育児・介護休業法とは

育児・介護休業法とは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」の通称です。育児や介護を行う労働者が継続的に働くことができる労働環境を支援するために制定された法律であり、労働の権利と育児・介護の両立を目的としています。
育児・介護休業法では、主に次のようなテーマについて制度や義務が定められています。
・育児休業に関すること
・介護休業に関すること
・介護休暇に関すること
・子の看護休暇に関すること
・育児・介護の両立支援に向けた事業主の措置
・育児・介護を行う労働者への支援措置
その中で、育児休業とは労働者が原則として1歳に満たない子を養育するために休業を取得できる制度です。
なお、育児休業制度の対象者は次の通りです。
【育児休業制度の対象者】
・1歳に満たない子を養育する労働者
・子が1歳6ヵ月に達するまでに労働契約期間の満了が明らかでない有期契約労働者(契約社員やパート・アルバイトなど)
【労使協定の締結により対象外となる例】
・入社1年未満の労働者
・1年以内に雇用関係が終了する労働者
・週の所定労働日数が2日以下の労働者
このように、基本的には1歳に満たない子を養育する労働者なら取得することができ、もちろん男女ともに対象となっています。
育児・介護休業法改正のポイント

育児・介護休業法は、社会的な背景の変化に伴って何度も改正が行われています。2021年6月に行われた大幅な改正は、2022年4月から3段階に分けて施行されていくこととなっています。
法改正の背景
育児・介護休業法が改正された背景には、大きく分けて二つの課題があります。一つめは「産後における女性の継続的な就業」、二つめは「男性の育児参加率の向上」です。
厚生労働省の資料によると、出産前から就業していた女性を100とした場合、出産後も働いている女性の割合は7割弱。妊娠・出産を機に退職をした主な理由に「仕事は続けたかったけれども、両立が難しい」「自分の気力や体力が持たない」という意見があがっており、女性の就業継続に対し、周囲の協力が得られない状況が浮き彫りになっているといえるでしょう。
実際、6歳児未満の子をもつ夫の家事・育児関連時間は1日あたり1時間弱と、国際的に見ても低水準です(総務省「社会生活基本調査」)。一方で、夫の家事・育児時間が長いほど妻の継続就業割合が高く、第2子以降の出生割合も高いというデータも示されています(厚生労働省「第14回21世紀成年者縦断調査」)。そこで重要となるのが、二つめの課題である「男性の育児参加率の向上」です。
厚生労働省が発表している雇用均等基本調査によると、女性の育児休業取得率は、過去10年以上80パーセント台を推移しており、2021年度は85.1パーセントでした。これに対し、男性の取得率は13.97パーセントと、政府目標である「2025年に男性の育児休業取得率30パーセント」という数値にはまだ遠く及んでいません。
このことから、今回の改正の目的は、主に男性の育児休業取得率向上にあると考えられます。
育児・介護休業法改正のポイント
今回の改正が注目されている理由の一つは、従来よりも現実的に育児休業が取得しやすくなっているという点にあります。具体的には「男性の育児休業取得促進」や「育児休業の分割取得」「規定の整備」などがあげられ、いずれも従来、課題とされてきた問題を解消する具体的な対応策となっています。
ここでは、具体的な改正内容をそれぞれの段階ごとに見ていきましょう。
2022年4月1日に施行された改正のポイント
2022年4月1日に施行された改正内容は次の3点です。
1.育児休業を取得しやすい雇用環境整備
2.妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け
3.有期契約労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
一つめの改正内容は、事業主に対する職場環境整備の義務付けです。改正前の育児・介護休業法には、職場の環境整備に関する規定は設けられていませんでした。
厚生労働省が行ったアンケート調査では、男性が育児休業制度を利用しなかったケースについて、「会社で整備されていなかった」「取得しづらい雰囲気だった」というのが主な理由であることが分かっています。
こうした背景から、様々な改正内容の施行に先立って、雇用環境整備の義務付けが施行されたのです。企業は、育児休業を取得しやすい環境づくり実現をめざし、「相談窓口設置等の相談体制の整備」「制度と育児休業取得促進に関する方針の周知」など、いずれかを選択して実施することとなっています。
また、二つめの改正内容として、労働者あるいはその配偶者の妊娠・出産の申し出があったときには、育児休業制度の仕組みをきちんと周知し、事業主の側から対象者に取得の意向を確認することも義務付けられています。これは、企業からの働きかけによって、これまでよりも取得しやすい状況を整えるのが目的です。
三つめの改正内容は、パートやアルバイト、契約社員、派遣社員等の非正規雇用社員に多い契約形態である有期契約労働者における取得要件の緩和です。前述の通り「同一の事業主に雇用された期間が1年以上」という要件が廃止されました。
2022年10月1日に施行された改正のポイント
2022年10月1日に施行された改正内容は次の2点です。
1.男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(「産後パパ育休」制度)
2.育児休業の分割取得可能
一つめの改正内容は、いわゆる「産後パパ育休」と呼ばれる制度の導入です。産後パパ育休の内容をまとめると次のようになります。

