未就学児の時期は、家計の見直しや資産形成開始のチャンス

子供の教育費に備えて貯蓄はしているものの、これで良いのだろうかと不安を感じることはないでしょうか。一般的に、最も教育費がかかるのは大学への進学時。私立や国公立、学科などで違いはありますが、例えば、私立大学に進学した場合、初年度は入学金や授業料などで100万円以上、卒業までの4年間でおよそ400万円が必要になります。
そのため、国や自治体の助成制度を利用しながら、教育費や将来に備えた資産形成を早めに図っていくことが大切です。特に、2019年に施行された「幼児教育・保育の無償化」は、ぜひ活用したい制度の一つ。ただし、無償化といっても通園などにかかるすべての費用が無料となるわけではありません。そこで、「幼児教育・保育の無償化」などを活用して資金を備える方法について、マネーコンサルタントの頼藤太希(よりふじ・たいき)さんに伺いました。
新制度「幼児教育・保育の無償化」で教育費を軽減

「幼児教育・保育の無償化」は、子育てや教育にかかる費用負担の軽減を図るため、2019年10月1日から始まりました。保護者の所得制限はなく、3歳から5歳まですべての子供の「子ども・子育て支援新制度の対象となる幼稚園、認可保育所、認定こども園、地域型保育事業、企業主導型保育事業」の利用料が無償となります。
また、0歳から2歳までの子供の利用料は、子供の人数によって負担が異なります。2人以上の子供がいる世帯の場合、第1子は全額負担、第2子は半額負担、第3子以降は無償です。なお、住民税非課税世帯の場合、すべての子供が無償となります。
「幼児教育・保育の無償化」の対象となる主な施設やサービス
「幼児教育・保育の無償化」では、国立・公立・私立などの区別なく、すべての施設が利用対象になりますが、利用する施設や対象により、細かく利用条件が定められています。さらに、お住まいの自治体以外の対象施設やサービスを利用した場合も適用されます。
なお、利用料には、食材料費(給食費やおやつなど)、延長保育料、日用品費、行事費、制服代、通園交通費などの実費は含まれず、保護者の負担となります。また、ベビーシッターを利用した際の助成は、利用者の雑所得とみなされて確定申告が必要な場合もあるため、注意が必要です。
それでは、「幼児教育・保育の無償化」で利用できる主な施設やサービスの概要を見てみましょう。
幼稚園(対象:3歳から5歳)
月額利用料は「子ども・子育て支援新制度」の対象となる幼稚園か否かで異なります。対象施設は無償。対象外の施設は自己負担ですが、月額2万5,700円を上限として補助されます。
入園料は、「子ども・子育て支援新制度」の対象となる幼稚園では全額自己負担です。一方、対象とならない幼稚園では、月の利用料と入園料を足したものと、月の上限額(2万5,700円)を比較し、低い方の金額が補助されます。
東京都新宿区のように入園料や利用料の助成制度を設けている自治体もありますので、ウェブサイトなどでお住まいの自治体に助成があるかどうか確認してみましょう。
また、幼稚園の預かり保育を利用するには、「国が定めた1日の単価(450円)×利用日数」と「施設が定めた実際の利用料×利用日数」で算出される金額を比較し、低い方の金額が補助されます(月の上限額1万1,300円)。
受給にはお住まいの自治体の認定が必要です。認定は、利用者の状況を踏まえて的確に支援するために、1号、2号、3号の認定区分が設定されています。
保育所・認可外保育施設等(対象:0歳から5歳)
認可保育所の利用料は、3歳から5歳まで無償です。認可外保育所を利用する場合は、3歳から5歳までは月額3万7,000円までが補助され、0歳から2歳までは、住民税非課税世帯に限って月額4万2,000円まで補助されます。
その他の認可外保育施設等には、一時保育、ベビーシッター、ファミリーサポートセンターなどが該当します。3歳の誕生日以降の子供が対象で、月額3万7,000円を上限として補助されます。認可外保育所との併用もできますが、その場合も上限額(月額3万7,000円)は変わりません。
これらの受給はすべて、幼稚園同様にお住まいの自治体の認定が必要となります。
その他の施設
上記以外に、幼稚園と保育所の機能や特長をあわせ持ち、地域の子育て支援も行う0歳から5歳を対象とした「認定こども園」、保育所(原則20人以上)より少人数の単位で0歳から2歳の子供を保育する「地域型保育」、企業が自社の従業員や地域の子供を受け入れる「企業主導型保育」もあります。
これらの施設を3歳から5歳の子供が利用する場合は、無償で利用できます。0歳から2歳の子供が利用する場合は、お住まいの自治体の認定を受けることで補助を受けることができます。
どの認定区分に該当するのか?
どの施設やサービスを利用できるのかが分かったところで、利用には自治体の認定を受けなくてはなりません。そこで、認定を申請する際に自分の世帯がどの区分に該当するのかについて解説します。
認定区分は、各自治体が保育を必要とする事由や保護者の状況に応じたサービスを提供するために、1号、2号、3号が設定されています。2号、3号については、お住まいの自治体が定めた保護者の就労時間の下限(48~64時間)を超えていない場合、認定の申込ができません。
認定区分の基準
認定区分 | 対象年齢 | 対象施設 | パートタイム就労に従事する保護者の就労時間 | 施設利用時間 |
---|---|---|---|---|
1号認定 | 3歳~5歳 教育を希望する子供 2号認定以外の子供 | 幼稚園 認定こども園 | 1日4時間 | |
2号認定 | 3歳~5歳 保育を必要とする子供 | 保育所 認定こども園 | 就労時間が、1ヵ月48~64時間の範囲で自治体が定める下限を超えていること | ・フルタイム就労の場合、1日最長11時間 ・パートタイム就労の場合、1日最長8時間 |
3号認定 | 0歳~2歳 保育を必要とする子供 | 保育所 認定こども園 地域型保育 | 就労時間が、1ヵ月48~64時間の範囲で自治体が定める下限を超えていること | ・フルタイム就労の場合、1日最長11時間 ・パートタイム就労の場合、1日最長8時間 |
認定の必要なし | 0歳~2歳 3号認定以外の子供 | 必要に応じた一時預かりなどの支援 |
内閣府「よくわかる『子ども・子育て支援新制度』」(外部リンク)を参考に2022年3月編集部作成
頼藤さんによると、「幼児教育・保育の無償化」の制度は細かく条件が決まっているため、よく確認し自分に合ったものを利用することが大切だといいます。
また、市区町村によって支給方法や制度が異なります。不明な場合はお住まいの自治体か対象施設に尋ねるのが良いでしょう。ウェブサイトに概要や問い合わせ先を掲載している自治体も多いので、そちらも合わせて確認してみてください。
未就学の障がい児の発達支援施設(対象:満3歳になって初めての4月1日から3年間)
「幼児教育・保育の無償化」と同じ時期に、「就学前の障がい児の発達支援無償化」も始まりました。これは、障がいのある対象年齢の子供が、「児童発達支援、医療型児童発達支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援、福祉型障がい児入所施設、医療型障がい児入所施設」を無償で利用できる制度です。
幼稚園、保育所、認定こども園などとの併用が可能で、すべて無償化の対象となります。施設やサービスを利用するには、障がい福祉サービスの受給者証(以下、受給者証)が必要になるため、お住まいの自治体に相談するのが良いでしょう。
多くの家庭でもらえる「児童手当」も、重要な教育資金に

