親の介護は突然やってくる

「まだ親に介護は必要ない」と思っていても、病気やケガによって突然介護が必要になるケースは少なくありません。
2019年の「国民生活基礎調査」によると、要介護度が最も軽い「要介護1」の人が要介護となった理由は「認知症」が29.8パーセント、「脳血管疾患(脳卒中)」が14.5パーセント、「高齢による衰弱」が13.7パーセント、となっています。要介護認定者全体でみると、「骨折・転倒」が12.0パーセントで3位となっており、思わぬケガも介護につながる可能性があると分かります。
2025年には高齢者のおよそ5人に1人が認知症になると予想されており、自分の親にまだまだ介護は必要ないとはいい切れないのです。「脳血管疾患(脳卒中)」については、20〜64歳の就労世代であれば復職可能なレベルまで回復する可能性もありますが、75歳を超えると完全な自立状態まで回復する確率は下がるため、要介護となる確率も高くなります。
介護に備えていないと、急にライフスタイルが変わったりお金が必要になったりといった課題が押し寄せます。親の介護が必要になった際の対応を前もって検討しておけば、そのときが来ても落ち着いて対応できるでしょう。備えがあれば心身のゆとりも確保できるため、親子ともに安心して生活できます。
親の介護については、以下の記事も参考にしてみてください。
知っておこう!親の介護にかかるお金(外部サイト)
「介護が必要になる前に施設に入る」という選択もある
親にまだ介護の必要はないとしても、子が頻繁に様子を見に行けない場合や、高齢で火を扱うのが心配な場合など、自宅で過ごすには不安がある方もいるでしょう。そういった場合、バリアフリーの居室や食事サービスがある施設に入居するという選択もあります。
また、レクリエーションなど他の入居者と交流のある施設では、話し相手や趣味の時間も得られるため、認知症の予防・進行防止や充実した時間の獲得にもつながります。
施設への入居は必ずしもネガティブな選択肢ではなく、親子ともに充実した生活を送る方法だともいえます。今すぐの入居は考えていなくても、情報収集や見学をしておくと今後の良い判断材料となるはずです。
高齢者向け施設ってどう違う?

