大副業時代に知っておきたい確定申告4つの注意点

大副業時代に知っておきたい確定申告4つの注意点

大副業時代に知っておきたい確定申告4つの注意点

人生100年時代といわれる中、収入アップや自分らしい生き方を実現する選択肢として副業を行う方も増えています。しかし、副業は収入額によっては確定申告が必要に。確定申告の義務が生じる場合や申告時の注意点を税理士の中村太郎さんに聞きました。

副業収入が20万円を超えたら確定申告の義務がある

副業収入が20万円を超えたら確定申告の義務がある

2018年、厚生労働省が公表している「モデル就業規則」から「許可無く他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」という副業・兼業についての規定が新設されました。

また、副業・兼業の促進に関するガイドラインも作成され、副業・兼業のメリットや留意すべき点を述べたうえで「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」と企業の姿勢についても言及しています。

出典:厚生労働省労働基準局監督課 モデル就業規則(外部サイト)
出典:厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン(外部サイト)

厚生労働省の指針を受け、副業を認める企業も少しずつ増えています。読者の方の中にも、今の企業に勤めながら、副業を始めようと考えている方もいるのではないでしょうか。

ここで注意したいのが、副業の規模によっては所得税の確定申告が必要になる場合があるということです。

通常、会社員や公務員など勤め先から給与をもらっている方は、源泉徴収で所得税が天引きされているため、自身で納税額の申告や納税をする必要は基本的にありません。

ただし、医療費控除などを利用した場合や住宅ローン控除を利用する初年度など、確定申告が必要になるいくつかの例外があります。副業を行っている場合、その例外の条件に該当する可能性があるのです。

その条件とは、企業に勤めていて、

・アルバイトやパートといった副業の給与収入が年間で20万円を超える
・アフィリエイトサイトやブログの運営といった副業の所得が年間20万円を超える
・副業の給与収入および所得の合計が年間20万円を超える

という、3つの場合です。

なお、給与収入には勤め先から支払われた給与の他、賞与も含めます。一方、所得は収入から必要経費などを引いた金額です。例えば、ブログの運営で100万円の収入があったとしても、パソコンの購入費用など経費として認められる出費が80万円あった場合は所得が20万円となるので、確定申告の義務はありません。

副業を始めて確定申告が必要になる際の注意点を、中村太郎税理士事務所の中村太郎さんに伺います。

確定申告の注意点

確定申告の注意点

【注意点1】副業の収入や所得が20万円を超えていなくても、住民税の申告は必要に

前述しましたが、副業の収入や所得が20万円を超えていない場合は、確定申告はしなくても良いことになっています。しかし、この20万円ルールが適用されるのは所得税の確定申告のみ。住民税については、副業の収入や所得がある方は金額にかかわらず自身で市区町村に申告をする必要があります。
住民税とは市区町村に納める税金で、納税額は所得を基に計算されます。通常、納税者の所得は確定申告を行うことで税務署から市区町村に共有され、その所得を基に計算されるのです。

一方、副業による収入・所得があるにもかかわらず確定申告を行わなかった場合、本来は住民税の課税の対象となる副業の所得を自治体が把握することができません。

その結果、申告漏れとなり住民税の納め忘れが発生してしまうのです。税金を滞納するとペナルティとして延滞金を支払わなくてはならないため、注意が必要です。

「副業の収入・所得が20万円以下だったとしても、所得税の確定申告や年末調整を期限内に行っていれば、住民税の申告は不要です。確定申告と住民税の申告の手間はそれほど差がないため、確定申告をした方が無難でしょう。所得税があがらないという意味では住民税の申告のみを申請する方がメリットはありますが、20万円程度で得られる恩恵はそこまで大きくありません」

将来的に副業が本業となった場合は、過去の確定申告を税務署や融資を受ける金融機関などに求められる場合があるそうです。そういった意味でも、20万円を超えていなくても所得税の確定申告を行っておくのが良いといいます。

【注意点2】普通徴収と特別徴収で住民税の納め方が変わる

所得税の確定申告では、住民税の納税方法を、自分で納税する「普通徴収」、もしくは本業の勤め先の給料から天引きされる「特別徴収」のどちらかから選びます。

「このうち、特別徴収では本業の勤め先に住民税の納付書が送られます。つまり副業で得た所得を確定申告した場合、その勤め先の給与のみで計算した場合の住民税額よりも、実際に天引きする住民税額が多くなった納付書が勤め先に届くことになります」

