高橋名人が語るプロゲーマーとゲームの「未来」

高橋名人が語るプロゲーマーとゲームの「未来」

高橋名人が語るプロゲーマーとゲームの「未来」

世界中で様々な大会が開催、拡大を続けるeスポーツ市場。近年ではプロゲーマーという職業が確立され、注目も一層高まっています。今回は“元祖プロゲーマー”ともいえる高橋名人に、日本のeスポーツの現状や選手生活についてお話を伺いました。

AIやIoTなどのテクノロジーの発達により、仕事の効率化が急速に進む現代。人々の余暇時間も今後増えていくと考えられています。この余暇時間をどのように使っていくかということも、人生を豊かにするための大切なポイントといえるでしょう。

スポーツや旅行、スキルアップのための資格取得など余暇活動には実に様々な種類がありますが、昨今のコロナ禍による影響も相まって、「ゲーム」はますます注目されるコンテンツに。

かつては子供の玩具として親しまれてきたゲームも、近年ではその枠を超え、スポーツ競技という捉え方で「eスポーツ」として盛りあがりを見せています。さらにeスポーツで生計を立てる「プロゲーマー」も一つの職業として確立。今や、子供が憧れる職業の上位にランクインするほどです。

話題を集め続けるプロゲーマーですが、収入や選手寿命、引退後の生活などはあまり広く知られていません。今回は、プロゲーマーの先駆け的存在として名高い、高橋名人こと高橋利幸さんにお話をうかがいました。

“元祖プロゲーマー”高橋名人にゲームの「未来」を聞く

ファミコン全盛期の80年代、ハドソンの社員として全国各地を渡り歩き、ゲームの普及活動に努めた高橋名人。テレビや雑誌にも頻繁に登場し、子供たちのヒーロー的存在に。ボタンを1秒間に16回押すという離れワザ「16連射」は、もはや同氏の代名詞。プロゲーマーと聞いて、真っ先に高橋名人を思い浮かべる人も多いことでしょう。

「16連射」で一世を風靡、“元祖プロゲーマー”高橋名人
「16連射」で一世を風靡、“元祖プロゲーマー”高橋名人

高橋名人が思うeスポーツの現状

――コロナ禍による影響でゲームの需要が増していますが、高橋名人が考えるeスポーツの現状について教えてください。

高橋:基本的にゲームは、隣に人がいなくてもプレイできるので、そういう意味でも昨今の環境に合ったコンテンツだと思います。ただ社会の状況に応じてイメージが変わるという一面もあります。例えばWHO(世界保健機関)は「ゲーム依存は病気である」と以前発表していましたが、コロナ禍では家にこもってゲームをすることを推奨していたり。つまりその瞬間瞬間で捉え方が異なるんですよ。

――海外の大会では莫大な賞金額が話題となりますが、一般的な日本のプロゲーマーの収入はいくらくらいなのでしょうか。

高橋:日本では最近やっと1億円プレーヤーが登場しましたが、日本国内だけで活動していたら大金はそれほど望めないですね。海外では年間5億円以上を手にする選手も少なくありませんが。現状の日本の大会では、出せても複数年で1億~1億5,000万円というところ。賞金を得られる選手も一部ですし、他のプロスポーツと比べても、プロゲーマーが日本で食べていくというのは難しいのではないかと。

プロゲーマーが日本で食べていくというのは難しいのではないかと

――市場としては海外の方が断然大きいのですね。

高橋:そうです。日本のeスポーツが少々盛りあがりに欠けているのは、法律的に3つの壁が絡んでいます。一番大きいのが「刑法(賭博罪)」です。アメリカは入場料金の一部から賞金を出しているので、賞金をいくらでも高くできるんです。例えば入場料金が5,000円だとして、2,000円分を賞金にすると、1万人入れば賞金が2,000万円になります。ですが日本でそのシステムを採用すると刑法(賭博罪)にひっかかってしまう。つまり捉え方によっては、みんなでお金を賭けながら「一人勝ち」という考え方なんです。ただ現在は、eスポーツ連盟が「出場者は入場料を払っていないので、刑法違反にはあたらない」と主張する動きもありますが……。また「風営法」と「景表法」も深く影響していると考えられています。

――ちなみに海外のeスポーツ選手はどれくらい稼いでいるのでしょうか。

高橋:選手によって違いますが、なかには年間20〜30億円くらいの収入がある人もいますね。例えば「Dota2」というゲーム大会では年間賞金総額が約233億円。「Fortnite」は年間賞金総額が約83億円。去年のチャンピオンは約3億円を手にしています。50位でも500万円くらいはもらえるのですから。規模感が日本とかけ離れています。

反射神経が重要なゲームの場合選手寿命は短い

――プロゲーマーを将来の夢とする子供も多いようですが、一般的な選手生命はどれくらいなのでしょうか。

高橋:ゲームのジャンルによってだいぶ変わってきます。例えば「LoL(リーグ・オブ・レジェンド)」のような戦略シミュレーションは頭脳と経験値があればできるので60歳くらいまでは続けられるのでは。一方で、対戦格闘やTPS(サードパーソン・シューティングゲーム)は反射神経が必要となってくるので、20代後半~30代前半がいいところ。この種のゲーム大会では16〜17歳が優勝することが多く、とにかく若い人の反射神経はすごいものがあります。

――ちなみに高橋名人は現在でも16連射できますか?

