「愛してるから株も買いたい」ってOK?FPさんに聞く、オタ心と投資

「愛してるから株も買いたい」ってOK?FPさんに聞く、オタ心と投資

「愛してるから株も買いたい」ってOK?FPさんに聞く、オタ心と投資

株式投資のことはまだよく分からないけど、せっかく投資するなら好きな企業の株を買いたい。でも、ファンというだけでは株を買って良いのか心配。 そんな初心者が一度は考える銘柄の選び方について、お金のプロであるFPさんにうかがいました。

大好きなコンテンツを応援したい!投資という選択肢

いきなり自己紹介で恐縮ですが、筆者はアニメや漫画をこよなく愛するどちらかというとオタクと分類されるタイプの大人でして、自宅で好きな作品を鑑賞しているときが何より至福の時間です。特別定額給付金はすべて電子コミックの購入に充てて、単行本の発売を待機しているタイトルは20本を超えます。いわゆる二次元沼の住民です。

前置きはこのへんで、今回は「好きな企業の株に投資していいの?」というのが記事のテーマ。事前に下調べしてみたら、アニメの配給・制作会社や電子コミック関連の会社が多く上場していて、興奮を禁じ得ませんでした。ただ、「好き」という想いだけで推し(お気に入り)の会社に投資してもいいものかどうか。株初心者の筆者が、さっそく多くの金融商品について分かりやすく解説しているFPの藤原久敏さんに質問をぶつけてみました。

株式投資は本来企業を応援するための仕組み

質問に優しく答えてくれる藤原さん
質問に優しく答えてくれる藤原さん

藤原:好きな会社に投資する、というアプローチはまったく間違っていないと思いますよ。そもそも株式投資は会社の成長に必要な資金を、株を通じて投資家から募って、利益が出たらその一部を還元するという仕組みで成り立っています。

——投資家は成長を支援するという立場なんですか?

藤原:ええ。つまり、本来株はその企業を応援したい人が出資するものなので、ファンだから投資するというのは自然な行動といえるでしょう。

——本当ですか。なんか軽率に沼れそう※な気がしてきました。

藤原:軽率に沼れる? ってなんのことですか。

——あ、自分にも投資できるかもと思ったという意味です。すみません続けてください。

藤原:投資の神様といわれるウォーレン・バフェットという有名な投資家も、『自分が理解できないものに投資するな』と話していたくらい、投資対象のことをよく知ることはとても大切です。ただ、そこにはメリットもあればデメリットもあります。さっそく説明していきますね。

※編集部注釈:沼(ぬま)る=どっぷりハマるということ

好きな企業に投資するメリット

メリット1:企業の成長と自分の資産拡大の一体感が得られる

——これは会社が儲かったら自分のお金が増える、ということですか?

藤原:ざっくりいうとそうですね。会社の業績が向上すればそれをみて株を買う投資家が増えて、株価が値上がりします。すると、株を持っていた投資家は値上がり益を得ることができるので、会社の成長と資産の拡大がリンクするわけですね。

——じゃあ古参(初期からのファン)は鼻高々ですね。「私は前からあの作品は売れると思って目をつけていた」みたいな。

藤原:株価が上昇する前に買っていれば、鼻高々という部分はあるかもしれませんね。あと利益の一部を配当金として株主に還元する企業もあるので、長く保有している投資家はそれだけ恩恵も積み重なっていきます。

メリット2:株主優待として好きな商品がもらえる

——株主優待ってファンサ(ファンサービス)みたいなものですか。

藤原:すいません、ファンサというのはよく知りませんが(笑)、投資家に自社商品や割引券などを定期的に還元するのが株主優待制度です。優待商品のカタログを設けている企業もあるくらい株主から人気の制度で、これもその企業の商品やサービスを普段から応援している株主にとっては嬉しい施策です。

——今調べたら公式描きおろしのキャラクターQUOカードとかあるんですね。これ欲しいです。

藤原:株主優待を受け取る権利は権利確定日に株を企業が定めた数量を保有しておく必要があります。なので、すぐもらえるものではありません。

——それは残念ですね。

藤原:その企業のファンであれば権利確定日を狙って投資するというより、企業を長く応援する前提で中長期で保有して、その期間に利益の還元として優待品を受け取るという方が多いかもしれませんね。

——あ、株主優待目的で軽率に株を買っちゃだめってことですか?

藤原:いえ、別にそんなことないですよ。そういう個人投資家の方もたくさんおられるようですし。ただ、権利確定日前後は株価の変動が大きい傾向があるので、注意しておいたほうが良さそうです。

——全然話は変わりますが、藤原さんは株主優待目的で株を買って大損したとか黒歴史ってありますか?