ただし、ここでも注意点が一つ。副業収入は大きく雑所得と給与所得との2つに大別されます。

雑所得とは確定申告書に記載のあるどの項目にも当てはまらない所得のことで、副業では原稿料やSNSでのアフィリエイト収入、フリマアプリでの売買収入などがあげられます。

給与所得はアルバイトやパートなど会社と雇用契約を結んで副業をする場合に支払われる賃金などです。給与所得は、ほとんどの場合、普通徴収を選択できません(※)。
※普通徴収を選択可能な場合についてはお住まいの地域の情報をご確認ください

確定申告では雑所得と給与所得を明確に分けて記入する決まりがあります。もし提出後、雑所得を給与所得に、給与所得を雑所得に誤って記入していた場合、改めて申告書を提出し直す必要があります。

【注意点3】申告期限を守る

基本的に1月1日から12月31日までの1年間で生じた所得については、その翌年の2月16日から3月15日まで(※)の間に確定申告を行う必要があります。
※年によっては申告期間が変更となる場合もあるため、国税庁のウェブサイトをご確認ください

もし期限内の申告を忘れてしまった場合でも後から手続きを行うことは可能ですが、その場合は無申告課税がプラスされてしまいます。無申告課税は本来納付すべき税額に対して、50万円までは15パーセントが、50万円を超える部分には20パーセントが加算されます。

ただし、税務署から指摘がある前に自主的に期限後申告した場合はそれぞれ5パーセントに軽減されます。 

その他、次の要件をすべて満たす場合には無申告課税は課されません。

1.その期限後申告が、法定申告期限から1月以内に自主的に行われていること。
2.期限内申告をする意思があったと認められる一定の場合に該当すること。

一定の場合とは、次の(1)及び(2)のいずれにも該当する場合をいいます。

(1)その期限後申告に係る納付すべき税額の全額を法定納期限(口座振替納付の手続をした場合は、期限後申告書を提出した日)までに納付していること。

(2)その期限後申告書を提出した日の前日から起算して5年前までの間に、無申告加算税又は重加算税を課されたことがなく、かつ、期限内申告をする意思があったと認められる場合の無申告加算税の不適用を受けていないこと。

出典:国税庁 No.2024 確定申告を忘れたとき(外部サイト)

なお、普通徴収を選択した場合、確定申告の期限までに副業分の所得税も納める必要があります。自分で所得税を納める方法は大きく分けて5つあります。

1.金融機関または税務署の窓口で現金で納付
2.口座振替(振替納税)
3.e-TAXで納付
4.クレジットカードで納付
5.QRコードによりコンビニエンスストアで納付

1の『金融機関または税務署の窓口で現金で納付』は、銀行などへ直接足を運び、納付書に納付額を書いて支払う方法です。
「銀行口座を持っていない方や、インターネットの利用が苦手な方に向いています」
と中村さん。

2の『口座振替』は納税額が自動で引き落とされる他、納税期日が通常よりも1ヵ月ほど先延ばしになるという特徴があります。ただし、利用には事前の申請が必要です。

また、e-TAXを使用すれば国税に関する各種の手続きについて、インターネットなどで電子的に行うことができます。その場合、e-TAXで手続きをして預貯金口座から振り替えるダイレクト納付と、インターネットバンキングなどから納付する方法を選べます。

「ダイレクト納付は個人事業主や事業規模の大きい方向け。従業員の源泉所得税などもあわせて納税できる方法です」

最後に、コンビニエンスストアで納付する場合は、国税庁ウェブサイトの確定申告書等作成コーナーやコンビニ納付用QRコード作成専用画面からQRコードを作成する必要があります。なお、納付できる金額は30万円以下となるので注意しましょう。

出典:国税庁 納税の方法(外部サイト)

【注意点4】控除対象の支払いは年末までに行う

控除とは、課税対象となる所得の合計から一定額を差し引ける仕組みのこと。控除が多いほど、所得税の計算の基となる課税所得が少なくなるため、所得税も少なくなります。控除にはいくつか種類があり、給与所得者の場合は年末調整で控除の計算が行われます。しかし、中には確定申告をしなければ適用されない控除もあります。これらは副業収入にかかる確定申告と同時に手続きするので、あわせて確認しておく必要があります。

医療費控除はその一つです。年間の医療費が一定額を超えた場合、超えた金額分が課税所得から控除されます。

「確定申告の時期に慌てないためにも、普段からレシートや領収書など、必要書類を用意しておきましょう。特に医療費控除は家族単位で医療費を計算できるので、医療機関の領収書はしっかり管理しておきたいところです」

