日経平均株価があがっても景気が良いと感じられない理由とは?

日経平均株価があがっても景気が良いと感じられない理由とは?

日経平均株価があがっても景気が良いと感じられない理由とは?

ニュースで見る機会が増えた日経平均株価。2021年9月の東京株式市場において、31年ぶりに高値となりました。今回は株価上昇と景気、私たちの生活との関係について、金融ジャーナリストの岡村友哉さんに話を聞きました。

そもそも日経平均株価とは?

そもそも日経平均株価とは?

日経平均株価は、東京証券取引所一部に上場する約2,000銘柄のうち、代表的な225社(※2021年現在)の株価をもとに計算された株価指数です。もっと簡単にいうと225社の株価の平均です。

225社には日本の株式市場に影響力の高い銘柄が選定されます。そのため、日経平均株価は株式市場全体の大まかな値動きを把握する際に役立ちます。つまり、基本的には以下のような捉え方ができます。

・日経平均株価が「上昇」→多くの企業の株価も「値上り」
・日経平均株価が「下落」→多くの企業の株価も「値下り」

「今日の日経平均は〇〇円でした」と、テレビのニュースで聞いたこともあるかもしれません。多くの場合、国内株式市場の動向を知りたい投資家が注目する指標といえます。

なぜ株価は変動する?生活に与える影響は?

なぜ株価は変動する?生活に与える影響は?

株価は需要と供給の関係で変動します。需要と供給のバランスの変化をもたらす要因には国内外の景気や個別企業の業績などがあります。

常に変動している株価ですが、日経平均株価は2021年9月には31年ぶりの高値となりました。では、日経平均に限らず株価が上昇する場合の理由は何でしょうか?

岡村さんは「明るい未来を想像する人が多いから」だといいます。

「投資家はちょっと先を読むゲームをしています。未来を予想し、企業の業績が良くなりそうなら投資を行うわけです」

投資で大切なのは未来を見据えることです。明るい未来が想像できるとき、投資をしたい人が増える。その結果、株を買いたい人が、売りたい人を上回り、株価は上昇します。

例えば2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大により、1回目の緊急事態宣言が発令されました。その後、5月25日に全国で緊急事態宣言が解除。

解除の影響は日経平均株価にも反映され、直後の2020年6月8日には、約3ヵ月ぶりに2万3,000円台まで回復しました。コロナショックにより、3月19日に付けた1万6,358円19銭から約40パーセントも上昇したのです。

「1ヵ月半にも及ぶ緊急事態宣言がようやく解除された。だからこそ、その後の経済回復を期待する投資家から、多くの『買い』が入った結果といえるでしょうね」

株価があがっても暮らしは大きく変化しない?

株価の上昇は、教科書的には「給料」として私たちに還元されるといいます。

株価が上昇すれば、企業は株式の発行を通じた資金調達を行いやすくなります。資金を確保できれば、新規事業や設備への投資が進む。さらなる業績拡大につながるかもしれません。

その結果、従業員に支払われる給料が増え、消費が進む。つまり教科書的な説明だと、株価の上昇は給料として還元される可能性があるのです。

まとめると、「株価上昇」→「企業が資金調達」→「設備投資が進む」→「業績拡大」→「給料が増える」といった流れです。

しかし、現実はどうでしょう。

実際に現在は実質賃金が伸びないまま、株価だけが上昇しています。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2020年12月の実質賃金は前年同月比で1.9パーセント減。10ヵ月連続で低下しています。要するに、平均で見るともらえる給料は減っています。

株価があがっているからといって、実質賃金に反映されることはなく、毎日の暮らしは大きく変わっていないのです。

「コロナショックから日経平均株価は急回復し、2021年2月には30年ぶりの高値を更新するまで上昇している。一方で実質賃金の値だけを見ると『生活が豊かになった』と感じている人は少ないはずです」と指摘します。

実質賃金が上昇しない原因としては、非正規労働者比率の増加や企業の内部留保増加など様々な要因があると考えられています。

日経平均株価は景気とどんな関係がある?

日経平均株価は景気とどんな関係がある?

