「努力の見える化」で不平等を減らしたい。日本の起業家が変えるアフリカの未来

「努力の見える化」で不平等を減らしたい。日本の起業家が変えるアフリカの未来

「努力の見える化」で不平等を減らしたい。日本の起業家が変えるアフリカの未来

世界で最も貧しい国といわれるモザンビーク。なかでも特にお金が回らない北部の農村に新しい経済システムを作ろうと奮闘する日本人がいます。合田真さんは約15年前から当地を拠点に様々な事業を模索してきました。その挑戦の軌跡と根底にある思いをうかがいます。

約15年前からアフリカのモザンビークで事業を行う合田真(ごうだ・まこと)さん。現在も2、3ヵ月に1度、現地に渡っています。拠点は北部の農村地帯。辺境のカーボ・デルガド州など、モザンビークのなかでも最貧困地域とされる場所です。

ビジネスの観点でいえば、決して旨味がある環境ではありません。しかし、あえてお金が回らない地域に新しい経済システムを作り、生活水準を向上させることができれば、モザンビークだけでなく世界中の農村の暮らしを変えていけるはず。そう合田さんは考えています。

「世の中の不条理、不平等を減らしたい」という思いを基点とする、モザンビークでの挑戦。その事業は自然燃料の生産・供給から始まり、電子マネーを使った金融事業、さらには日本の農協をモデルにしたネットワークシステムまで多岐に渡っています。

その変遷と背景にある思い、さらには合田さんが作りたい未来の世界について聞きました。

【この記事で想像できる未来】

理想:
農村にお金が回る仕組みを作る。村民の暮らしを豊かにするとともに、努力した人にお金が渡り、平等にチャンスが与えられる社会にしたい。

実現:
電子マネーを使った新しい銀行システムを導入。現在はそこから発展させ、「日本の農協」をモデルとした新事業を展開中。

もしかしたらの未来:
地域の経済的自立により暮らしを落ち着かせ、紛争をなくす。世界中の誰もがのんびり、ぼんやり生きられる未来を。

プロフィール

合田真さん
日本植物燃料株式会社 代表取締役社長。1975年長崎生まれ。京都大学法学部中退。2000年に日本植物燃料株式会社を設立。アジアを主なフィールドに、植物燃料を製造・販売する事業を展開する。その後、アフリカのモザンビークに拠点を拡大し、2012年に現地法人ADMを設立。同国の無電化村で、地産地消型の再生可能エネルギーおよび食糧生産を支援するとともに、農村で使えるFinTechやAgriTech事業にも取り組んでいる。

無電化地域に、電力の恩恵を

―― 合田さんが、モザンビークと接点を持つようになったのはいつですか?

合田:約15年前です。私たちの会社はもともとバイオ燃料の開発・販売が事業の柱で、当初はモザンビークで自然燃料の原料となる植物「ジャトロファ」の栽培などを行っていました。現地の農家に種を配布して育ててもらい、私たちが買い取って燃料を生成する。作った燃料は日本やヨーロッパに輸出するのではなく、現地の農村部で使います。要は地産地消ですね。

―― 生成した燃料は、主にどう利用されていたのでしょうか?

合田:現地の主食であるトウモロコシの生産業者に営業をかけ、製粉機のエンジンを回すための燃料として使ってもらっていました。当時は、400くらいの村をカバーしていましたね。

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―― モザンビークの農村には電気が通っていないコミュニティも多いそうですが、バイオ燃料を用いて電気を供給するような構想もあったのでしょうか?

合田:もちろんありました。実際、エンジンを回す際に発電機を動かせば、電気を供給することも可能です。ただ、村に電線を引いて電気代を徴収するモデルは、現地の経済状況では難しい。それに、もともと無電化の地域ですから、みんな家電製品を持っていないわけです。電気代すら払えないのに、新しく冷蔵庫を買うなんて無理ですからね。

そこで、各自に電気を供給するのではなく、村に「キオスク」と称する施設を建てて、そこに冷蔵庫や製氷機などを入れました。キオスクで冷やしたジュースや氷などを販売することで、電気の恩恵を受けてもらえるようにしたんです。

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現地の「キオスク」の店内。冷えたジュース以外に日用品も販売

電子マネーの利用データから得た「銀行を作る」という着想

―― なるほど。では、当初はエネルギーの供給がメインだったわけですね。そこから、農村に電子マネーを普及させる事業に展開していったそうですが、どんな経緯があったのでしょうか?