高齢者向け施設といっても、公的施設と民間施設それぞれに受け入れ要件や提供サービスの異なる施設が複数あります。それぞれの特徴や費用相場を見ていきましょう。
公的施設の種類
名称 | 対象介護等級 | 入居一時金 (目安) | 月額利用料 (目安) |
---|---|---|---|
特別養護老人ホーム(特養) | 要介護3〜5 | なし | 約9万円〜13万円 |
養護老人ホーム | 自立 | なし | 0円~約14万円 |
介護老人保健施設(老健) | 要介護1〜5 | なし | 約8万円〜13万円 |
介護療養型医療施設 | 要介護1〜5 | なし | 約8万円〜14万円 |
軽費老人ホーム (ケアハウス・一般型) | 自立〜要介護2程度 | 0円〜数十万円 | 約7万円〜20万円 |
軽費老人ホーム (ケアハウス・介護型) | 要介護1〜要介護5 | 0円〜数百万円 | 約9万円〜34万円 |
特別養護老人ホーム(特養)
食事・入浴・排せつのサポートから、清掃・洗濯といった日常生活の支援、リハビリ、レクリエーションなどを行う施設です。要介護3以上から申し込み可能で、要介護度が高い人から優先的に入居できます。入居一時金が不要で月額利用料も低いため、人気が高く待機者が多い傾向にあります。
養護老人ホーム
高齢者の「養護」を目的とした施設です。毎日の食事の提供、健康面の確認や、自立・社会復帰に向けてのサポートを行う施設のため、介護や看護サービスの提供はない場合がほとんどです。入居対象者は経済的もしくは環境上の理由から生活が困難である65歳以上の高齢者で、入居には地方自治体の審査が必要となります。
介護老人保健施設(老健)
入院していた要介護の高齢者が退院となったものの、家庭に戻るのは難しい場合に入居する施設です。病院と自宅の中間的な位置づけで、原則3〜6ヵ月の入居となっています。食事・入浴・排せつといった基本的な介護に加え、医師・看護師による医療的管理や理学療法士などによるリハビリテーションを行います。
介護療養型医療施設
介護療養型医療施設には、介護保険が適用となる「介護療養病床」(介護型)と医療保険が適用になる「医療療養病床」(医療型)があります。しかし、介護型と医療型の違いがあいまいになってきたことや、医学的には入院の必要がないにもかかわらず家庭の事情で入院している「社会的入院」が多いことが問題となりました。よって、医療的措置の必要性が高い方と低い方を適切に分類し、病床医療の再編を図るため、介護療養型医療施設は2024年3月までに廃止されることになっています。
そこで、廃止後の受け皿として新設されたのが「介護医療院」です。基本的なサービス内容は介護療養型医療施設と同様で、在宅介護が難しく医学的管理が必要な要介護1以上の方を対象としています。たん吸引、カテーテルを使用した治療、鼻からカテーテルを挿入し、そこから栄養剤を注入する経鼻経管栄養などに対応可能な点も、介護療養型医療施設(特に医療型)と同様です。ただし、療養や介護の必要性に応じてⅠ型とⅡ型に分けられ、患者に合わせた対応が可能になっています。介護療養型医療施設も介護医療院も医療療養が主たる目的であるため、レクリエーションのようなイベントはありません。
軽費老人ホーム(ケアハウス)
自宅で自立した生活を行うには不安のある60歳以上の方を対象に、生活支援を行う施設です。軽費老人ホームC型とも呼ばれています。ケアハウスには「一般型」と「介護型」があり、「一般型」では食事・安否確認・生活相談サービスを行います。介護が必要になった場合には施設外の在宅介護サービスとの契約も可能です。一方「介護型」は、要介護1以上の方が対象で、24時間スタッフによる介護サービスを受けられる施設となっています。
民間施設の種類
名称 | 対象介護等級 | 入居一時金(目安) | 月額利用料(目安) |
---|---|---|---|
介護付き有料老人ホーム | 要支援1〜要介護5 | 0円〜数千万円 | 約10万円〜100万円 |
住宅型有料老人ホーム | 自立〜要介護3程度 | 0円〜数千万円 | 約12万円〜50万円 |
健康型有料老人ホーム | 自立のみ | 数十万円〜数千万円 | 約15万円〜100万円 |
サービス付き高齢者住宅 | 自立〜要介護3程度 | 0万円〜数百万円 | 5万円〜40万円 |
シニア向け分譲マンション | 自立〜要介護3程度 | 数千万円〜数億円 | 5万円〜30万円 |
グループホーム | 要支援2〜要介護5 | 0 万円〜数十万円 | 10万円〜20万円 |
介護付き有料老人ホーム
各都道府県から「特定施設入居者生活介護(特定施設)」の指定を受け、24時間介護を行う施設です。要介護のみを対象とした「介護専用型」と、要支援・要介護を対象にした「混合型」があります。提供サービスは、食事・入浴・排せつのサポートや清掃・洗濯といった日常生活の支援、リハビリ、レクリエーションなどです。
住宅型有料老人ホーム
食事の提供や清掃・洗濯などの生活支援サービス、医療機関提携・緊急時対応に加え、レクリエーションなどのイベントも行います。「特定施設入居者生活介護(特定施設)」の指定を受けていない有料老人ホームは「介護付き」と名乗れませんが、訪問介護や通所介護などの在宅サービス事業所が同じ建物内にあるなど、事実上介護付き老人ホームと同じサービスを受けられるところも多いです。介護が必要になった場合には、入居者個人が在宅サービス事業所と契約を結びます。
健康型有料老人ホーム
自立状態の高齢者を対象にした、食事サービスがついた施設です。温泉やスポーツジム、シアタールームなど、日常生活を楽しめる設備があります。居室はバリアフリーで1LDKや2DK、バス・キッチンが付いていることが多いです。要支援状態の高齢者を受け入れている施設もありますが、介護が必要になった場合には退去となる施設もあるため注意が必要です。
サービス付き高齢者住宅(サ高住)
60歳以上を対象とした高齢者施設で、賃貸借契約を結んで入居します。受けられるサービスは、有資格者の相談員による安否確認と生活相談です。基本的に食事の提供や家事支援はオプション料金で、月額利用料は数十万円ほどかかる場合もあり、立地や提供サービスによって大きな差があります。
介護付き有料老人ホームと同様に「特定施設入居者生活介護」の指定を受けているサ高住については、施設のスタッフによる介護や生活支援サポートを受けられます。ただし、特定施設の認定を受けているサ高住は少ないうえ外出制限も厳しいため、ある程度身の回りのことは自分でできるという方には不都合があるかもしれません。
シニア向け分譲マンション
高齢者を対象にした分譲マンションです。通常の分譲マンションと同様に所有権が得られるため、売却や譲渡、賃貸、相続などができます。付帯サービスや共有設備はマンションにより様々で、温泉やプールといった設備が備わっているところもあります。介護が必要になった場合は個人で在宅サービスを契約する必要があるうえ、初期費用として数千万〜数億円かかるため、かなり高コストな選択肢といえます。
グループホーム
要支援2以上で、原則65歳以上の認知症高齢者を対象とした施設です。住民票のある自治体の施設に入居できます。介護やリハビリを受けながら、1ユニット9人までの少人数で料理や掃除などの家事を分担し、共同生活を送ります。自立した生活を送る支援と精神的な安定を図り、症状の進行を遅らせる目的があります。ただし、重介護や医療ケアが必要になった場合には、退去しなければならないケースも出てきます。
施設を選ぶときに親と話し合っておくべきポイント

