コロナ禍のいま、「誰もが国をまたいで移動できる未来」に思いを馳せる

コロナ禍のいま、「誰もが国をまたいで移動できる未来」に思いを馳せる

コロナ禍のいま、「誰もが国をまたいで移動できる未来」に思いを馳せる

生まれた場所で人生の限界が決まらない世界を実現すべく「世界から国境をなくす」をミッションに掲げるone visaの岡村アルベルトさん。彼のめざす「誰もが国をまたいで自由に移動できる未来」は私たちに何をもたらすのか、話を聞きました。

2015年創業のスタートアップ「one visa(外部サイト)」が掲げるミッションは「世界から国境をなくす」こと。

といっても、本当に国境をなくそうとしているわけではなくて、「世界中の人がもっと自由に、国をまたいで行き来できるようにしましょう」というのが彼らのメッセージ。そのために、現状はものすごく煩雑なビザ申請の手続きをデジタル化・簡素化するなどして、移民の受け入れ先となる企業などに向けてサービスとして提供しています。

移民の受け入れ先となる企業などに向けてサービスとして提供しています

日本にいるとなかなか想像できないところがあるけれども、世界にはまだまだ苦しい環境で生きることを強いられている人たちがいます。そして、そうした環境を抜け出して人並みの生活を手にしたいと思っても、物理的・精神的な様々なハードルが邪魔をして、自由に移動できない現状があります。

苦境に立たされる彼らとぼくらの違いは、能力や過去の行いの良し悪しではなく、単に生まれ落ちた場所が違うだけ。そんな現状に一石を投じ、「生まれ落ちた場所に関係なく、誰もが自分の可能性を広げられる世界」をめざして活動する彼らの思いが知りたくて、2020年4月、代表の岡村アルベルトさんに話を聞くことになりました。

ところが、新型コロナウイルスの影響でその数日前に緊急事態宣言が発令され、取材は急遽オンラインに。「自由に移動できない」問題は、にわかにぼくら自身の問題にもなったのでした。さらに、世のなか全体が「移動すること」に敏感な状況を鑑み、企画は一時ストップ。その後の11月、改めて岡村アルベルトさんに話を聞きました。

代表の岡村アルベルトさんに話を聞くことになりました

あたり前のものと思っていた「自由に移動できること」は、ぼくらになにをもたらしてくれていたのでしょうか。コロナ禍のいまだからこそ、one visaのめざす「誰もが国をまたいで移動できる未来」に思いを馳せてみたいと思います。

【この記事で想像できる未来】

理想:
「国境のない未来」を作りたい。国をまたいだ自由で健全な移動を実現できないか

実現:
ビザ取得サービス「one visa」を通じて、物理的・精神的の両面で国をまたぐ移動のハードルを下げる

もしかしたらの未来:
個々人が一番生きやすい国を選べるようになる未来

プロフィール

岡村アルベルトさん
1991年ペルー生まれ、大阪育ち。日本人とペルー人の両親に生まれ、6歳で来日。 幼少期に友人が強制送還された経験からビザに関する問題を解決すると志す。 大学卒業後、東京入国管理局の窓口で現場責任者を務め、年間2万件を超えるビザ発給に携わる。2015年に起業し、2017年6月にビザ取得サービスである「one visa」をリリース。

つくりたいのは「民間版のEU」

つくりたいのは「民間版のEU」

――one visaが掲げる「世界から国境をなくす」とはどういうことですか?

岡村:いまある国境を物理的になくすのではなくて、精神的な意味での国境をなくそうという話です。

それを指してぼくらはよく「民間版のEUをつくりたい」と言っています。EUの各国の間に国境はあるけれど、「いま、国をまたいだ」とは感じないじゃないですか。そういう状態にしていきたいと思っていて。

現状はビザの取得手続き一つとっても、ものすごく煩雑です。それ以外にも、国をまたいで移動するのには物理的・精神的なハードルが山ほどある。だから、ITの力を使うなどして、それらを一つずつ解消していくことに取り組んでいるんです。

もちろんぼくらは民間の一事業者に過ぎないから、本当にEUをつくることまではできないでしょう。でも、サービスを今後世界中に広げていって、その仕組みを良いなと思う人や国が増えていけば、将来的にそれに近いことは可能だと思っています。

――「自由な移動」を妨げるハードルにはどんなものがありますか?

