持続的なオタ活のためになにができる?劇団雌猫ひらりささんが心がけていること

持続的なオタ活のためになにができる?劇団雌猫ひらりささんが心がけていること

持続的なオタ活のためになにができる?劇団雌猫ひらりささんが心がけていること

漫画やアニメ、アイドルといった趣味を続けるにも、どうしてもかかるお金。オタク女性4人によるサークル「劇団雌猫」のメンバーであり、「オタク」を公言するひらりささんは、オタクとお金をどう両立しているのでしょうか。

「浪費は愛」だからこそお金とオタクの両立は難しい……

2019年3月に出版された劇団雌猫の著書『一生楽しく浪費するためのお金の話』では、長い人生のなかでオタ活(オタク活動)を続けながら、自身のお金を管理する具体的な方法が紹介され、オタク達のなかで話題になりました。

『一生楽しく浪費するためのお金の話』イースト・プレス
『一生楽しく浪費するためのお金の話』イースト・プレス

近年、一般的なオタクといえば、アニメや漫画、アイドルオタクとしてイメージされることも増えてきました。しかし、一口に「オタク」といってもアーティストや宝塚、ゲームなど、その種類は分類できないほど幅広いものです。楽しみ方も様々で、“推し”(お気に入りのキャラクターや役者、アイドル)のグッズを集めて手元に置いたり、推しが出演する劇場に足繁く通ったりしているとなにかとついて回るのが出費です。

推しに費やすお金は、傍目から見ると浪費に見えるかもしれません。しかしオタクにとっては出費こそが愛であり、必要経費の内ともいえるのでしょう。愛ゆえに、生活費を切り詰めてオタ活費に充てることもあるほどです。

熱量に任せた出費に財布を痛めながら、それでもオタ活を続けていきたい。でも、お金を際限なく使うことはできない。そんな世のオタクたちがきっと一度は抱く葛藤とはどう向き合えば良いのでしょうか。

会社員・ライターとして活動し、オタクにまつわる執筆・インタビューを数多く手がける、劇団雌猫メンバーのひらりささんにお金とオタクの両立方法について聞いていきます。

ひらりささんのオタ活とお金事情

ひらりささんは幼少期からアニメやマンガが好きで、中学生になると大型同人誌即売会へ行くようになったオタクだといいます。しかし、学校がバイトを原則禁止していたため、高校までは、お小遣いや、一度買ったものを売ったお金のなかでやりくりしていました。

そして大学に入りバイトができるようになった後は、夢中になったBL(ボーイズラブ)小説や漫画へつぎ込むようになりました。実家暮らしだったこともあり、基本的にお金はオタ活費に充てながら暮らしていたといいます。

ただ大学卒業後、編集者の職に就いてからは、仕事のための本や映画への出費、交流会などの参加費が嵩み、出費が増えてきました。

「ちょうど、漫画やアニメ、ゲームを舞台化する2.5次元ブームの流れがあったり、アイドルやミュージカルが好きな友人が増えたのもあり、コンサート、イベントなどの直接現地に行って楽しむ種類のオタクごと(=オタ活)にお金を使う機会が増えてきました。20代前半は全く貯金がなかったですね。現場が多いと、お酒を飲みながら感想を言い合う『アフター(交流・オフ会)』も増えるので。20代後半ではライターの副業収入も入るようになったのですが、あまり将来のことは考えず、その場その場で使っていました。

こんなに働いているのに別に貯金が増えないな!?と自覚したことで、これまであまり考えたことのなかったまわりのオタクたちのお金の使い方も気になるようになりました。ちょうど劇団雌猫のメンバーたちとも『いろんなオタクの人に、それぞれのジャンルへの愛を訊いてみたい!』という話にもなって。それで、同人誌を作ることになり、書籍化された『浪費図鑑』の前身にあたる『悪友 vol.1 浪費』が生まれました」

ひらりささんのオタ活とお金事情
(左)『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』小学館
(右)『シン・浪費図鑑』小学館

オタクに話を聞いて分かった「ぜんぜん貯蓄できない」人の共通点

改めて説明すると、「劇団雌猫」はインターネットを通じて知り合い、それぞれが違うジャンルのオタク趣味を持つ4人組から成るサークルです。様々なオタクの浪費事情を集めた同人誌シリーズ『悪友』は、いくつもの出版社から商業出版の声がかけられ、2017年8月には前述したように『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』として書籍化も果たしました。

