会社員は55歳から減収が始まる
55歳、多少身体に変化があってもまだまだ気力は十分。しかし、企業の中では55歳から少しずつ立場や賃金に変化があります。会社員である場合、表にあるように収入のピークは50歳〜54歳の期間にあり、これ以降は徐々に収入が減る人が大半なのです。

さらに、60歳となってからはよりシビアです。「高齢者雇用安定法」では65歳まで働けるよう企業に要請していますが、全企業が一律定年を5年伸ばしたわけではありません。法律では以下の三つの制度のうちの一つを選ぶことになっています。
1. 定年制の廃止
2. 定年の引きあげ
3. 65歳まで再雇用など継続的な雇用
しかし、実際は「3」を選ぶ企業がほとんどです。そして、再雇用の際には非正規へと雇用形態が変わる場合も多く、それに伴い賃金も時給制となるなど、さらに減少するケースもあります。

そうはいっても平均寿命である84.10歳(男性は81.50歳、女性は87.32歳)を目安とするなら、教育負担がピークを打つ55歳の時点から、再度資産形成について戦略を練るべきではないでしょうか。
実は55歳は家計と資産形成の見直しに良いタイミング

55歳は大半の家庭で子供が大学卒業・独立を迎え、教育費や子供に関係する諸経費の目途がたち、自分たちの老後資金について考える契機になります。
日本政策金融公庫の「令和元年度 教育費負担の実態調査結果」を見ると、大学の在学費用(年間の学校教育費+家庭教育費)は、国公立大学で107.0万円、私立文系で157.6万円、私立理系で184.3万円となっています。初年度はこれに入学金(国公立71.4万円、私立文系86.6万円、私立理系84.5万円)が加算されます。
子供が何人いるか、いくつ違いかによって親の教育費負担がなくなるタイミングは異なりますが、例えば家庭の主な稼ぎ主が50歳で年収700万円、配偶者が年収100万円、大学2年生と高校生3年生の子供がいて、まだ住宅ローンなどの出費もあると、普通に生活していても家計はギリギリか赤字の家庭も多いでしょう。
この家庭の場合、子供二人が順調に卒業して就職し、教育費負担がなくなるのは55歳頃です。ここからは年間100万円単位で負担が少なくなるので、家計や資産形成の見直しを図るには絶好のタイミングといえます。
その際、まず第1ステップとして、これからの人生を送るのに、どのくらいの資金を最低限準備すべきか把握する必要があるでしょう。65歳以降は、夫婦とも公的年金の受給があります。二人でいくらの年金を受給できるのか、まずは誕生月に毎年送られてくる「ねんきん定期便」で確認しましょう。家計調査によると、一般的な年金世帯では、年金受給だけでは、月4万以上の資金が足りないという調査結果もあります。ここから試算すると、年間48万円、夫が90歳まで生きると仮定して、25年間ですから、1,200万円は準備が必要と計算できます。
この金額を55歳から64歳までの10年間で準備するとなると、年120万円を貯めていく必要があることが分かります。
ねんきん定期便については「将来の年金額がすぐ分かる『ねんきん定期便』の見方」で詳しくご紹介しています。
次のステップとして、年に120万円貯金をできるよう、家計の見直しをしていくことも大事です。
生活費などの支出の内容をチェックして、今後の人生に必要なさそうなものや、カットできそうなものを見てみます。意外と大きな額のもの(例えば月に数回の会食、年に複数回の旅行など)の回数や内容を見直したり、保険の内容から不必要なオプションをカットしたりしていきましょう。自家用車を保有していたら、カーシェアリングの利用に切り替えれば維持費と自動車税の負担も減ります。
また、資金を定期預金に置いておくだけでは、なかなか増えていきません。一部の資金を投資運用商品で積み立てた場合の試算をしてみる、といったことも大事です。
毎月いくらの積み立てをし、運用利回りがどのくらいだと、いくつでどのくらいの運用益が出るか、金融庁サイトでシミュレーションしてみてイメージをつかんでみるのも良いでしょう。
資産運用シミュレーション(外部サイト)
また、年齢や家族構成、将来実現したいことや、収入や貯蓄額などを入力し、マネープランをシミュレーションできるサービスもあります。
ライフデザイン・ナビゲーション(外部サイト)
50代からでもできる資産形成は?

