子供の自立性や自発性を育む「モンテッソーリ教育」の可能性とは

子供の自立性や自発性を育む「モンテッソーリ教育」の可能性とは

子供の自立性や自発性を育む「モンテッソーリ教育」の可能性とは

子供の自立性を尊重する「モンテッソーリ教育」。藤井聡太棋士など数々の著名人が受けていたこともあり、昨今注目されています。その特徴や期待できる効果について、「モンテッソーリすみれが丘子供の家」園長の堀田和子さんに聞きました。

世界のリーダーたちも学んだ、モンテッソーリ教育

世界のリーダーたちも学んだ、モンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育とは、イタリア初の女性医師・マリア・モンテッソーリが1907年に設立した「子どもの家」で実践した教育から確立された教育法です。子供には生来、自立・発達していこうとする力(自己教育力)が備わっており、その力を発揮させるために、発達に見合った環境(物的環境・人的環境)が必要という考え方に基づいています。自立性や自発性を体得し、社会に貢献できる人を育てていくことを目標としています。

この教育法が注目される理由の一つが、発想力や集中力、行動力などといった数値では計りにくい力「非認知能力」を伸ばすことが期待できるというもの。この力は、VUCA(環境が目まぐるしく変化し、将来を予測できない状態)といわれるこれからの時代を生きるうえで、必要な資質になるでしょう。

欧米を中心に世界140ヵ国以上で普及し、日本でも1960年代に幼児教育の一つとして導入されています。近年では、藤井聡太棋士が幼少時にモンテッソーリ教育を受けていたことで話題となりました。また、元米大統領バラク・オバマ、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、Amazon創業者のジェフ・ベゾス、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ、英国王室のウィリアム王子他、数々の起業家や著名人が学んだことでも知られています。

モンテッソーリ教育とは

モンテッソーリ教育とは

モンテッソーリ教育には「日常生活の活動」「感覚教育」「言語教育」「数教育」「文化(芸術・音楽)」「文化(歴史・地理・生物)」の6つの分野があり、モンテッソーリ教育を実践している施設が各分野に紐付いた独自のプログラムを提供しています。堀田さんが勤務するモンテッソーリすみれが丘子供の家では、2歳から小学生までを対象に以下の活動が行われています。

日常生活の活動

歩く、座る、料理、洗濯など日常の活動を通して、様々な環境に適応できる思考力や感受性を育てます。縫い針に糸を通したり、ネジを回したりと、指先の神経を動かすことによって、自分の身体や意思を上手にコントロールする力を養うことができます。

感覚教育

視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚を育てるために、教具を用いて学びます。教具には、例えば、立体を積みあげるタワーや、大きさを捉えることができる木製パズル(円柱さし)などがあり、見る・持つといった物に触れる体験を通じて、感覚を養い、抽象的事象を理解することができるようになります。

言語教育

図形をかたどった鉄製の玩具や、絵カード、文字カードを活用した「聞く・読む・書く」活動によって、言語による表現力を身につけます。名詞、動詞、形容詞など文法の概念を学び、語彙を豊かにし、コミュニケーション能力を高めます。

数教育

2歳から3歳の子供は、階段やおやつの数、カレンダーの日付など身の周りにある「数」に親しみ、4才から5才になると10進法の教具や、四則計算のための教具を活用して「数」の概念を広げ、論理的思考力を養います。

文化(芸術・音楽)

音楽では、世界の様々な国歌に合わせて行進するリズム指導や、ハンガリーで生まれた音楽教育法「コダーイメソッド」によるわらべ唄を教材として、表現力を養います。また、鯉のぼりや七夕、クリスマスなど季節の行事に合わせて様々な工作を行い、作品づくりを通して、個性や芸術性を育んでいきます。

文化(歴史・地理・生物)

うさぎや亀などの生物の飼育や草花の栽培、様々な生物模型や自然との触れ合いを通じて、生物への関心を向上させます。また、地図パズルや国旗を遊びに取り入れ世界への興味を広げたり、恐竜やマンモスなどのフィギュア模型や絵カードなどを手掛かりに地球と生命の歴史や文化への興味、理解を深めたりします。

「敏感期」の働きに注目したモンテッソーリ教育

「敏感期」の働きに注目したモンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育では、0歳〜6歳に現れる、一定の事柄に特別興味を抱く「敏感期」に着目しています。この時期に適切な環境を整えることで、子供の伸びる芽を自然に育てられると堀田さんはいいます。

「一般的には、特定の物事に執着したり、同じことを繰り返したりといった行動が敏感期のサインです。興味を持つ活動を、子供が満足いくまで取り組める環境を用意してあげることで、集中力など様々な能力の獲得が期待できます」

例えば、「いつも使うおもちゃがいつもと違う棚に置いてあると大泣きする」「コートをかける場所がいつもと違うと駄々をこねる」といったことも、サインの一例だといいます。「わがままいわないの!」と注意してしまいがちなシチュエーションですが、それではせっかくのきっかけを潰してしまうことになりかねません。堀田さんは、「子供をよく観察し、敏感期が来ているのかもしれないという意識を持って見守ってあげることが大事」だと強調します。