岡村:そもそも自由な移動なんて、ほとんど許されていないのが現状です。例えば、アフリカの人たちが日本へ移住する際には難民としてやってくるケースも多くあります。

彼らは貧困や迫害などのいまある状況からすぐにでも抜け出したいと思っている。だから難民としてでいいから、とりあえず移住しようとするんです。行き先として日本が選ばれているのも、別に日本に来たいからじゃない。色んな国に申請をしていて、それが一番早く通った国に来ているに過ぎない。

「自由な移動」を妨げるハードル

岡村:ところが、一度難民として渡航してしまうと、その後の振る舞いに制限ができてしまう国がたくさんあります。日本もそう。難民として申請してしまうと、彼ら彼女らがどれだけ優秀だったとしても、そこから就労ビザに切り替えて働くことはできません。

こうしたことを一切知らないまま、とりあえず現状から抜け出すために難民申請している人がたくさんいるのです。

だからぼくらとしては、one visaの仕組みによって人が国をまたいで移動しやすくすることもやっているんだけれど、その一つ前の段階として「この国に行くとこういう課題が解決するけれども、同時にこういうデメリットもある」といった情報も提供したいと考えています。その国に移動することで自分の将来の可能性がどう広がり得るのか。それを踏まえたうえで国をまたぐ選択肢が取れるようにするのが、ぼくらのめざすところです。

生まれた場所で人生の限界が決まらない世界に

――行った先がどんなところかも分からないまま移住しているのが現状なんですね。

岡村:問題は移住した後にもあります。日本人にとっては家を借りたり銀行やクレジットカードのサービスを受けたりすることはあたり前のものとしてありますが、外国籍の人にとってはそうではありません。

弊社の外国籍スタッフも来日した際、20件ほどの物件を内見したけれど、入居OKになったのはたった1件だったそうです。外国籍を入居させてはいけないなんて法律はもちろんありません。けれども実際には「外国人だとなんとなく不安だから」という理由で、そういったことが起きているんです。

one visaには外国籍のメンバーも多数、所属している(写真提供:one visa)
one visaには外国籍のメンバーも多数、所属している(写真提供:one visa)

――それはひどいですね。

岡村:でも、これは「サービスを提供する会社が悪い」という単純な話ではないんですよ。物件オーナーの側もまた、判断するに足る情報を持っていないんです。「アメリカ人なら良いけれど、南米の人はルーズそうだから」といったなんとなくのイメージで物事を決めざるを得ないのは、十分な判断材料がないからであって。

どの在留資格があるかは、さすがに物件のオーナー側でも分かります。でも、例えば「留学」とひと口に言っても、どんな学校に通っているのかが分からなければ、2年更新の物件を貸していいかの判断はできないですよね。大学であれば4年いるだろうけれど、日本語学校なら1年で終わってしまうかもしれないわけで。

母国の親から毎月いくら仕送りがあるのか。日本でどんなアルバイトをしていて、どれくらいの収入を得ているのか。こうしたことも現状はすべて自己申告なので、オーナーとしてはどこまで信じていいか分からない問題もあります。

――確かにそうですね。

one visaの情報は、ここでも貢献できると考えています

岡村:ビザを申請・更新するための自動化システムをベースとしたone visaの情報は、ここでも貢献できると考えています。それを介してビザが発行されたということは、かなり信頼性の高い情報だといえるので。

