ビジネスパーソン必見。「インフルエンサー社員」があたり前になるかもしれない未来

ビジネスパーソン必見。「インフルエンサー社員」があたり前になるかもしれない未来

ビジネスパーソン必見。「インフルエンサー社員」があたり前になるかもしれない未来

SNS上で多くのファンを抱え、そこで発信する行動や思考が大きな影響力を持つといわれるインフルエンサー。そんな彼らの高い発信力が近い将来、一般企業の社員にも求められる時代が来るかもしれません。その理由を、関連する企業に聞きました。

インフルエンサーと企業がビジネスで協力する事例が増えている

インフルエンサーとは「影響」や「人を動かす」といった意味を持つ英単語「influence(インフルエンス)」を語源とし、世間の考え方や行動に大きな影響を与えることができる人物のこと。近年ではインターネット上のSNSにおいて、多くのファンを獲得し、他のユーザーに大きな影響を与える人物を指すことが一般的です。

インフルエンサーと企業がビジネスで協力する事例が増えている

インフルエンサーの影響力については多くの企業が注目し、パートナーシップ契約を結び、彼らの情報発信を通じて自社の商品やサービスの認知を高める「インフルエンサーマーケティング」も活発化しています。国内マーケティング企業が2020年10月に発表した調査によると、2019年の国内インフルエンサーマーケティング市場規模は301億円と、前年比137パーセントの成長を記録。2025年には2019年比で約2.4倍、約720億円規模になると予測されています。

出典:サイバー・バズ/デジタルインファクト調べ(外部サイト)

著名な広報アカウントなど一部例外もありますが、「個人」としての見解や行動について発信するユーザーがインフルエンサーの主流。その多くは組織やブランドなどではなく、パーソナリティで支持を得た一人の人物であることも特徴といえます。

そのためインフルエンサーマーケティングのほとんどは、影響力を持つユーザーである個人と企業が、業務委託など比較的短期間で契約するものがほとんどです。

しかし最近は、インフルエンサーを正社員として雇用してより長期的な戦略に取り組もうとしたり、組織内の社員をインフルエンサーに育成したりしようとする動きもあるようです。その背景や狙いを、実践する企業に聞いてみました。

「バズる」ノウハウを企業活動に役立てる

「バズる」ノウハウを企業活動に役立てる
株式会社favy執行役員として編集・人事・広報を統括する齋藤尚司(さいとう・ひさし)さん。取材は2021年10月13日に行ったもの

グルメサイトの運営や、SNSを通じた飲食店のマーケティング支援などを手がけている株式会社favy(以下、favy)は、2015年からSNS上で活躍しているインフルエンサーを対象に求人を実施。ウェブメディアの企画・制作・発信を行う編集部に正社員として配属する取り組みを始めました。同社で人事部門の責任者を務める齋藤尚司さんは、採用制度を導入した理由を「彼らのスキルを組織にも定着させたかったから」と語ります。

「インフルエンサーは『情報の受け手がどのような行動をとるかを予測したうえで、コンテンツを作って発信し、多くの反響を得ることができるノウハウ』を持っている人物です。SNS上での投稿が話題となり多くの人の注目を集める、いわゆる『バズる』ことを意図的に行うことができる人物ともいいかえられます。こうしたノウハウを編集部の業務で活用するために、採用を始めるようになったのです」

編集部で作成するものは、飲食店の紹介記事といったグルメ関連のコンテンツ。主要な作業としては、どんな消費者層にコンテンツを届けるのかを設定するコンテンツのターゲティングや、文章の作成、記事に用いる画像の選定、公開したコンテンツのSNS上での情報発信などがあります。各工程において、インフルエンサーとして入社した社員は、齋藤さんが述べたノウハウをいかんなく発揮することができます。

例えば、favyの編集部員は写真撮影のほとんどを外部に委託せず、自社で行っています。その中でもインフルエンサーとして雇われた社員が撮影した写真を使ったコンテンツは、SNSで情報発信すると大きな反響を呼ぶことが多いのだそうです。齋藤さんはこの理由について、インフルエンサーは、SNSで評価される写真を撮るために、被写体に応じてどのようにカメラを扱えばいいのかということを、感覚的に理解している方が多いからだと語りました。

「バズる」ノウハウを企業活動に役立てる

favyではインフルエンサー社員に対して、写真撮影を始めとしたSNSでの情報発信に有用な技術を論理立てて説明してもらい、それを社内でノウハウとして共有することで、他の社員でも応用できるようになることを期待しているそうです。実際にインフルエンサー社員のノウハウを参考にすることで、社外でのSNS活動で多くのファンを獲得することができた社員も存在します。