「20代前半から『今は楽しいけど、このままでいいのかな?』という漠然とした不安は、ずっと抱えてたんですよね。ただ、劇団雌猫どうしも、あくまで趣味でつながったオタク仲間として出会っているし、表立ってはお金の話をする機会はありませんでした。でも『悪友』や『浪費図鑑』を制作する過程で、いろんなオタク女性の話を聞いたりアンケートをとったりする中で、やっぱりお金に対する不安を持っている人は少なくないと分かったんです。だったらオタ活を続けるためにも、専門家の人にお金との付き合い方をちゃんと教えてもらおうと『一生楽しく浪費するためのお金の話』をつくりました。

世の中にお金に関する本はいっぱいありますが、目に付くのは、もともと貯蓄できる素養がある人向けばっかりだったんですよね。まずは『節約しよう』で、さすがに、オタクのように推しへの出費を惜しまない人向けにはつくられているものはなかった。たまに、お金の本を買っても、あまり参考にならないし、何よりも努力が続かない悩みがありました。だからこそ、『自分たちのために、オタク向けのお金の本をつくろう』と思ったのもきっかけです」

筆者も貯蓄できる素養がないオタクとして、『一生楽しく浪費するためのお金の話』へ手を伸ばした口です。遠い未来にもし、推し作品の○十周年アニバーサリーなんて企画が開催されたとして、そのときにカツカツじゃもう生きていけない……。漠然としたお金の不安は抱えていましたが、この本で紹介されているNISAやiDeCoといった国の制度を活用すれば、無理なくオタクを続けられる道も夢じゃないと胸高鳴りました。

「いくら使った」は大事じゃないオタクの金銭感覚

「いくら使った」は大事じゃないオタクの金銭感覚

アイドルやアーティストだと、CDへの封入特典に限定イベントへの応募抽せん券が付くことがあります。イベントに参加するためには当選する必要がありますが、1枚のチケットでは一度しか応募できません。そのためとくにリアルの場に足を運ぶことを大切にするタイプのオタクだと、応募チケットを複数枚獲得するために同じCDを何枚も購入することがよくあります。

「私も大学時代にAKB48を追いかけていた時期があり、CDを買って、握手会などのイベントに参加できるチケットを手に入れていました。初めて行った時は、8時間並んで数秒の握手、という現場だったので、かなりびっくりしましたね。実際に推しを目のあたりにして、その日は本当に感動したのですが、次の握手会の告知があったときには躊躇してしまい。私は推しと直接話したいタイプのオタクではないので、この一瞬のために時間とお金を使う熱量はないかもしれない、と、握手会に行くのは潔くやめました。

でももちろん、リアルの場を大事にするオタクの人はたくさんいます。『CDを何十枚も買ったけど狙っていた特典が手に入らなかった』みたいなことがざらにあるわけですね。傍から見ると『そんなにお金使ったの!?』と思うかもしれませんが、オタクにとってはCDを積んで推しと会う権利が得られれば、そこまでにかけたお金の金額はどうでも良くなってしまう。お金を使った後悔を心に留められる人は、自力で貯金もできる人な気がしますね。そもそも、お金を使って確率を上げても入れない現場というのもたくさんあり、一時期私の周りで『徳を積もう……』という言い回しが流行ったことがありました(笑)。

私も、握手会にはお金をかけていませんが、特典を手に入れないと応募できなかった、人気アニメの特別ステージなどには、かなりお金をかけ、ダメ押しで神社にお参りにも行って、それでも自力では手に入れられないことがありました。」

いくら使ったのかを把握するのが苦手

ひらりささんが取材してきた例だと、「イベントやコンサート会場の物販でお金を使い切って手持ちの現金がなくなる」「帰り道で買い物をしようとしたらカードの限度額がいっぱいになっていた……」という体験談もあるそうです。

「オタクの現場って、開催される日にお金を支払うわけじゃないんですよね。たいてい先着や抽せん受付で前もってお金を払わなければならず、場合によっては、当落にかかわらず申し込む分を全額前払いで振り込まなければいけないというケースもあります。だから、一つ一つの現場に対する出費額は気にしていても、前払いしているぶんがたまっていって、オタ活以外の部分で急にお金が必要になった時に『足りない!』という事態になることもあるんです。何に実際どれだけ出費したのか、全体を把握するのが難しいんですよね。私も、口座の残高が大きく減っているのを見て、慌てて普段の出費をセーブするパターンが多いです」

使えるだけのお金を惜しみなく趣味へと投資することも少なくないオタクですが、普段は社会人や学生として、社会向けの顔があります。社会に溶け込むために、洋服や化粧品など、オタ活以外の費用をかけている人もいるわけです。

浪費が一周した20代後半からあまりお金を使わなくなった

『一生楽しく浪費するためのお金の話』をつくるなど、今でこそお金と向き合う機会が増えてきたひらりささんですが、社会人になりたての20代前半頃はそこまでお金について不安を感じてはいなかったといいます。さらに上司に言われた言葉も、自身の浪費を促すきっかけになっていました。