――one visaが持っているビザ情報により、彼らの与信を担保するわけですね。

岡村:もちろん、彼らが本当に精神的な国境を越えるには、ほかにもクリアしなければならないことはたくさんあります。ぼくらは現時点でそのすべてに対して解決方法を見出しているわけではないですが、一つ一つクリアしていって、最終的には、日本人であろうと外国籍の人であろうと同じ扱いを受けられる世界にしていきたい。

ぼくらの活動の背景には「生まれた環境によって人生の限界が決まってしまうのではない世界をつくりたい」思いがあります。海外に移住するという発想のない人は、将来の可能性が生まれた国に縛られることになります。どこか別の国に移動するという選択肢を持った瞬間に、その可能性は広がりますよね。

でも、現状はペルーから日本に来ようと思って色々調べても、高いハードルを知って途中で挫折してしまう人がたくさんいる。国をまたいで自由に移動できる環境を構築することは、こうした人たちが生まれた場所に関係なく、自分の可能性を自由に広げていく手助けになるのではないかと思っています。

人々の「移動したい欲求」は普遍

人々の「移動したい欲求」は普遍

――事業の性質上、コロナの影響は大きいのでは?

岡村:そりゃ大きいですよ。そもそも海外から人が来れない状況は、いまも続いているわけで。緩和の方向で動いてはいるものの、数字としては微々たるものです。ぼくらとしても、事業計画を見直さないといけない状況は続いています。

でも、だからといってぼくらのやることは基本的に変わらないとも思っていて。なぜなら人々の移動したい気持ち、移住したい気持ちはあり続けるだろうと思うから。

仮にその人数が減ったとしても、移住したいと考える人がいる限りは、ぼくらとしてやることは変わらない。選択肢として移住できる環境を提供し続けないといけないと思っています。

――移動したい気持ちはあり続ける。なぜそういえますか?

岡村:現にそうじゃないですか? 自粛期間が続いた4、5月には、近くのスーパーへ行くだけでもちょっと楽しい時期があったと思うんです。でも、それに慣れてくると、すぐにスーパーに行くだけでは満足できなくなる。もっと遠いところへ行きたい。県をまたいだ旅行にも行きたい。それが叶えば今度は海外にも、となっていく。

今回のコロナの自粛で、欲求のレベルが一度は強制的に下げられたけれども、ここは必ず元に戻ろうとするはずです。だって、一つ前に進めばもう一つ前に進みたくなるのが人間の"さが"だから。

一つ前に進めばもう一個前に進みたくなるのが人間の"さが"だから

岡村:生まれた地方には畑を耕す仕事しかないという人は、違う仕事がしたいと思ったら都会へ出ていく。国によっては都会に出ても就きたい仕事がない場合も多いから、そうすれば自然と日本へ、アメリカへと移動の範囲は広がっていきます。

だから、移動への欲求がなくなることはない。もちろん、そこに蓋をしているのがコロナなわけですけど。ワクチンなのか、感染者数減なのか、違う何かなのかは分からないですが、蓋が外れた瞬間に、溜め込んだものが爆発するんじゃないかと。

そして、そうである以上、ぼくらとしてやることは基本的には変わらないということです。

one visaでは外国籍人材の活躍する企業や、彼らをサポートする行政書士にスポットライトをあてる「Global one team Award(外部サイト)」を今年から主催。日本を代表する外国籍人材雇用のロールモデルとして5社が選定され、12/2に授賞式が行われた(写真提供:one visa)
one visaでは外国籍人材の活躍する企業や、彼らをサポートする行政書士にスポットライトをあてる「Global one team Award(外部サイト)」を昨年から主催。日本を代表する外国籍人材雇用のロールモデルとして5社が選定され、昨年12/2に授賞式が行われた(写真提供:one visa)

移動が生む「差分」こそが武器

岡村:逆にいえば、本当に移動しなくてもいい世界がくるとしたら、それこそが望むべきことかもしれないですね。

――どういうことですか?