モンテッソーリ教育による理想の教育とは

モンテッソーリ教育における理想の環境とは

モンテッソーリ教育法を実践する幼児教育施設には、以下のような特色があります。

異なる年齢によるクラス編成

クラスは、異なる年齢の子供たちで編成されます。年長の子は年少の子の世話をし、年少の子は年長の子を手本とするなど、お互いに学び合える環境といえます。「日々の活動を通して、多様性を身に付けられやすい」と堀田さんはいいます。

個別活動を基本とする

「敏感期」を重視するため一人ひとりに合った活動ができるよう、子供に合わせ教具などの環境を準備します。同時に、鉛筆や消しゴム、教具などは、クラスの皆が共通に使うものとして大切に使い、必ず元に戻すように促すなど、個別の活動を基本としながらも他者に配慮して行動する社会性も養えるようにサポートしています。

自立性・自発性を重んじる

子供の自立性や自発性を尊重し、子供をよく観察しながら何が必要かを考え、最適な環境を整えていきます。教師が教え導くのではなく、最小限のサポートを行いながら見守ります。

自宅でも実践可能なモンテッソーリ教育

自宅でも実践可能なモンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育は、自宅でも実践することが可能だと堀田さんはいいます。例えば、着替えもその一つ。

「子供は1歳を過ぎる頃には、身支度を一人で行いたいという思いが強くなります。自分だけでできたという達成感を味わせてあげるのがポイント。一人で着替えができるよう、ボタンが大きく脱ぎ着しやすい服を選んであげましょう」

家のお手伝いなども、できるだけ行ってもらうように促します。例えば、食事の準備や食後の後片付けなど、生活の中には「順序」があります。それらを知ることで、先見力や判断力の養成につながり、その能力は、算数や言語を学ぶときの基本にもなると考えられています。

また、一緒に買い物に行き、子供に材料を選んでもらうのも生活を通して野菜や食物の知識を身につけられます。一緒に調理することで、食べ物の関心を深めるだけでなく、手先を器用に使う学びにもつながります。

これからの時代の教育と、モンテッソーリ教育の親和性

これからの時代の教育と、モンテッソーリ教育の親和性

グローバル化や技術革新によって、ますますの変化が予想される社会。2020年には、文部科学省が定める「学習指導要領」が約10年ぶりに改訂され、小学校におけるプログラミング教育の実践など、社会の変化を見据えた新たな学びへと進化しました。この改訂には、以下の願いが込められています。

学校で学んだことが、子供たちの「生きる力」となって、明日に、そしてその先の人生につながってほしい。
これからの社会が、どんなに変化して予測困難な時代になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。
そして、明るい未来を、共に創っていきたい。


出典:文部科学省「学習指導要領」(外部サイト)

堀田さんは、「この願いは、モンテッソーリ教育との親和性が高く、まさに私たちがめざす子供の姿と同じ。自立性を重んじ、知的好奇心や行動力を育む学びは、これからの社会にいかされるでしょう」といいます。

誕生してから約110年が経つモンテッソーリ教育ですが、その教育内容は全く変わっておらず、今後も変化することはないとのこと。なぜなら、「人間の本質に基づいた教育法であるモンテッソーリ教育は、社会の動向に左右されず、いつの時代にもフィットするメソッドともいえる」と堀田さんは解説します。

子供の個性に合った教育法を考えることが大切

世界に名だたる起業家が受けていたことでも知られるモンテッソーリ教育。ゼロから新たなビジネスを生み出す原動力は、幼少期に育む自立性や発想力、集中力がベースになっているのかもしれません。

先述したように、VUCAといわれる先の予測が難しいこれからの時代。そんな時代に向け教育のあり方が見直されている今、子供の個性にあった教育法を選ぶ重要性について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

この人に聞きました
堀田和子さん
堀田和子さん
上智大学文学部教育学科(心理学専攻)卒業。1968年にCACOドーム教育研究所を開設し、児童教育を始める。1972年上智モンテッソーリ教員養成コース卒業、日本モンテッソーリ協会承認ディプロム取得。1973年にモンテッソーリ原宿子供の家、1992年にモンテッソーリすみれが丘子供の家を開設する。NPO法人東京モンテッソーリ教育研究所附属教員養成コース主任講師を担当。主な著書に『ちょっと待ってお母さん』(PHP研究所)などがある。
ライタープロフィール
松本 奈穂子
松本 奈穂子
メーカー、ITベンチャーを経てフリーライターとして活動。雑誌、書籍、ウェブ、フリーペーパーなどメディア全般を制作。ライフスタイル、旅、金融、教育など幅広い分野で取材・執筆を行う。共同著書に『いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日』『いちばん美しい季節に行きたい 世界の絶景365日』(パイインターナショナル)

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