藤原:株主優待ではないですけど。それ聞いてどうするんですか?

——ああ、ないんですか……。

藤原:なんで残念そうなんですか?

メリット3:長期保有できる

——これはひょっとしてファンとして熱い想いがあるから長期保有「できる」という意味ですか?

藤原:そうですね。とくに投資初心者の方は、株価が大きく上下するとどうしても一喜一憂してしまいがちなんですね。ただ、株式相場は必ずしも上がりっぱなし、下がりっぱなしというわけではないので、冷静に判断して、ときにはじっくり待つことも大切です。

そこで強みになるのが、企業を応援するつもりで買っているというスタンスです。例えば一時的に株価が足踏みになっても、その企業の商品やサービスの優位点を知っているファンなら、今後も業績が伸び続けることを信じて買い支え続けることもできると思います。

——推しがほかと比べて勝っているところが分かるって、最の高ですよね。推しのことは信じているので、いくらでも投資できます。

藤原:はい。でも、逆に熱意がありすぎるからこそ気をつけておきたい点もあるんです。それはデメリットの説明とあわせて解説しますね。

好きな企業に投資するデメリット

デメリット1:冷静な判断ができなくなる

——さっき私、軽率に投資できますって言っちゃいましたね。

藤原:ずっと業績が悪化していて、かつ改善に向けた取り組みも見えない企業の株価は基本的に下がります。それなのに、『以前もヒットを出した企業だからなんとかなる』と思い込んで株を持ち続けることは、見直した方が良いかもしれません。

——一期は最高だったのに二期になって離れた作品とか。心当たりあるな…。

藤原:もちろん業績が伸び悩んでいても、アニメ関連で例えれば、人気タイトルの続編の制作決定だったり、新しいコンテンツの発表だったりと打開策がみえれば株価が反応することもあります。企業の動向をずっと追っているファンは、その材料がどれくらい凄いことか判断できるので、そこは強みだと思います。

ただ、原則として株価の根拠は業績がベースとなっています。なので、まず最近の業績が伸びているのか伸びが鈍化しているのか、あるいは足踏みなのか後退しているのか。大前提としてやはり数字をきちんとみておくことも重要です。

——数字かあ。なんか好きだった作品の人気が低くて打ち切りになったこと思い出しました。

藤原:読者投票が重視される漫画の連載も、数字を厳しく見られるという意味では似ているかもしれませんね。

——先生のお話を聞いてたら、二期に来て急につまんなくなった作品をいくつも思い出しちゃいました。最初は最高だな以外の感想は出なかったのにどうして…なんで二期…。いや違うんです推しはいつでも最高なんです。とってつけた二期のストーリーにいくら軽率なオタクでも、そんなにちょろく騙されるとかそうそうないですから…。

藤原:すみません、話続けていいですか?

デメリット2:情報収集に偏りが生じる

——ああ、これも何となく予想がつきます。

藤原:好きな企業について決算短信やプレスリリースで情報収集をすることはとても大切です。しかし一方で市場全体の景況も重要で、足元では観光産業の落ち込みが懸念されていますが、巣ごもり消費が増えてゲームや電子コミックの需要は高まっている傾向がみられます。これらの市場に属する企業は、個別に特有の要因がなくても外部環境によって株価が上下することがあります。

——企業を取り巻く環境も大事ということですね。

藤原:そうですね。あとシェア争いという観点で、競合他社の動きも株価に大きく影響する要素です。

——ああ、そういえばオタクって推しが関わる情報ばかりに目がいきがちかもですね。

藤原:例えば電子コミックの配信会社でいえば、プラットフォームのシェアの争いの下、他社の配信サービスが画期的な機能を実装したり大手コンテンツ会社と提携したりすれば、競合他社の株価が下がるということもあるかもしれません。

——でも先生、対象の偏りこそ愛っていうか、ファンの特徴だと思うんですよね。

藤原:はい。もちろん企業を応援する気持ちは大切だと思います。

——推しの企業を一生愛すくらいの覚悟がないとすぐほかの企業に目移りしたり、株を売ったりしたくなるじゃないですか。

藤原:そうですね、一途であることの是非は難しい問いですね。ただ残酷な言い方になるかもしれませんが、株のメカニズムは美人投票の側面があるんです。『自分が好きなものより皆が好きなものに投資する』方が勝ちやすいという理論もあります。

