犬や猫の習性を理解し、心身の健康や安全、その「動物らしさ」に配慮を

従来の日本型住宅の場合、室内でペットを飼育するには難点もあり、どうしても犬や猫たちに人間の都合を押し付ける感は否めませんでした。
ところが現在では、犬や猫の習性および心身の健康を考慮し、少しでもその種として動物らしく過ごせるよう、かつ人間にとっても暮らしやすいよう、間取りやつくりなどを工夫した家づくりがなされるようになってきています。いってみれば、「飼う」から「共生」へ。では、その家づくりのポイントとは?
ポイント1 犬や猫の習性・特性を考える
例えば、犬は横運動、猫は縦運動の動物といわれますが、高い所に上るのが好きな猫では、その欲求を満たすために、梁や棚の上などを歩けるようにし、そこに上がるまでのステップ台を設けるといった例はよく見られます。
一方、元来、穴居動物である犬は穴倉のような前方以外が囲まれた空間を好み、落ち着くこともできるため、一ヶ所でもそうしたスペースを作ってあげると寝場所にもなります。また来客時や何かから逃れたい時には、犬にとっての避難場所にもなるでしょう。住宅面積が狭い日本の家ではスペースを有効利用するために、収納ボックスの一番下の部分や階段下のデッドスペースにそのような犬用の場所を作る例は多くあります。
また、吠えやすい犬には防音効果のある建材・マット・カーテンなどを使用する、外の様子が刺激因子となって吠えるならば、外が見えないように目隠しを作るなども一案です。もちろん、しつけが何より肝心ですが。
そのほか、腰壁を掃除や張り替えのしやすい素材にすれば、猫の爪とぎやオス犬のオシッコの粗相などによる汚れや傷みにも対処しやすくなるでしょう。
ポイント2 犬や猫の心身の健康にも配慮する
運動不足や強いストレスは心身の健康に悪影響を与えるのみならず、吠える・攻撃的になる・異常な行動をとるなど問題行動につながることがあります。
犬の軽い運動やストレス発散を目的に、庭先や屋上、家の周囲などにミニドッグランを作る、犬用の部屋から庭やテラスへ自由に出入りできるようにする、または家の中を周回できるようにするなどの設計も可能です。その際、要所にペット用のドアを付けるのもいいでしょう。
特に気をつけたいのは床材です。老犬の多くは関節炎を患っていると言われます。運動器疾患は遺伝的な要因と、肥満や滑りやすい床など環境的な要因が関係するので、若い頃から滑りにくい床で生活させてあげることはとても大切になります。
また、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアやフレンチ・ブルドッグなどアレルギーになりやすい犬種もいますが、アレルギー対策を考えるなら、自然素材で調湿効果や有害物質を吸着する効果もあるとされる珪藻土や漆喰などを壁材に使用してみるのもいいかもしれません。
さらには、特に犬は暑さ・湿気が苦手であり、熱中症になりやすいため、家の中の風通しが良いこともポイントになります。エアコン使用時は、暑過ぎ・寒過ぎから逃げられる場所も用意してあげてください。
ポイント3 犬や猫の安全を考える
脱走や事故防止も必要です。玄関やベランダなどには二重扉を(特に猫)、台所の出入り口にはゲートを設置するとより安心でしょう。火器や包丁、ペットが口にすると中毒を起こす可能性のある食品(例・たまねぎ、チョコレート、レーズン)などには十分ご注意ください。
電気のコードもいたずらされないよう、コンセントは少し高い位置に設置し、コードは隠せるようにするのも一つの方法です。
ポイント4 ペットが高齢になった時のことも考慮する
一般社団法人ペットフード協会の調査によると、日本の犬の平均寿命は14.44歳で、猫は15.03歳。7歳以上のシニア犬は56.2%を占めており、シニア猫は46.0%になっています。
老犬ホームや往診型獣医療、ペット版の訪問介護など、年々高齢ペットに関するサービスの需要供給が伸びており、人間同様、ペットの高齢期についても考えておく必要があります。
室内をバリアフリーにするのもいいでしょうが、一方では、高齢期こそ筋力維持が大切で、多少の段差は運動になるという考え方もあり、どちらにしてもペットに介護が必要になった時のスペースや移動経路など(車椅子等)も予め想定しておくことは無駄にはならないでしょう。
また、高齢になるとトイレの粗相もしがちで、我慢がきかず、トイレまで間に合わないこともあります。可能であればトイレを2~3ヶ所用意したいものですが、そのような余裕をもった設計ができると理想的です。
出典:一般社団法人ペットフード協会「令和元年 全国犬猫飼育実態調査」(外部サイト)
ポイント5 人とペットの動線、便利さを考える
他人が苦手な犬や猫もいますし、来客のなかには動物が苦手な人もいるかもしれません。来客とは会わずに済む動線を設定する、またはペットが退避できる居場所を作るのも一案です。
互いの生活を少しでも快適にするには、散歩後の手入れがすぐにできるよう、玄関や出入り口付近に犬用の足洗い場・シャワールームを設置する、玄関内を広めの土間にするなどのほか、犬や猫の必要品は一ヶ所にまとめて保管できるように専用の収納棚を設けるのもいいと思います。
ペットとの生活をサポートする便利グッズ

