関係人口を増やして、育児を“社会化”する。ベビー×テクノロジーで変わるかもしれない子育ての未来

関係人口を増やして、育児を“社会化”する。ベビー×テクノロジーで変わるかもしれない子育ての未来

関係人口を増やして、育児を“社会化”する。ベビー×テクノロジーで変わるかもしれない子育ての未来

諸外国と比べ、子育てが大変といわれる日本。ベビーとテクノロジーを掛け合わせた「ベビテック」を取り入れることで、育児の未来を変えようとしている冨樫真凜さんにお話を聞きました。育児を“社会化”するには、どのようなことが必要なのでしょうか。

「社会で子供を育てる」

思い返せば、公園でケガしたときに大人が助けてくれたり、近所に住む親戚がドライブに連れて行ってくれたり、お隣さんが新鮮なイカをおすそ分けしてくれたり。約30年前に地方の田舎で生まれ育った私は、親だけでなく社会に育てられたのだと思います。

東京で子育てをしている現在、周囲とそういった関係性を築けているとはいえないし、子供連れに優しいとは思えない経験もしてきました。

子育てって、こんなに息苦しいものなんだろうか……。そう考えていた矢先、「社会で子供を育てる」ことを実現しようとしている人の存在を知りました。しかも、テクノロジーを活用して、子育てが安全に、楽にできるようめざしているといいます。

未来想像WEBマガジン
冨樫真凜さん(写真左)。留学先のアメリカにて

冨樫真凜(とがし・まりん)さんは、ベビーとテクノロジーを掛け合わせた「ベビテック」、つまり「ハイテク化されたベビー用品」の輸入販売を行っています。

例えば…

・肌着の下に装着できる全自動搾乳機

・赤ちゃんの泣き声に応じて揺れる全自動ゆりかご

・通知や記録ができるおむつセンサー


など。これまでは母親の経験則に頼っていた「赤ちゃんが泣いている理由」をAIでデータ分析できたり、子供につきっきりの時間を軽減できたりといった未来を実現させようとしています。

私が子育てを自分ごとにできたのは産後でしたが、出産経験のない20歳(※2020年5月時点)の彼女は、なぜこんなにも子育てについての解像度が高いのでしょうか。冨樫さんのこれまでの経験を振り返りながら、未来の子育てについて話しました。

【この記事で想像できる未来】

理想:
子育ての関係人口を増やし、育児をより安全に、楽に。

実現:
留学経験をもとに育児への解像度を高めることができ、ベビテック製品の輸入販売を行う。

もしかしたらの未来:
「ベビテック」を取り入れる選択肢や、育児の関係人口が増えれば、子供が健やかに“子育ち”できる未来。

プロフィール

起業家
冨樫真凜さん
1999年生まれ。14歳から16歳をニュージーランドの現地校に留学し、その後角川ドワンゴ学園N高等学校に入学、卒業。幼児教育や子育てに強い関心をもち、現在はベビテックでの起業を目標としている。

「社会全体で子供を育てられる」と気づいた、ニュージーランド留学

——今回は「子育ての未来」をテーマにお話を聞いていきたいのですが、冨樫さんご自身はどんな子供時代を送っていたんでしょうか。

冨樫:めっちゃ人懐っこい子供でした(笑)。3歳上のお兄ちゃんの友達と遊ぶのも、年下の子たちの面倒を見るのも好きでしたね。小学校2年生まで大阪に住んでいましたが、住宅が密集している場所で、ちょうど同じ年くらいの子がいっぱいいたんですよ。

——小学校2年生まで大阪にいて、そのあと東京に引越したんですよね。そのときは、地域性の違いって感じましたか?

冨樫:すごくありました。当時ショックだったのは、東京にきてから会話量がすごく少なくなったこと。大阪では電車で隣り合わせたおばあちゃんとすら喋っていましたが、東京では隣に住んでいる人の顔さえ分からない生活になって。

——では、子供関連の活動を始めるきっかけになったのは、どんな体験なのでしょう。

冨樫:留学です。留学自体は何回もしてるんですけど、初めての留学は14歳から2年間過ごしたニュージーランドでした。地域同士のつながりもほどよくある田舎でしたが、社会で子供を育てているのを目のあたりにして、「こういう子育ての仕方があるんだ」と驚きました。

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アメリカ留学時

——なるほど。とはいえ14~16歳って、言ってみればまだ子供と呼ばれる世代ですよね。そんな、当時の冨樫さんが「子育て」の目線に立てたのはなぜでしょうか。

冨樫:そもそも子供が好きだったのもありますけど、ベビーシッターのアルバイトをしていたのが大きいですね。子供を連れている方の動線が分かるようになったんです。

それにニュージーランドでは、子供がバスに乗ってきたら、みんながちょっとあやしてくれたり、席を譲ってくれたり、エレベーターは必ず子供連れが優先されるとか。本当に些細だけど、そういう積み重ねから「社会全体で子供を育てている」とすごく実感しました。

——日本でも親切な人はいますが、ニュージランドだとそれがみんなのあたり前なんですね。その違いって、どこからくるんでしょう。

冨樫:国の文化もあると思うし、日本では、育児への接点が少ないんだろうとは思います。育児に関わる経験がないと、想像力を働かせることが難しいのかもしれない。

「子育て家庭は大変であるべき」という責任感も、東京にいたときは少なからず感じました。ニュージーランドでは、夫婦がデートするためや、結婚式の二次会まで残るため、みたいな理由で気軽にベビーシッターさんにお願いするんです。「親が余裕を持って楽しく過ごすために、育児支援やベビーシッターをもっと利用していいんだ」という感覚は大きな学びでした。

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テクノロジーが介入したら、子育ての未来は変わる?