高橋:12か13が限界ですね(笑)。もう61歳ですから、筋力も衰えていますし。実は連射って、ボタンと指の距離をどれだけ短くできるかということがポイントなんです。指自体はそんなに速く動かせるものではない。昔は1mmの距離で連射できていましたが、今は3〜4mm。その分、回数が減ってしまいました。

ミリ単位の世界での勝負と語る高橋名人
ミリ単位の世界での勝負と語る高橋名人

知られざる、プロゲーマー生活と引退後の人生

――一般的な日本のプロゲーマーはどのような生活を送っているのか教えてください。

高橋:日本では一つのゲームタイトルで年間に2、3回くらいしか大会が開催されませんので、賞金だけで食べていくというのは難しい。試合がない日はゲーム実況をして収入を得る人も多いようです。

――ゲームの種類によっては定年が20歳後半とのことですが、引退後は皆さんどのような人生を歩まれるのでしょうか?

高橋:まだ引退している人がそう多くないので一概には言えませんが、YouTuberになる人が最近では目立ちますね。あるいはゲームチューニングの仕事をする人も。例えばメーカーさんとの打ち合わせで「ここをチューニングした方がもっと面白くなるのでは?」など元プロならではの意見は重宝されると思いますよ。

――現役時代に優秀な成績を収めることがカギとなってきそうですね。

高橋:そうですね。ある大会でチャンピオンになったとか、ベスト3に入ったというデータはずっと残りますから。「元プロゲーマーがチューニングしたプログラム」ということが商品の売りになることもあるでしょう。

――結果を出さずに引退というケースもあると思います。そのような方の受け皿はあるのでしょうか?

高橋:厳しいですがそこは自分で見つけるしかないですね。ゲームから離れたくないのであれば、なんとかしてゲームに関係する仕事を探すしかない。ゲーム喫茶を始めたり、ゲーム販売店の説明スタッフになるのも一つの手段かと。

ーム喫茶を始めたり、ゲーム販売店の説明スタッフになるのも一つの手段かと

高橋名人が見据える日本eスポーツの展望

――日本のeスポーツの未来はどのように進むべきであると考えられますか?

高橋:海外と同じような大会を開催できる仕組みを整えることが不可欠だと思います。またeスポーツという世界観を一般ユーザーに広げることも重要。ご年配の方のなかにはeスポーツは「スポーツ」ではないと捉えている人がまだまだ多いのが現状なので。

私は35年間この業界にいますが、ゲームは子供と親御さんが会話するための楽しいツールということを、もっと広めていきたいと思います。それにはテニスの錦織圭選手とか大坂なおみ選手のような日本人のトッププレーヤーの存在が必要。子供にとっての憧れがいないと、子供の中でも盛りあがりに欠けると思います。

例えば「Fortnite」のチャンピオンが日本人なら「頑張るぞ!」という子供がもっと増えるかもしれない。だからこそ日本のeスポーツ選手にはぜひ大会で頑張って欲しい。なおかつ笑顔でインタビューに応えてもらって「ゲームをやっているって楽しそう」と子供が感じられるようになるといいですね。

――第二の高橋名人というべき人材が必要ですね。

高橋:そうですね。業界の間で知られている人はいますが、ゲームをしない人にまで浸透している人はまだいない。まあ、私はたまたまチャンスに乗っただけの人間ですが……。

――当時のカリスマ性はすごかったですよね。もはや子供たちのヒーロー。帽子をかぶったファッションが印象的でした。

高橋:帽子はある収録現場でADさんから借りたことがきっかけでした。寝坊して髪の毛がボサボサだったんですが、帽子をかぶったら、一瞬で問題が解決したのがすごく便利で。それ以来かぶるようになりました。

寝坊して髪の毛がボサボサだったんですが、帽子をかぶったら、一瞬で問題が解決したのがすごく便利で

野球やサッカーの選手と同じように、引退後の人生は“自ら切り開くしかない”と語る高橋名人。

現役時代から自分の得意とするものを見出し、長期的にその分野に関わっていくために何が必要かを考えるのは、どの世界でも共通することかもしれません。

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この人に聞きました
高橋名人
高橋名人
1959年、北海道生まれ。1982年にハドソン入社。ゲームの営業から開発まで様々な業務に携わるなか、1985年に「第1回全国ファミコンキャラバン大会」のイベントにて「名人」の称号を確立。以降、当時のファミコンブームを追い風に「ファミコン名人」としてTV・ラジオ・映画に出演。一世を風靡し、子供たちのヒーローとして大人気を博した。特技にゲーム機のコントローラのボタンを1秒間に16回押す「16連打」がある。
ライタープロフィール
松本 奈穂子
松本 奈穂子
メーカー、ITベンチャーを経てフリーライターとして活動。雑誌、書籍、ウェブ、フリーペーパーなどメディア全般を制作。ライフスタイル、旅、金融、教育など幅広い分野で取材・執筆を行う。共同著書に『いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日』『いちばん美しい季節に行きたい 世界の絶景365日』(パイインターナショナル)

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