私が海外で学ぶ理由〜模擬国連最優秀賞・山田健人さんがめざす「未来のリーダーシップ」

私が海外で学ぶ理由〜模擬国連最優秀賞・山田健人さんがめざす「未来のリーダーシップ」

私が海外で学ぶ理由〜模擬国連最優秀賞・山田健人さんがめざす「未来のリーダーシップ」

2018年5月、ニューヨークで行われた高校模擬国連国際大会。各国の高校生が交渉力やリーダーシップを競うこの大会で日本代表の山田健人さんが見事最優秀賞を受賞しました。2020年春に高校を卒業、ハーバード大学進学を決めた山田さんが海外で学ぶ理由とは?

日本人の強みを生かし、最優秀賞受賞

―2018年、私立海城高校2年生のときに出場した高校模擬国連国際大会(グローバル・クラスルーム高校模擬国連国際大会)で、議場内の最優秀賞にあたる事務総長賞を受賞しました。ご自身のどのような点が評価されたと思いますか?

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2018年高校模擬国連国際大会で最優秀賞を受賞した山田健人さん(左から二人目)/写真提供:海城学園

山田:この大会は世界各国から約1,500人の高校生が参加、それぞれが自分の国とは異なる国の大使の役を割り振られ、与えられたテーマについて英語で議論し、決議案をまとめる交渉力やリーダーシップを競います。議論は16の議場に分かれて行われるのですが、私はウルグアイ大使役として、「途上国におけるバイオ燃料の持続可能な生産」をテーマにした会議に参加しました。自分が担当する大使とテーマは半年ほど前に知らされていたので、ウルグアイやバイオ燃料について書籍やインターネットで丁寧に調べ、できる限りの準備をして臨みました。
とはいえ、相手は各国の優秀な生徒ばかり。議論が白熱し、皆が議論の主導権を握ろうとするあまり、ともすれば話し合いが決裂してしまいかねない状況でした。そこで私は、自分のウルグアイ大使としての意見を述べるだけでなく、会議そのものを円滑に進めることに尽力することにしました。まず、持参した付箋を各大使に渡して意見を書き出してもらい、それらを基に議論を進めることによって相互理解を深め、皆が納得した上で決議できるようにしたのです。こういった議論の場では、自分の意見を押し通すネゴシエーション力が物をいうと思われがちですが、それでは相互理解や信頼が得られないので、全員が納得する決議案を出すことはできません。そこで、私は互いが意見の違いをまず確認したうえで、皆が納得できるような決議をめざしたいと考えたのです。特に意識したわけではありませんが、議論で「対立」ではなく「調和」を深めようとしたのは、結果として和を重んずる日本人らしい方法だったと思います。最優秀大使に選んでいただいた理由も、このあたりにあったのかもしれません。

強制ではなく共感を生むリーダーシップを

―議論の進め方は、どうやって習得したのですか?

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山田 健人さん

山田:母校の海城中学・高校で学年委員(各クラスの代表が組織する学年委員会の委員、主に校外学習やスポーツ大会等の企画と運営を行う)として活動するうちに、自然と身についたものです。
私は父の仕事の関係で小学校4年生から6年生までイタリアのローマで過ごし、現地のインターナショナルスクールに通いました。その学校では誰もが自分の意見をはっきり口にするのがあたり前だったので、帰国して日本の中学に通うようになって、最初はすごく驚きました。日本では意見を述べない人が多いことに気づいたからです。

一方で、学年委員会の話し合いなどで、意見が出なかったが故に物事をどんどん決めてしまうと、後から批判の声が殺到することがありました。つまり、リーダーには、ある意味「空気を読む」ことが求められていたのです。そこで、情報共有と議論の公開化を徹底し、お互いを理解する機会を増やし、皆の意見をなるべく汲み取るようにしました。そして、彼らがクラスのために動いてくれるのは、何かに強制されたときではなく、何かに共感したときだということにも気づきました。この気づきが、逆説的ではありますが、皆が自分の意見を押し通そうとしていた模擬国連国際大会で議論を円滑に進めるにあたって、大きなヒントとなりました。「先頭に立ってグイグイと集団を引っ張っていくようなタイプのリーダーではなく、一人ひとりの意見を大切にして皆が共感できる結論を導き出すタイプのリーダーになるべきだ」。このことに気づけたことは、海城で過ごした6年間の大きな収穫だったと思います。