次に、ペットとの生活にあると便利なグッズをいくつかご紹介しておきましょう。
【ペット用見守りカメラ】
家を留守にする時、見守りカメラで家にいるペットの様子を確認。介護状態にある老犬を短時間残して外出する時に使用する飼い主さんもいます。ただし、ハッキングされる可能性もあるので、セキュリティはしっかりと。
【臭いや雑菌をシャットアウトするペット用ゴミ箱】
排泄は毎日のことゆえに臭いも気になるもの。ゴミとして捨てる場合には、極力臭いが漏れないと助かります。ちなみに、ペットの便の処理方法については自治体によって若干違いがあります。
【防音パネル・コルク材など】
家に防音設備も取り入れたい場合、インテリアとしてもお洒落な防音・消音材があります。中には畳スタイルのものも。
【消臭機能付き空気清浄機】
アレルギーやペット臭が気になる場合は、消臭機能付き空気清浄機があるといいかもしれません。空気中に浮遊するペットの毛やフケ、花粉などを除去する効果があるとベストでしょう。
ペットを迎える前に考えたいこと

ペットとの共生住宅を建てるにあたって、同時に新しくペットを迎えることを考えており、且つ、それがシニア世代の人である場合、ぜひ考えていただきたいことがあります。
ペットとの暮らしは心身の健康や人生の潤いを与えてくれますが、犬や猫は生き物である以上、自分が年老いてもペットが寿命を迎えるまできちんと世話がしきれるかどうか熟考することは大切です。
人間もペットも高齢化が進む中で、高齢者が飼育するペットは同じく高齢であるケースが目立つようになっており、世話がしきれないからと飼育放棄する例も見られます。それはたいへん残念なこと・・・・・・。
シニア世代でペットを飼い始めるならば、自分に万が一のことがあった場合、代わりに世話が頼める人を確保しておくことをお勧めします。
また、子犬は世話に手間がかかる分、成犬の保護犬を迎えるという選択肢も。殺処分される犬猫の数は、3万8,444頭。1日に105頭が命を落としている計算になります。生まれはどうであれ、愛に値する命はたくさんいます。
どんなペットを迎えようと、どうぞ良い出会いがありますよう、そして互いが楽しく、気持ちよく過ごせるマイホームを築けますようにと願います。
出典:環境省自然環境局総務課動物愛護管理室「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(外部サイト)
ライタープロフィール

犬もの文筆家&ドッグジャーナリスト&ドッグライター。犬の専門雑誌や一般誌、書籍、新聞、Webなどで、犬に関する様々なテーマの記事を執筆し続けて25年。近年は自身が取材をお受けすることも多くなり、ラジオ番組出演やテレビ番組の制作協力なども。
特に、「人と犬との関係性」に興味があり、自身の愛犬の経験から、犬版の「介護・看護」をテーマに企画した4~5年にわたる連載記事は、後に、自著【りーたんといつも一緒に】(光文社)につながる。信条は、「犬こそソウルメイト」。一度想うとどこまでも、愛犬一筋派でもある。
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