子供にお金の知識を教える機会は意外とない

ゲームを通じて子供にどうやってお金の知識を伝えるのか紹介する前に、最終回ですので、第1回と第2回の連載を簡単に振り返ってみましょう。
連載第1回では、日本や海外におけるお金教育の現状を中心に紹介してきました。日本でも、家庭科の授業で「資産形成」の教育が始まります。ただ、資産形成だけがお金の教育というわけではありません。海外では、投資に限らずクレジットカードを使用するうえでの注意点や大学進学のための奨学金活用方法など、あくまでも日常に沿ったかたちでお金の知識を教育しているケースもあります。
ただ、そのように日本の学校でも資産形成以外のお金教育が浸透する機会は、いつになるのか分かりません。そのため学校の教育に頼りっきりになるのではなく、生きるうえで必ず必要となる知識だからこそ、子供の年齢に合わせて親が教えていく必要があるわけですね。
続く連載第2回では、子どもが抱くお金の素朴な質問に親はどう応えれば良いのか、その回答例を紹介してきました。そしてお金を大切にする子に育てるためには、例えばお小遣いを毎月ではなく1年分を先渡ししてそのなかでやりくりしてもらい、自然と支出を管理してお金を貯める力を身に付けさせることが大事でしたね。
またお金を貯めるだけはなく、「借りる」や「増やす」を学ぶことも大切です。例えば子供たちが近い将来に持つであろうクレジットカードについて、借金が増える一つの原因となるリボ払いの仕組みを、子供のうちから学んでおく。さらに仕事をして収入を得る以外にも、投資によってお金を増やす方法があると伝えることも重要でした。
以上、これまでの連載を通じて子供にお金の知識を伝える重要性を紹介してきたものの、いざ面と向かって親子で話をする機会は早々ないかと思います。
そこで、お金の話をするきっかけとなるのが、お金の知識も学べるゲームを親子でやってみることです。
親子で楽しめるお金のゲームをさあ実践!
お金の知識が学べるゲームのなかでも、今回は対象年齢が6歳以上の『キャッシュフロー・フォー・キッズ』をFPの頼藤太希さんと、妻で同じくFPの高山一恵さん、そしてお子さんのひろたろうくんを含めて親子で遊んでいただきました。

先にゲームについて、簡単に説明しておきたいと思います。『キャッシュフロー・フォー・キッズ』は『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者で知られるロバート・キヨサキ氏が考案したボードゲーム。楽しく遊びながら子供の金融リテラシーを伸ばすために、とくに「キャッシュフローの管理スキル」を教えることを目的としています。
ロバート・キヨサキ氏によると、キャッシュフローの管理は自分の「損益計算書(収入と支出を見える化したデータ)」と「貸借対照表(資産と負債を見える化したデータ)」との関係を理解することから始まるといいます。
そのため『キャッシュフロー・フォー・キッズ』も、各プレイヤーに割りあてられた損益計算書と貸借対照表を基にゲームを進めていきます。

ゲームに勝つには、上記の画像を見ると分かる通り「不労所得(緑色のメダル)」の個数が、毎月の「支出(赤色のメダル)」の個数を上回らなければなりません。
最初は不労所得がなく、毎月700ドル(赤色のメダル×7個)の支出がある状態からスタート。サイコロを転がして緑色のマスに止まったときに持っている現金で「資産」を買い、不労所得を増やしていきます。

最終的に毎月負担している支出をすべて不労所得で補えるようになったら(緑色のメダルの個数が赤色のメダルの個数を上回る)、働いて得た収入で支出をまかなう必要はなくなるためゲームクリアとなります。
ゲームの説明はここまでにして、ここからは実際に遊んでもらった様子をお届けしますね。
『キャッシュフロー・フォー・キッズ』を親子でやってみた!
ゲームを始める前に、マネー・バンカー(現金を扱う人)を決めます。今回のマネー・バンカーは、ひろたろうくん。このゲームは実は2回目とあって、慣れた手つきでゲーム始めるために必要な3,000ドルの現金を頼藤さんと高山さんに配ります。

続いて、順番を決めるために各プレイヤーがそれぞれサイコロを2個振ります。そして出た目の合計が一番大きかったプレイヤーからスタート。今回は頼藤さん、ひろたろうくん、高山さんという順番に決まりました。

プレイヤーはサイコロを振り、出た目の数だけ自分のコマ(ネズミ)を進め、止まったマスが緑色なら「資産カード」赤色なら「負債カード」を引きます。頼藤さんが最初に引いたのは、「生活費」と書かれた負債カード。100ドルの支出が増えてしまいました。このように負債カードを引き当ててしまうと、損益計算書の「支出」が増え、不労所得が支出を上回る状態(ゲームのクリア)から遠ざかってしまいます。

