煮マイスターの粕谷浩子さん。全国のご当地雑煮を紹介した『お雑煮マニアックス』(プレジデント社)の著者で、レトルトお雑煮の開発やご当地雑煮の情報を集め、発信する株式会社お雑煮やさんの代表取締役も務めています。

「例えば、トッピングだけでも海老や岩のり、きな粉にあんこと地域によって個性があります。なかにはこれがお雑煮なの? というくらい驚くような作り方をしているところもありますし、逆に具材はお餅だけというシンプルな地域もあります。

そのお餅の形も、関ヶ原を境に東側では四角、西側では丸いのが主流なんです。おつゆだってお味噌ベースだったりすましベースだったり。もう、汁にお餅が入っているからお雑煮と呼ぶくらいの共通点しかないくらい、各地で特徴が全然違います。同じ名前なのに、地方によってこんなに差があるお料理はお雑煮くらいだと思いますよ」

粕谷さんが一番驚いたという筑前あさくら地域で見られる『蒸し雑煮』。つゆを卵液で固めた茶碗蒸しのようなお雑煮。
粕谷さんが一番驚いたという筑前あさくら地域で見られる『蒸し雑煮』。つゆを卵液で固めた茶碗蒸しのようなお雑煮。

この記事ではそんな全国各地に様々なバリエーションがあるレシピのなかでも、とくにご家庭で簡単に真似できるご当地雑煮風のアイデアを粕谷さんに紹介していただきました。どの食材もすぐに用意できるものばかりなので、ぜひ試してみてくださいね。

簡単に真似できるご当地雑煮アイデア4選

【熊本県・福岡県】お雑煮×納豆

【熊本県・福岡県】お雑煮×納豆

最初に紹介していただいた『納豆雑煮』は熊本県山鹿市・福岡県うきは市周辺で食べられているお雑煮です。お雑煮に納豆を入れるのではなく、お餅を取り出して納豆に絡めるのが本場の食べ方だそうです。

「お雑煮と納豆を一緒に食べると知ったとき、まさか!と思ったのですが意外に合うのがまた不思議。お餅に納豆がよく絡まって美味しいんです」

汁のベースは醤油と塩でだし汁に味付けをしたすまし仕立て。また、九州は甘口の醤油を使うことが多く、東京の濃い口醤油とは味わいが異なります。

「慣れていない人は甘さに驚くかもしれませんが、ぜひ甘口醤油で作ってみることをおすすめします。ご当地雑煮のキモは調味料にあるともいえるので、やはりその土地のお醤油やお味噌を使った方がおいしいですよ」

ところで、なぜ熊本の名産品というわけではない納豆が現地のお雑煮に使われるようになったのでしょうか?

「当時、豊臣秀吉に熊本の領地を与えられた大名によって納豆が持ち込まれたのをきっかけに生まれたのが理由の一つともいわれています。本当か嘘かわからないような話ですが!(笑)必ずしもその土地の特産品を使うというわけでもなくて、調べてみると歴史や価値観に由来があると分かるのもお雑煮の面白いところです」

【岩手県・長野県】お雑煮×くるみだれ

【岩手県・長野県】お雑煮×くるみだれ

次に紹介していただいたのはくるみだれを組み合わせたアレンジ。くるみだれとは煎ったくるみをすりつぶして砂糖と水を混ぜたものが一般的で、スーパーでもよく売られています。

「くるみだれと一緒に食べるのは岩手県や長野県などで見られる風習です。長野県などでは『くるみ蕎麦』も有名ですよね? お雑煮に関してはそれぞれの県によってお餅にたれを絡めるか、おつゆに溶かすか、と同じくるみだれでも食べ方が異なるんです」

岩手県の宮古地域で食べられている『宮古くるみ雑煮』では、前述した納豆雑煮のようにお餅を取り出してくるみだれに絡めていただくのが一般的といいます。

別皿にくるみだれを用意し、お餅に絡めて食べるのが宮古流。
別皿にくるみだれを用意し、お餅に絡めて食べるのが宮古流。

「岩手には美味しいものを食べたときの言い回しとして『くるみ味がする』という方言があるんです。もちろん実際にくるみの味がするというわけではなく、くるみと同じくらい美味しいねという意味合いで使われているみたいです。それほど親しまれている食材だからこそ、お正月の特別な料理であるお雑煮に使われるようになったんでしょうね」

一方の長野県ではお雑煮の汁にくるみだれを溶かしながら食べます。

「長野県の方のお雑煮は味噌を使わないすまし汁なんですけど、くるみだれを溶かしていくとおつゆの色合いがだんだん味噌汁風になっていくんです。くるみの風味とコクが加わり、溶けるほどに味の変化も楽しめるんですよ」

