2022年の制度改正で「iDeCo」が変わりました
iDeCoは、掛金が全額所得控除となることや運用益が非課税(※)であること、また、受取時も税制上の優遇があるといったメリットを受けながら、老後のお金を準備することができる制度です。
(※)運用中の年金資産には1.173パーセントの特別法人税がかかりますが、現在は課税が凍結されています。
iDeCoの仕組みやメリットなど、基礎的な内容についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
「僕たちの老後年金問題!最も初歩的な「iDeCo」入門」
2022年の制度改正で、iDeCoはこれからの時代に合わせてより活用しやすくなります。4月、5月、10月、それぞれの改正内容と活用のポイントを見ていきましょう。
■2022年3つの制度改正ポイント
【その1】 加入可能な年齢が拡大。60歳以上で加入できる人も(2022年5月〜)
【その2】 企業型確定拠出年金の加入者も、原則、iDeCoへの加入が可能に(2022年10月〜)
【その3】 受け取り開始時期の選択肢が60〜70歳から、60〜75歳までに拡大(2022年4月〜)
改正ポイントその1 加入可能な年齢が拡大。60歳以上で加入できる人も(2022年5月〜)
2022年5月から、iDeCoに加入する際の条件の一つであった「原則20歳から60歳まで」という年齢要件が撤廃されました。60歳以上でも国民年金に加入していれば、65歳までiDeCoに加入し、積立ができるようになりました。
新たに65歳まで加入できるようになるのは、以下の3つのケースです。
1.60歳以降も厚生年金に加入して働き続ける会社員や公務員
2.60歳以降、国民年金に任意加入をしているフリーランスや専業主婦(夫)
3.国民年金に任意加入をしている海外居住者
また、これまでiDeCoは60歳以前に通算加入者等期間(※)が10年以上なければ60歳から受け取ることができませんでしたが、加入可能年齢の拡大に伴い、60歳まで企業型確定拠出年金やiDeCoの利用がなく、60歳以降にiDeCoで積立を始める場合には、加入から5年を経過すれば受け取れるというルールも新設されました。
(※)iDeCoまたは「企業型確定拠出年金」(以下「企業型DC」)の運用を行っていた期間
加入継続によって得られるメリット
今や、60代前半の約7割以上が働いているため、会社員や公務員として働いている方はiDeCoを利用できる期間が5年間延びる方が多いでしょう。これによって得られるメリットは3つあります。
1つ目は、5年間積み増しすることによってiDeCoで用意できる老後資金が増えることです。
2つ目は、積立掛金の所得控除により税負担軽減を受けられる期間が、5年間プラスされることです。例えば年収500万円で、課税所得が約230万円の場合、iDeCoに毎月2万円を積み立てるとすると、「掛金の全額所得控除」によって所得税と住民税を合わせて年間で約4万8,000円も負担が減ります。これが5年間続くと、24万円(4万8,000円×5年分)も負担が減ることになります。
そして3つ目は、一時金として受け取る際の税負担が減ることです。加入している期間が延びることによって、課税対象から控除できる額が最大350万円大きくなります。その結果、他の退職一時金と加入期間が重ならなければ課税対象額が小さくなり、税額が減ることになります。
加入継続によって得られるメリット【フリーランスや自営業の場合】
「2.フリーランスや専業主婦(夫)」と「3.海外居住者」は、原則60歳で国民年金の加入期間が終了しますが、60歳以降も「国民年金の任意加入」をしている場合は、iDeCoに加入ができるようになります。
国民年金は原則20歳から60歳まで加入し、国民年金保険料を40年間払うと、満額の年金を受け取ることができます。年金額は保険料を納めた期間に応じて決まるため、60歳の時点で国民年金保険料の納付済み期間が40年に達していない場合は、満額を受け取ることができません。
そのような場合に、60歳以降も任意で国民年金に加入し、国民年金保険料を払い続けることを「国民年金の任意加入」といいます。65歳未満であれば、納付期間が40年に達するまで任意加入が可能で、その間、iDeCoにも加入することができます。
自営業やフリーランスの場合、iDeCoの積立上限額が月額6万8,000円に設定されているため、積立期間が3年延びるだけでも200万円以上も老後資金を確保することができ、さらにその間、課税所得も削減できることになります。
