お金の未来―ブロックチェーン革命が通貨の常識を変える―

お金の未来―ブロックチェーン革命が通貨の常識を変える―

お金の未来―ブロックチェーン革命が通貨の常識を変える―

キャッシュレス社会が到来する、仮想通貨が決済通貨になる。こんな声がメディアで飛び交っています。金融のプロは、現状をどう見ているのでしょう? 『お金の未来年表』(SB新書)著者、朝倉智也さんに「お金の未来」について聞きました。

キーワードは仮想通貨とブロックチェーン

キャッシュレス決済、仮想通貨、フィンテック、ブロックチェーン、信用スコア・・・・・・などなど、「お金」を巡るキーワードがめまぐるしく移り変わる現在、消費者である私たちは、何を信じて、大切な資産を守っていけばいいのでしょう? 2019年7月に『お金の未来年表』(SB新書)を上梓したモーニングスター株式会社の代表取締役社長、朝倉智也さんはこう語ります。

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資産運用に関する講演も多数行うモーニングスター株式会社代表取締役社長の朝倉智也さん

「今、お金の未来を語る上で、欠かせないキーワードは、ブロックチェーンです。2020年代に入り、ブロックチェーン技術が普及していくと真のキャッシュレス社会が到来し、現在とはまったく違う経済社会が形成されていくでしょう。中でも私が注目するのは仮想通貨です。投機対象として負のイメージがついてしまった仮想通貨ですが、実用通貨としての可能性は大いにあります」

ビットコインやイーサリアムなど、2017年頃に人気が過熱した仮想通貨。欧米では、Virtual Currency、Crypto Currencyと呼ばれており、金融庁は暗号資産という呼び方を推奨しています。2017年当時は投機対象として認知され、実際の決済手段としては、あまり普及しなかった仮想通貨ですが、2020年代に入ると実用性が社会に認められ、再び息を吹き返すと朝倉さんは考えます。

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複数のコンピュータで取引記録を暗号化して共有するブロックチェーン技術

この仮想通貨を支えるのが、ブロックチェーン技術です。これは、複数のコンピュータで取引記録を共有し、その取引記録の「ブロック(塊)」を、暗号を介して「チェーン(鎖)」のようにつないで管理する仕組みを指します。ブロックチェーンとは、言わば世界中のユーザーが互いにチェックしながら、みんなで管理する金融取引台帳のこと。ユーザーのコンピュータ同士をインターネットでつなぐ、「P2P(ピアツーピア)」の技術がベースになっています。

その特徴は、国家や銀行など特定の管理機関が存在しないこと。それだけ聞くと不安を感じてしまいますが、金融とテクノロジーを融合したフィンテック企業が、ブロックチェーンを駆使して新たな金融サービスを展開する中、以前よりも格段に安全性が高まっているといいます。

ブロックチェーン技術の活用方法とは?

仮想通貨を支えるブロックチェーンの技術について、さらに深掘りしていきましょう。ブロックチェーン技術をわかりやすく説明すると「ネットワークで直接結ばれた複数のコンピュータを同時に稼働させて、データベースを構築していく技術」だと言えます。前述の通り、データを一定量ごとに1つの塊(ブロック)にして、数珠つなぎ(チェーン)にするのが、その名の由来です。

ブロックチェーン技術を活用すると、様々なデータを時系列に沿って記録でき、ネットワークに参加している人は、いつでもその記録を確認することが可能になります。「暗号技術」を使っているので、データの改ざんなどの不正も理論上できません。そのため、登場した当初から、様々な分野での応用が期待されていました。

身近な応用例の一つが、食品のトレーサビリティです。農産物や海産物の流通経路には、多くの業者が存在しています。そのため、正しい生産地や加工場所が見えにくくなるという課題がありました。食品の安全性に注目が集まる一方、産地偽装などの事件は絶えません。そこで注目されたのが、データの改ざんを防ぐブロックチェーン技術です。食品の流通経路の追跡にブロックチェーンを使うことで、「栽培・飼育」→「加工・製造」→「販売」→「廃棄」の各工程を安全に情報開示することが可能になったのです。

ほかにも、不動産取引、電子カルテといった分野で、重要なデータの改ざんを防ぐ技術としても応用が進んでいるといいます。これならば、未来の「お金」を託しても大丈夫な気がしてきます。朝倉さんは仮想通貨の現状をこう見ています。