50代以降の資産形成の方法は?
50代からの資産形成はどのように考えれば良いでしょうか。前述したように、55歳前後は収入が減っていく一方、子供が独立して別のことにお金を回すことができるようになります。つまりこの時期が資産形成を始めるチャンスといえます。ただし、年齢的にも老後資金を積み立てるという目的からも無理は禁物。あまりハイリスクなものは避けた方が良いでしょう。
手段は色々ありますが、ここでは、リスクを抑えて着実に資産形成できる方法を考えてみます。
1. iDeCoイデコ(個人型確定拠出年金)
iDeCo(個人型確定拠出年金)は老後の資産形成を支援するために確定拠出年金法に基づき実施されている私的年金制度です。掛金を積み立て、預金や投資信託など自分が選んだ商品で運用した後、原則60歳以降に年金または一時金で受け取ります。掛金の全額が所得控除の対象となるなど、大きな税制優遇があることが魅力です。
積み立てながら節税効果も得られる「iDeCo」
自営業や学生、専業主婦(夫)、会社員、公務員で20歳以上なら加入が可能で、60歳までの期間に掛金を積み立てて運用していきます。さらに、法改正により2022年から会社員などの場合(※1)は、積み立てられる期間が65歳までに延長される予定で、50代からであっても加入するメリットが十分にある制度です。
iDeCoの特徴は手厚い税制優遇です。掛金を全額所得控除できる他、運用中の利益・運用益は非課税(※2)、原則60歳から「老齢給付金」として受け取る際も各種控除があり、 3段階で税制上の優遇措置が設けられています。
例えば、企業年金のない会社員の場合、月に2万3,000円の掛金を拠出すると、60歳までの5年間で、138万円、10年なら276万円を積み立てられることになります。
また、節税効果は、年収600万円の人が、月2万3,000円を積み立てた場合、所得税が年2万7,600円(※3)、住民税が年2万7,600円(※3)、計年間5万5,200円の税軽減となります。60歳まででも、27万6,000円の軽減額(※4)となります。
※1 2022年5月からは、国民年金被保険者であれば65歳まで積み立てを継続できるようになります。60歳以降は第2号被保険者または任意加入被保険者が対象です。
※2 運用中の年金資産には1.173%の特別法人税がかかりますが、現在は課税が凍結されています。
※3 給与所得控除、社会保険料控除15%、基礎控除を引いた額を課税所得とし、所得税・住民税を課税した場合の試算です。その他の控除については考慮しておりません。
※4 期間中年収が一定の前提です。
また、仮に利回り年3%で10年間運用できたとすると、積立合計額276万円から運用益で45万円ほど資産が増えます。通常、金融商品で出た利益には約20%課税されますが、iDeCoは非課税なので全額が手元に残り、効率的に資産を増やすことができます。
受取時は、受取方法によって公的年金等控除や退職所得控除の対象となる点も魅力です。
受け取れる年齢は、加入時期等によって決まる
留意点としては、60歳から受給するためには通算加入者等期間(※5)が10年以上なければなりません。55歳から60歳までの4年以上6年未満の加入だと受給開始は63歳以降となります。受給を開始する年齢は、受給可能年齢である60歳から70歳までの間で自由に選べるため、ライフプランに合わせて受給開始のタイミングを検討しましょう。(※6)。
※5 通算加入者等期間とは、加入者または加入者であった方が60歳に達した時点で、1.企業型確定拠出年金加入者期間、2.企業型確定拠出年金運用指図者期間、3.個人型確定拠出年金加入者期間、4.個人型確定拠出年金運用指図者期間の各期間を合計したものです。なお、企業の退職金制度や企業年金制度から資産を確定拠出年金に移す場合(移換といいます)、過去の加入期間(60歳未満の期間に限る)が通算加入者等期間に合算されます。
