2022年度から始まる「資産形成」の授業。子供の金融教育はどう変わる?

2022年度から始まる「資産形成」の授業。子供の金融教育はどう変わる?

2022年度から始まる「資産形成」の授業。子供の金融教育はどう変わる?

近年、子供向けマネーセミナーの開催や、高校の家庭科で資産形成の視点に触れることが規定されるなど、学内外で子供の金融教育が広がりつつあります。ここでは、そんな子供の金融リテラシー向上をめざす学校教育や国、企業の取り組みを紹介します。

高校の家庭科の授業で「資産形成」について触れられる

高校の家庭科の授業で「資産形成」について触れられる

金融庁では2021年現在、金融庁職員が学校に出向く出張授業や、中学生・高校生向けに「金融リテラシー講座」の授業動画を配信するなど、子供が金融教育を受けられる機会の増加に取り組んでいます。教員向けにもセミナーを実施するなど、体制強化は着々と進められているようです。

また、文部科学省は2022年度から高校の家庭科の授業で「資産形成」の視点に触れることを学習指導要領で規定。株式や投資信託などの金融商品の特徴や、キャッシュレス決済や投資におけるリスクとリターンなど、幅広い内容を学校で教えることが計画されています。

これまで日本の教育機関では金融教育はほとんど行われてきませんでした。それがなぜ、近年大きく変わってきたのでしょうか。

答えは、社会の中で私たちとお金との距離感や接し方が、大きく変化しつつあるからといえます。

例えば2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。これによって高校生を除く18歳以上であれば、親の同意を得ずに、クレジットカードやローンの契約ができるようになります。これらは収入と支出の家計管理はもちろん、与信や融資の基本的な知識がないまま利用してしまうと、返済の滞納などのリスクにつながります。

また、2020年に金融広報中央委員会が公表した「家計の金融行動に関する世論調査」では、年金不足や貯蓄がないことから、老後の生活に不安がある層が増加したことが分かりました。現在は「人生100年時代」ともいわれ、平均寿命の伸びとともに資産寿命に対する懸念が高まっています。

さらに、学習指導要領では、金融リテラシーに関わる大きな社会環境の変化として、「デジタル社会へのシフト」が取り上げられています。

現代の子供たちのスマホ所有率は年々上昇しています。子供たちはインターネットを通じて、簡単に様々な商品や情報へアクセスできる環境にいます。親のクレジットカード情報を使えば、欲しいものがすぐに手に入るという知識もあると考えられるでしょう。現金で商品を対面取引するよりも、容易に物を得ることができる反面、お金の価値に対する実感を持ちにくくなってしまうことで、思わぬ事態につながることもあるようです。

例えば、親のクレジットカードを使ってオンラインゲーム内で高額な決済を行ってしまったり、有害サイトの広告を通じてワンクリック詐欺※の被害に遭ってしまうなど、大人の目が届かないところでトラブルに巻き込まれてしまうケースが増加しているようです。
※ウェブサイトや電子メールに記載されたURLを一度クリックしただけで、一方的にサービスの契約成立を宣言され、多額の料金の支払いを求められる詐欺

ワンクリック詐欺は一方的な契約であり、買い手と売り手の合意がなければ買い手はお金を支払う必要はありません。このようなインターネット上で起こりうるお金に関するトラブルから、子供たちを守るための基礎知識を教える機会があれば、不要なゲーム内の課金や詐欺などに遭うリスクは防げるはずです。

またネガティブなケースに限らず、キャッシュレス決済や仮想通貨の普及など、お金の概念や枠組みは従来から大きく変化しつつあります。急速に進化する時代に対応していくために、子供のうちからお金の仕組みを理解し、将来に備えて家計管理や資産形成などの教育を受けることが必要とされているのです。

国もお金に関するゲームやアニメなど子供向けコンテンツを強化

国もお金に関するゲームやアニメなど子供向けコンテンツを強化

高校の家庭科で資産形成の視点に触れる授業が開始されると紹介しましたが、金融教育を受けられるのは、高校生だけではありません。小・中学校でも、貯蓄の必要性や経済の基本的な仕組みについて解説する授業の実施が検討されています。

また、子供の金融リテラシー向上の活動は学校外でも広がっています。実際に小・中学生向けに行われている金融教育をご紹介しましょう。

クイズやミニゲーム形式で学べる小学生向けサイト(金融庁)

国が主導する金融教育として、金融庁は日本銀行や財務省と連携し、ゲームを通じてお金の仕組みを学べる小学生向けのサイトを開設しました。

ここでは、クイズやミニゲームで遊びながら、税金の種類や経済の仕組みについて学ぶことができます。

給料や買い物でお金の流れを学ぶキッズ向けコーナー(金融広報中央委員会)

