睡眠の質の低下が、シワやたるみの原因に?

睡眠と美容の関係を考えるにあたって、まずは、そもそも睡眠にはどのような役割があるのかを確認しておきましょう。寝具大手・西川株式会社の社内研究機関である日本睡眠科学研究所の研究員・安藤 翠さんによると、私たち人間に睡眠が必要な理由は、大きく分けて次の4つ。このうち一つが欠けても心身の健康や美容に対するリスクが生じてしまいます。
1. 身体のメンテナンスを行う
睡眠中の体内では様々なホルモンが働き、身体のメンテナンスを行っています。このうち、いわゆる「成長ホルモン」は、骨密度を増やす、皮膚のハリを保つ、シワを減らす、脂肪を減らすといった老化予防作用を持つ非常に重要なホルモンです。成長ホルモンは寝入りばなの深い眠りの間に最も活発に分泌されますが、30歳前後を境に徐々に分泌量が減ってしまうため、しっかり睡眠をとって、可能な限り分泌を促すことが大切です。また、同じく睡眠中に分泌されるメラトニンは、体内時計のリズムを調整し、睡眠の質を上げるだけでなく、抗癌作用や抗酸化作用など、老化予防にも大きな役割を果たしています。
2. 食欲をコントロールする
睡眠には食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌を減らし、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌量を増やす働きがあります。睡眠が不足すると、これらのホルモンのバランスが崩れるので、過食につながったり太りやすくなったりする恐れが。さらに睡眠不足が進むと代謝機能が落ちて脂肪が分解されにくくなるので、ダイエットの効果も現れにくくなります。
3. メンタルバランスを整える
睡眠にはストレスを緩和し、イライラを抑えるなど、メンタルバランスを整える働きもあります。睡眠不足は脳の働きに悪い影響を与え、イライラや不安、落ち込みの原因になるといわれています。つまり、睡眠は心の健康、心の休息にも大きな役割を果たしているということです。
4. 集中力・注意力を保つ
睡眠中、脳は情報の整理や記憶の定着を行っているため、学習内容を記憶・定着させるためには、上質な睡眠が欠かせません。睡眠が不足すると日中の眠気、集中力や注意力の低下の要因になるだけでなく、記憶や情報が整理されなくなるため、思わぬミスや事故、社会的損失に繋がってしまう可能性があります。
このうち、美容効果と大きく関係しているのが1の身体のメンテナンスを行う働きと、2の食欲のコントロールをする働きです。睡眠不足によってこの2つの働きが滞ると、シワやたるみといった老化が進んでしまうばかりか、体重の増加も招いてしまうおそれがあるのです。
睡眠によるアンチエイジング効果を科学的に検証
日本睡眠科学研究所では、以上のような睡眠と美容の関係を科学的に証明するため、大学など外部の研究機関と共同で様々な研究をおこなっています。このうち、2016年に同志社大学アンチエイジングリサーチセンターと共同で行った研究では、睡眠に不満をもつ男女に、睡眠の質を改善する効果があるとされる「4層特殊立体構造マットレス」を使ってもらい、使用前後で自覚症状や身体の状態がどのように異なるかを調査。結果として良質な睡眠にアンチエイジング効果があることを実証しました。具体的な調査結果は以下のとおりです。
【良質な睡眠がもたらした4つのアンチエイジング効果】
1. 成長ホルモン分泌量の増加
成長ホルモンは「若返りホルモン」とも呼ばれ、入眠後2時間前後に多く分泌されます。成長ホルモンの分泌量を反映する「血中IGF-1」量が、使用4週間で使用前に比べて+10.2パーセントも増加しました。

2. 酸化ストレスの減少
酸化ストレスは身体のサビを引き起こし、皮膚の老化やガン、アルツハイマー、糖尿病などの原因となり得ます。この酸化ストレスの指標である「尿中8-OHdG(クレアチニン補正)」が、使用4週間で使用前に比べてー27.8パーセントも低下しました。