——なんですかそれ。他人の推しを読んで自分の推しを選んだことなんて考えられないです…。先生、なんか寂しいこと考えているんですね。

藤原:私が考えたことじゃないですよ。これはジョン・M・ケインズという経済学者による有名な行動パターンの例えで、1位の人に投票した人だけ賞金がもらえる美人投票があったとして、そこでは自分が美人だと思う人より、『ほかの人も投票するだろうな』と思われる平均的な美人に票が集まりやすいという説です。株も同じで、皆が買えば株価は上がって値上がり益が生まれる。つまり自分1人だけでなく、ほかの人が投資しそうな銘柄に投資した方が有利といえる側面もあるんです。

——え、じゃあ自分1人の熱意と株価はあまり関係ない、ってことですか。

藤原:普段取引の少ない銘柄の株を大量に購入すれば株価が動くことはありますが、それ以外は株価の形成に大きな影響はないと考えるのが妥当でしょう。ただ好きな会社の株を買うこと自体は間違いではないですし、そこで失敗しないためのヒントもあります。いくつかポイントを紹介しておきますね。

急に無慈悲に見えてきた先生の藤原さん。
急に無慈悲に見えてきた先生の藤原さん。

好きな会社の株を買う上で気をつけたいこと

最初は少額から始める

藤原:基本的なことですが、好きな企業だからといっていきなり大きな金額をビギナーの方が投資するのはおすすめできません。投資に回せる資金をきちんと把握して、そのうちから株を購入することを守っていただきたいです。

——知り合いたちが「今月3万使ってた」とか「俺は10万だった」ってたまに出費マウンティングしあってるんですけど、そういうのよくないですかね。

藤原:はい、あくまで自分が投資に回せる資金の範囲で運用するのが基本です。好きな企業の株を500株持っているから偉いとか偉くないとか、そこで競うのはやめておきましょう。

——そういう人間は投資したら地獄に落ちるよってことですよね。

藤原:そこまでは言ってません。

業績面も確認する

藤原:美人投票の例えのように株価は投資家の思惑によって変動するものですが、ベースとなるのは業績です。企業のウェブサイトにあるIR資料のページから決算短信や決算説明会の資料をチェックできるので、定期的にみておきましょう。また、決算発表の前後は株価が大きく動く傾向があるので、ビギナーの方はその時期を避けて投資した方が良いかもしれません。

損切りのタイミングも事前に決めておく

——すいません、損切りってなんですか?

藤原:株価が下がって損失(含み損)が生じているときに、これ以上マイナスが膨らまないように保有株を売却することです。『また上がるはずだからとりあえず売らずに持っておこう』ととくに根拠もなく保有し続けた結果、どんどん損失が大きくなってしまうことは避けたいですね。

——惰性で読んでいる漫画とかアニメに時間やお金を使うより、新しい作品を探した方が良いってことですね。

藤原:投資理論上ではサンクコストのバイアスといって、『せっかく時間も費用もかけたのに止めるのはもったいない』とずるずると続けてしまう投資家の心理パターンがあります。応援し続けるファン心理は素晴らしいと思いますが、ときには合理的な決断も必要だと思います。そのためにも、事前に『購入時から○○パーセント株価が下がったらこの株は売却する』と設定しておくのが良いでしょう。

まとめ

好きな企業に投資するのは決して間違いではないですが、業績面をしっかりチェックするなど、いくつか気をつけておきたいことが分かりました。メリット、デメリットをまとめてみましょう。

好きな会社に投資するメリット

・企業の成長と自分の資産拡大の一体感が得られる
・株主優待として好きな商品がもらえる
・長期保有できる

好きな会社に投資するデメリット

・冷静な判断ができなくなる
・情報収集に偏りが生じる

『皆が投資しそうな対象に投資する』という美人投票の例えがまだ少しショックであとを引きずっていますが、それも含めて株価が投資家の思いを含んだものであることは大変勉強になりました。ひとまず好きな企業のウェブサイトを覗いて、これから業績をチェックしてみようと思います。藤原さんありがとうございました。

筆者が好きな漫画の語りを聞いて笑ってくれているときの藤原さん。
筆者が好きな漫画の語りを聞いて笑ってくれているときの藤原さん。
この人に聞きました

藤原 久敏
藤原FP事務所/藤原アセットプランニング合同会社代表。1級FP技能士・CFP。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尾崎信用金庫を経て独立。資産運用に関する講演・執筆・相談を中心に活動する。マネー関連の著書は、『あやしい投資話に乗ってみた』『10年後に1000万円の差がつくたった3つの考え方』『おトクな制度をやってみた』(彩図社)、『60歳からのお金の増やし方』(スタンダーズ)など30冊超。

ライタープロフィール
浅井 いずみ
浅井 いずみ
編集者・ライター。ペロンパワークス・プロダクション所属。漫画・アニメ・映画などポップからサブカルチャーまで幅広いエンタメ分野の記事執筆・コンテンツ制作に携わる。

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