DINKsとはどんな意味?家計に余裕があるといわれるのはなぜ?

結婚後も夫婦ともに仕事を続け、意図して子どもを持たない夫婦はDINKsといわれます。DINKsとは、Double Income(共働き) No Kids(子どもを持たない)の略。1980年代、ライフスタイルが多様化し始めていた米国で生まれた言葉とされています。
「もともと、日本でもDINKsを選ぶ夫婦はいましたが、数年前に俳優の山口智子さんがメディアで『子どもを産まない選択をした』と話されたことが話題に。共感も多かったようですね」と、國場さんはDINKsが日本に浸透した大きなきっかけを振り返ります。では、DINKsには、どのような家計の特徴があるのでしょうか。
子どものための資金が不要
國場さんいわく「進学コースによって変化しますが、子ども1人あたり1,000万円〜2,000万円が学費のボリュームゾーンといわれています」とのこと。学費や、教育費、養育費など子どもにかかる支出のないことが、DINKsの経済的な特徴です。
いざというときに強い家計
収入が2人それぞれにあることも大きな特徴といえます。夫婦ともに会社員の場合をはじめ、会社員とフリーランス、ともにフリーランスだったとしても、2人ともに収入を得る「ダブルインカム」です。同じダブルインカムでも、子どもがいる夫婦は産前・産後休業、育児休業で働き方をセーブする期間がありますが、DINKsはそれもありません。
「収入における男女差をあまり感じていないDINKsが多い印象です。また、収入源が2人のため、いざというときに強い家計でもあります。家計が強いということは、リスクを取りやすいということ。チャレンジングな転職や独立もしやすく、資産運用でも積極的な姿勢を取りやすいでしょう」と國場さんはDINKsならではの家計の特徴をあげています。
DINKsの老後は不安?

家計が強いといわれるDINKsですが、老後にむけた資産形成にはリスクになりかねない点があるといいます。そのポイントを國場さんに教えてもらいました。
家計が強いDINKsの隠れたリスク
家計のやりくり
家計に余裕があるため、日常的なお金のやりくりをさほど意識する必要がない。そのため、計画的に資産形成をするための意識・スキルが身についていない可能性がある。
資産管理が個人主義になりがち
生活費や居住費は2人で協力して支払っていたとしても、貯蓄はそれぞれ自分のペースで、開示もしなければ干渉もしないというパターンが多い。そのため、夫婦ともに世帯の資産状況を把握できていない可能性がある。
一般的に、夫婦がお金の相談をするのは、結婚・家を買う・出産・子どもの進学といった大きなライフイベントのときが多く、子ども関連のライフイベントがないDINKsは、必然的に相談をする機会も少なくなりがちです。そのため、夫婦どちらかが病気になってお金が必要になったなど、いざというときに初めて世帯の資産状況を把握することになりかねません。
「資産を個々に管理するなら、どこまで開示するのか、すべてをまとめて管理するならどちらが中心となって管理するのかなどは、夫婦の考え方や状況に合わせて決めればよいことです。ただし、夫婦で協力して計画的にお金を貯めていくというマインドは必要でしょう」
実際に「パートナーのお金の使い方が不安だが、財布が別々なので分からない。老後に備えて貯めてほしいが、大丈夫かな」という相談がDINKsから寄せられることもあるようです。
DINKsが知っておきたい、老後にむけた資産形成

