不妊治療、公的医療保険の適用拡大でどうなる?対象となる治療法や費用を解説

不妊治療、公的医療保険の適用拡大でどうなる?対象となる治療法や費用を解説

不妊治療、公的医療保険の適用拡大でどうなる?対象となる治療法や費用を解説

2021年の政府広報オンラインによると、5.5組に1組の夫婦が不妊の検査・治療を受けたことがあるといいます。2022年4月から公的医療保険の適用範囲が拡大した不妊治療について、新しく適用となった治療法や費用などについて解説します。

不妊治療における公的医療保険の適用範囲が拡大

不妊治療における公的医療保険の適用範囲が拡大

これまでも、不妊の原因を特定するための検査や不妊の原因となる疾患の治療に関しては、公的医療保険の適用範囲となっていました。例えば、画像検査や血液検査による診断、不妊の原因となる女性の排卵障がいや無月経、同じく男性の逆行性射精や造精機能障がいに対する薬物療法などが該当します。

一方で、体外受精や顕微授精などの不妊治療は公的医療保険の対象外であり、高額の費用負担が生じていました。2022年4月から公的医療保険の適用範囲が拡大されたことで、これらの不妊治療も適用対象となったのです。

公的医療保険が新たに適用された治療法と費用の目安

2022年4月から新しく公的医療保険が適用となる主な治療法と費用の目安は以下のとおり。自己負担分はこの金額の3割と考えてください。

適用においては、「治療開始時の女性の年齢が43歳未満であること」「体外受精の回数は、女性の年齢が40歳未満の場合は通算6回まで、40歳以上43歳未満の方は通算3回まで(1子ごとに。年齢は最初の治療開始時)」などの要件があるため、注意が必要です。

タイミング法

排卵のタイミングに合わせて性交を行うよう、医師の指導を受ける。費用の目安は1万円未満。

人工授精

注入器を用いて精液を直接子宮に注入し、妊娠を図る技術。男性の精液異常や性交障がいなどで用いられる場合が多い。費用の目安は約3万円。

体外受精

精子と卵子を採取し、体外において受精させてから子宮に戻して(胚移植)、妊娠を図る技術。費用の目安は約50万円。

顕微授精

体外受精の内、卵子に注射などで精子を注入するなど、人工的な方法によって受精させる技術。費用の目安は約6万円〜9万円。金額に幅があるのは、採卵する個数によるため。

男性の不妊手術

精液中に精子がない無精子症や、射精が困難な場合に精巣内より精子を回収する「精巣内精子採取術」など。回収した精子は顕微授精で利用する。精巣内精子採取術の費用目安は、約17万円〜30万円。金額に幅があるのは、無精子症の症状により手術方法が異なるため。

「高額療養費制度」も利用できる

高額療養費制度とは、世帯における月の医療費が定められた上限額を超えた際に、超えた分が助成される制度。不妊治療にも利用できます。上限額は、年齢や所得によって異なります。

同じ公的医療保険に加入していれば、世帯での合算が可能です。家族が病院にかかった費用など、不妊治療以外の医療費も合わせて計算しましょう。さらに、過去12ヵ月以内に3回以上上限額に達した場合は、4回目から上限額が下がります。この制度を利用するためには、ほとんどの場合、加入している公的医療保険に申請手続きを行います。

これまで行われていた、不妊治療に対する助成はどうなるの?

公的医療保険の適用拡大となる2022年3月31日まで、上記の不妊治療の内「特定不妊治療」に区分される体外受精と顕微授精、男性の不妊治療などは、国の「特定不妊治療費助成事業」の対象となっていました。そのため、医師の診断や年齢に応じた回数制限などの要件のもと、1回30万円を上限とする助成が行われていました。

2022年3月31日でこの助成は終了しています。ただし、2022年3月31日以前に開始され、終了が2022年4月1日から2023年3月31日まで間の治療については、経過措置として助成対象のままです。

不妊治療におけるハードルや注意しておきたいこと

不妊治療におけるハードルや注意しておきたいこと

受診までの心理的なハードル

不妊治療には、婦人科を受診するまでの心理的なハードルがあります。問診では夫婦間のコミュニケーションや性に関わる問題など、センシティブな話題に触れる可能性が高く、また、触診が怖いという女性や婦人科の受診を躊躇する男性も少なくないでしょう。

1996年から地方自治体では、無料の相談窓口として不妊専門相談センターを設置しています。例えば、おおさか不妊専門相談センターは、「大阪府立男女共同参画・青少年センター」に開設されており、電話や面談による相談が可能です。

また、不妊治療経験者同士の交流会やセミナー、公開講座なども開催されています。情報を得る、誰かに相談することで心理的なハードルが下がる可能性があるため、不安がある人は参加を検討してみると良いでしょう。

保険適用にならない治療法もある

第三者の精子提供による人工授精、第三者の精子・卵子の提供、代理懐胎といった「第三者の精子・卵子などを用いた生殖補助医療」に関しては、現在も公的医療保険の適用対象外のままです。

また、不妊治療の先進医療には、「ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術(ヒアルロン酸を含有する培地を用いて、成熟精子の選択を行う技術)」「子宮内膜刺激術(胚培養液を胚移植数日前に子宮に注入し、受精卵の着床に適した環境を作り出す技術)」などがあります。これら先進医療に関しては、入院基本料など一般の診療と共通する費用については保険適用内ですが、先進医療そのものの費用は適用外となるため、患者の自己負担となります。

今後、不妊治療に対する公的医療保険の適用範囲は広がるの?

今後、不妊治療に対する公的医療保険の適用範囲は広がるの?

保険診療として認められていない先進的な医療技術などは、先進医療会議によって、その安全性や有効性が検討・評価され、認められると先進医療として告示されます。2021年~2022年には、先述の「ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術」などが告示されました。告示された先進医療が今後、多くの患者に利用され、安全性や有効性がさらに認められると、体外受精や顕微授精のように保険適用となるかもしれません。

2022年4月からの不妊治療に対する保険適用範囲の拡大によって、費用負担がネックとなり不妊治療に踏み切れなかった人にも門戸が広がりました。さらに今後、その治療範囲も広がっていく可能性があります。思い描く将来設計に向け、不妊治療に関心はあるけれど不安もあるという人は、婦人科や不妊専門相談センターを訪れてみましょう。

ライタープロフィール
田中 あさみ
田中 あさみ
金融系ライター。大学在学中にFP資格を取得し、卒業後は会社員を経て独立。現在はフリーライターとしてメディアや企業サイトなどで金融系・不動産テック・DXなどの記事を執筆する。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。

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