3. 善玉コレステロール(HDL-コレステロール)値の上昇
全身の細胞内や血液中の余分なコレステロールを肝臓に送る働きを持ち、動脈硬化の予防効果が期待できる善玉コレステロール(HDL-コレステロール)の値が、使用4週間で使用前に比べて7.5パーセントも増加しました。

4. 自覚症状による睡眠の質の改善
睡眠障害の評価に使われる「ピッツバーグ睡眠質問票」に対する回答では、睡眠の質、入眠時間(眠りにつくまでの時間)、睡眠困難(不眠)、日中覚醒困難(日中の眠気)について、被験者の自覚症状が改善し、総合得点が「高度障害」から「軽度障害」に改善されました。つまり、寝具を変えて睡眠の質向上を図った結果、睡眠についての不満が一定程度、解消されたことになります。



睡眠の質を決めるのは、「時間」と「深さ」

健康や美容に良いことは分かっていても、上質な睡眠を取ることは簡単なことではありません。まず、日本人は世界的に見ても睡眠時間が短く、NHKが5年に1度行っている調査「日本人の生活時間2015」によると、日本人の1日(平日)の平均睡眠時間は約7時間15分と、20年前(1995年)の同調査に比べて約12分も短くなっています。
また、日本睡眠科学研究所が2019年に日本人1万人を対象に「不眠症の疑い」について聴取したところ、「不眠症の疑いあり」となった人は全体の約50.1パーセントとなり、前年の49.3パーセントを0.8ポイント上回りました。
とはいえ、長く眠りさえすれば、睡眠の質が上がるかというと決してそうではなく、質の良い睡眠には「深さ」も欠かせません。日本睡眠科学研究所研究員の安藤さんは「睡眠には大脳を活性化させるレム睡眠と、大脳を沈静化させるノンレム睡眠とがあり、この2つが1セット約90分のサイクルで4~5回繰り返されています。質の良い眠りに必要な深い眠りが得られるのは、このセットの1回目~2回目です。3回目以降は眠りそのものが浅くなるので、質の良い睡眠のためには、寝入りばなの数時間にぐっすりと深く眠ることが欠かせません」と指摘します。つまり、眠り始めてから2~3時間以内にぐっすりと深く眠ることが大切だということです。
良い眠りは規則正しい生活と、良い寝環境から

では睡眠のサイクルを上手く活用して、ぐっすりと質の良い睡眠をとるためには、どうすれば良いのでしょうか?
西川株式会社のスリープマスター(睡眠科学や快眠環境などの専門講習を受けた眠りのプロフェッショナル)・森 優奈さんは、「良い眠りには、規則正しい生活と良い寝環境が欠かせない」と指摘します。
1. 規則正しい生活
夜になると眠り、朝になると起きるという生活リズムは、生まれながらに備わっている体内時計の働きによるものです。体内時計は、体温や血圧、ホルモンの分泌といった身体の働きを約24時間より少し長い周期でつかさどっていますが、この周期には毎日少しずつズレが生じます。朝、太陽の光を浴びると、このズレが修正され、体内時計がリセットされます。早寝早起きの規則正しい生活が体内時計を正常に機能させ、結果として眠りのリズムを整えてくれることになるのです。
また、食事の内容や時間も睡眠の質に影響を与えると言われています。睡眠時間中は胃腸が十分に休めるよう、寝る直前の食事は避けるようにしましょう。入眠の2~3時間前には食事を終えておくのが理想的です。成長ホルモンの分泌を促す効果が期待できるタンパク質を多めに摂るよう心がけましょう。逆に成長ホルモンの分泌を抑制してしまうため、炭水化物の摂りすぎには注意してください。
また、体温と眠気のリズムには密接な関係があり、一般的には体温が下がり始めるときに眠気が強まると言われています。寝付きの悪さに悩んでいる人は、就寝前に簡単なストレッチなどで一時的に体温を上げ、徐々に体温が下がるタイミングで眠りにつくと、寝入りがスムーズになる可能性も。交感神経を刺激する激しい運動は避け、手足を温める軽いストレッチ運動などを試してみると良いでしょう。