DINKsに限らず、老後への備えは大切なものです。子どもに頼ることのできないDINKsは、特に自分たちで備える必要があるでしょう。ここでは、DINKsが老後にむけて考えておくべきポイントを資産形成の面からご紹介します。
収支の見通しを把握する
まずは、老後に向けた収支の見通しをざっくり把握しましょう。将来、自分たちがどこで、どのように暮らしたいのか、そのためにはどのぐらいお金が必要なのかを把握しなければ、具体的な行動に移すことができません。まずは夫婦で将来についてよく話し合ってから、老後について考えるとよいでしょう。
とはいえ、綿密に計算することは難しく、面倒だと思う人もいるでしょう。その場合は、まずは収入のどのくらいを貯蓄に回せているのか確認してみてください。また、日本FP協会の「ライフプラン診断」など、項目に入力していくだけで将来の家計を予測してくれるツールを利用するのもよいでしょう。國場さんは、「子どもがいる家庭では、世帯収入の15パーセント程度を老後に向けて貯蓄したいものです。DINKsの場合、この比率を上げて世帯収入の20パーセント〜30パーセントを貯蓄できるとよいですね」とアドバイスします。
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公的年金を確認する
具体的に最初にすべきこととして、國場さんは「公的年金の確認」をあげます。厚生労働省の発表によると令和5年度の年金額は、1人分の老齢基礎年金(満額)約6万6,000円/月。1人分の老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額)約22万5,000円/月(賞与含む平均的な収入である月額換算43万9,000円で40年間就業した場合)となっています。ここから計算すると、2人分の老齢厚生年金は約18万6,000円となるため、ともに会社員のDINKsの場合、手にできる年金額は夫婦合わせて約32万円/月になります。
しかし、この金額はあくまでも目安です。雇用や就労形態によって、年金額は大きく変わってくるものなので、ぜひ、自分はいくら給付されるのか確認してみましょう。ねんきん定期便やねんきんネットなどを使えば、簡単に調べられます。
iDeCoとNISAで資産形成を考える
必要な老後資金を把握したあとは資産づくりです。「ここでぜひ活用したいのが、iDeCoとNISAです」と國場さん。
iDeCoとNISA、どちらも税制優遇が受けられるものですが、まずは老後の資金作りに特化して優遇の大きいiDeCoから使うとよいでしょう。iDeCoは個人型確定拠出年金のことで、掛金は所得控除になり、利息・運用益も非課税になり、受取も一定額まで税制優遇があります。毎月の掛金は加入資格によって上限が異なり、例えば会社員の場合、お勤め先で企業年金のない厚生年金のみ加入の方は月2万3,000円、その他の企業年金等にも加入している方は、お勤め先の年金制度の加入状況によって月20,000円、もしくは月1万2,000円となります。ただし、iDeCoの受給開始は原則として60歳。自分のタイミングでは引き出せないため、余剰資金をiDeCoに回すとよいかもしれません。
iDeCoについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
iDeCoは2022年の制度改正でどう変わった?賢く活用するためのポイントを解説
NISAは少額投資非課税制度のことで、株式や投資信託など投資で得た収益にかかる税金が非課税になる制度です。DINKsが検討したいのは「一般NISA」と「つみたてNISA」。一般NISAの非課税枠は年120万円で、投資をした日から5年目の年末までが非課税期間になります。つみたてNISAの非課税枠は年40万円で、投資をした日から20年目の年末までが非課税期間になります。
ただし、新規の買付は2023年末まで。制度改正により2024年から「新NISA」がスタートします。新NISAの非課税枠は年360万円(つみたて投資枠が年120万円、成長投資枠が年240万円。累計の限度額は1,800万円)で、非課税期間は無期限となります。
「(新NISAは)いい制度になったと思います。1年に使える投資枠が増え、長さは無期限になりました。期間の縛りがなくなったので、早く資産運用を始めて長く続ける方が資産も増えるしリスクも小さくなるでしょう。それなりに資産もあり、住宅購入などの大きな出費も予定していないというDINKsなら、まずはiDeCoとNISAでの資産形成を優先し、さらに残るようであれば他の金融商品も検討するとよい」と國場さんはいいます。
様々な資産形成の制度や商品の特徴を知ったうえで、自分に合ったものを選ぶとよいでしょう。
早いうちから考えておきたい介護・相続のこと

