専門家に聞く、独立・起業する前に知りたいお金の話

専門家に聞く、独立・起業する前に知りたいお金の話

専門家に聞く、独立・起業する前に知りたいお金の話

独立したい!自分の会社を立ちあげたい!でも、お金ってどれくらい必要なの?夢はあるけれど知識はさっぱりな筆者が、気になる独立・起業の際のお金事情について、起業コンサルV-Spiritsグループ代表の中野裕哲さんに相談してきました。

夢を追う筆者が、起業支援のプロに相談

夢を追う筆者が、起業支援のプロに相談

自分のお店や会社を持ちたい。画期的なアイデアもある。とはいえ、たくさんのお金がかかりそうで、なんとなく踏み出せない。筆者もそんな悩みを抱える一人です。

そこで今回、年間約300件もの相談を受ける起業支援の専門家・中野裕哲(なかの・ひろあき)さんに、起業にまつわるお金の疑問についてお聞きしました。

起業のために必要なお金って?

中野さんによると、起業するにあたって用意しておきたい資金は、一般的に3つの用途に分類できるといいます。

1.会社設立のための実費
2.初期設備のための資金
3.事業が安定するまでの期間を支える運転資金

会社設立のための実費とは

起業には個人事業主になるか、法人化するかの2パターンがあり、それぞれに手続きがあります。個人事業主の場合はこの手続きが非常に簡単で、税務署に「開業届」を提出するだけ。費用もかかりません。一方、法人の場合は手間と費用が必要です。例えば、株式会社を設立する場合は25万円ほどかかります(以下、内訳)。

法人設立に必要な費用金額
定款認証手数料5万円
定款に貼る印紙代4万円
定款謄本代1,000円程度
登録免許税15万円
法人用の印鑑作成費6,000円程度
登記簿謄本、印鑑証明書の取得費用3,000円程度
合計25万円

*定款とは会社の事業内容や規則などを定めたもの。定款認証とは、公証人が、正当な手続きにより定款が作成されたことを証明すること。

初期設備のための資金とは

初期設備のための資金とは

初期設備のための資金とは、事業を行う環境を整えるための資金です。イニシャルコストや初期投資ともいわれ、例えば、以下のような費用があげられます。

・店舗や事務所などの入居資金
・店舗や事務所などの内装工事費
・調理器具やパソコンなど、事業を行うにあたって必要な備品の購入費
・電話やインターネットなどの通信環境を整える費用

大事なのは「資金計画を鑑みて、必要な設備を事前に全部洗い出しておくこと」だと中野さんはいいます。

事業が安定するまでの期間を支える運転資金とは

運転資金とは事業を継続するために必要なお金ですが、毎月の支出は、当月や前の月の売上で賄えば良いと考える人もいるでしょう。

「毎月安定した収入のある会社員なら、『その月の支出にはその月の収入を充てる』で問題ないかもしれません。しかし、起業してすぐに安定した収益を得られるようになるとは限りません。一方の支出は、収益に関係なく、家賃や光熱費など一定額が発生します。そのため、事業が安定するまでの期間を支えるために用意しておきたいのが運転資金です」

例えば以下のような費用があげられます。

・家賃、水道光熱費
・人件費
・通信費
・食材やコピー用紙などの消耗品の購入費

もちろん、開業してすぐに安定した収益を得る自信があるなら用意しなくても良いかもしれません。しかし、世の中に絶対はありません。最悪のパターンを前提に考えた方が良いでしょう。「少なくとも3〜6ヵ月は収入ゼロでもやっていける額を用意しておきたいところ」と中野さんはいいます。

具体的にどのくらいの費用がかかるのか

では、具体的にはどれほどの費用が必要になるのでしょうか。様々なパターンがありますが、個人事業主としてカフェを始める場合と、法人としてIT企業を立ちあげる場合の2つを例に見てみます。

個人事業主としてカフェを始める場合

個人事業主としてカフェを始める場合

カフェの場合は立地が重要になってくるといいます。仮に、都心で家賃20万円、10坪程度の場所に店舗を構えたとして、どのくらいの金額が必要になってくるのか考えてみましょう。

仮に、都心で家賃20万円、10坪程度の場所に店舗を構えた場合の例
仮に、都心で家賃20万円、10坪程度の場所に店舗を構えた場合の例

ざっと見積もっても1,000万円以上必要になってきますが、これはあくまで一例。駅から離れた場所なら家賃も低くなることが多く、居抜き物件を取得すれば内装工事費も抑えられるでしょう。

法人としてIT企業を立ちあげる場合

法人としてIT企業を立ちあげる例を見てみます。仮に、東京に家賃30万円の事務所を借り、従業員は自分を入れて3名のケースを考えてみます。

仮に、東京に家賃30万円の事務所を借り、従業員は自分を入れて3名の場合の例
仮に、東京に家賃30万円の事務所を借り、従業員は自分を入れて3名の場合の例

先に触れたように法人の場合は、設備資金や運転資金に加えて会社設立のための実費がかかってきます。こちらも一例のため、実際に起業を考える際は、上記項目を参考に費用を計算してみてください。