「2017年に、1ビットコインあたり約10万円から200万円台半ばまで、20倍以上価格が高騰したビットコインですが、その後、価格は下落傾向をたどりました。しかし、2019年9月には90万円台まで価格が戻り、その後は一進一退が続くと考えられます。仮想通貨はそもそも通貨なので、価格が乱高下していてはいけません。市場価値が安定することで、実用性も高まるでしょう。また、ブロックチェーンの普及によって、この技術をベースにした国際送金に使える仮想通貨も登場してきました。米リップル社の仮想通貨XRPは、各国通貨のブリッジ通貨の役割を担えるのではと注目されています」

XRPは、ブロックチェーン技術を基にした米リップル社独自の分散型台帳技術(※)「x Current(エックスカレント)」を用いた仮想通貨で、国内外送金事業の新たな展開を模索しています。XRPを使えば、割高な国際送金手数料が、将来的に無料になる可能性もあるといいます。XRPは、みずほフィナンシャルグループなど大手金融機関とも提携しています。国際取引がある業界の人にとっては、今後の動向が気になるところです。

※分散型台帳技術=金融取引記録などのデータを分散型ネットワーク上で管理する技術。中央管理者が存在する取引台帳管理システムを指すため、その点でブロックチェーンとは異なる。

金融商品や不動産もすべてデータ化される

金融商品や不動産もすべてデータ化される
グローバルに通用するのが仮想通貨の強み

未来の金融取引において、ブロックチェーン技術が注目されているのは間違いないでしょう。朝倉さんは、この革新的技術の登場の先にどのような未来像を見据えているのでしょう。

「ブロックチェーン技術が信頼できるものとして認知され、仮想通貨が実用通貨として普及すると次第にキャッシュが不要になります。まさにキャッシュレス社会です。そうなると何が起こるか。まず、キャッシュを引き出すATMが街から消えます。ATM1台につき、年間700万円の維持費がかかるそうなので、大手銀行はこれによって大きく経費を抑えることができるでしょう。ほかにも様々な取引が効率化され、まさにブロックチェーン革命が起こるのです」

今から10年後、2030年の「お金」の未来像を朝倉さんはこう予想します。
・商取引は完全にキャッシュレスになっていて、レジでお金を払う光景はもちろん、スマホを端末にかざす光景も見られない。
・金融商品や不動産など高額な商品もすべてデータ化され、ブロックチェーン技術によって安全性が保証された単一市場で取引されている。
・デジタル化された通貨は、国境を越えて世界中を駆け巡り、資産運用のファンドマネジャーはAIが務めている。
もはや想像するのも難しい世界・・・・・・。10年後には、お金が持つ意味も変わっていそうです。

「つい20年前、インターネットで金融商品を買うなんて信じられないと言われていたのに、今では常識です。ブロックチェーンや仮想通貨も実用価値と安全性が担保されれば、あっという間に常識になっていくでしょう。お金の価値とは実用性です。グローバルな『信用』に裏打ちされたデジタルデータが金融資産としての価値を持つ時代がやってくるのです」

お金とは何か? ブロックチェーンとは何か? 未来の社会でも通用する価値とは何か?今こそゆっくり考えてみる意味がありそうです。

<この人に聞きました>
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モーニングスター株式会社 代表取締役社長
朝倉智也さん

1966年生まれ。1989年慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、95年米国イリノイ大学経営学修士号 (MBA)取得。同年、ソフトバンク株式会社財務部にて資金調達・資金運用全般、子会社の設立、および上場準備を担当。98年モーニングスター株式会社設立に参画し、2004年より現職。 第三者投信評価機関の代表として、常に中立的・客観的な投資情報の提供を行い、個人投資家の的確な資産形成に努めている。『30代からはじめる投資信託選びでいちばん知りたいこと』(ダイヤモンド社)、 『低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー』(朝日新聞出版)、『お金の未来年表』(SB新書)など著書多数。
<ライタープロフィール>
丸茂 健一
丸茂 健一
編集者・ライター。1973年生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、旅行雑誌編集部勤務を経て、広告制作会社で教育系・企業系の媒体制作を手がける。2010年に独立し、株式会社ミニマルを設立。ビジネス全般、大学教育、海外旅行の取材が多い。

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