「整理整頓」で何が変わる?片付けの効果とは
お話を伺ったのは、心理カウンセラーの大嶋信頼(おおしま・のぶより)先生。心のケアや人間関係にまつわる著書をはじめ、2019年には整理整頓を心理学や脳科学の視点から説いた『片づけられない自分がいますぐ変わる本』(あさ出版)を出版されました。まずは、整理整頓によって得られる効果をお聞きしました。
物を捨てることで、最適な選択ができる
脳には「シナプス」と呼ばれる、神経ネットワークがあります。生後9ヵ月頃に形成のピークを迎え、その後は「植木の剪定」のように不要なシナプスが除去され、必要なシナプスのみが残っていきます。このシナプスは、人間が健やかに過ごすうえで非常に重要な要素で、適切なバランスを保たなければ様々な弊害が起きるといいます。
大嶋先生によると、整理整頓はこのシナプスの刈り込みに効果的。自分の捨てたくない物を捨てていくことで脳内が適したバランスに整っていくため、「考えすぎて人間関係がうまくいかなくなる」「思考が散漫になり、ムダ遣いをする」といった事象も少なくなっていくそうです。
部屋を整理整頓すると、幸福度が高まる
脳科学の観点だけでなく、実は、空間心理学においても片付けの効果は立証されているのです。既に様々な研究でその効果は明らかになっており、整理整頓された環境には「人が慣習的で健康的な選択をできるよう促す効果」や「伝統的な社会規範に従うのを助ける効果」があり、結果的に幸福度の向上やQOL(Quality of Life:「生活の質」)の改善にも有効とされています。
反対に、散らかった空間には創造性を刺激する効果がある一方で、慣習的かつ伝統的な行動に抵抗を感じるという特徴があります。
誰でも片付け上手に!専門家が教える、整理整頓のコツ
部屋がすっきりするだけでなく、脳のシナプスや心理面にも大きく影響する「整理整頓」。そうと分かれば、すぐにでも片付けに取りかかりたいですよね。ここからは、片付けを容易に進めるための「整理整頓のコツ」を紹介します。
「全部捨てる!」というマインドで取り組む
「いずれ必要になるかもしれない」「これは思い出の品だし…」と考えてしまうと、スムーズに物を手放せないもの。最初から「すべて捨てる」と思いながら片付けを始めることで、今ある物への先入観を捨てて客観視することができ、本当に必要な物だけを残せるようになります。
効率的に片付けようとしない
ひとまず効率的な順序は考えずに、気付いた場所から淡々と片付けていきましょう。最初は小さな一歩でもその成功体験が積み重なることで、次第に整理整頓が楽しくなっていきます。
また、片付け中に「ムダな動き」をするのもポイントです。あえて非効率的に動くことで無意識に行動できるようになり、連鎖的に片付けが進んでいきます。
整理された部屋をキープしようと思わない
「片付けを習慣化する秘訣は、きれいな部屋を維持しようと思わないこと。常に完璧を追及する必要はないんです。『髪の毛が伸びてうざったいから美容室に行く』と同じように、なんらかのマイナス感情を抱いたタイミングで掃除をしてみましょう」と大嶋先生。
頭がゴチャゴチャして落ち着かないときや不安感が募るタイミングを一つの基準にすると、思った以上に高頻度で片付けができそうですね。
物を減らしたい!捨てるルールと残すルール
物を減らそうと思っても、どうしても思い切って捨てられない物もありますよね。では、「捨てる」と「残す」の基準はどこにあるのでしょうか。
大嶋先生は、「これ残した方が良いかな、と思っている時点でそれは不要な物です!」と断言。次の4点にあてはまる物は、すべて捨てるべきだといいます。
「捨てる」を決意する、4つのジャッジポイント
・一瞬でも「捨てた方が良いかな」と感じた
・いつかはフリマアプリやリサイクル店に売り出したい
・今は使っていないけど、いつかは必要になりそう
・使わないけど、もったいなくて捨てたくない
物を手放すシーンで役立つフリマアプリですが、たとえ売れる物であったとしても、いつまでも部屋の隅に眠らせておくのはNG。すぐに売り出せなかった品は、気付いた時点で手放しましょう。
思い出の品でも、あえて捨てる
写真や手紙、今は使っていないプレゼントなど、多くの人が「思い出の品」を捨てられないでいます。しかし、大嶋先生によると、思い出が詰まっている品でも、あえて捨てた方が良いのだそう。
「思い出の品を手放せないのは、『物を捨てる=思い出がなくなる』と考えているから。しかし人間の心理から考えると、心の中に残った記憶の方が美しく洗練されていきます。つまり、物理的な思い出を捨てて心の中にしまうことで、思い出はさらに輝いていく可能性もあるのです」
「いつか見返すかも」「とりあえず持っておこう」と思って、何十年も仕舞い込んでいるものは、手放すことを検討しても良いかもしれません。特に、ネガティブな思い出がほんの少しでも残っているなら即座に捨てるのがベター。物には記憶が紐づけられているため、物を残す限り記憶は劣化せず、いつまでも過去に縛られてしまいます。物を捨てることによって過去の悩みやネガティブな感情から脱却し、自分の心をアップデートしていきましょう。
整理整頓や片付けの習慣化によって、実際にどのような変化がある?