このように、favyにおいてインフルエンサー社員に求められるものとは、その個人にしかできない仕事をしてもらうことではありません。SNS活動を通して多くのファンを獲得する中で培われた、無形のスキルを社内で共有することにあるのです。この点が、インフルエンサー個人のSNSアカウントを使って企業の商品やサービスを直接PRしてもらう事例が多い、短期的な業務委託契約とは大きく違うところです。

インフルエンサーの資質はビジネススキルとしても重要

インフルエンサーの資質はビジネススキルとしても重要
LIDDELL株式会社の代表取締役を務める福田晃一(ふくだ・こういち)さん。取材は2021年9月30日に行ったもの

インフルエンサー社員の採用に関する現状と今後の見通しは、どのようなものなのでしょうか。インフルエンサーマーケティングの専門企業であるLIDDELL株式会社(以下、LIDDELL)の代表であり、インフルエンサーと企業とのパートナーシップに詳しい福田晃一さんは、「インフルエンサーを社員として採用する動きはSNSに関連したマーケティング企業などを除いて、まだほとんど見られない状況」だと話します。つまり現在では、前述したfavyのように、SNSなどでの情報発信に特化したノウハウをインフルエンサーに求めている企業が多いということです。

しかし福田さんは、将来的には幅広い業界で、インフルエンサー社員が浸透していく可能性があると話します。その理由として、インフルエンサーのある資質が、あらゆる業界で通用するビジネススキルとして企業に注目されていることをあげました。

「インフルエンサーは自ら考えて行動して、利益を得るところまで完結できる自律した人物です。このような人材は企業から見ると、非常に魅力的なビジネスパーソンとして映ります。なぜなら、独立した一つの事業を安心して一任することができるため、管理職のような意思決定者が欠けたとしても事業が持続可能な、分散した組織作りが可能となるからです」

インフルエンサーの資質はビジネススキルとしても重要

一方でインフルエンサー側にとっては、企業に勤めることが必ずしも彼らの行動理念とマッチしない点を、福田さんは指摘します。というのも、インフルエンサーは基本的に「組織に縛られず、個人として活躍したい」と考えている人が主流。そのため、企業がインフルエンサーを社員として雇用したくても、上手くマッチングすることが難しい状況にあるといいます。

ただ、これからもSNSの普及は進み、インフルエンサーの総数は増加していくことが予想されます。するとインフルエンサーの中から、一個人のリソースに制限されない、多くの人たちを巻き込んだより大きなプロジェクトに携わりたいと思う人も増えていくことでしょう。案件が大きくなれば、予算管理や渉外など自身が得意ではない業務も担うことになる可能性もあります。福田さんは、そうした中で「個人の力だけで生きていく」ことを貫き通すよりも、企業に所属して組織の力を活用する方がメリットだと考えるインフルエンサー社員が増加する可能性があるとも指摘します。

SNSやオンライン決済などのデジタルサービスが急速に普及し、以前と比べれば個人で情報発信やビジネスを行うことが容易になりました。しかしLIDDELLでは、さらに次の段階として企業に勤めるインフルエンサーが増え、各人が得意な領域で力を発揮して助け合う未来を、「集団の時代」として位置付けているのだそうです。

しかし、やがて来るかもしれない「集団の時代」においても、求められる人材は与えられた仕事をこなすだけの受け身の人ではありません。仕事を創出して、収益を得るまでの過程を自分で完遂できる、インフルエンサーの能力にも通じる自律した人物なのだと話します。

インフルエンサーの活動はキャリア構築の参考にもなる

普段何気なくSNSを利用しているだけだと、インフルエンサーのセンセーショナルな部分にばかり注目しがちです。しかしインフルエンサーをインフルエンサーたらしめている資質は「自ら考えて、自ら行動して、自ら利益を得る」という自律性。これは多くのビジネスシーンで役に立つスキルであり、企業もそれに注目しています。将来、インフルエンサー社員の採用が浸透し、彼らの自律性が一つの手本として社内に波及していくことは、企業にとっても社員のキャリア構築にとっても有意義な働きかけになるかもしれません。

ライタープロフィール
藤田 陽司
藤田 陽司
ペロンパワークス・プロダクション所属。地方整備局公務員、業界新聞編集記者などを経て入社。建設関連の取材記事の企画、コンテンツ編集を多数手がける。

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