現代人にとって「使わずにはいられない」デジタルツール

私たちの生活は今や、デジタルツールと常に一緒です。
少しでも時間が空けば、スマホをチェックしたり、SNSなどソーシャルメディアの「いいね」を確認したり、メールをチェックしたりと、集中力が散漫になっていることはありませんか?
例えば、YouTubeで動画を一つ見ると、おすすめ動画が次から次へと表示され、それらを見ているうちに休日の時間があっという間に過ぎてしまったことはありませんか? または、FacebookやInstagramでおすすめ投稿を追いかけてスワイプし続けていた、Twitterを見ていたら1日が終わっていたなど、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
これだけ人々の生活にデジタルツールが住み着いた理由は「人の意識に強く働きかけ本能的衝動を刺激する心理的な力により強化されている」からにほかなりません。
デジタルツールには、ユーザーの滞在時間を増やすための、ありとあらゆる仕組みが施されています。
そこで、ソーシャルメディアと距離を置き、生活のなかで必要最低限なデジタルツールだけに絞って、本来の自分の時間を取り戻そうという「デジタル・ミニマリズム(Digital Minimalism)」が注目されています。
これは、米ジョージタウン大学准教授でコンピューター科学の専門家であるカル・ニューポート氏が提唱した哲学で、同タイトル(邦題:「デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する」)で2019年に発刊された著書は「Amazon.comベストブック2019」「ウォールストリート・ジャーナル」「ニューヨーク・タイムズ」などでベストセラーになり、テック界の「こんまりメソッド」として、全米中に広がっています。
ここからは、このデジタル・ミニマリズムについて紹介していきます。
現代人が本当に大切な時間を過ごすための「デジタル・ミニマリズム」とは?

デジタル・ミニマリズムとは一言でいうと、デジタルツールの断捨離です。
近年、「こんまりメソッド」が世界的に広まった影響もあり、「ミニマリスト」と呼ばれる人が増えています。そもそもミニマリストとは「自分の持ちものを最適化させて、必要なもの以外を持たない人」のことを指します。
しかし、実はミニマリストになったとしても、本当の意味で「もの」からは自由にはなれません。なぜならば、部屋にあるものをいくら少なくしても、スマホだけは手元にあるからです。SNSやニュースサイトなどのデジタルツールにアクセスできる限り、スマホは私たちの時間を支配し続けます。
そこで、デジタル・ミニマリズムが現代人に必要な哲学として注目され始めました。著者のカル・ニューポート氏は以下のように語っています。
「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、ほかのものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学」
出典:「デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する」(早川書房)
つまり、デジタル・ミニマリズムとは必要なデジタルツールだけを取捨選択し、本当に大切なことに集中して、大切な人と過ごす時間を増やすための哲学です。
デジタル・ミニマリズムとデジタル・デトックスの違い
デジタル・ミニマリズムの本質は「デジタル・デトックス(Digital Detox)」ではありません。
デジタル・デトックスとは、1日だけスマホを触らない日を作ったり、特定の時間だけデジタルツールと距離を置いたりして、心と脳をリフレッシュすることです。しかし、これでは根本的な解決にはならないと、カル・ニューポート氏は警鐘を鳴らしています。
なぜなら、一定の期間だけデジタルツールと距離を置いてもその後、元に戻ってしまうと結局前の状態と同じになりそのサイクルを繰り返すだけだからです。デジタル・ミニマリズムの目的は、あくまでデジタルツールの断捨離と最適化であり、生活のなかに自由な時間を取り戻し、より生産的に、より人間的な時間を継続的に過ごすためのものなのです。
デジタル・ミニマリズムがもたらすメリットとは?
デジタル・ミニマリズムの最大のメリットは、本当の意味での「ひとりの時間」を過ごせることです。
現代人は孤独が欠乏しています。その理由は、たとえ家でひとりで過ごしていたとしても、常に他者のインプットに触れている状態だからです。
スマホを開けばニュースサイトの記事やSNSの投稿、YouTubeの動画が常に流れてきます。この現状をカル・ニューポート氏は以下のように表現しています。
「他者のインプットに気を取られ、自分の思考と向き合う時間が限りなくゼロに近づいた状態」
出典:「デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する」(早川書房)
また、自分の持っている時間には限りがあります。自分と向き合う時間を確保でき、使える時間に余裕が生まれることが、デジタル・ミニマリズムを行うメリットなのです。「デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する」では以下のようなメリットもあげています。
・デジタルツールに奪われていた時間を取り戻すことで自分の時間を有効活用できる
・家族や本当の友人とのコミュニケーションの時間が増えて、良好な深い人間関係が築ける
・読書や趣味と向き合う時間が増え、クリエイティブな時間が増える
・困難な問題を明らかにする力が身につく
・本当に自分がやりたいことを貫く自信が湧く
・目の前の本当にやるべきことに集中できる
・精神的に安定する
デジタル・ミニマリストへ近づくための3ステップ

