アンティーク時計のブームはずっと続いている

皆さんの周りに、レトロなアンティークの腕時計をしている人はいますか? 今、電池を使わない1940〜60年代の機械式時計がじわじわとブームになっています。デジタル全盛のこの時代、愛好家たちはアンティーク時計のどこに魅力を感じているのでしょうか?
「良いものが正しく評価されている結果だと思うんです。アンティーク時計って、本当に贅沢に作り込まれた製品なんですよね。アンティーク時計は、ここ20年ずっと人気があって、私たちからするとブームが静かに続いている感じです。もっと言うと最近は、中古の機械式時計の値段が急に上がったのに、人気が衰えないので、ファンが定着したのだと思っています」

そう語るのは、東京都の森下に本店を構えるアンティーク時計専門店「ケアーズ」の取締役、森川洋史さん。森川さんによれば、本来、アンティーク時計とされるのは、今から約100年前に作られたもの。1950〜70年代までに作られたものはヴィンテージ時計とも呼ばれるのだとか。ケアーズでは、主に1940〜60年代の機械式時計を扱っているといいます。
機械式時計の魅力は半永久的に動くこと
そもそも機械式時計とは、どのようなタイプを指すのでしょう。
機械式時計とは、巻き上げたゼンマイがほどける力を動力源とした時計で、電池やソーラーパワーなどの電力源を用いません。ゼンマイやガンギ車と呼ばれる歯車のような部品などを組み合わせた機構によって、電力に頼らず時を刻むことができます。歴史ドラマなどで見かけるゼンマイ式の懐中時計がルーツといえば、イメージしやすいでしょうか。
機械式時計には、「手巻き式」と「自動巻き式」の2種類があり、前者はまさに手を使って動力源となるゼンマイを巻き上げる方式。後者は機構に組み込まれたローターが腕の振動で回転することでゼンマイを巻き上げる仕組みとなっています。
「機械式時計の魅力は、半永久的に動くことです。1930〜40年代の時計職人は、おそらく100年使える時計を目指して作っていたと思うんですよね。機械式時計の中身を開けてみると、第二次大戦中に作られたような機械が、電気も使わずに元気に動いていることに感動しますよ」
普段、スマートフォンの時計に慣れてしまうと中身がどうなっているかなど、なかなか考えも及びません。森川さんによれば、アンティーク市場の時計は、中身の動力の部分も大切で、名器と呼ばれる機械がきれいな状態で残っていると価値が高まるといいます。
憧れのロレックス、オメガに手が届く

アンティーク時計はレトロなデザインも魅力です。1970年代に入り、水晶を使ったクオーツ式時計が登場すると腕時計は大量生産時代に突入します。それだけに、1960年代以前の一つひとつ大事に手作りされていた時代の機械式時計は、デザインにもこだわりが見られるといいます。
「やはり文字盤や針一つとっても贅沢に作り込んであるんです。なので、人とは違う1点モノの時計が欲しいという人が、アンティーク時計にハマる傾向があると思います。例えば、1960年代のオメガ・シーマスターだと10万円台から20万円前後が相場ですが、この作り込み具合を考えると今の人件費じゃ到底この値段では作れないでしょうね。そういう意味では、憧れのロレックスやオメガに手の届くというメリットもあると思います」
ここまで聞くとやはり気になるのは、どのようなメーカーの時計がアンティーク市場で探せるのか。森川さんによれば、1940〜60年代くらいのモデルで流通量が多いのは、オメガ、ロレックス、IWC、ロンジンなど。いずれも今も人気のメーカーです。さらに、現在も自社一貫製造で時計を手作りしている通称“マニュファクチュール”の最高峰パテック・フィリップのアンティーク時計なども探せるそうです。少しだけ、人気メーカーのアンティークモデルを紹介しましょう。

主要メーカー豆知識:ロレックス
言わずと知れたスイスの高級腕時計メーカー。アンティーク時計市場でも人気は絶大で、サブマリーナ、エクスプローラー、GMTマスターという代表的なスポーツモデルを筆頭に、オイスター、バブルバックなどクラシックモデルも幅広い層に支持を集めています。

主要メーカー豆知識:オメガ
NASAに人類初の月面着陸時に携行したスピードマスターで知られるスイスの腕時計メーカー。シーマスター、レイルマスターなど、1950年代の誕生以来、耐久性の高いスポーツウォッチが現在も人気です。アンティーク市場でもビギナーからコレクターまで幅広く親しまれています。

主要メーカー豆知識:IWC
スイスの腕時計メーカーで、ブランド名はInternational Watch Companyの略。耐磁モデルのインジュニア、ダイバーモデルのアクアタイマーなど、人気モデルが多数あります。クオリティの高い自社開発のムーブメントと洗練されたデザイン哲学が魅力です。