※6 2022年4月から、受給開始の上限年齢が75歳に引きあげられます。
通算加入者等期間 | 10年以上 | 8年以上 10年未満 | 6年以上 8年未満 | 4年以上 6年未満 | 2年以上 4年未満 | 1ヵ月以上 2年未満 |
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受給開始可能年齢 | 60歳 | 61歳 | 62歳 | 63歳 | 64歳 | 65歳 |
※老齢給付金の受取開始可能年齢
iDeCoの加入資格や詳しい内容については国民年金基金連合会の公式サイトをご覧ください。また、銀行や証券会社など運用会社の説明サイトも充実しています。
iDeCo公式サイト(外部サイト)
2. つみたてNISA(少額投資非課税制度)
少額で長期の積立を分散投資することを支援する非課税制度として2018年にスタートしたのが「つみたてNISA」です。
年間40万円までの投資額で、得た利益が最長20年非課税となります。仮に60歳まで投資をした場合、5年間で最大200万円の運用で得た利益が非課税ですが、65歳までの10年間投資すると最大400万円、さらに、再雇用などの制度で70歳まで現役として働くのであれば、15年間で600万円を非課税で運用できることになります。
老後はできるだけ安定した豊かな生活を送りたいもの。この節目に10年、20年先を見据えて改めて資産を見直してみてはいかがでしょう。
つみたてNISAの留意点としては、1年の投資金額は40万円が上限であることです。長期運用の方がメリットは大きいため、短期間で利益を求めたい人には不向きかもしれません。
若い世代からの資産形成も大切
ライフステージ上収入は減るものの、子供が独立していき家計にゆとりが出るのは55歳頃からというわけですが、できるのであれば、早いうちから将来を見越した資産形成を考えたいものです。若い世代はライフイベントも多く、運用への資金を確保するのがなかなかむずかしいかもしれません。
しかし、例えば月1万円を積立投資するという方法があります。もし月1万円で仮に利回り年5パーセント、10年間の運用をしたとすると、積立結果は約155万円となります。万が一、世界経済に影響を及ぼすような問題が起こり、運用利回りが一時的に下がっても、若ければそのまま運用を続け、長期的にプラスに転化する可能性もあります。長い目で戦略を立てられるのは若い世代ならではのメリットといえるでしょう。
まとめ
55歳頃は老後資金作りを考え、資産運用の見直しをする絶好の機会です。今までの出費を見直し、自分たちの次の人生のステージに向けて、投資に踏み出してみるのも一つの選択肢です。人生100年時代の老後に向けて、老後に備える資産形成を検討してみてはいかがでしょうか?
参考:
・総務省統計局、家計調査年報(家計収支編)2018年(平成30年) 家計の概要(外部サイト)
<iDeCoに関するご留意事項>
iDeCoは原則、60歳まで途中のお引出、脱退はできません。運用商品はご自身でご選択いただきます。運用の結果によっては、損失が生じる可能性があります。加入から受取が終了するまでの間、所定の手数料がかかります。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、お客さまに証券投資取引に関して何らの推奨・勧誘も目的とするものではありません。
ライタープロフィール

地方移住や人生のセカンドステージ、環境問題、暮らしなどを幅広く取材するが、ライフワークは「人と自然の関わり」で、主に島(特に小笠原)をフィールドとして取材を重ねる。「小笠原が救った鳥」(緑風出版)「小笠原自然観察ガイド」(山と渓谷社)など、小笠原に関する著作は5冊。
有川美紀子 紹介ページ(外部サイト)
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