国債とは
国債とは国が発行する債券のことであり、日本国が発行するのが「日本国債」です(以下、国債)。債券とは不特定多数の投資家から資金を借りる際に発行する有価証券のことで、債権の発行者は、定められた期日に保有者に対して、利子や元本を支払う義務を負います。
つまり、国債とは、購入することで利子や元本を受け取れる金融商品の一種で、資産形成の一手段であると考えることができます。日本では、公務員給与の支払い、医療費や年金などの社会保障支出、公共施設や各種インフラへの投資、あるいは既発国債の借換などに必要な財政資金を調達するため、毎年多額の国債を発行しています。

国債の種類と個人向け国債
国債には様々な種類があり、大きく「利付国債」と「割引国債」、「利付国債」の一種である「個人向け国債」に分けられます。
利付国債
利付国債とは、半年ごとに利子が支払われる国債です。現在、日本国内で発行されている利付国債にはすべて2~40年の満期があり、満期時に元本額が支払われます。
満期まで利子額が一定のものは固定利付国債、市場金利の変動に応じてそのときどきの利子額が増減するものは変動利付国債と呼ばれています。これらは基本的に元本額が固定された債券ですが、元本と利子額が物価に連動して増減するタイプもあり、物価連動国債と呼ばれています。
個人向け国債
利付国債の一つに、個人投資家を対象として毎月発行されている小口の個人向け国債があります。最低1万円から、1万円単位で購入することが可能です。現在、固定利付型では満期3年物と満期5年物が、半年ごとに適用金利が変わる変動利付型では満期10年物が、それぞれ発行されています。
個人向け国債の金利は直近の市場実勢によって決定され、2023年5月募集分では、固定利付3年物が0.05パーセント、固定利付5年物が0.09パーセント、変動利付10年物が(発行時点で)0.28パーセントとなっています。ただし、個人向け国債には、税引前で0.05パーセントの下限金利が設定されています。
つまり、個人向け国債の金利は、世の中の金利がどんなに低くなったとしても、0.05パーセントを下回ることはありません。これは、半年ごとに変動する10年変動物の発行後金利についても同様です。
個人向け国債は、銀行や証券会社といった金融機関の窓口で販売されていて、インターネット経由での購入も可能です。個人の資産形成手段として、有力な選択肢の一つといえるでしょう。
利付国債と個人向け国債を比較すると、以下の表のようにまとめられます。
利付国債 | 個人向け国債 | |
---|---|---|
満期 | 2年、5年、10年 | 3年、5年、10年 |
金利 | 固定金利 | 固定金利(3年、5年)/変動金利(10年) |
購入金額 | 5万円以上5万円単位 | 1万円以上1万円単位 |
利払い | 半年ごと、年2回 | 半年ごと、年2回 |
中途換金 | いつでも売却が可能。 ただし市場価格に応じて元本は変動する。 | 発行後1年経過すればいつでも国の買取による中途換金が可能。 ※中途換金時に、直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれる。 元本割れはしない。 |
発行回数 | 毎月 | 毎月 |
割引国債
割引国債とは、利子の支払いがなく、償還期限までの利子相当分をあらかじめ額面金額(元本額)から差し引いた価格で発行され、満期時に元本額が支払われる国債のことです。
例えば、額面金額が100万円の割引債が98万円で発行された場合、購入金額が98万円、満期で戻ってくるのが100万円となるため、差額の2万円を利子相当額として受け取ることができます。
現在発行されている割引国債は満期2カ月~1年で、国庫短期証券と呼ばれています。
個人向け国債購入のメリット・デメリット

長期的な資産形成の選択肢として個人向け国債の購入を検討するに際しては、どのようなメリット・デメリットがあるのかを把握しておくことが大切です。
メリットその1:安全で換金も容易
国債のメリットは何といっても、国が発行しているため、元本償還と利払いの確実性が高いことです。これは、国家機関である中央銀行による自国通貨の発行が、国の資金繰りに支障をきたすことがないように日々行われる仕組みが確立しているからです。そして、現在の日本国債は、個人向け国債も含め、すべて自国通貨である円建てで発行されています。
加えて、個人向け国債は、発行から1年経過した後は、保有している一部または全部を原則としていつでも中途換金することができます。途中換金する場合、中途換金調整額として「直前2回分の利子×0.79685」分の金額が差し引かれますが、発行時からの受取額を合計すれば元本割れは生じない仕組みになっています。
なお、保有者が亡くなったときや、災害救助法の適用対象である大規模自然災害によって被害を受けたときには、発行から1年以内でも特例として中途換金が可能です。
メリットその2:預貯金よりおおむね金利が高い
個人向け国債のもう一つのメリットは、定期預(貯)金よりもおおむね金利が上回っていることです。例えば、2023年3月31日時点で、大手都市銀行(みずほ、三井住友、三菱UFJ、りそな)およびゆうちょ銀行の定期預(貯)金金利は、満期を問わず軒並み年0.002パーセントです。これは、前述した個人向け国債の下限金利を下回っています。
もちろん、定期預(貯)金にも、より少額での預け入れや1年未満の中途解約が可能といったメリットはあります。しかしながら、少なくとも当面の金利情勢のもとで、ある程度まとまった金額で中長期的に行うことが想定される資産形成の手段としては、個人向け国債が有利といえるでしょう。
国債購入のデメリット