「20代は貯金するよりも、お金を使って得た経験が投資になるから金を使うようにと言われていました。それもあって、興味・関心のあるものに対して出費を惜しむようなことはあまりなかったですね」

しかし28歳ぐらいの頃に、経験への投資は一周し、何にお金を使う・使わないの線引きがだんだんと明確になってきたといいます。

「それまでは、好奇心のおもむくままにイベントや飲み会があると、必ず参加してましたし、自分はあまり興味なくても人に誘われたらどんどん行っていました。でも、年を重ねるごとに『今月はイベントで出費が多いからアフターは断る』とか、参加しないものを自分の財布事情に合わせて選択できるようになってきたんです。

といっても、その分、ここぞという出費は惜しまないようになりました。最近だと2019年に韓国映画の俳優にハマって、ファンミ(ファンミーティング。アイドルや俳優などが開くファンサービスイベント)のために韓国の現地に行ってきました。そのときは旅費やイベント費含めて一つの現場に6万円ほど使いましたね。現地に行ったら結局、コスメや服も買ってしまいましたし」

どうしても推しのための浪費が避けられないオタクである以上、本当に好きなものへの出費をセーブすることは難しいかもしれません。しかし、ひらりささんが話すようにまずは自分のお金の状況を知り、どこにお金を使いたいのかを選択することはできそうです。

「私自身、何かきっかけがなければ、お金について真剣に勉強をする機会はありませんでした。『一生楽しく浪費するためのお金の話』をつくったのも大きかったのですが、ライターとして自分で請求書を出したり税金の納付をしたりするようになってから、住民税や社会保険料の負担が想像以上に大きいと知りました。

会社員だと給与明細を見て引かれた金額に一瞬心は痛みますけど、基本的に毎月変わらない金額ですし、内訳もそこまで気にしませんよね。でもフリーランスで自分で仕事を引き受け出すと、確定申告が必要になるので、入ってくるお金や出ていくお金を把握しなければいけません。そこで、日常でもどこにお金を使うべきかという感覚が養われていった気がします。『選択と集中』はお金との付き合い方で大切なのかなと。もちろん、『今この瞬間の推しを全て目に焼き付けたいから、選択できない!全部にお金を使う!』という人の気持ちも分かり、難しいところなのですが……」

浪費前提のお金との向き合い方とは?

浪費前提のお金との向き合い方とは?

ここからは、ひらりささんがどうやってお金と向き合っているのか、具体的な方法を紹介していきたいと思います。

ひらりささんは細かい支出に目を向けるというよりも、前月と比べて支出の総額がどの程度増えたのか、もしくは減ったのかで毎月の出費をコントロールしているといいます。

「さっきお話ししたように、払ったお金のチェックが本当に苦手なので、それは挑戦しては3日坊主になってますね(笑)。代わりに2014年頃から、日々の買い物で使ったお金について、できる限りエクセルなどに残高や支出記録を残すようにしています。毎月、給料の金額を超えて使っていないかとか、先月に比べて残高が減っていないかをチェックするんです。

ただ、記録自体は毎月決めた日にやるとかではなくて、思いついたときにやれば良いと思います。投資や節約を焦って完璧にこなそうとせず、少しずつできるところからやる。完璧主義になって、一日サボったからもうやる気をなくしてそれっきりになるよりも、人生は長いわけですから、やれるときにやるぐらいの心持ちで良いと思っています」

最近は、クレジットカード払いを中心にして支払い履歴を残し、普段の支出を自動的に見える化する仕組みをとっているとも話します。

「確定申告のために、細かい支出記録が必要なんですが、現金払いを続けていると、記帳で死ぬ!と気づきました(笑)。なので今はクラウド会計ソフトにクレジットカードを紐付けて、支払い履歴が自動で同期されるようにしています。

結果、プライベートの買い物も可能な限り、クレジットカードを使用するようになりましたね。支払った実感が沸かないから怖いという意見もありますが、支出を見える化する目的では、キャッシュレスは便利です」

今あるお金を守る資産運用を実践

ひらりささんはオタ活を一生続けるために、大きなリターンを狙った投資でお金を増やすことは考えず、資産運用を行うにしても今あるお金が減るリスクが可能な限り低い方法を実践しているといいます。

「10代の頃もらったお年玉は全て母親が管理していたのですが、株式を購入して、運用益を出してくれていたんですね。それを成人してから譲ってもらい、自分で株式投資を始めたんですが、運用をはじめた途端にマイナスになって……(笑)。数字が増えたり減ったりするのに一喜一憂しながら見ているのは楽しかったんですが、やっぱり株式投資は大きなリターンが狙える可能性はありつつも、銘柄の分析など個人のスキルが必要な部分もあって。私には難しいなと感じたんです。