世の中の経済活動に活気があるかどうかを表すときに使われる「景気」。この景気も、日経平均株価と連動しているといわれます。

また、日経平均株価は数ヵ月先の日本の景気を予想して動く「先行指標」という側面もあります。

例えば、日経平均株価が徐々に上昇していれば、景気はこの先「良くなる」可能性がある。反対に、下落していれば、この先「悪くなる」可能性があると予想できます。

・日経平均株価が「上昇」→景気が「良くなる」
・日経平均株価が「下落」→景気が「悪くなる」

逆に、日経平均株価が景気の状態を反映したものになる場合もあります。

例えば、景気が良いと、消費が活発化し、会社の収益が増える。その影響が日経平均株価の上昇につながるといわれています。一方で、景気が悪いと消費が減少し、会社の収益が減る。その影響が日経平均株価の下落につながる可能性があります。

・好景気→モノが売れる→企業の売上増加→日経平均株価「上昇」
・不景気→モノが売れない→企業の売上低下→日経平均株価「下落」

現状は株価と景気が関係しているとはいい難い

しかし現状は、日経平均株価と景気が連動しているとは「いい難い」と話します。

「既にお話した通り、現在は実質賃金が伸びないまま、株価だけがあがっている状況。国の経済力を表すGDPも、2020年は前年と比べて4.8パーセント減り、11年ぶりにマイナス成長となりました。景気が良いと感じている人はおそらく少ない。でも、株式市場だけが盛りあがっています」

その背景として、次の2つが関係しています。

・日本政府が新型コロナウイルス感染症対策の大規模な経済支援を行った
・日本銀行(日銀)がETF(※日経平均株価、東証株価指数など特定の指標との連動をめざし運用され、上場している投資信託のこと。上場投資信託。)買いをはじめとした金融政策を強化した

「単純な話、実際の経済は悪化していても、国や日銀が動くならこれから景気は良くなるだろう。そう思う投資家が増えたことで、株価は上昇しているのです」

現状では、日経平均株価と景気が完全に連動しているとはなかなかいい難いそうです。

「日経平均株価はあくまでも225銘柄だけで構成される指標。たった225銘柄の株価を基に、足元の景気の良し悪しを実感しようというのは、無茶な話でしょう。あくまで将来の景気を探る指標として参考にするのが適当だと思います」

少なくとも投資家は未来を悲観的に捉えてはいない

少なくとも投資家は未来を悲観的に捉えてはいない

日経平均株価は過去、1989年末に3万8,915円という史上最高値を付けました。ちょうど、「バブル時代」と呼ばれる時期です。

2021年もバブル期以来、30年ぶりに3万円という大台を突破。過去の相場と重ねる見方もあるそうです。

しかし、岡村さんによると過去と現在の日経平均株価を比べることは不毛だといいます。

「バブル期のときに組み込まれた銘柄で、今残っている企業は何社だと思いますか?実は77社しか残っていないのです。つまり残りの148銘柄は30年前にはなかった新しい企業。日経平均株価という名前は同じだけど、中身が異なるわけですから、過去と比較してもあまり意味がないですよね」

そのため「バブル期のときのように景気が良くなる」と、日経平均株価から分析するのは無理があるといいます。

ただ、最初に説明した通り、株価の上昇は将来を前向きに考えている投資家が多いというサイン。「少なくとも投資を行っている人たちは、未来を悲観的に捉えてはいない」と岡村さんは話します。

「現在は景気が上向いているとはいい難い状況。でも、株価はあがっている。なぜなら、国や日銀の経済支援を背景に、コロナ収束後の経済回復を見越した投資家の株式購入が増えているためです。

今は景気が良いと実感している人は少ないかもしれません。しかし投資家に限っては『この先、個人の消費が元の状態に戻り、景気は良くなるんじゃないか』と見通しているということです」

いつもは何気なく耳にする日経平均株価の動向も、未来への方向性を示す一つの指標としてチェックしてみると面白いかもしれません。

参考:
日経平均、2万3000円台回復 3カ月半ぶり (外部サイト)
東証で大納会、日経平均の2020年上昇率は16.01% (外部サイト)
厚生労働省 毎月勤労統計調査 令和2年分結果速報を公表します (外部サイト)
12月29日 日経平均3万8915円、大納会で史上最高値 (外部サイト)
もはや忘れるべき日経平均最高値3万8915円 (外部サイト)

・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、お客さまに証券投資取引に関して何らの推奨・勧誘も目的とするものではありません。

この人に聞きました
岡村友哉さん
岡村友哉さん
1980年6月生まれ。関西学院大学経済学部卒業後、大手証券会社に入社。株式や投資信託などの営業を経験後、金融情報会社・株式担当アナリストに。IPO企業の調査レポート作成、先物・オプションなどデリバティブ市場のリアルタイムコメントを機関投資家向けに配信。2010年11月、金融ジャーナリストとして独立。経済番組のコメンテーターとして出演する他、マネー誌、各種セミナー講師として活動。
ライタープロフィール
吉田 祐基
吉田 祐基
株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。AFP認定者(2級FP技能士)。タウン誌、編集デザインファーム、大手不動産情報サイト編集記者を経て入社。これまでコンテンツマーケティングや、ミレニアム世代向けビジネスメディア、不動産広告の取材&ライティングなどを手がける。

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