合田:きっかけは、現金だとキオスクのお金の管理がうまくいかなかったことです。お店は現地の従業員に任せていたのですが、売上の計算がいつも合わない。売上に対し、常に3割くらいの現金が消えてしまうんです。こんな状態では拡大どころか、今の3つの拠点を継続することすら難しい。そこで、現金を触らず決済できる電子マネーを導入することにしました。

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―― 仮に従業員がお金を抜いていたとすれば、監視カメラを導入することで解決しそうな気もしますが。

合田:確かに、私たちも従業員が疑わしいと思っていました。ただ、従業員は、そこに暮らす村人でもあるわけです。監視カメラを付けてしまえば、「村人を信用していません」というメッセージを発信してしまうことになる。この先も村で事業を続けていくうえで、それは望ましくない。

そこで電子マネーという選択肢をとったわけですが、導入によって売上の誤差を1%未満に抑えられただけでなく、副次的な効果もありました。電子マネーの利用データから思わぬ“情報”を得られたんです。

―― どんな情報ですか?

合田:例えば、月に3,000円しか買い物をしないのに、電子マネーに10万円もチャージしている人がいました。一番多い人で40万円。明らかに、普段使わないお金を入れている。つまり、貯蓄ですよね。銀行の存在すら知らない村人が、「お金を貯める」ために電子マネーを使っていたんです。

―― それまで、村の人はどのようにお金の管理をしていたんでしょうか?

合田:穴に埋めて隠したり、身に着けたりして保管していました。しかし、盗まれたりシロアリに食われたりと、トラブルも多かったようで、電子マネーなら安全に保管できると考えたようです。

私たちにとっても意外なニーズでしたが、そこから「電子マネーを使った新しい仕組みの銀行」を作ろうという構想が生まれていきました。貯蓄だけでなく、電子マネーの履歴から与信情報を作り、それに基づいて村人に融資できるようなシステムですね。

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―― 合田さんの著書『20億人の未来銀行』では、電子マネーを利用する際の決済手数料のうち約2割を「村単位」で分配し、インフラや事業の設備投資に充てる構想も語られていましたね。

合田:はい。例えば村の共同口座にそのお金を貯めてもらい、井戸や学校、通信インフラなどを整備する資金に充ててもらう構想です。そうして村人の生活水準が向上し、村が手掛ける事業が拡大していけば、結果的に私たちの運営する銀行も潤うと考えました。

―― そのためには、まず何よりも電子マネーの利用者を増やす必要がありますね。どのような施策を?

合田:まず、キオスクで農作物の買い取りを始め、支払いを電子マネーで行うようにしました。これにより、みんなが自然と電子マネーの状態でお金を保管するようになります。

さらに、誰がどういう作物を売って、どれくらいの収入を得ているか分かりますし、キオスクでの買い物履歴からどんなお金の使い方をしているかも把握できる。そうしたデータから得られた与信情報をもとに、実際に複数の農家さんに融資も行いました。

―― すごい! 本当に銀行のような金融システムが実現していますね。

合田:はい。ただ、今後さらに規模を拡大するとなると、このやり方の限界も見えてきました。モザンビークだけでも1万以上の村があり、その全てにキオスクや買い取り拠点を作るのは現実的に難しい。そこで、「銀行」という考え方から少しシフトすることにしたんです。

日本の農協モデルで、農村を発展させる

―― では、今はどのようなやり方を?

合田:今は、もう少し視点を広げて、オンラインの農作物取引プラットフォームを作ろうとしています。これまでは我々が農作物を直接買ったり、逆に農業資材を売ったりしていましたが、これからはマッチングする側に回ろうと。プラットフォーム上で生産者と消費者だけでなく、資材店や仲買さんなども含めた様々なプレーヤーに売買をしてもらうイメージですね。

我々はその取引データを活用して、農家さんや資材店、仲買さんに融資を行う。結果的には、銀行でやろうとしていたのと同じことができると考えています。

―― 銀行事業で想定していた「村に収益を分配する仕組み」も、新たに考えているのでしょうか?