そして、次はひろたろうくんの出番です。

緑色のマスに止まったひろたろうくんが引きあてたのは、「株式」と書かれた資産カード。

資産カードが出たら、プレイヤーは持っている現金で買うかどうかを選ぶことができます。例えばひろたろうくんが最初に引きあてたのは、価格が1,600ドルで、200ドルの不労所得が手に入る資産カード。そのほかにも2,000ドル支払っても100ドルしか不労所得を得られないカードなど、支払った現金に対して得られる不労所得は異なります。

登場するキーワードに紐付けてお金の知識を伝える
不労所得を増やすゲームのため「所持している現金で迷わず買い」と考えるかもしれませんが、そう単純でもありません。いま現金を使ってしまい、後々負債カードを引き当てたときに手持ちの現金で支出を補えないとなると、借金をすることになります。すると、損益計算書の支出が増えてしまうため、いくら不労所得が多くとも支出が上回ってしまう可能性があるのです。
そのため、手元に残す現金を考慮して、いま資産を買うべきかどうかを考える必要があります。
ちなみに、このときひろたろうくんは株式を買うことを即決しました。

このように手持ちの現金と、資産に投じるお金とのバランスを考えながら進めていくわけですが、とはいえただゲームをやって買った・負けただけの話だと、子供が学べるお金の知識も限られてしまいます。
あくまでもゲームは、お金を学ぶきっかけづくり。そのため今回のゲームでも、プレイ中に判断に困ったときがあった場合は、頼藤さんは登場するキーワードに紐付けてその都度お金の知識を伝えていました。

「ゲームだとどうしても勝ち負けの話で終わってしまいます。そのため財務諸表やクレジットカード、銀行預金などゲームのなかで度々登場するキーワードに紐付けてお金の知識を伝えられると、お子さんもお金について学ぶ機会になるのではないでしょうか。もちろんお金の知識を伝えるためにも、まずは教える側の親が『貯める』『借りる』『増やす』について正しく理解しておくことも大切です」(頼藤さん)
例えば今回、「クレジットカードで支払い、毎月の支出を100ドル増やす」もしくは「その場で1,000ドルの現金を支払う」かのどちらかを問う負債カードが登場しました。つまりクレジットカードで支払えば手元の現金は傷まないものの、毎月一定の支出が増えることになるわけです。
これは連載の2回目でも紹介した、リボ払いの仕組みに通じる部分もあるでしょう。いま現金で支払いたくないからとクレジットカードを多用していると、翌月に高額な請求が来て驚く。そして翌月の請求金額も払えないからと、リボ払いなどに設定してしまうと毎月返済する金額が一定になる反面、元本がなかなか減らないために支払う利息総額はあっという間に膨れあがる可能性もあります。
もちろんクレジットカードにもポイントが貯まったり、毎月の支出が見える化されるなどのメリットもあります。こうした日常生活のお金にまつわる知識を、メリット・デメリット踏まえて伝えるきっかけになるかもしれませんね。

ゲームと日常のお金の話をいかに結びつけるかが大事
さらに、今回のゲームをやってみて頼藤さんは次のように話します。
「お金の知識を伝えるきっかけになるのはもちろんですが、子供や妻とコミュニケーションを取る機会にもなると感じましたね。やっぱりゲームは家族全員、大勢でやるほうが盛り上がります。それにゲーム中だと、息子の普段はあまり見られない表情も見れます。例えば、息子が僕に対して意外と対抗心を燃やしているところとか(笑)。
また話は変わりますが、今回のゲームのように自分で現金や支出を管理する力は、日常生活においても身に付けられます。連載2回目でも紹介した通り、お小遣いを毎月ではなく1年分を先渡ししてやりくりしてもらうなどの方法はその一例ですよね。ゲームのなかだけで完結するのではなく、クレジットカードなどいかに日常のお金の話と結びつけるかが大事だと感じました」

お金の教育が大事だとはいえ、親子で面と向かって話をする機会は早々ありません。そのきっかけとして、親子で楽しめるゲームなどを通じて、お金の話を行う機会をぜひ設けてみてはいかがでしょうか。
参考:
キャッシュフロー・フォー・キッズ 日本版(外部サイト)
過去の連載記事はこちらから
第1回【おやこの経済学】親子でお金を学ぼう!国内外の「お金の教育」の実情
第2回【おやこの経済学】お金にまつわる子供の疑問、どう答える?
この人に聞きました

Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
慶應義塾大学卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力。『SNS時代に自分の価値を最大化する方法』(河出書房新社)、『人気FPが教える! 稼げるスマホ株投資』(スタンダーズ)など著書多数。
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ライタープロフィール

AFP認定者(2級FP技能士)。タウン誌、編集デザインファーム、大手不動産情報サイト編集記者を経て入社。これまでコンテンツマーケティングや、ミレニアム世代向けビジネスメディア、不動産広告の取材&ライティングなどを手がける。
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