【産後パパ育休制度の仕組み】
・子の出生後8週間以内に4週間(28日)まで取得可能
・2回までの分割取得が認められる
・申出期限は原則として休業の2週間前まで
・労使協定を結ぶ場合に限り、事前に調整すれば休業中でも一定日数・時間内の就業が可能
・従来の育休制度とは区別され、どちらかのみの取得あるいは両方の取得が可能
産後パパ育休制度は、産後の一定期間において、育休制度とは別枠で利用できるものです。分割取得が認められていて休業中の就業も可能であるなど、現実的に導入しやすい制度設計になっており、通常の育児休業制度と同様に給付の支給や社会保険料の免除も行われます。
二つめの改正内容は、育児休業そのものも分割で取得できるようになったというものです。子どもが1歳になるまでに男女とも、それぞれ2回まで分割して取得することができるようになりました。これは、期間の途中で、育児休業の健康状態や業務状況に応じて夫婦交代をしやすくするためのルール変更です。また、分割取得によって仕事から離れる期間を短くすることによって、育児休業期間終了後の職場復帰が容易になる場合もあるでしょう。
2023年4月1日に施行される改正のポイント
2023年4月1日に施行される改正内容は次の通りです。
1.育児休業取得状況の公表の義務付け
これは、常時雇用している従業員が1,000人を超える企業を対象に、「男性の育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」を年1回の公表を義務付けるものです。対象の企業はインターネットあるいはその他の適切な方法で、自社の育児休業の取得状況を誰もが閲覧できるように公表する必要があります。
より出産・育児がしやすい社会へ向けて

今回の改正による最も大きなメリットは、企業が主体となって従業員が育児休業を取得しやすい仕組みづくりを行うようになるという点です。事業主に対して、従業員への制度の周知や取得の意向確認を義務付けているため、従来よりも取得へのハードルが下がることが期待されています。
さらに、大規模事業者には取得率の公表も義務付けているため、取り組みの度合いが企業のイメージや人材採用戦略にも大きな影響を与えるようになります。一方、中小企業においては代替要員の確保等の負担が大きく、現実的に導入が難しい面があるのも事実です。
こうした課題に対しては、専門家による職場環境整備のサポートシステムやハローワークによる代替要員確保の支援等で対応していく必要があるとされています。
その他活用可能な制度
育児・介護休業法には、今回解説した育児休業制度以外にも、様々な制度が定められています。例えば「子の看護休暇」制度は、小学校に就学するまでの子が病気やケガをした場合、あるいは予防接種や健康診断を受ける場合に、「年間5日まで(該当する子が二人以上なら10日まで)」休暇を取得できる制度です。
また、それ以外にも所定外労働・時間外労働・深夜業を制限する制度や、育児休業等に関する不利益取り扱いの禁止、ハラスメントの防止なども規定されています。
まとめ
育児・介護休業法の改正により、企業で働く労働者にとっては、従来よりも育児休業を取得しやすくなっています。今回の改正では産後パパ育休制度をはじめ、男性の育休取得率向上を促す内容が中心となっており、夫婦が協力して育児に向き合える環境の実現が期待されています。
また、育児休業の分割での取得が可能になるなど、育児休業制度そのものもより柔軟に進化しているのが特徴です。制度の内容や条件をしっかりと把握して、出産・育児を含めた今後のライフプランを改めて考えてみるのも良いでしょう。
ライタープロフィール

不動産・マネー・人事労務・知財法務の分野で強みを持つウェブコンテンツ制作会社を12年間経営、代表者兼ライター。同社ではビジネス系の書籍の編集・出版プロデュースにもあたっている。日本大学法学部卒、社会人学生として慶應義塾大学に在学中。著書に『ザ・ウェブライティング』(ゴマブックス)、FP資格取得。データサイエンス・AI分野を修得中。
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