施設の特徴が分かったところで、自分たちに合った施設を選ぶために確認しておくと良いポイントを紹介します。
【ポイント1】費用
入居一時金のない特別養護老人ホームであっても、月額利用料は8万円〜13万円ほどかかります。公的年金を受給している場合には、受給額の範囲内で費用をまかなえる可能性もありますが、より手厚いサービスや広い居室を望む場合にはそれだけ費用も高くなります。親の年金額や資産を把握することは入居する施設を絞り込むうえで重要です。
【ポイント2】立地
入居後もある程度自由に外出する予定があるなら、周辺の道路状況や交通の利便性は確認しておきたいポイントです。スーパーやコンビニ、商業施設の有無も生活の満足度に影響するでしょう。
また、家族が面会に行きやすい立地であるかどうかも確認しておきたいですね。電車や飛行機などの騒音が気になる場合もありますので、実際に訪れてみると分かることもあります。
【ポイント3】サービス内容
介護の範囲や医療体制の有無など、対応できるサービスも把握しておきましょう。特に、介護が必要ではない状態で入居したものの、後に介護が必要となった場合、入居した施設ではスタッフによる介護を実施していないケースもあります。介護サービスを提供している近隣の事業所と契約する場合や、別の施設に転居する場合のプランも考えておけると良いでしょう。
また、施設によっては看取りを行っていない場合もあります。どこまでのサポートが必要で、どこの施設なら実施してもらえるのかを把握するためにも、まずは求めるサービスを親子ですり合わせておく必要があります。
【ポイント4】施設の雰囲気、スタッフの人柄
施設でともに過ごす人たちとの相性は、充実した老後を過ごすうえで重要です。親が元気なうちに見学に行けると、親自身で雰囲気の合う施設の候補をあげられます。
まずは近所の施設を2〜3ヵ所見学してみるのも手です。一度施設の雰囲気を見ることで、入居の目的や重視したいポイントが明確になってきます。そこから予算や立地を考慮して情報収集を行うと、候補が絞り込みやすくなるでしょう。
親だけ、子だけで決めず、話し合いを

「費用負担が少ない施設で看取りまでサポートしてもらいたいなら、公的施設である特養」「趣味の時間も楽しみながら自立した生活を送りたいなら、民間施設である健康型有料老人ホーム」といったように、重視したい要素や目的から施設選びができると、生活の満足度はぐっと高くなります。
親が認知症になってから子だけで施設を決めようとすると、「親にどれくらいの資産があるのか」「親の趣味に合う施設はどこか」「どんな老後の過ごし方を望んでいるのか」など、選択肢がなかなか絞れない可能性もあります。
公的施設、民間施設のそれぞれに特徴の異なる施設がありますし、施設の分類が同じであっても運営する法人によって対応するサービスや雰囲気が異なるケースもあるでしょう。重視したい要素や目的を押さえた施設選びをするためには、親だけ、子だけで判断するのではなく、お互いの意見や情報を共有しておく必要があります。
また、親が自主的に高齢者マンションへの入居を決めた場合でも、認知症になったり介護が必要になったりした際には、子が手続きをする可能性もあります。契約書類の保管場所や入居費の引き落とし口座などを共有していないと、思いがけず負担が増えてしまうことにもなりかねません。
「まだまだ先のことだから関係ない」と遠ざけてしまうのではなく、親子ともに安心した将来を迎えるためにも、施設選びについて一度話し合ってみてはいかがでしょうか。
参考:
・『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れが分かる本 第2版』(翔泳社)太田差惠子著
・『親を大切に考える子世代のための老人ホームのお金と探し方』(日経BP)小嶋勝利著
・横浜市ウェブサイト「施設のご案内」(外部サイト)
ライタープロフィール

主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。文系大学院修了後、企業ブランディング書籍の営業・編集を経て入社。各種メディア記事の編集・ライティングを担当。
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