「児童手当」は、多くの家庭で助成が受けられる制度です。出生日から15日以内にお住まいの市区町村に申請が必要なので、出生届と同じタイミングで申請するのが良いでしょう。公務員の場合は、勤務先から支給されるため勤務先に申請します。
児童手当の支給条件
児童手当は、出生(0歳)から中学校卒業まで(15歳の誕生日後、最初の3月31日まで)の子供がいる世帯に支給。子供を「養育」している方に、子供1人につき、3歳未満が月額1万5,000円、3歳以上から中学校卒業まで月額1万円(第3子以降は3歳から小学校卒業の間は月額1万5,000円)が、お住まいの自治体から支給されます。
ただし、支給を受ける人の扶養親族などの数に応じて所得制限が細かく設定されています。制限にあてはまる場合、支給額は子供1人につき月額5,000円です。
例えば子供2人、配偶者の所得金額48万円(年収が103万円)以下で、世帯主の所得金額736万円(年収960万円程度)以上の場合は制限の対象となります。なお、2022年10月からは世帯主の所得金額が上限を超える場合、支給が廃止されます。前述の条件の場合は、所得金額972万円(年収1,200万円)以上の世帯への支給が無くなります。
児童手当に設けられた所得制限限度額
扶養親族などの数 | 所得金額 | 年収額の目安 |
---|---|---|
0人 (例:前年末に子供が産まれていない場合など) | 622万円 | 833万円 |
1人 (例:子供1人) | 660万円 | 876万円 |
2人 (例:子供1人+年収103万円以下の配偶者) | 698万円 | 918万円 |
3人 (例:子供2人+年収103万円以下の配偶者) | 736万円 | 960万円 |
4人 (例:子供3人+年収103万円以下の配偶者) | 774万円 | 1,002万円 |
5人 (例:子供4人+年収103万円以下の配偶者) | 812万円 | 1,040万円 |
内閣府「児童手当Q&A」(外部リンク)を参考に2022年3月編集部作成
児童手当は、毎年6月、10月、2月に、それぞれ前月分までの手当が支給されます。受給されている方の状況確認手続きの「現況届」の提出を怠ったり、住所変更の届出を失念したり、公務員の方が離職した場合の手続きを怠ったりすると受給が停止します。遡って請求ができないため注意してください。
また、児童手当は日本国内在住の子供が支給の対象ですが、海外に留学している場合でも一定の要件を満たせば支給されます。
「児童手当を全額貯蓄し、中学校を卒業するまでに200万円程度蓄えるという選択肢もある」と、頼藤さんはいいます。教育費として確実に備えるために、児童手当を受け取る口座を分けておくことなども有効です。
教育費はどう貯める?

