株取引における確定申告の要否
まず前提として、株や投資信託の取引において確定申告が必要なケース・不要なケースを確認しておきましょう。
株取引で確定申告が必要なケース
株取引によって確定申告が必要となるのは、株取引によって利益が出ており、なおかつ「一般口座」あるいは「特定口座(源泉徴収なし)」で取引を行っていた場合です。
特定口座を利用していても、源泉徴収なしを選択している場合、税金の納付については自分で手続きをする必要があります。
株取引で確定申告が不要なケース
「特定口座(源泉徴収あり)」で株取引を行っている場合、申告は不要です。その口座内の取引で生じた損益は自動で算出され、金融機関が所得税・住民税を代行して納付してくれます。
そして、株取引によって損失が出た場合も申告は不要になります。確定申告は年間の「所得」から計算した税金を納付する手続きであり、損失はそもそも所得に当たらないため、申告の必要がありません。
株取引で損失が出ていても、確定申告したほうがいい?
株取引の損失が出ていても、確定申告を行うメリットがある場合があります。それは、「損益通算」と「繰越控除」ができる点です。ここから損益通算と繰越控除の仕組みについて詳しくみていきましょう。
利益と損失を相殺できる「損益通算」
損益通算とは、同一年分の利益と損失を相殺することです。所得税・住民税は、基本的に所得に応じて税額が高くなる仕組みなので、利益が大きければそれだけ負担する税額も大きくなります。
そこで、利益だけでなく損失分も計算に入れて相殺し、できるだけ税額負担を減らすというのが損益通算の仕組みです。また、損益通算ができる範囲は上場株式等の譲渡益・譲渡損だけでなく、一定のルールに基づいた他の配当や利子も含まれます。
具体的には、国内・外国上場株式等(投資信託含む)や国内・外国上場ETFの売却損益、上場株式等の配当金(申告分離課税を選択している場合)、特定公社債の利子(申告分離課税を選択している場合)などとの損益通算が可能です。
株の損失を3年間繰り越せる「繰越控除」
繰越控除とは、譲渡損失を翌年以降の3年間にわたって繰り越せる仕組みのことです。大きな損失が出てしまった場合、その年の利益と損益通算をしても、まだ損失分が残ってしまうことがあります。
しかし、繰越控除を利用すれば、その後の3年間にわたって、引き続きその損失を繰り越して損益通算が行えます。
損益通算と繰越控除のポイント

損益通算と繰越控除のメリットや注意点など確認しておきたいポイントを見ていきましょう。
複数の口座で損益通算できる
確定申告をすることで、複数の金融機関で株取引用の口座を作っている場合も、口座間をまたいで損益通算することができます。
仮に一つの特定口座A(源泉徴収あり)で損失が出た場合、異なる特定口座B(源泉徴収あり)で生じた利益とは自動的に損益通算されるわけではありません。
損益通算を行って確定申告を済ませれば、特定口座Aの損失分に応じて税金の還付を受けられるのです。また、「繰越控除」を活用すれば、仮にその年に利益が出ていなくても、損失を申告しておくことにはメリットがあります。
配当所得を得ている場合も損益通算で減税できる
毎年配当所得を得ている場合も繰越控除を行うのが良いでしょう。配当所得は利益に対して20.315パーセントの税率がかかりますが、譲渡損失と相殺できるのでその分の税負担が軽減されます。
株の売買による利益だけでなく、配当所得を得ようと考えている方も、繰越控除の制度を知っておきましょう。
損益通算や繰越控除できない所得や口座がある
株取引について損益通算ができるのは、あくまでも上場株式等や投資信託等の範囲内であり、例えば不動産など、その他の譲渡益・譲渡損やその他の所得とは行えません。
また、NISA口座(非課税口座)内の上場株式等を譲渡した場合に生じた譲渡損失額は、ないものと見なされます。そのため、NISA口座でも損益通算はできません。
損益通算によって健康保険料やその他の控除額に影響が出る場合も
特定口座(源泉徴収あり)で利益が出ていた場合、本来なら口座内で課税関係が完結するため、配偶者控除や国民健康保険料等の計算には影響がありません。つまり、譲渡所得や配当所得に関わらず配偶者の扶養に入ることができ、健康保険料等が上がることもありません。
しかし、損益通算のために確定申告を行うと、配当所得や譲渡所得が総所得金額等に加算されるため、場合によっては配偶者控除の対象から外れたり、健康保険料等の負担が増えたりする可能性があるのです。損益通算による影響は状況によって大きく異なるため、個別の事情に合わせて計算を行い、手続きすべきかどうかを判断しましょう。
繰越控除は繰り越す年と翌3年間は毎年確定申告が必要
繰越控除を活用するためには、繰り越しを行う年だけでなく、翌3年間にわたって「毎年」確定申告をする必要があります。仮に、次の年に株取引を行わなかったとしても、損失を持ち越すためには確定申告が必要となるため、忘れずに手続きしましょう。
株取引で損失が出たら、確定申告の検討を
株取引を行った年は、一定の条件に該当すると確定申告を行う必要があります。利益が出た際には、特定口座(源泉徴収あり)で取引を行った場合を除き、自分で申告手続きを行わなければなりません。
さらに、損失が出ている場合であっても、確定申告をして損益通算や繰越控除を活用することで、還付などを受けられるケースがあります。株取引を行う際には、確定申告をしたほうが良いのか正しく判断するためにも、税金や確定申告の仕組みをセットでおさえておきましょう。
・本コンテンツは執筆時点(2023年4月)の情報に基づき作成しております。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、証券投資取引の推奨・勧誘を目的とするものではありません。
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シニアマネーコンサルタント・税理士・IFA
大手会計事務所、財産コンサルティング会社勤務などを経て、2005年に税理士事務所・株式会社ウーマン・タックスを開業、代表を務める。一児の母でもあり、実生活に根差した視点とわかりやすい解説から、テレビや雑誌などでも人気。著書に『夫に読ませたくない相続の教科書』(文春新書)、『知らないと大損する!定年前後のお金の正解』『ひとりで楽しく生きるためのお金大全「もしかして結婚しないかも?」と思ったらやっておきたい50のこと』(ともにダイヤモンド社)などがある。
ライタープロフィール

不動産・マネー・人事労務・知財法務の分野で強みを持つウェブコンテンツ制作会社を12年間経営、代表者兼ライター。同社ではビジネス系の書籍の編集・出版プロデュースにもあたっている。日本大学法学部卒、社会人学生として慶應義塾大学に在学中。著書に『ザ・ウェブライティング』(ゴマブックス)、FP資格取得。データサイエンス・AI分野を修得中。
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