岡村:例えばカンボジアの人たちにとっての移住は現状、自分たちの給与を上げたい、こういう仕事がしたいなど、何かしらその国では満たされないものを追い求める手段としてあります。移動しないと問題が解決しないから移動するんです。

移動すれば得られるものはある。でも、自分の国に居続けたほうが、例えば家族も友達もいる。文化的にも居やすい部分があるかもしれない。一方ではそういうものを捨てる決断をして移動しているわけです。

――分かりますが、何かを得るために何かを失うのは仕方ないのでは?

岡村:確かにそうです。天秤にかけて納得したうえでなら問題ない。でも、現状は明らかに失うもののほうが重いと思っても、生活するために行かざるを得ないケースが多いんです。

自分の村の平均年収は2万円。日本に行けば300万円。本当は家族と一緒にいたいけれど、病気の父親の治療費を稼ぐには行く以外にない、とか。本当なら自分の村で看病しながら働きたいけれど、年収的にそれは叶わないから。

でも、日本人にとっての移住は多くの場合、そうではないですよね。いまのままでもある程度、満たされている。移住しなくても問題はない。それでも一部の人は、より良いものを求めて移住という選択をする。本来の理想的な移動はこういう形だと思っていて。

――なるほど。

本来の理想的な移動はこういう形

岡村:多くの国が豊かになれば、移住への欲求自体は全体として減るかもしれない。それはでも、ぼくらの世界観としては良いことなんです。

――さっきのぼくの発言は、途上国の実態がリアルに想像できていなかったですね。

岡村:でも、そこに想像力が働くのが、ぼくら外国籍の一番の特権でもあるので。

というのも、移動すると「差分」が生まれるんですよね。ペルーにあって日本にないものとか、逆に日本にはあるけどペルーにないものとかに気づくことができる。その差分が強みを生むんです。自分にとって何が大切なのか、何をどうしたいのかも分かってくる。

ビジネスにも有利に働きます。ぼくがいまの事業をやっているのも、あたり前ですが、ぼく自身が移民だったことと関係していますし。

ぼくは6歳の時に家族に連れられて、日本語もまったくしゃべれないままに日本へやってきた。言葉が通じないことの辛さを身をもって知っています。それが原因でいじめにもあったし、友達がある日突然、強制送還されることもありました。そうした経験がいまに活きています。

一つの場所でしか生きていないと、この差分が生まれません。比較できるのはせいぜい自分の地元と東京の違いくらい。もちろんそこにも差はあるんですけど、国をまたぐと、それがとんでもない差になる。

――まさに移動が可能性を広げてくれるわけですね。

岡村:でも一方では、外のことを知らないままのほうが、もしかしたらハッピーなのかもしれないという葛藤もあります。ペルーのあたり前を知っているぼくからすればおかしなことに見えても、日本人にとっては、1日12時間働いても1時間家族としゃべれれば、それだけですごくハッピーなのかもしれない。

当事者が不幸と思っているなら問題だけれど、外の人が中途半端に関わったことで「外の世界を知ったはいいけれど、現実は変えられない」ということになれば、それこそが一番の不幸ですよね。

ぼくらのやっていることだってそうで、村のみんなが外へと移住してしまったら、残った一人で村の畑を耕し切ることなど、もはやできなくなる。残ったその人の仕事もなくなる、さらにはその村自体がなくなってしまうことも起こり得るわけで。

ですから、どんなに崇高な理想を掲げたところで、基本的にはエゴでしかない。ただ、そのエゴを通すからには、それがどういう影響を及ぼすかまでセットで考えていかないと、という覚悟をもってやっているつもりです。

エゴを通すからには、それがどういう影響を及ぼすかまでセットで考えていかないと、という覚悟をもってやっている

写真撮影:まさおか

ライタープロフィール
鈴木陸夫
鈴木陸夫
フリーライター。川のほとりで家族と一緒にのんびりしながら、1日4時間労働で心地良い暮らしを探求中。趣味は人の悩みを聞くこと、「あたり前」を解体・再構築すること。

鈴木陸夫の記事一覧はこちら

RECOMMEND
オススメ情報

RANKING
ランキング