思考やメンタル面にプラスの影響を与える整理整頓。では、継続していくことでどのような変化が起こる可能性があるのでしょうか。「思考・行動」「生活」「家計」の3点に分けて、それぞれの変化や効果を見ていきましょう。
<思考・行動面の変化>
・怒りや不安を反芻しなくなる
・ストレスを受け流すことができる
・小さな幸せに気付く
・物事をシンプルに考えられるようになる
・ゴミの分別や列に並んで待つなど、社会規範に従うことが苦ではなくなる
<生活の変化>
・健康的な食事や運動習慣が自然に身に付く
・仕事や家事をルーティンとしてこなせるようになる
・他人と適切な距離で接するようになり、人間関係も整理されていく
<家計の変化>
・お金のことで一喜一憂しなくなる
・お金の流れを客観的に分析でき、計画的に家計を管理できるようになる
・興味をもって貯蓄や投資に取り組めるようになる
整理整頓で浮いたお金をどうする?これからのお金の使い道を考えよう
前述した通り、整理整頓は「お金の流れを客観的に分析できる」「興味をもって貯蓄や投資に取り組める」といったように、家計面にもプラスの変化をもたらす可能性があります。必要な物を取捨選択できるようになると、ムダ遣い(浪費)防止につながるのです。では、整理整頓によって浮いたお金を継続的に貯蓄したり、効率よく増やしたりするためにはどうすれば良いのでしょうか。
貯蓄をするためには、「先取り」が効果的
「余った分だけ貯蓄にまわそう」と考えても、なかなか貯まらないもの。つい自分に甘くなってしまい、浪費がかさんでしまいます。
家計を客観的に分析できるようになれば、無理なく毎月貯められる額を見通すこともできるでしょう。
給与が入るタイミングであらかじめ決めた金額を先に貯蓄に回す「先取り貯蓄」をすると、継続的に貯蓄しやすくなります。
毎月〇円と目標額を決める→貯蓄用口座に入金→余った金額でやりくりするというスタイルを確立しましょう。
「最初は大変かもしれませんが、少額であっても貯蓄を続けるうちに『脳のマインド』も変わっていきます。貯められたという成功体験が積み重なって、貯める喜びを味わえるように変化していくんです」と大嶋先生。
先取り貯蓄を習慣化する秘訣は、当初決めた金額でひとまず3ヵ月間続けてみること。難しいと感じた場合は、3ヵ月後に一度金額を見直すようにしましょう。
余裕が生まれたら、投資という選択肢も
整理整頓が習慣化すると、情報を適切に整理でき、株価の変動などにも一喜一憂せず前向きな気持ちを維持できるようになります。
貯蓄が継続できるようになったら、貯めるだけではなく「投資」という手段もあります。投資というとハードルが高いと思われるかもしれませんが、少額からこつこつ積み立てられる投資方法もあります。長期に積立投資を継続することで、リスクを低減しながら効率的な資産形成につながります。
積立投資についてはこちらも参考にしてみてください。
あの頃から毎月1万円投資してたらどうなってた?最も初歩的な「積立投資」入門
未来を変えるために、今日から「整理整頓」を始めよう
思考・行動や生活面、さらには家計にまで、大きな変化をもたらす可能性のある整理整頓。現在、そして未来を変えるために、まずは無理のない範囲で今日からさっそく整理整頓を始めてみましょう。
この人に聞きました
心理カウンセラー。株式会社インサイト・カウンセリング代表取締役。米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。ブリーフ・セラピーのFAP療法(Free from Anxiety Program 不安からの解放プログラム)の開発者。心的外傷(トラウマ、心の傷)を始めとした多くの症例の治療をおこない、カウンセリング歴は29年、臨床経験のべ9万件以上。ベストセラーの『「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法』(すばる舎)『誰にも嫌われずに同調圧力をサラリとかわす方法』(祥伝社)他、著書多数。
ライタープロフィール
金融機関勤務を経て、フリーライター/編集者に転身。現在は企業パンフレットや商業誌の執筆・編集、採用ページのブランディング、ウェブ媒体のディレクションなど、幅広く担当している。
山本 杏奈の記事一覧はこちら