金融に関する広報活動を行う金融広報中央委員会も、子供向けコンテンツを設置しています。金融情報サイト「知るぽると」に、未就学児でもお金の基礎を学べるキッズコーナーを開設。

給料をもらい、買い物をするシミュレーションを行うことで、お金の流れを体験するゲームや「おかね」「きんゆう」「けいざい」のジャンルごとのクイズ、お金のことを分かりやすく説明するアニメなどが用意されています。

金融機関などの民間企業での取り組み

民間の金融機関でも、本業を生かした金融経済教育に取り組んでいます。例えば、みずほフィナンシャルグループでは、東京学芸大学と共同で金融経済教育のテキストや映像教材を開発し、教育現場への配布や、授業を実施。総合金融サービスの提供を通じて培ってきた金融に関する実務知識やノウハウを生かし、金融経済教育を支援しています。
夏にはみずほフィナンシャルグループ、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券と共同で「子どもサマー・スクール」を開催。2021年度は、お金の基本知識や、銀行・証券の仕事を学んだり、またみずほ銀行の「みらいカルタ」を使ったワークで、未来とお金について考える授業が開催されました。

「みらいカルタ」については、こちらのページで紹介しています。
「みらいカルタ」実験ドキュメンタリームービー

また、大学での「みらいカルタ」を使った取り組みについて紹介した記事はこちらです。
「やりたいことが見つからない」“みらいカルタ”を使った大学での取り組み(前編)
夢を夢で終わらせない。未来実現に必要な「お金」を考える(後編)

その他にも、子供向けのマネーセミナーや体験型スクールを手がける事業者が増加しています。例えば、日本こどもの生き抜く力育成協会の「キッズ・マネー・スクール」では、全国各地で子供の年齢に応じた講座が開催されています。

幼少期から展開される海外での金融教育事情

幼少期から展開される海外での金融教育事情

日本に比べると、欧米では学校や家庭でも金融教育が進んでいるといわれており、幼い頃からお金に関する知識を学ぶ習慣があるようです。

では、それぞれの国がどのような理由で金融教育を意識するようになったのか紹介していきましょう。

サブプライムローン問題が背景にあったアメリカ

アメリカで金融教育が強化され始めたのは、2007年~2008年に起きた世界金融危機の要因ともいわれるサブプライムローン問題が背景として考えられています。当時のアメリカでは、消費者が家を購入する際の住宅ローンにおける過剰な貸付によって、金融機関は資金回収が困難となり、世界的規模での金融危機の一因となりました。政府はこの問題を、金融商品を取り扱う企業側だけの責任ではなく、消費者の金融リテラシー不足が原因だと考え、金融教育に力を入れるようになります。

例えば、金融教育を行う民間団体へ補助金を出すことで活動を後押ししたり、金融教育を含む経済科目の学力水準の改善をめざす教育改革を行うなど、経済全体を豊かにするための消費者育成活動が現在でも活発に行われています。

イギリスは不正販売問題の反省がきっかけに

イギリスでは、1990年代に加入者の利益につながらない金融商品の不正販売が頻発し社会問題となりました。この失敗を教訓として、金融トラブルの予防策を講じる目的で、全国民に向けた金融教育のための新しいツールの提供や、学校教育における金融教育コンテンツの拡充、ガイドブックの作成など世界に先駆けて金融教育が推進されるようになりました。

このように諸外国の金融リテラシーの高さには、政府が主導するかたちで、子供も対象として金融教育を広げてきた経緯があります。

まとめ

前述の通り、欧米に比べ日本の金融教育は後れを取ってきたのが実態です。2019年に金融広報中央委員会が行った「金融リテラシー調査」では、金融教育を受けたと認識していない層が回答者の約7割にも上ります。さらに同調査では、約7割が「学校において金融教育を行うべき」と回答。金融知識の不足について多くの人が危機感を抱いているようです。

金融リテラシーに対する関心が高い今、日本でも政府による金融教育がいよいよ本格化しようとしています。しかし、教育が必要なのは子供だけではありません。未来の社会に正しい金融知識を広く定着させるためには、我々大人も少しずつ金融リテラシーの向上を意識し、情報を得ていくことが大切といえそうです。

参考:
日本証券業協会:金融経済教育を推進する研究会(外部サイト)
金融広報中央委員会「知るぽると」(外部サイト)

ライタープロフィール
八坂 都子
八坂 都子
育児系雑誌の編集アシスタント、美術系出版社にて編集記者を経て2020年にペロンパワークス・プロダクション入社。マネー系を中心にカルチャーなど幅広いテーマで記事執筆・コンテンツ制作を行う。

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