このように5月からは多くの方が60歳以降もiDeCoに加入できるようになることによって、まとまった老後資金をより準備しやすくなったといえます。
iDeCoに60歳以降も加入継続する場合の注意点
60歳以上でiDeCoを利用する際の注意点は、以下の2つがあります。
1.iDeCoを受け取った方は加入できない
2.公的年金を受け取りながら加入はできない
iDeCoを含む年金は「老後の生活を支える大切なお金」であるため、積立をするときも、受け取るときも大きな税制の優遇があります。積立をしながら受け取るということは、このメリットを二重取りすることになってしまうので、認められていないのです。年金の受取を始めてしまうと、積立をすることができなくなってしまいますので注意しましょう。
iDeCoに60歳以上で新たに加入する場合の注意点
iDeCoに60歳以上で新たに加入する場合は、受取が可能になるタイミングに注意する必要があります。
60歳以前に通算加入者等期間が10年以上ある場合は、60歳から受け取ることができます。前述の通り、60歳時点で全く積み立てた期間がなかった場合については、5年を経過すれば受け取れるようになりました。
注意点は、60歳まで企業型DCにもiDeCoにも加入していなかった場合、例えば63歳でiDeCoに新規加入すると、最長の65歳まで積み立てしたとしても、積み立て終了後すぐに受け取りができないということです。
65歳以降は積立による控除のメリットもなく、口座管理料を支払いながら受け取り可能年齢の68歳になるまで残高の運用を継続することになります。そのため、iDeCoに新たに加入するなら60歳以降は控え、できれば50代のうちに少額でも良いのでスタートしておくと良いでしょう。
改正ポイントその2 企業型確定拠出年金の加入者も、原則、iDeCoへの加入が可能に(2022年10月〜)
10月に行われた改正は、企業型DCに加入している人がiDeCoに入りやすくなるというものです。
企業型DCの加入者はiDeCoの3倍以上の約782万人もいます(2022年3月時点)。民間企業に勤めている従業員の5人に1人は加入している一般的な企業年金制度で、会社が出す掛金をiDeCoと同じように自分で商品を選んで運用し、60歳以降に受け取るという制度です。
これまでは、企業型DCに加入している場合、同時加入するには規約変更などをする必要があり、ほとんどの場合はiDeCoを利用することができませんでした。2022年10月からはこの制約がなくなり、企業型DC加入者であっても、ほとんどの場合iDeCoに加入できるようになりました。
引き続きiDeCoに同時加入できないケースは、例えば企業型DCにマッチング拠出(※)という仕組みがあり、それを利用している場合です。企業型DCにマッチング拠出の仕組みがある場合は、マッチング拠出かiDeCoかを自身で選択することになります。
(※)企業が毎月拠出する掛金に、従業員自身が「加入者掛金」として上乗せするかたちで拠出すること
企業型DCとiDeCoに同時加入する際の掛金の限度額
iDeCoは、もともと国や会社の年金に自分で上乗せする制度のため、国や会社の年金制度が充実している場合は積み立て可能な限度額が低く、自身で多く備えておいた方が良い場合には高く設定されています。
そのため、10月以降の企業型DCとiDeCoの同時加入にあたっても、勤務先に企業型DC以外にも企業年金制度があるか、企業型DCで会社が掛金をどれくらい出してくれているかでiDeCoの限度額が決まります。
企業型DC以外の企業年金として「確定給付企業年金(DB)」があります。確定給付企業年金というのは文字通り、給付額が会社ごとに決まっている制度です。大企業を中心に、約900万人の加入者がいます。
企業型DCや確定給付型年金と同時に加入する場合、iDeCoの掛金の上限額は①と②のいずれも満たす額となります。
① 2万円(1万2,000円)
② 会社掛金との合計が5万5,000円(2万7,500円)
()内は確定給付型企業年金に加入している場合
また、企業型DCとiDeCoに同時に加入する場合は、両方の掛金を毎月定額で拠出する必要があります。
2022年10月以降、企業型DCと同時加入する場合のiDeCoの掛金限度額を、企業型DCの残高や運用状況などが分かる加入者サイトで確認できるようになりました。限度額を超えると加入できませんので、企業型DC加入者の方はサイトで限度額を確認してからiDeCoのお申込をすると良いでしょう。
マッチング拠出とiDeCo、どう選ぶ?