教育費は、小学校から大学まですべて国公立の場合は総額1,000万円程度、すべて私立の場合は総額2,000万円から2,500万円といわれています。もちろん、教育費の他、老後資金などを見据えた将来への蓄えも必要となってきます。
「手取り金額の8割を生活費や教育費、2割を貯蓄にして、計画的に貯めていくと良いでしょう。教育用の資金とは別に300万円程度の貯蓄ができれば、老後の資金や投資に向けた準備にもなる」と、頼藤さんはいいます。また、貯蓄や投資をする際には「長期」「積立」「分散」を心がけると良いそうです。
効率的に資金を準備するためのポイント
「長期」
長い時間をかけることで複利効果(利息が次の利息を生む効果)の力が高まり、着実にお金が貯まる。投資では価格の振れ幅が少なくなり、安定した収益が期待できる。
「積立」
毎月一定金額をコツコツ積立する。給料日などに自動的に口座から積み立てられるサービスを利用すれば、確実に貯めることができる。金額が少額でも長期間続けることで、まとまった金額になる。毎月一定額を投資に回すと、価格が高いときは少なく、安いときには多く購入できるため、購入価格の平準化が図れる。
「分散」
資産を様々な商品に分けることで、リスクの低減や利益の安定化が図れる。投資の場合、購入するタイミングや投資先(株式や債券、国や地域)を分けることで資産全体の価格変動リスクが軽減し、堅実にお金を増やすことにつながる。
では、実際にどのような方法があるのか考えてみましょう。
つみたてNISA
つみたてNISAは、少額の長期・積立・分散投資を支援するために2018年1月に創設されました。毎年40万円を上限として、毎月、設定した金額を積立・運用します。運用した投資信託によって得た利益などが、非課税となる税制優遇制度です。
運用の対象となる商品は、金融庁が一定の基準を定め、長期・積立・分散投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定されており、また長期積立のため投資初心者をはじめ多くの人が利用しやすい仕組みとなっています。
長期のつみたてを希望される場合は、つみたてNISAを選択肢の一つとして考えると良いでしょう。NISAについて詳しくは「【未来投資シリーズ】数年後の資産が変わる?NISA」も参考にしてください。
財形貯蓄
毎月の給与から、一定金額を自動で積み立てる貯蓄です。自分が勤務する会社が、財形貯蓄の制度を導入している場合に利用できます。給与からあらかじめ引かれるため、確実にお金が貯まるメリットがあります。一部解約や引き出しも可能ですが、手続きの際には上司の承認が必要な場合もあるようです。
自動積立定期預金
あらかじめ設定した日に、普通預金口座から毎月一定額が定期預金口座に積み立てられます。銀行の窓口などで申し込みできます。中途解約することもでき、気軽にお金を貯めるのに適した方法です。
学資保険
子供保険とも呼ばれます。保険料を払い込み、子供の入学や進学に合わせて学資祝金や満期保険金などが受け取れる保険商品です。契約者(親など)が死亡した場合には、以後の保険料払込が免除される機能や、払い込んだ保険料相当額を死亡給付金として受け取れる機能があります。また、保険料の払込が免除になったとしても、満期時の保険金は契約時の満額が保証されます。保険料の払込方法は毎月、あるいは半年に1度や年に1度などから選べます。保障と貯蓄機能を備えた選択肢です。
様々な助成を活用して教育費負担を軽減
「ほかにも利用できる制度が拡充されているので、それをぜひ利用すべき」と、頼藤さんはいいます。例えば、高校の授業料の負担軽減に向け、国が授業料を支援する「高等学校等就学支援金制度」や、祖父母から教育資金を援助してもらう場合に、孫1人あたり1,500万円までの教育資金を非課税で贈与できる「教育資金贈与信託」などがあります。
まとめ

ライフイベントにかかる出費の中でも教育費は大きなウェイトを占め、一般的に大学進学では一度に大きなお金を要します。またその先の老後資金、不意の支出や不測の事態といった将来への出費に備えるためにも、各種制度を利用して家計への負担を軽減し、少しずつでも資金を増やしておくことが大切です。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、証券投資取引の推奨・勧誘を目的とするものではありません。
この人に聞きました

(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年にMoney&Youを創業し現職へ。Webメディア『FP Cafe』や『Mocha』を運営。資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『1日1分読むだけで身につくお金大全100』(自由国民社)、『はじめてのFIRE』(宝島社)など著書多数。
ライタープロフィール

ライター、金融アナリスト
日系銀行、シティバンク、シティトラスト勤務や、ITベンチャー企業でのIR・広報を経て、金融に強みを持つライターとして活躍。これまでのキャリアで培った金融の知識と、企業経営の視点、ニュースを複合的に織り交ぜたマーケット分析を得意とする。過去の歴史や経緯を含めた執筆が特色で、食等幅広い分野の執筆も手掛ける一方で、マスコミにて政治、経済を中心としたコラムに関わる仕事やキー局のラジオ番組制作にも従事。日本ウズベキスタン協会理事として中央アジア・ウズベキスタンと日本の友好にも尽力。
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