【福井県】お雑煮×黒糖

【福井県】お雑煮×黒糖

続いて紹介していただいたのは『黒糖雑煮』。前述のくるみだれを使ったお雑煮と同じく甘さが特徴です。

「福井の若狭小浜という地域で食べられているお雑煮なのですが、作り方がとってもシンプル。お味噌汁にお餅が入っているだけで、ほかの具材は一切ありません。ただ、最後に黒糖をどっさり、好みの量を入れます。お味噌汁にお砂糖なんて……と思うかも知れませんが、塩気があるからこそ甘みが強調されてより美味しくなるんです」

香川県の『黒糖雑煮』は、甘いお味噌汁のような味わいが特徴です。
香川県の『黒糖雑煮』は、甘いお味噌汁のような味わいが特徴です。

ところで、小浜市は鯖やカレイなどの海産物が有名ですがお雑煮には入っていません。これにも小浜市ならではの理由があると教えてくれました。

「小浜市は北前船の寄港地で、南方から黒糖が運び込まれていたんです。当時の方たちにとって魚はたくさん取れるけれど、黒糖は貴重品。昔は甘いものが滅多に食べられなかったからこそ、新年のハレの日くらいはお砂糖を食べたいという庶民の思いがあったのでしょう」

ちなみに、全国的に見ても甘いタイプのお雑煮は多いそうです。粕谷さんの出身地である香川では、白味噌ベースの汁に甘いあんこ餅が入ったお雑煮を食べていると言います。

【福岡県】お雑煮×スルメ

【福岡県】お雑煮×スルメ

最後に紹介するのはスルメのトッピングです。スルメを入れるのは九州では一般的で、とくに福岡だと切り昆布とスルメを入れるそうです。

「昆布は喜ぶ(よろこんぶ)、スルメは喧嘩するめえ(喧嘩しない)にかかった縁起物として食べられているんです。イカの香りはとても強いですから、入れるだけで味がかなり変わりますよ。

また、普段使っている昆布出汁や鰹出汁だけでなくスルメで出汁を取ってみるのも一つの手です。ほかにも海老やあゆ、あごだしで取ってみるのも面白いかも知れません。出汁一つで味がまるで変わっちゃいますから、見た目以上にインパクトがありますよ」

お雑煮がここまで違うのはハレの日だけの家庭料理だったから

同じ食材を使っていても、地域によっては全く違うアレンジをすることもあるお雑煮。地域ごとの特徴が色濃く残っているのは、家庭料理としてゆるやかに受け継がれてきたからだと粕谷さんは教えてくれました。

「基本的に家族に出す料理なので、ほかの家のお雑煮ってなかなか知る機会がないんです。地域の方にお話を聞くとだいたい皆さん『うちのお雑煮は普通だよ』と仰るのですが、普通が家庭ごとに全然違う。地域の方は自分の家のレシピが一般的だと思っているんですね。だから近隣の地域ですら皆さん驚かれる。お雑煮は今のネット社会でも数少ない、地域性が残った実にユニークな料理なんです。

背景にある「なぜこのようなお雑煮を食べるのか」という地域の物語を知っているのは、かまどで煮炊きしていた世代である90代の方が中心です。この方々がお元気でいらっしゃる間にお話しを伺わなくては、ご当地ならではのお雑煮文化は消えてしまいます」

文化や物語を後世に伝えていくために、日夜ご当地お雑煮の発掘を続ける粕谷さん。また、2021年1月の期間限定で「九州お雑煮ドライブ」(外部サイト)という九州中のご当地雑煮を食べ回れるような企画も実施するようで、多くの人に面白がっていただけるように、地域の自治体や観光協会を巻き込みながら活動をしているといいます。

まとめ

普段何気なく使っている食材も、お雑煮に入れることでご当地の味に早変わり。どれも簡単に真似できるアレンジとなっています。次のお雑煮はご当地風のアレンジで、その地域の歴史や食文化に触れてみるのも楽しいかもしれませんね。

実際に食べてみるのも良し、家の中で各地のお雑煮話を知って楽しむも良し。この冬はお雑煮にハマってみませんか?

この人に聞きました
粕谷 浩子氏
株式会社お雑煮やさん代表取締役
粕谷 浩子氏
転勤族の家庭に育ち幼少期から全国各地の雑煮の面白さを知り、36歳のときに女子栄養大学短期大学部の学生として2年間お雑煮について研究。中小企業基盤整備機構にて、農商工連携・地域資源活用事業の埼玉県担当チーフアドバイザーを、その後、品川区立武蔵小山創業支援センターにてセンター長として100人以上の起業相談等を行う。現在は住まいを九州に移し、九州中のご当地雑煮を食べまわれる「お雑煮ドライブ」というプロジェクトを企画中。
ライタープロフィール
笠木 渉太
笠木 渉太
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。

笠木 渉太の記事一覧はこちら

RECOMMEND
オススメ情報

RANKING
ランキング