前述の通り、マッチング拠出の仕組みがある企業型DCの場合は、iDeCoかマッチング拠出かを選んで利用することになります。いずれの方法で積立をしても、積立時、運用時の税制メリットは同じですが、費用や手間、限度額、商品といった点が異なります。これらを比較し、選ぶのが良いでしょう。
費用と手間という点では、マッチング拠出の方が口座管理料の負担がなく、運用する際の口座も一つで済むため、管理の手間もありません。iDeCoは、口座管理料の負担があり、運用の際に管理する口座も、企業型DCの口座とiDeCoの口座の2つを管理することになります。
積立限度額は、企業型DCの会社掛金が少ない場合はiDeCoの方が多くなります。これは、マッチング拠出の限度額に「会社が拠出する掛金以下」という条件があるからです。iDeCoの掛金の方が多くなるのは、企業型DCの会社掛金が、企業型DCのみの場合は月額2万円未満、確定給付企業年金と企業型DCの両方がある場合は月額1万2,000円未満が目安になります。
積立金額や税制メリットの大きさにこだわる方は、自分の場合、マッチング拠出とiDeCoのどちらがより多く積立ができるかで比較してみると良いでしょう。
運用商品の自由度はiDeCoの方が高いといえます。マッチング拠出は勤務先の企業型DCの中で提示されている商品の中から運用商品を選ぶことになります。もし自分が運用したい商品が会社のラインナップにない場合にiDeCoはその商品がある金融機関を探して契約することが可能だからです。
マッチング拠出とiDeCoの比較ポイントを以下の表にまとめましたので、参考にしてください。
マッチング拠出 | iDeCo同時加入 | |
---|---|---|
掛金 | ・マッチング拠出の限度額は会社が拠出する掛金以下 ・会社掛金との合計が5万5,000円(2万7,500円※)以下 | ・iDeCoの限度額は2万円(1万2,000円※)以下 ・会社掛金との合計が5万5,000円(2万7,500円※)以下 |
口座管理 | ・管理口座は一つのみ ・口座管理料は会社負担 | ・企業型DCとiDeCoの2つの口座を管理 ・iDeCoの口座管理料は本人負担 |
運用商品 | 企業型DCの中で提示されている商品のみ | 契約する金融機関により異なる。本人の意思で選択できる |
※確定給付企業年金にも加入している場合
マッチング拠出とiDeCoの選択は途中で変更することができるので、企業型DCの掛金が少ないうちはiDeCoを利用し、企業型DCの掛金が増えてきたらマッチング拠出に切り替え、iDeCoで運用してきた資産も企業型DCにまとめて運用管理するという方法も可能です。
ただし、契約する金融機関によっては資産をまとめる際に数千円の移換手数料がかかるので、将来企業型DCに資産をまとめる可能性があるのであれば、iDeCoを始める時に移換手数料のかからない契約先を選ぶ方が良いでしょう。
iDeCoの2022年改正としては、この5月と10月の改正が大きなものとなっています。
改正ポイントその3 受け取り開始時期の選択肢が60〜70歳から、60〜75歳までに拡大(2022年4月1日〜)
iDeCoの場合は、積立終了後も受け取り終えるまで運用を非課税で継続することができます(※)。つまり、受け取り時期を遅らせることは運用期間を延長することにもなるので、その間に運用している投資信託などが値上がりすれば、老後資産が増えることになります。ただし、マーケットの状況次第で減ってしまう可能性もあります。公的年金のように繰り下げすれば確実に受取額が増えるというわけではありません。
(※)保険商品を購入して年金として受け取る場合を除く
また、iDeCoは残高がある間、口座管理料がかかります。積み立てをせず残高の運用のみ行っている間、契約する金融機関によってかかる口座管理料は月額約70円〜500円と幅があります。受け取り開始を遅らせると口座管理料がかさみ、iDeCoの資産からその分差し引かれてしまうことになります。
老後資金の受取額が増えるうえに口座管理料などの費用もかからない別の方法として、公的年金の繰り下げという方法があります。iDeCoではなく公的年金のほうで受取開始時期の繰り下げを行い、65歳以降公的年金受け取り開始までの生活資金としてiDeCoを活用するのです。この方法であれば、繰り下げによって手厚くなった公的年金を亡くなるまでずっと受け取り続けることができます。
人生100年の時代、受け取り方法の工夫でも長生きリスクに備えられます。60歳に近くなったら受け取り方法についても考えてみると良いでしょう。
制度改正でより長く、より多くの人が利用できるようになったiDeCo。各個人で活用できる期間や積み立ての限度額などは異なります。自分が利用できるものはフルに活用して、賢く老後への備えをしていきましょう。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、証券投資取引の推奨・勧誘を目的とするものではありません。
・iDeCo(個人型確定拠出年金)は、原則60歳まで途中のお引出、脱退はできません。運用商品はご自身でご選択いただきます。運用の結果によっては、損失が生じる可能性があります。加入から受取が終了するまでの間、所定の手数料がかかります。
ライタープロフィール

確定拠出年金アナリスト
大手証券会社にて22年間勤務、一貫して「サラリーマンの資産形成ビジネス」に携わり、企業や官公庁での講演多数。確定拠出年金には制度スタート前から関わり、iDeCoの普及活動も行っている。株式会社オフィス・リベルタス取締役 NPO法人確定拠出年金教育協会理事 厚生労働省社会保障審議会 企業年金・個人年金部会委員。【主な著書】「図解 知識ゼロからはじめるiDeCoの入門書」(ソシム社)
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