合田:はい。いま考えているのはJA、つまり「日本の農協」のような仕組みです。JAは組合員の農作物を共同で集荷・出荷し、お金を回収して農家に分配しています。当然、各農家の出荷状況や売上も把握していますから、例えばトラクターを買う際にJAバンクでローンを組むなど、金融的なサービスも可能になる。

また、JA共済という保険システム、さらには病院やガソリンスタンドまで運営しています。金融から健康、エネルギーまで、農村部に必要な生活インフラを作り上げる役割も担ってきたわけです。

―― そんな日本の農協システムを、モザンビークに導入しようと。

合田:そうです。先ほどの農作物取引プラットフォームを使い、JAをデジタル化したような仕組みを、モザンビークやアフリカ全域の農村部に展開していきたいと思っています。いわば、「電子農協プラットフォーム」ですね。

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「努力の見える化」で不条理・不平等を減らしたい

―― 合田さんが貧困地域で事業をする根底には「世の中の不条理・不平等を減らしたい」という思いがあるということですが、そう考えるに至った理由を教えてください。

合田:思い出されるのは、大学2年時のペルーでの経験です。探検部に所属していた私は、アルバイトで貯めたお金でアンデスを訪れていました。そこで、私のところへお菓子を売りに来た少女の姿を見てハッとしたんです。ちょっとバイトを頑張れば地球の裏側でぶらぶらできる私に比べ、その少女は数年、もしかしたら一生お菓子を売り続けたとしても世界を自由気ままに旅することは難しいかもしれないと。

生まれた時代や国、家などにより与えられるチャンスがこうも変わるということをリアルに感じました。だからといって、その翌日から生き方が変わったわけではないけれど、20年経った今もあの少女の姿が頭に浮かぶということは、やはり今につながる大きなきっかけになった出来事だったのだと思います。

―― だから、貧困の農村を潤すことで、そうした不平等を減らしたいと考えていらっしゃるわけですね。

合田:はい。ただ、それだけではなく、農協のデジタル化により「努力の見える化」みたいなことも可能になるのではと考えています。例えば、ある農家さんが納品期日までにクオリティの高い農作物を提供したら、その「努力」を点数化する。そうして努力点を積み重ねた人に、融資や補助金がきちんと回る仕組みをモザンビークから作りたいと思っています。

―― 現状では、そうした仕組みにはなっていないと。

合田:そうですね。現状はかなり恣意的に選ばれていると思います。また、モザンビークは良くも悪くも“友達社会”。どんなに能力があっても、良い大学を出ても、企業や役所にツテがある人が優遇される傾向があります。そして、努力したところでどうにもならないと、投げやりになってしまう。

友達を大事にするのは良いことですが、コネがないと道を閉ざされてしまうのはおかしい。少しでも平等にチャンスが与えられるシステムに変えていけたらと思っています。

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―― 実現に向けた、具体的なロードマップはありますか?

合田:2019年の8月に開催されたアフリカ開発会議(TICAD)に私たちも参加し、アフリカ各国に対して電子農協のシステムを提案しました。最終的に採択され、今は具体的な計画として進んでいます。

今後のロードマップとしては、2022年に開催される次回のTICADまでに、モザンビーク、南アフリカ、セネガルで電子農協の実証実験を行うことになっています。まずは英語、フランス語、ポルトガル語を公用語とする3ヵ国で実証し、その後、各言語圏の国々に広げていこうという計画ですね。

紛争をなくし、誰もがのんびり暮らせる未来を

―― 最後に、事業を通じてどんな未来を作りたいか、改めてお聞かせください。合田さんが最終的に思い描く、理想の社会とはどんなものですか?

合田:世界中の誰もが、毎日のんびり、ぼんやり暮らせる。そんな社会になると良いと思っています。僕らが拠点を置くカーボ・デルガド州では、2017年にはじめてテロが起きてから、ずっと情勢不安が続いています。今年の1月には、うちのバイオ燃料工場がある村で、社員の家が焼かれました。

ここでは毎日、本当にいろんなことが起きる。だからこそ、緊張を強いられることなく、大きな不安もなく生きられることが、どんなに幸せか実感します。

それぞれの地域が自立して、自分が生きるコミュニティに自信を持てれば、どこかに敵を作って争うこともなくなるのではないでしょうか。そして、自立した地域が増えていけば国全体の安定につながり、誰もが落ち着いて生きていける社会になる。私たちの事業が、そんな世界を作る一助になれたら良いですね。

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ライタープロフィール
榎並 紀行
榎並 紀行
編集者・ライター。水道橋の編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手掛けます。

WEBサイト:50歳までにしたい100のコト(外部サイト)

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