デメリットその1:高いリターンは期待できない
安全性が高い一方、個人向け国債のデメリットは、高いリターン(利回り)が期待できないことです。金融商品においてリスクとリターンは密接な関係にあり、一般的には、株式あるいは株式を組み入れた投資信託のように価格変動リスクのある金融商品の方が、長期的にみて高いリターンを期待できることが知られています。
デメリットその2:インフレによって価値が目減りしやすい
物価が全般的・継続的に上昇するインフレが生じると、通貨の実質的な価値はその分だけ低下します。例えば、10年後に物価全体が現在の2倍になった場合、10年後の1万円では現在の1万円の半分の量しかモノやサービスが買えません。つまり、この場合、通貨の実質的な価値は10年間で半分に低下しています。
したがって、企業業績などが将来の価格に反映される株式や、金(きん)をはじめとする実物資産などへの投資とは異なり、投資した金額が満期到来時にそのまま償還される個人向け国債(を含む債券)に投資する場合には、インフレによる実質的な投資元本の目減りというリスクが存在します。
もちろん、満期までに受け取る利子によって埋め合わされる部分はあるものの、国際情勢の不安定化や資源供給能力の不足によって長期的なインフレ率上昇の可能性が高まっていると考えれば、そのリスクは決して小さくはないといえるでしょう。
個人向け国債をどのように活用すべき?

資産形成のために手元の資金を複数の投資対象に配分し、いわゆる資産ポートフォリオ(※運用商品の組み合わせ)を形成する際には、リスクとリターンのバランスを取ることが大切です。株式などは長期的には高いリターンを期待できるものの、価格変動リスクも高く、短期的には資産がマイナスとなる可能性も決して少なくはありません。
したがって、大まかな目安として、資産形成のゴールが少なくとも10年以内、より堅実に20年以内の場合には、預貯金や債券のように低リスクの金融商品をそれなりの割合で資産ポートフォリオに組み入れることを検討すると良いでしょう。その場合、中途解約が比較的容易で、発行体の信用力が高く利回りも相対的に有利な個人向け国債は、有力な選択肢といえます。
また、資産形成のゴールがいつであるかにかかわらず、株式のような高リスクな投資対象には抵抗があり、まずは低リスクで安全な運用から始めたいという人にも、個人向け国債は適した商品といえるでしょう。毎月発行されているので自分のタイミングで投資を始められ、積立型の投資としてコツコツ続けるのにも適しています。
一方で、元本割れしない個人向け国債でも、インフレによる「実質的な元本の目減りリスク」は存在します。昨今はこうしたリスクに特に注意すべき状況にあると考えられます。そのため、長期的な資産形成をめざすのであれば、「額面割れがないから安心」では終わりにせず、ほかの選択肢も視野に入れて、バランスの取れた情報収集を続けることが必要でしょう。
・本コンテンツは執筆時点(2023年3月)の情報に基づき作成しております。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、証券投資取引の推奨・勧誘を目的とするものではありません。
この人に聞きました

株式会社クレディセゾン主席研究員。株式会社アトリウム担当部長、セゾン投信株式会社取締役などを歴任。マクロ経済学や景気循環論を専門とし、日本の経済政策や世界の経済動向について評論活動を行っている。著書に『MMT講義ノート』(白水社)、『MMTとは何か』(角川新書)、『積極財政宣言』(新評論)、監訳書に『MMT現代貨幣理論入門』(ランダル・レイ著、東洋経済新報社)がある。Twitterアカウント:@sima9ra
ライタープロフィール

不動産・マネー・人事労務・知財法務の分野で強みを持つウェブコンテンツ制作会社を12年間経営、代表者兼ライター。同社ではビジネス系の書籍の編集・出版プロデュースにもあたっている。日本大学法学部卒、社会人学生として慶應義塾大学に在学中。著書に『ザ・ウェブライティング』(ゴマブックス)、FP資格取得。データサイエンス・AI分野を修得中。
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