医療費控除については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
医療費控除とどう違う?「セルフメディケーション税制」

他にも多くの人が利用できる控除として、ふるさと納税による寄付金控除があげられます。

ふるさと納税は自分が選んだ都道府県や市町村に寄付をすることで、寄付金額から2,000円を差し引いた金額が今年の所得税と翌年の住民税から控除され、さらにお礼の品も届く制度です。また、ふるさと納税を行う自治体は複数選べます。ふるさと納税による控除は確定申告の他、寄付先の自治体が5つ以内なら年末調整で寄付金控除を受けられる「ワンストップ特例制度」という制度も選べます。

なお、2022年以降の確定申告から、ふるさと納税の確定申告が簡素化されます。

これまで、ふるさと納税の確定申告をするためには寄付先の自治体それぞれの「寄付金受領の証明書」を添付する必要がありました。

「2022年以降は、国税庁指定のふるさと納税サイトごとに発行される『寄付金控除に関する証明書』が1枚あれば手続きが済むようになります。複数のサイトからふるさと納税を行っている人は、その分だけ証明書が必要になりますが、それでも従来より書類の数は格段に少なくなります」

確定申告はどうしても必要書類が多くなってしまいがちですから、この改正はありがたいですね。

ふるさと納税については、こちらの記事でも紹介しています。
ふるさと納税の節税効果とユニークな返礼品

確定申告をラクに済ませたいならスマートフォンが便利

確定申告をラクに済ませたいならスマートフォンが便利

2019年から確定申告はスマートフォンでも行えるようになりました。作成から提出までスマートフォン一つで完結するため、一部特別な手続きが必要な書類を除き、申告書を郵送したり、直接税務署に出向いて提出したりする必要がありません。

現在はIDとパスワードによる申請と、マイナンバーカードを利用した申請の2パターンから選ぶことができます。IDとパスワードを利用して申請する場合は、IDとパスワードを税務署に行って発行してもらう必要があります。一方、マイナンバーカードを利用する場合、自宅にマイナンバー対応のカードリーダーがあるか、スマートフォンがマイナンバーカードの読み取りに対応していればマイナンバーカードをかざすだけでログインが可能です。

ここでは、例としてマイナンバーカード方式を利用する場合の手順を紹介します。

1.国税庁サイトの「確定申告書等作成コーナー」へアクセス
国税庁 確定申告書等作成コーナー(外部サイト)
2.「作成開始」をクリック
3.「申告内容に関する質問」を順次回答し、「Q.提出方法を選択してください」で「e-TAX(マイナンバーカード方式)」を選択
4.「マイナポータルAP」のアプリをインストール
5.「 ログイン」画面からマイナンバーカードの読み取りを行う
6.マイナンバーカード方式の利用開始手続きを行っていない場合、マイナンバーカードの情報を確認
7.確認後、利用者情報を入力
8.申告開始

スマートフォンでの申告は確定申告の時期であれば24時間利用可能な他、申告したデータはスマートフォン本体に保存して管理することもできます。

ただし、副業収入以外に株式投資の利益や不動産、譲渡所得がある場合は利用できないので注意しましょう。

まとめ

年末調整がある会社員にとって、確定申告はあまり縁の無いものです。しかし、副業を始めた方には確定申告の義務が生じる場合もあります。もし、義務があるのに確定申告をしないとペナルティが課される可能性も。いざというときに慌てないためにも、今のうちからどんな場合に確定申告が必要なのか、どうやって行うのかを把握しておきましょう。

参考:
厚生労働省労働基準局監督課 モデル就業規則(外部サイト)
厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン(外部サイト)
国税庁 No.2024 確定申告を忘れたとき(外部サイト)
国税庁 納税の方法(外部サイト)
税務署 スマートフォンで初めてマイナンバーカード方式を利用する場合の画面の流れ【Android・iPhone 共通】 ~令和3年1月4日以降~(外部サイト)

・QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

この人に聞きました
中村太郎さん
中村太郎さん
税理士、行政書士、ファイナンシャル・プランナー。中村太郎税理士事務所所長。中小企業を中心とした法人・個人への税務・財務指導を20年間で300社超経験。 税理士として中小企業の節税コンサルティングを得意とし、中小企業の独立・起業相談や税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実なサポートに定評がある。
ライタープロフィール
笠木 渉太
笠木 渉太
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。

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