DINKsが老後に向けて考えておきたいことには、老後資金はもちろん、子どもがいないことによる介護者の不在、どちらかが亡くなったときの遺産相続などもあげられます。
介護や身の回りの世話が必要になったときの対応
DINKsの大きな不安材料に、子どもがいないことによる介護者の不在があげられます。國場さんは「何かあったときに身近に頼れる人がいない不安」とDINKsが抱える悩みを認めつつも、高齢夫婦や高齢者の一人暮らしを支援する制度やサービスは徐々に整い始めているため、その不安は軽減できるといいます。
「日常的な移動や重い荷物を運ぶのが負担になる場合、食料・日用品の買い物や行政の手続きであれば、インターネット経由で自宅にいながらできるようになってきました。洗濯や掃除などの家事サービスも依頼することが可能ですし、離れた場所にいる医師の診療を受けることができるオンラインの遠隔診療も導入され始めています。『少し不便だな、負担だな』と感じることは、有料にはなりますが、ある程度民間のサービスでフォローできるでしょう」
さらに、市区町村の窓口へ申請して要介護認定を受けると、公的介護保険制度のサービスを受けることができます。DINKsに限らず高齢期を一人で過ごす人は増えており、かつての「介護は家族がするもの」という常識は「介護は社会全体で担うもの」へと変化してきているため、子どもがいない老後のリスクは小さくなってきているといえます。
こういった制度の中から、自分達に合うものを活用するといいでしょう。また、身の回りのことができなくなる前に高齢者施設へ移るという選択肢もあります。
DINKsの遺産相続は注意が必要
夫婦どちらかが亡くなった場合、相続に関しては、子どものいる家庭よりもDINKsの方が複雑になります。理由は、亡くなった配偶者の両親や兄弟姉妹、甥姪などが関わるからです。
「親族の付き合いがしっかりあればよいけれど、関係が薄くなっていることも少なくありません。子どもがいないので、両親との孫を中心としたイベントでの接点がなかったり、兄弟姉妹の子ども(甥・姪)との付き合いが薄くなったりしがち。そういった場合には、遺産の話をすること自体が気まずく、実際に遺産が渡ることになったら“もやもや”した気持ちが残るかもしれませんよね」
DINKsの場合は、子どものいる夫婦に比べ、相続する財産の額に関わらず遺産相続のトラブルが生じやすく、親族関係がギクシャクすることもあるようです。そのため、國場さんはできるだけ普段から双方の実家との交流を避けないようにすることが大事だとアドバイスします。
また、認知症などで判断能力が衰えたときには、本人に代わり後見人が契約や財産管理などを行う成年後見制度があります。夫婦であれば、どちらかが気づいて手続きを行うことができますが、パートナーを亡くして単身となっていたら困ることになります。判断能力のあるうちに後見人を指定することも可能で、親族以外の友人や弁護士などの専門家に依頼することもできます。
遺言状を準備する
先述した相続のトラブルを回避するために重要なのが、遺言状です。遺言状には「自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言」の3種類があり、利用が多いのは、自分で遺言を書く「自筆証書遺言」と、公証人が作成する「公正証書遺言」です。「秘密証書遺言」は、内容を秘密にしたまま、存在だけを公証人と証人2人以上で証明してもらうというものです。
自筆証書遺言については、2020年より遺言書を法務局が保管する「自筆証書遺言保管制度」が始まりました。保管申請時に、遺言書保管官によって自筆証書遺言の形式に適合しているかをチェックされるため、必要な条件を満たしていないと無効になってしまう可能性を小さくできます。また、遺言書は、原本だけでなく画像データとしても法務局で適正に管理されるため、改ざんや偽造、紛失を防ぐこともできます。
「若いときは遺言書のことは考えないかもしれません。ただ、配偶者が相続の際に辛い思いをしなくて済むように、早めに遺言書を用意したり、自分の財産をどうしたいと思っているのかを親や兄弟姉妹にも伝えておいたりするとよいでしょう」と國場さん。
亡くなった人の生前の意思が明確であれば、単に法律に従った相続よりも、皆が納得しやすくなります。夫婦2人で手を取り合って暮らすDINKsだからこそ、折に触れて意思表示しておくことが大事になるのです。
まずは老後をイメージしてシミュレーションしてみよう

家計に余裕のあることが多いといわれるDINKsにも、老後に向けたリスクはあり、考えておくべきことや準備しておきたいことが分かりました。
「自分たちの親は子どもがいるので、DINKsにとっての見本とはなりにくい面があります。そのため、身近に見本がないなかで、老後のプランニングをしなければなりません」と國場さん。幸い、老後資金のシミュレーションなどが簡単にできるインターネットサービスもあるので、まずは老後をイメージしながら試算してみてはいかがでしょうか。
・本コンテンツは執筆時点(2023年2月)の情報に基づき作成しております。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、証券投資取引の推奨・勧誘を目的とするものではありません。
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この人に聞きました

証券会社勤務時に個人向けの資産運用プラン作り、アドバイス業務を行う。ファイナンシャルプランナーへ転身後は(株)プラチナ・コンシェルジュ取締役として個人相談を始め、書籍や雑誌・ウェブでの執筆活動など幅広く活動する。ファイナンスMBA。
ライタープロフィール

フリーランスライター/ジャーナリスト。大学卒業後、メディア企業で記者を務めた後に独立。2児の母で猫好き。海外生活経験とフットワークの軽さを活かした取材活動を得意とする。やってみたいことはドラム演奏。
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