成長著しい日本ワイン
日本のお酒というと、まず思い浮かぶのは日本酒や焼酎ですが、ワインも負けていません。最近ではデパートのワイン売り場でも日本ワインの多彩なラインナップが見られるようになりましたし、スーパーマーケットでも扱われるようになりました。
飲食店でワインリストに加えているケースも増え、中には日本のワインに特化したワインバーもあるほどです。
このように、ひと昔前に比べてかなり浸透した印象のある日本ワインですが、2000年頃までは、世界のワインに比べると「まだまだ…」いうのが一般的な見解でした。しかし、今では品質が世界レベルといってよいほどに向上し、2019年のG20大阪サミットなど世界の要人が集まる重要な場で提供されたり、インターナショナル・ワイン・チャレンジなど世界規模のワインのアワードで受賞ワインが登場したりするまでに成長しました。その変化のスピードがあまりに早いため、日本ワインについてまだ「よく知らない」という人も多いのではないでしょうか。まずは、日本ワインの定義からご紹介しましょう。

そもそも「日本ワインの定義」とは?
「日本ワインの定義」というと、「日本で生産されたワインのことでは?」と思う方も多いはず。確かに日本で生産されたワインですが、実はそれだけでは「日本ワイン」を名乗ることはできないのです。
ご存知のとおり、ワインの主原料はブドウです。大量のワインを作るには大量のブドウが必要になりますが、ブドウは農作物ですから天候などの気象条件に収穫が左右され、時に国内では十分なブドウ果汁が確保できない場合もあります。そのような場合には、ブドウの果汁を外国から輸入して日本でワインを作るケースも発生しますが、過去には海外のブドウ果汁から作ったワインが「○○(=日本の地名)ワイン」として販売されていたこともありました。
しかし、これでは消費者の混乱を招きかねないとして、2015年にワインラベルの表示基準が定められ、2018年からは日本で栽培されたブドウのみを使って日本で造られたワインは、製造者や原材料を記載した裏ラベルに「日本ワイン」と表示することが義務づけられています。ワインによっては、裏だけでなく表のラベルでもしっかりと「日本ワイン」と謳っているものもあるので、随分と分かりやすくなりました。
もちろん、今でも輸入ブドウ果汁を使ったワインの生産は行われており、これは俗に「国産ワイン」と呼ばれています。

ブドウの品種を知ろう
ブドウを生で食べるときに、味や香り、風味の違いから、シャインマスカット、巨峰、ナイアガラなど品種で選ぶように、ワインも原材料であるブドウ品種が味わいを大きく左右します。
世界でも日本でも栽培されている国際的なブドウ品種として、赤ワインの原料となる黒ブドウでは、ピノ・ノワールやメルロ、白ブドウの場合は、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなどがあげられます。
日本ならではの品種もあり、黒ブドウなら「マスカット・ベーリーA」、白ブドウなら「甲州」がその代表格。通常、生で食べるブドウとワインに使われるブドウの品種は別物ですが、デラウェアはどちらにも使われる優秀な品種です。
同じ品種でもほかの国との味わいの違いを感じたり、日本ならではのブドウ品種の魅力をワインで味わったり、ブドウ品種一つとっても日本ワインは様々に楽しめます。