今は、本を作るときにご一緒したFPの先生がすすめてくれた『iDeCo』をやっています。iDeCoで取り扱われている投資信託は、細かい投資情報のチェックや投資判断といった自分のスキルがなくても、運用の専門家にお任せできます。さらに、掛金が全額所得控除の対象にもなるため節税にもなる(※)。目を見張るような利益は出ないですし、含み損が出ている時期もありますが、払う税金をコツコツ減らすのが一番大事、と身にしみている今の自分には合っていますね。60歳まで引き出せないことに抵抗を感じていたんですけど、よくよく考えると、引き出せないからこそお金を着実に増やすことはできますよね」

劇団雌猫のほかのメンバーが、iDeCoを始めたことも後押しになったと話すひらりささん。1人で始めるハードルが高い場合は、友達と一緒に始めてみると良いのかもしれません。さらに貯蓄が苦手という人は、iDeCoのように60歳まで原則積み立てたお金が引き出せないなど、半ば強制的にお金を貯められる仕組みを導入すると良さそうですね。

ひらりささんはある程度貯蓄ができるようになった頃から、資産のすべてを一つの口座にまとめておくことに不安を覚えて、お金の預け先の分散も心がけています。前述したiDeCoもそうですし、ある程度ほったらかしで運用できるロボットアドバイザー投資なども利用しているそうです。

「株式投資などと比べて銘柄分析やチャートの確認などを自分でする必要がない、ロボアドバイザーズ投資なども行っていますね。元本割れしない保証は当然なく、今年の前半はコロナウイルスによる経済不安でかなり含み損が出ていてヒヤヒヤしましたが(笑)、なんとか持ち直しました……。短い期間で一喜一憂しないのが一番ですね。

ほかにも信頼できる国の制度は使うようにしています。例えばふるさと納税は、副業のライター仲間の話を参考にしてやるようになりました。税金対策のように、増やすではなく『減らさない』お金の知識について知ることも大事ですよね」

とくに資産運用に関しては、自分がよく分かっていない商品や深く勉強する気のない商品、には投資しないことが、自分の大切なお金を守る手段だと話します。


※節税額は年収、掛金額等により異なります(課税所得がない場合は、所得控除を受けられません)。

健やかな浪費生活を支えるゆるやかなお金の管理

資産運用に苦手なイメージがあり、愛という出費枠を持つオタクにとって、今後もオタクを続けるためのお金の管理方法は、ひらりささんが話すようにまずは「自分のお金の状況を知る」ことが、第一歩といえるかもしれません。

「今はキャンセルになっている現場も多く、年末のコンサートのために貯めるとか、次の握手会のために稼ぐとか、オタクにとって身近な目標がなくて、例年以上に不確かな状況ですよね。これまでイベントに向けて数ヵ月〜一年くらいのスパンでお金と向き合うことはできていたけれど、リアルなイベントが軒並み中止になるなかで、熱を持てる目標がなくなって意気消沈している人もいるかと思います。

ただこれまでのように趣味にお金を使う機会が減ったからこそ、改めて自分のオタ活との向き合い方を見直すきっかけになるかもしれません。例えば、『これは自分が本当に好きだと思ってお金を使っていたこともあるけど、逆にオタク仲間に合わせて出費している部分もあったな』とか。

あとは、空いた時間を勉強や転職活動に当てることでステップアップを狙ったりとか。だからこそ、5年・10年後も無理なくオタクを続けていくために自分のお金を見える化したうえで『どうしてもお金を使いたい部分』と『そうではない部分』への振り分けを改めて整理してみると良いかもしれませんね」


<iDeCoに関するご留意事項>
iDeCoは原則、60歳まで途中のお引出、脱退はできません。運用商品はご自身でご選択いただきます。運用の結果によっては、損失が生じる可能性があります。加入から受取が終了するまでの間、所定の手数料がかかります。

この人に聞いてみた
ひらりさ
ひらりさ
ライター・編集者。平成元年東京生まれ。同年代オタク女性4人組による同人サークル「劇団雌猫」メンバーで、様々なオタクの浪費事情を集めた『悪友Vol.1 浪費』や愛ある浪費のために考えるお金の管理を紹介する『一生楽しく浪費するためのお金の話』などを編集する。
ライタープロフィール
浅井 いずみ
浅井 いずみ
編集者・ライター。ペロンパワークス・プロダクション所属。漫画・アニメ・映画などポップからサブカルチャーまで幅広いエンタメ分野の記事執筆・コンテンツ制作に携わる。

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