主要メーカー豆知識:パテック・フィリップ
ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲと共に「世界三大マニュファクチュール」とされるスイスの老舗メーカー。「カラトラバ」と呼ばれるオーセンティックなモデルがアンティーク市場でも絶大な人気で、1本500万円以上の価格で取り引きされることも珍しくありません。
「やはり、パテック(・フィリップ)が、この時代の時計の魅力を凝縮させた最高峰ですね。針や文字盤はもちろん、ベゼル(周囲を囲むリング状の部品)や中身の機械のさらに裏側までピッカピカに磨き上げられていますからね。料理に例えると最高級の食材だけを使って、超一流のシェフが何日もかけて仕込んだフルコースみたいなものです。これが100万円台から買えるなら安いものだと思いますよ」
森川さんによれば、ビギナーが1本目を選ぶなら流通量の多いオメガのシーマスターあたりが狙い目とのこと。じっくり探せば、10万円台でも良い品物が見つかるといいます。アンティーク時計は、1本買うとどんどんほしくなってしまうコレクター魂をくすぐる要素が強く、常連客の中には、100本以上所有している人もいるのだとか。
珍しい時計が好きならクロノグラフ系を
「もし2本目、3本目として珍しい時計を探しているなら、1930〜40年代のクロノグラフ系が面白いですね。クロノグラフというとブライトリングが有名ですが、ほかにもユニバーサル、アンジェラス、ミネルバなど、良いメーカーがたくさんあるんですよ」
クロノグラフとは、ストップウォッチが付いた複雑な構造の機械式時計のこと。オメガのスピードマスターやロレックスのデイトナ、ブライトリングのナビタイマーなどが有名です。ロレックスのデイトナに至っては、1960〜70年代製の人気モデルが1本500〜800万円で取り引きされているといいます。
「希少価値の高い人気モデルで、かつ機械がいい状態のものは、価格が暴落する要素が見つかりません。しかもメンテナンスしていれば、半永久的に動き、市場も確立されているので、資産として保有している人も多いと思いますよ」

主要メーカー豆知識:ブライトリング
現在でも人気の高いクロノマット、ナビタイマー、トップタイムなど、ストップウォッチが付いたクロノグラフ系のモデルが有名なスイスの腕時計メーカー。第二次対戦前の1930年代に航空機の計器を製造していた歴史が、その信頼性を物語っています。
メンテナンスしながら長く使うのが基本

メンテナンスという言葉も出ましたが、気になるのは日頃のお手入れです。高価なものだけに、アンティーク時計を使う際の注意点は知っておきたいところです。
森川さんによれば、一番の大敵は水。アンティーク時計を腕にしたまま手を洗って、水がかかるのも注意が必要。雨に濡れるのも、夏場の汗も危険だといいます。「WATER PROOF」と表示があっても今のスポーツウォッチの感覚で使うのは禁物だとか。
また、現行のロレックスなどの機械式時計と同様で、3〜4年に1度、専門店のオーバーホールに出すのがおすすめ。機械部品をすべて分解、洗浄して、組み直してもらうことで、長く使うことが可能になります。自動車の車検のようなものですね。

「オーバーホールの際は、すべて分解し、洗浄し、潤滑油をさします。消耗した部品を交換することも可能です。今のクオーツ時計やデジタル時計と違って、部品さえあれば、修理できるのも機械式時計の魅力です。ヴィンテージの靴やオートバイにも通じるところがあるかもしれませんが、直しながら長く使うようなところが男性のコレクターを引きつけるのかもしれませんね」
女性向けアンティーク時計も人気
アンティーク時計にはもちろん女性向けのマーケットもあります。人気のブランドはロレックスやカルティエ。パテック・フィリップやティファニーのアンティークも探せるといいます。男性用と比べて、価格がリーズナブルなのも女性用アンティーク時計の魅力かもしれません。


アンティーク時計の世界、いかがだったでしょうか? 1940〜60年代の機械式時計は、ステンレスやゴールドの素材一つとっても重厚感があり、歴史の重みを感じさせる何かがあります。そして何より、半世紀以上前と同じ“24時間”を刻むゼンマイ式の機械が今も健在なことに改めて驚かされます。

モノも価値観もせわしなく消費されていく現代。往時の時計職人たちの想いが詰まった機械式アンティーク時計を眺めながら、「変わらない価値」とは何か考えてみるのも有意義かもしれません。
※商品価格は「ケアーズ森下店」の2020年2月時点のものです。参考としてお考えください。
<取材協力>
ケアーズ森下本店

アンティークウォッチの専門店。主に1920年代から60年代までの機械式時計を扱っています。森下本店に2階には修理工房を構え、オーバーホールなどのアフターケアにも注力。東京ミッドタウン、表参道ヒルズにも支店があります。
住所:東京都江東区森下1-14-9
TEL: 03-3635-7667
CARESE CO. ウェブサイト(外部サイト)
ライタープロフィール

編集者・ライター。1973年生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、旅行雑誌編集部勤務を経て、広告制作会社で教育系・企業系の媒体制作を手がける。2010年に独立し、株式会社ミニマルを設立。ビジネス全般、大学教育、海外旅行の取材が多い。
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