人生100年時代に突入し「いかに元気に老後を迎えられるか?」は人生の幸福度を高める上で重要なテーマです。日本人は平均寿命が長く健康的なイメージがありますが、実は睡眠時間“世界ワースト1位”の民族でもあります。
今回はつい睡眠をおろそかにしがちな方に向けて、睡眠健康指導士が「今日からできる睡眠改善」をご紹介します。
睡眠不足の影響~睡眠不足になると脳と身体の機能が低下する~

「日本人の睡眠時間は短すぎる」といわれても、それがどう問題で、どれほど危険な状態かピンとこない方も多いと思います。
睡眠不足は、私たちの心身に様々な悪影響を及ぼすとされています。その代表例が「脳機能・身体機能の低下」です。
睡眠には、脳内の疲労物質やストレス物質の除去をする役割があります。いわば脳の掃除の時間です。その掃除が不十分だと、脳の機能は低下します。
具体的には、次のようなことが睡眠不足で起こるといわれています。
・死亡率の上昇
・ストレス、不安感の増大
・肥満
・学力低下
・記憶力低下
この中からいくつか具体例を紹介していきます。
睡眠不足の影響①死亡率の上昇
睡眠不足と死亡率の因果関係は、国内外を問わず様々な研究結果により実証されています。
日本の研究で有名なものとしては、名古屋大大学院の玉腰暁子助教授の研究報告が代表例としてあげられます。
出典:JACC Study 睡眠時間と死亡との関係(外部サイト)
睡眠時間は短過ぎても長過ぎても死亡率は高まり、最も死亡率が低いのは7時間前後です。
特に4時間未満の睡眠時間では、男性で1.62倍、女性で1.60倍と死亡率が大きく高まることが報告されています。
睡眠不足の影響②ストレス、不安感の増大

睡眠不足の状態では、睡眠が十分な状態に比べると不安感やストレスを感じやすくなることが研究結果で明らかになっています。
出典:国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・睡眠・覚醒障害研究部 Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity
「睡眠不足の時の方が何となく物事がスムーズに進まない」と感じた経験がある方も多いのではないでしょうか?
睡眠不足によって、うつ病や不安障害のリスクが増大することが指摘されています。
睡眠不足の影響③肥満
睡眠不足によって、様々なホルモン分泌のバランスも崩れます。
出典:厚生労働省 睡眠と生活習慣病との深い関係(外部サイト)
睡眠と肥満に関する研究も多々ありますが、レプチン(食欲抑制)の分泌が低下し、グレリン(空腹感)の分泌が上昇するという結果が報告されています。
ホルモン分泌レベルで食欲と空腹感が必要以上に増し、その結果肥満につながります。
「ダイエットしないといけないのに食べ過ぎてしまう」というあなたの肥満の原因は、睡眠不足かもしれません。
日本人の睡眠の状況
日本人の睡眠時間は世界ワースト1位です。これはOECDデータで明らかにされています。
出典:OECD Gender data portal 2019(外部サイト)
厚生労働省の調査では、平均睡眠時間が6時間未満の割合は、40代男性で48.5%、40代女性で52.4%となっています。
出典:厚生労働省 平成29年「国民健康・栄養調査」の結果(外部サイト)
先ほどの睡眠不足の影響で考えると、睡眠時間が6時間を常に下回っているのは“危険水域”です。
日本人の約40%は睡眠時間が6時間未満、40代に限ればほぼ半分が6時間未満となります。
あなたの睡眠時間は何時間でしょうか?
「6時間寝れば大丈夫」とはよく聞きますが、それはあくまでも“睡眠時間が世界ワースト1位の国”である日本でいわれている話で、実際には睡眠時間が6時間ではかなり危険といえます。
今からやるべき睡眠の改善方法
では実際に睡眠を改善するにはどうすれば良いのでしょうか?具体的な睡眠の改善方法には、以下のような行動があります。
1.睡眠時間を延ばす
2.昼寝
3.ブルーライトカット
4.夕食は寝る4時間前に終える
5.朝起きたら強い光を浴びる
6.リズム運動をする(ウォーキングなど)
7.入浴は寝る2時間前までに終える
この中から特に大事な3つを解説していきます。
睡眠の改善①睡眠時間を延ばす
最も難しいことだと思いますが、睡眠時間を延ばすことが最も大切なことです。
「睡眠不足を睡眠の質で補いたい」という相談をよく受けますが、実際にそれは不可能です。
また、サプリメントなど栄養で睡眠不足を補えるということもありません。
最適な睡眠時間の目安は7~8時間です。個人差もありますが、元々睡眠不足である可能性が高いと考えれば8時間を目安にするのがおすすめです。
まずは10分からでも睡眠時間を可能な限り延ばすことをおすすめします。
睡眠の改善方法②昼寝

睡眠時間をどうしても確保できない場合には昼寝がおすすめです。
アルツハイマー型認知症の研究では、30分以内の昼寝の習慣がある人は、昼寝の習慣がない人に比べて罹患率が5分の1になるといわれています。
(逆に昼寝を1時間以上する習慣がある人は、2倍に増えるので注意が必要です)
引用文献:25) Asada, T., Motonaga, T., Yamagata, Z, et al.:Associations between retrospectively recalled napping behavior and later development of Alzheimer's disease: association with APOE genotypes. Sleep 23: 629-634, 2000
睡眠の改善方法③ブルーライトカット
ブルーライトとは、スマホやパソコンに含まれる光の種類です。
ブルーライトは太陽光と似た波長をしている為、夜に浴びることで睡眠を司るホルモンであるメラトニンの分泌を抑制してしまいます。
夜にブルーライトを浴びると寝つきにくい、睡眠の質が悪いなどの問題が起こります。現代の生活環境で何も意識しないで過ごしていると、ブルーライトを避けることは難しいです。意識的に、ブルーライトカットに努めましょう。
主にブルーライトが出る機器
・パソコン
・スマホ
・テレビ
・LED電球
ブルーライトカット方法
・ブルーライトカットシートを貼る
・ブルーライトカットアプリを使う
・ブルーライトカット眼鏡を使う
・昼光色、暖色を切り替えられる電球に変える
今すぐ無料でできることとしては、スマホのブルーライトカットがあげられます。例えば、iPhoneには「Nightshiftモード」というブルーライトカット機能があります。
Nightshiftモードでは、予め設定した時間になると、iPhoneから発するブルーライトを低減することができます。
また、無料のブルーライトカットアプリもありますので、まずはこれから始めるのがおすすめです。
まとめ

根本的に睡眠を改善する為には睡眠時間を延ばすのがベストです。
いきなり睡眠時間を延ばすのは難しいという方も、まずはブルーライトカットなどできることから取り組みましょう。
そして、10分からでも睡眠時間を延ばすことが、健康で快適に生きられる時間を延ばすことにつながります。まずは日々の小さな睡眠への意識から変えていきましょう!
ライタープロフィール

パーソナルトレーニングスタジオhc-life代表、睡眠健康指導士上級。
パーソナルトレーナーとして活動する傍ら、睡眠健康指導士としてセミナー講師、記事の執筆、監修などを手掛ける。
これまで5,000件以上のパーソナルトレーニングを行い、身体の不調の改善、スポーツパフォーマンスの向上、怪我からのリハビリ、スタイルの改善などの様々なニーズに応える。アスリートやミュージシャン、モデルや一般のデスクワーカー、高齢者など幅広い対象へパーソナルトレーニングを実施中。
中谷 圭太郎の記事一覧はこちら