日本でワイン造りが盛んなエリアは?
日本各地で生食用のブドウが栽培されているのと同様、ワイン用のブドウも日本各地で作られています。北海道から温暖な九州まで南北に長い日本は、地域によって気候や雨の降り方が異なりますが、各地の気象や土壌条件に合ったブドウが栽培され、様々なワインが作られています。
現在、日本国内でワイン醸造が盛んな地域は4つ。北から、北海道、山形、長野、山梨です。北海道は冷涼な気候のもとで育ったブドウを使った白ワインに定評がありましたが、近年は赤ワインのピノ・ノワールも注目されています。寒暖の差が大きな山形はすぐれたブドウが採れるところ。香り豊かなワインが造られています。降水量が比較的少なく水はけの良い土壌に恵まれた長野では、国際品種を使った高品質なワインを多く生産しています。山梨は日本最大のワインの産地。国内ワイナリーの約4割が山梨にあります。各ワイナリーが切磋琢磨して優れたワインを生み出しています。
地域おこしとして町全体で地元ワインを盛り上げようと、ワインに関するイベントやワイナリーマップなどが整備しているところもあります。レストランやショップを併設し、見学者を受け入れているワイナリーも増えつつあります。自宅や飲食店とは違う、生産地ならではの空気感のなかでワインを楽しむのは、また格別です。
ふるさと納税でワインを渡す自治体があることからも、ワインは地域の特産品としても人気が高いことが分かります。

日本ワインに合うのは、やはり和食!
「料理はその料理が生まれた国のお酒に合わせると失敗がない」とはよくいわれることで、それは日本ワインでも同じこと。つまり、和食には日本ワインがやっぱり合う、ということです。概して日本ワインは、繊細さが持ち味。出汁を効かせた料理や素材の味を楽しむ刺し身や天ぷらには、微妙なニュアンスのある繊細な味わいが特徴の日本ワインが合うのです。
日本ワインを味わう意義は、もう一つあります。昨今は、環境問題も、社会の大きな課題の一つですが、日本ワインを飲むほうが海外から輸入したワインを飲むよりもずっと環境負荷が少ないことになります。日本ワインを選ぶことで、倫理的に正しく持続可能な社会づくりに貢献できるというわけです。

初心者におすすめの日本ワインの選び方
では、日本ワイン初心者は、どうやってお気に入りの1本を選べば良いのでしょうか。おすすめは、まず予算を決めること。最初から高価なものを試すより、お手頃価格のものを選びましょう。
日本で人気のある日常的なワインといえばチリワインがその筆頭に上がり、コンビニやスーパーマーケットで、実に手頃な値段で買い求めることができます。ワイン以外の製品も同じですが、大量生産できる体制が整っていれば、単価も抑えることができるのです。
日本の場合は小さなワイナリーが多く、大量生産に至らないところがほとんどのため、やや割高になることが多いですが、それでも1本1,000円台から購入できる優良な日本ワインはたくさんあります。
「家で気軽に飲むのに、3,000円以上出すのは厳しい」という方も1,000円台であれば、試しやすいのではないでしょうか。
ただし、日本ワインの中でも醸造数が少なく、なかなか店頭では手に入りにくいものがあるのも事実。いろいろな日本ワインを試したい方は、日本ワインが充実した飲食店を利用するのがおすすめです。
なかなか出回っていない貴重な1本に会える確率も高まりますし、何よりいろいろな種類を味わえるので、日本ワインの多様性を確認できたり、好みのワインを見つけたりできるのが良いところです。気に入ったワインが見つかったら、後日、酒販店やワイナリーのオンラインショップなどで購入してみるのもいいのではないでしょうか。

今後、ますますの成長が見込まれる日本のワイン。海外にも少しずつ、その美味しさが知られつつあるようで、日本ワインが海外の著名なワインコンクールで高い評価を得たというニュースも耳にするようになりました。日本ワイナリー協会のウェブサイトには、全国の主なワイナリーマップが掲載されています。好みにぴったりの日本ワインを見つけられる検索機能もついているので、日本ワイン選びに迷ったら、ぜひ活用してみてください。
ライタープロフィール

大学卒業後、出版編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、渡英。2001年帰国後、フリーランスのダイレクター、編集者、ライターとして、出版、広告、ウェブメディアにおいて、企画、構成、編集、執筆などを行う。とりわけ食の分野においては、専門誌や書籍などに深く携わり、手がけた書籍多数。ライフワークはイギリスの食。近著に『増補改訂 イギリス菓子図鑑』。
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