2. 良い寝環境
質の良い睡眠には、良い寝環境が欠かせません。寝具の見直しと併せて、自分にとって心地よい寝環境を整えるために、以下のポイントを見直してみましょう。
・音
良い睡眠のためには図書館くらいの静けさ(40デシベル以下)が理想とされています。外からの音が入ってくる場合は、雨戸や冊子、厚手のカーテンなどを使って音を遮断し、静かな環境をつくる工夫をしてみましょう。
・色彩
寝室の壁やカーペット、寝具の色には、ベージュ系やグレー系の落ち着いた色彩がおすすめです。夏場はすっきりしたブルー系に変えても良いでしょう。
・光
就寝時の部屋の明るさは、0.3ルクス程度(ぼんやりと物の形が見える程度)に抑えましょう。30ルクス(薄暗い部屋程度の明るさ)以上の照明を付けたままだと、睡眠の質が悪化するといわれています。暗いと不安で眠れないという人は、フットライトなどの間接照明で明るさを確保すると良いでしょう。
・温度と湿度
冬は10度以下、夏は28度以上になるのを避け、湿度は季節を問わず50パーセント程度を保つのが理想的です。暑さや寒さのために途中で目が冷めてしまわないよう、真夏や真冬はエアコンをつけたままにして眠っても構いません。ただし、エアコンの風が直接体にあたらないように注意してください。
・香り
嗅覚は睡眠と関わりの深い感覚です。アロマやハーブティーを活用して自律神経の切り替えをサポートし、心身をリラックスさせて眠りにつきましょう。就寝前はラベンダーやオレンジスイート、ローズやカモミールなどリラックス効果の高い香りが、起床時はリフレッシュ効果のあるレモンやグレープフルーツ、ペパーミントやユーカリの香りがおすすめです。
・清潔
ほこりやダニ、カビでアレルギー反応を引き起こしてしまわないように、寝具は常に清潔に保ちましょう。必ずカバーを使用し、定期的な洗濯を欠かさないようにします。
美容睡眠に特化したアイテムも登場
睡眠の美容効果を高める、便利なアイテムも次々に登場しています。日本睡眠科学研究所監修のもと西川株式会社が展開する美容睡眠ブランド「newmine(ニューミン)」もその一つです。
たとえば、newmineの主力アイテムである「肌にやさしいまくら」は、一人ひとりのフェイスタイプを分析、フェイスラインに合わせた顎部分専用の「Lラインパッド」を装着して圧力を分散することによって、シミやシワの原因とされる頬への圧力などのダメージを約50パーセント軽減できるように設計されています。このほか、肌タイプにあわせたピローケースやダメージフリーのタオル、リラックス効果を促すオリジナルアロマなどのアイテムを展開しています。

同社スリープマスターの森さんは「人間は一生の3分の1の時間を睡眠に費やしています。睡眠の質を見直すことで、今まで無意識に使っていた睡眠時間を美容のための時間として有効活用できます。まずは寝具をはじめとした寝環境を整えることから、睡眠の質改善に取り組んでみましょう」と呼びかけています。
また、日本睡眠科学研究所研究員の安藤さんは「睡眠は人間にとって非常に重要なものであるのにも関わらず、残念ながら日本では睡眠の重要性について学校などで教わる機会はほとんどありません。睡眠についての正しい知識を身につけることは、美容のみならず心身の健康にとっても非常に重要なこと。この機会にご自身の睡眠の状況を見つめ直し、問題点があれば、寝具や寝室環境、日中や寝る前の行動について一度見直してみることをお勧めします」と話していました。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、お客さまに第三者の提供する特定商品・サービスに関して、何らかの推奨・勧誘も目的とするものではありません。
この人に聞きました

安藤 翠さん(右)
西川株式会社 スリープマスター
森 優奈さん(左)
ライタープロフィール