元手が少ない人が起業するための3つのポイント

元手が少ない人が起業するための3つのポイント

もし資金が不十分な状態で事業を始めてしまった場合、安定した収益が出るまでは、起業以外の目的のために用意していた貯蓄を崩していくか、借金をして補う必要があるかもしれません。

「起業時に限らず、事業が軌道に乗らないと借金が返せず破産してしまうこともあります。その場合、信用情報に傷がつき、新規の借入ができなくなります。また、破産経験のある人が新しく起業しようとしても、難しくなるかもしれません」

だからこそ、余裕を持った運転資金を用意しておきたいところ。貯蓄以外にも、しっかりとした事業計画や信用があれば、資金を調達する方法はいくつかあるといいます。

国や民間の金融機関から融資を受ける

資金調達の手段としてまず候補にあがるのが融資。いくつか種類がある中、とりあえず覚えておきたいのは以下の2つだと中野さんはいいます。

・日本政策金融公庫からの融資
・信用保証協会の保証付き融資

日本政策金融公庫は、日本政府が100パーセント出資している金融機関。中でも無担保・無保証人で利用できる「新創業融資制度」は知っておいた方が良いでしょう。ただし、創業資金総額の1割は自分で用意しなくてはいけません。

「融資を受けるためにもお金が必要になってきます。最低でもそれくらい用意できないようでは、事業の継続も難しいだろうという判断があるのでしょう」

一方、信用保証協会の保証付き融資は、信用保証協会という公的機関が保証人となり、民間の金融機関との間を取り持ってくれる融資です。民間の金融機関では、取引実績が低い人への融資をあまり行わないため、直接融資を受けることは簡単ではありません。そのため、利用者は一定の信用保証料を信用保証協会に支払い、保証人となってもらうのです。

信用保証料は「借入金額」「保証料率」「借入期間」「返済方法」によって算出しますが、保証料率は利用する民間金融機関の融資制度や合計額などで変わります。例えば、東京都で民間の創業融資を利用する場合、3,500万円の融資に対して90万円ほどかかると試算できます(保証料率:0.60パーセント/年、借入期間:84ヵ月、返済方法に係る分割係数:0.55の場合)。

助成金や補助金の活用も視野に

国や地方自治体の「助成金」「補助金」を使うという方法もあります。助成金は基本的に人を雇用するビジネスが前提となりますが、給付条件さえ満たせばほぼ受給できるといった場合が多いです。一方、補助金は審査をクリアしなければ受給できません。

「自治体の助成金や補助金には意外と知られていない、知っている人だけが得するような種類もあるんです。例えば、東京都中央区なら企業のウェブサイト作成に最大6万円の補助金が出ます。条件や金額、募集期間は自治体によって異なるので、起業地域の補助金を調べ尽くし、最大限利用することが大切です」

設備費用に優先順位をつける

初期投資を抑えるのも一つの方法です。店舗や事務所の規模を小さくして家賃を抑えたり、施工業者を比較して内装工事費の安いところを選んだりと、工夫の仕方はたくさんあります。

「初期投資を抑える際は、その投資が今後の収益とどう関係するのかで優先順位を付けていくことが大切です。例えば、IT企業なら、快適なオフィスよりも高性能なパソコンを購入した方が効果は高いですよね」

店舗内装に関しても、凝った装飾を施すよりコンクリート打ちっぱなしの壁にした方が安あがりだし、結果的にオシャレになるかもしれません。節約しながらも売上につながる方法を模索する。それもまた起業の醍醐味であり、センスが試されるところでしょう。

まとめ

必要な資金からそれを調達する方法まで丁寧にお話ししてくれた中野さん。最後に、起業についてのアドバイスもいただきました。

「起業はタイミングも重要です。ベストのタイミングでチャンスを掴みにいけるのかどうかは、資金の有無も非常に重要となります。もし起業を考えているのであれば、早い段階からコツコツお金を貯めておくことが大切ではないでしょうか」



・みずほ銀行は、法令上、不動産取引の媒介を行うことはできません。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、お客さまに不動産取引に関して何らの推奨・勧誘も目的とするものではありません。

この人に聞きました
中野裕哲さん
起業コンサルV-Spiritsグループ代表
中野裕哲さん
「起業家の成功のための支援」をライフワークとし、年間約300件の起業相談を無料で受け、多くの起業家を世に送り出している。専門分野はビジネスプランのブラッシュアップ、事業計画書作成、創業融資・助成金獲得支援、税務会計、人事労務、会社設立、許認可等。著書に『一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」』(明日香出版社)、『オールカラー 一番わかる会社設立と運営のしかた』(西東社)などがある。
ライタープロフィール
笠木 渉太
笠木 渉太
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。

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