デジタル・ミニマリストへと近づく第1歩は、一気に決断してしまうことです。中途半端な見直しだと、またスタート地点に逆戻りしてしまいます。
ここからはデジタル・ミニマリストになって、本当に大切な時間を過ごすための3つのステップをご紹介します。
1.30日間の「デジタル片づけ」
30日間、仕事や生活でどうしても必要なデジタルツール以外は一切使わずに過ごしましょう。
この間に、自分にとって大事な友人関係、本来自分がとるべき行動や活動を見つけることが目的です。
30日間が過ぎたら、禁止していたデジタルツールを再導入します。本当に自分に必要だったかを十分に検討しましょう。デジタル片付けを行ったある女性は、真っ先にSNSやブログ、チャットアプリを再導入しましたが、ワクワクする気持ちとは裏腹にある感情の変化に気がついたと語っています。
「早く戻りたくて、テンションが上がりまくっていました。なのに、30分くらいぼんやり見て回ったころ、こう、天井を見上げて思ったんです。私、何してるんだろって。これってもしかして…退屈? 見ていても少しも楽しくなかったんです」
出典:「デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する」(早川書房)
デジタルツールと距離を置くことで、どれだけ時間を浪費していたかに気づくことができます。それはソーシャルメディアかもしれませんし、娯楽系のアプリかもしれません。新たな時間が生み出されることにより、多くの人が家族と過ごす時間や、趣味の時間、クリエイティブな時間を手に入れることができるでしょう。
2.「いいね」をしない
ソーシャルメディアでつながればつながるほど、孤独感が強まる傾向が認められています。また、ある研究ではSNSの利用と幸福度の間には負の相関関係があることも分かりました。
「デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する」には、例えば、「いいね」やリンクのクリック回数が増えると心の健康レベルが下がると記されています。ソーシャルメディアを使うことでリアルの世界でのコミュニケーションが減り、それによって孤独感が高まることで、幸福度も下がってしまうのです。カル・ニューポート氏は「いいね」は毒だと断言しています。「いいね」の代わりに、会話をすることに時間をとってみてはいかがでしょうか。
3.デジタル・ライフのルールを決める
デジタル・ミニマリズムを成功させるためには、デジタルツールと完全に縁を切るのでなく、あくまでも自分にとって有益と思えるツールを取捨選択することがポイントです。
これまでの生活を最適化し、自分が本当に必要なデジタルツールだけを必要な時に必要な時間だけ使えるようにルールを決めていきます。例えば、SNSをチェックするのは週に1度だけにする、閲覧するニュースサイトは一つだけに絞るなどがあげられるでしょう。
完全に断絶してしまうのではなく、デジタルツールを満喫する時間を設けることで、オフラインの時間とのメリハリがつきます。
スマホやSNSの登場によって、暮らしが便利で豊かになった反面、処理しきれないほどの情報量に対して現代人は疲れ切っています。私たちがデジタルツールを利用しているのか、それともデジタルツールに私たちの時間を利用されているのか、考えてみることが大切です。
次から次へと登場するデジタルツールを「増やす」ことよりも逆に「減らす」に重きを置くと、本当に大切なものが浮かび上がってくるのではないでしょうか。この機会に、あなたもデジタル・ミニマリズムを試してみてはいかがでしょう。
ライタープロフィール

WEBライター。『想いを言葉に』をモットーにWEBマーケティング、金融、IT、BtoB、コラム記事、などセールスコピーライティングからSEOに特化した記事を執筆。Udemyベストセラー講師としても活動中。趣味は楽器演奏と筋トレ。
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