Leadership without Authority(権威なきリーダーシップ)の時代

―従来のリーダー像とは、違うリーダーをめざしたのですね。

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山田:そうです。そもそも、世の中で求められるリーダー像自体が変わりつつあると思います。リーダーが、リーダーというポジションにいるがゆえに人を動かすのでは不十分です。メンバーの共感を呼びながら、メンバーの全員が自発的に一つのゴールをめざすようにする人こそが、リーダーなのです。例えば、チームで何かの課題に取り組む際に、リーダーに任命された人の独断で進めても、よい成果は得られません。リーダーがチームメンバーを強引に動かそうとするのではなく、チームメンバー全員の意見を尊重し、一人ひとりが喜んで自分の力を出そうとする環境や雰囲気を作る役割に徹すれば、そのチームは良い成果を生み出せるはずですよね。
今後は、教育やビジネスなど様々な分野で、Leadership without Authority(権威なきリーダーシップ)が求められる時代になると言われています。私もこれからの大学生活を通じて、このスキルを磨いていきたいと考えています。

ハーバード大学を志した理由

―ハーバード大学に進学予定とのことですが、なぜ日本の大学ではなく米国の大学で学ぼうと決めたのですか?

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ハーバード大学

山田:まず、難民問題を中心とする人権問題に関心があり、政治学等を幅広く学びたかったからです。日本の大学でも政治を専攻できるところはありますが、より「生きた学問」として学ぶのであれば米国の大学のほうが良いだろうと思いました。ハーバードを志望したのは、ハイレベルな教授陣が揃っているからです。
また、日本の大学に比べ、教授と学生との距離が近いことも、米国の大学を選んだ理由の一つです。日本の大学は教授から一方的に講義を受けるスタイルが一般的ですが、米国の大学はディスカッション型の授業も多く、授業時間以外でも学生が教授に会って自由に質問や相談ができる「オフィスアワー」が充実しているところも魅力的でした。
それと、Planned Happenstance(計画された偶発性)への期待もあります。米国の大学という未知の世界に敢えて自分の身を置くことで、どんな偶然の出会いや出来事があるのか、そしてそれによって私の進む方向性がどのように変わるのか、自分の力でどこまでやれるのかを試してみたいと思います。

より明るい未来を創る人をめざして

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―これから大学生活が始まりますが、将来はどんな生き方をしたいですか?

山田:ハーバード大学に進学するチャンスは、僕一人の力ではなく、両親や母校・海城学園の先生がた、そして大学在学中の4年間にわたって奨学金のご支援をいただく予定の公益財団法人柳井正財団など、沢山の皆さんのサポートがあったからこそ、つかむことができたものです。だからこそ、僕自身も若い世代をサポートできるような存在になりたいと思っており、今は海城グローバル部(英語ディベート、ディスカッション、模擬国連等を行うクラブ)において自分の経験を後輩たちに伝えたり、後輩のメンターとしてサポートをしたりしています。

残念ながら、今、世界では世代や所得、政治思想の不健全な分断が深まりつつあります。これを解消するためには、今まで以上の対話や相互理解が必要です。私自身も今後の学びを通じて、これを深め、実践できる人をめざして努力を続けていきたいと考えています。

この人に聞きました
山田 健人さん
山田 健人さん
2001年兵庫県生まれ。小学校生活の後半をイタリア・ローマで過ごし、私立海城学園中学・高校に進学。2018年高校2年生の5月に出場した高校模擬国連国際大会(グローバル・クラスルーム高校模擬国連国際大会)で最優秀賞(事務総長賞)を受賞。2020年9月から、公益財団法人柳井正財団の奨学金給付を受け、ハーバード大学に進学予定。
ライタープロフィール
相山 華子
相山 華子
慶應義塾大学卒業後、民放テレビ局の報道部記者を経てフリーランスのライターに。雑誌や企業誌、ウェブサイトなどで主にインタビュー記事を手掛ける。

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