——子育ては、テクノロジーを介入したほうが、良い方向に変わっていくと思いますか?

冨樫:そう思います。育児ってあまりデータ化されないんですけど、例えばSIDS(乳幼児突然死症候群)という病気について、原因や決定的な予防策が分かっていません。原因が分からずに死ぬって、すっごく怖いじゃないですか。

そういうものに対しても、逐一データが取れてパターン分析ができるようになると、育児は圧倒的に、安全に、楽になると思っています。

——冨樫さんは1999年生まれで、これから結婚や出産をしていく世代ですよね。そのころ、どんな未来になっていたらうれしいでしょうか。

冨樫:親に限らず、社会全体で育児をするように“社会化”されているといいですね。“子育て”じゃなくて、生まれた環境に左右されることのない、子供が主語の“子育ち”にしたい。そのためには、「子供が健やかに育つための環境をいかに大人が整えられるか」が重要で、育児の関係人口を増やすことから始まると思っています。

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N高が開催するイベント『NED』に登壇した際

——変えていけそうな実感はありますか?

冨樫:変えられると思います。ただ前提として、とても難しいと痛感していて、変えていけるとしたら私たちの世代からなのかなと。育児している最中ってすごく忙しいし、今から子供を育てる世代にアタックするのが重要だなと思います。シフトしていくまでに30年くらいかかると思うんですけど。

——まさに未来に向けてのアクションですね。海外に行って子育てをする選択肢もあるとは思うんですが、冨樫さんが日本を変えようとしているのはどういう思いからですか?

冨樫:もちろん海外で子育てをしてもいいと思うんですけど、それだけでは何の解決にもならないし、問題から逃げている気がするんです。ちょうどこの問題がある時期に、問題を認識できる人間としてこの社会にいて、それを変えたいって思っているなら変えた方がいいよなって。

日本の文化も好きですし、それを継いでいく存在、これからの国をつくっていく存在はすごく重要なので、そこに携わりたいと思っています。

当事者にしか分からないことを、下の世代に伝えてほしい

——冨樫さんは、「令和子育ち研究会」という活動もされていますよね。

冨樫:はい。ゆるっと子育てに興味がある人が情報交換したりつながったりする場になっています。今は『セルフパートナーシップbook』といって、25歳以下の人に、妊娠・出産・結婚・転職など自分のライフステージを大きく変えることに関する情報を伝える本を制作しているんです。これから起こりうる人生の分岐点に対して、きちんと知識を持つことで、自分自身を大切にしてほしいな、と。

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——例えばどんな情報が入っているんですか?

冨樫:妊娠に関する情報だと、「35歳以上の初出産を高齢出産と呼ぶ」とか「卵子の数は生まれたときから決まっていて、年齢とともにこんな割合で減っていく」「これくらいの確率で流産してしまう」といった、起こりうるリスクや想定される出来事をまとめています。

不可逆な時間に対して、過ぎ去ったあとに後悔してほしくないんですよね。この本は同世代で作っていますが、自分たちがすごく気になる情報なのに、どこにもまとめられてないという疑問がありました。

——私は30代ですが、自分の世代は専業主婦よりも共働きの女性が増えていく過渡期にあり、妊娠や転職に関する情報が得づらかったように思います。冨樫さんから、我々のような上の世代の大人たちに求めるものはありますか?

冨樫:そうですね……ご自身の体験を、私たち下の世代にたくさん話してもらえるとうれしいです。前後の世代との板挟みになっていて大変だとか、共働きのための制度がないんだよね、とか。やっぱり当事者しか分からないことってたくさんあると思うので。

——冨樫さんは未来を想像して、そのための準備をしながら進んできた人のように見えますが、まだうまく未来を考えられない人も多いと思うんです。そうした人にアドバイスはありますか?

冨樫:純粋に、もっといろんな人と未来の話をするのがいいと思います。今の時代って、将来の夢を語ったり、真面目に考えたりする機会が学校の進路相談くらいしかないと思うんですよね。でも、「卒業後の進路」は直近の未来の話。

もっと先の自分の未来について、親や同世代、バイト先の先輩とか、いろんな人と話して、知らない選択肢や価値観に触れられたらいいですよね。

まとめ

働き方が多様になり、母親の大変さが叫ばれだした昨今。「下の世代の人たちは子供を産みたいと思えないのでは」と思っていた私にとって、冨樫さんのような存在がいることは心強く感じました。

私たちの世代はキャリアを絶たないための情報もなかったし、女性が活躍する社会としては成熟していなかったように思います。「母親なんだからできるはず」といった、母性神話のような言葉も浴びてきました。

それを冨樫さんたちのような下の世代の人たちには受け継がず、私たちの世代でも変えていけることをしていきたい。そのために、ちゃんと自分たちの体験を伝えていきたいと、あらためて思いました。

その先にはきっと、“子育ち”環境の成熟した未来があると信じて。

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ライタープロフィール
07
栗本 千尋
1986年生まれ。青森県八戸市出身(だけど実家は仙台に引っ越しました)。3人兄弟の真ん中、2人の男児の母。旅行会社、編集プロダクション、映像制作会社のOLを経て2011年に独立し、フリーライター/エディターに。関心分野は家族、子育て、地方など。2020年に地元・八戸へUターン予定。
Twitter
https://twitter.com/ChihiroKurimoto(外部サイト)

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