まずは転職のメリット・デメリットをおさらい

20代に限らず、そもそも転職にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれについて曽和さんに詳しく伺いました。
転職のメリット
1.キャリアアップ
現職の知見や経験をいかして同じ業界や職種で転職すれば、より裁量の大きい仕事や高度な専門性が求められる仕事にチャレンジできる可能性もあるでしょう。スキルを向上させたり、実績を積みたい方にとっては大きなメリットとなります。
ただし、挑戦の機会や裁量を得られたとしても、「役職」があがるとは限りません。これまで多くの人材育成や採用に携わってきた曽和さんは、「役職は基本的に横にスライドする」と話します。
例えば中途採用でマネージャー職を募集している企業は、既にマネージャーを経験している人材を求めています。そのため、役職という観点では「キャリアアップのために転職をするよりも、現職で昇進してから同様の役職でより条件の良い企業に転職する形が現実的」とのことです。
2.収入アップ
給与水準は個人の能力だけでなく、勤務する企業の経営状況や業界の景気動向など、様々な要因によって変わります。いいかえれば、職種や業務内容を変えずとも、より市場規模の大きい業界に転職することで、給与も増える可能性があるというわけです。
また、曽和さんによると、転職によって給与が増えるケースは20代よりも、既に実績やスキルのある30〜40代に多いようです。仮に、まだ目立った実績のない20代前半で転職して給与が増えるとしても、そこから順調に昇給するかどうかはその後の活躍次第となります。可能ならまずは社内で実績をあげてから転職を見据えたほうが、長い目で見ればより多くの収入を得られる可能性があるとのことです。
3.視野が広がる
勤務する会社が変われば、たとえ同業界・同業種でも仕事の進め方やコミュニケーションの作法、あるいは組織風土が大きく異なることも十分に考えられます。新しい価値観や情報と接することは、幅広い視野や考え方を養うことにもつながります。業務内容の見直しや新プロジェクトの立ちあげなど、多様な意見や提案を求められるシーンにおいて、この経験はプラスになると曽和さんは話します。
転職のデメリット
1.お金がかかる
転職活動では交通費や宿泊費がかかる場合もあります。また、退職してから転職までに期間が空くと、収入がない中で生活していかなくてはなりません。退職のタイミングによってはボーナスをもらいそこねることもあるでしょう。退職後は収入を得られるまで期間が空くことを想定して、最低でも2〜3ヵ月分の生活費を準備しておくと安心です。
2.人間関係を構築するのに時間がかかる
入社後は新しい労働環境、社内のルール、人間関係に慣れる必要があります。人事評価もゼロからのスタートとなりますので、場合によっては前職より低い役職から始まるケースも少なくありません。
3.退職理由が改善されない可能性も
例えば、社内の人間関係で悩んで転職したのに、再び上司との相性が悪くて悩んでしまうなど、同じ問題が再発してしまうケースも珍しくありません。賃金や役職など条件面だけで転職先を判断し、転職の原因は環境なのか、もしくは自身に改善できる課題があるのかを顧みないままでいると、転職前とさほど変わらない状況になってしまう可能性もあるでしょう。
本当に転職すべきタイミングとは?

「人間関係で悩んでいる」「今の業務に飽きてしまった」など、転職したい理由は人それぞれ。メリット・デメリットも前述のように様々です。しかし、「辞めたい」と思うときこそ慎重に仕事環境や自身の能力を見つめ直すタイミングだと曽和さんは話します。
「能力と評価にギャップを感じる瞬間こそ、これから昇格・昇給がある前兆。本当に今が転職すべきタイミングなのかは、一度立ち止まって考えたいですね。そもそも仕事が『つらい』『飽きた』と感じているうちは、完全に仕事が身についた状態とはいえません。心理学では『処理の自動化』といって、無意識下で作業できて初めて『能力が身についた』と考えられています」
むしろ本当に転職すべきタイミングは、「今の仕事が楽だと感じているとき」とのこと。処理の自動化が達成され、今の仕事に快適さを感じている状態は「コンフォートゾーン」といわれ、成長が止まっている可能性がある証拠です。辞めたいときは立ち止まり、満足しているときにこそ現状を変える選択肢を検討してみましょう。
20代で転職する人は珍しくない!
転職のメリット・デメリットを確認したところで、20代の転職状況について見ていきましょう。
「最近の若者はすぐに会社を辞めてしまう」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。しかし、実は20代の離職者率は過去20年遡っても大きくは変わっていません。厚生労働省の調査によると、大卒新入社員の就職後3年以内離職率は3割程度で推移しています。

「平成 30 年雇用動向調査結果の概況」によると、2018年の労働人口における転職入職者(離職後1年以内に新たな仕事に就いた者)の割合は、20代では以下のようになっています。
20歳〜24歳【男性】12.9パーセント 【女性】13.9パーセント
25歳〜29歳【男性】11.7パーセント 【女性】18.3パーセント
また、20代の転職者の主な離職理由を見てみると、労働条件の悪さや給与の低さ、人間関係などがあげられています(「その他」の理由を除く)。
曽和さんによると、20代で転職を考える主な原因は現実と理想のギャップに衝撃を受ける「リアリティーショック」にあるといいます。入社前に抱いていた職場のイメージと実際に働き始めてからのギャップに衝撃を受け、早期に退職を考える人は多いようです。契約した労働時間以上の残業や人間関係といった実態は入社するまで分からないことも多く、リアリティーショックの原因となっています。
20代は「能力開発期間」。転職がベストではない可能性も考える

長時間労働を強制させられたり、上司からハラスメントを受けたりといった、いわゆるブラック企業に勤めているならもちろん転職を検討したほうが良いでしょう。しかし、「なんとなく人間関係が好ましくない」「仕事が面白くない」「できれば楽をして今より高い給与を得たい」といった漠然とした理由で退職したいのであれば、特に20代のうちはすぐに転職に結びつけるべきではないと曽和さんは話します。
あるいは、「漠然とした理由ではなく、しっかりとした転職動機がある」と思っていても、
・「やりたいこと」は本当に自分の意志に根ざしているか?
・成長や成果を焦りすぎて、自らの能力開発の機会を逃していないか?
を振り返ることが大切だそうです。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
「やりたいこと」は本当に自分の意志に根ざしているか?
「自分はこういう仕事がしたい」と思っているなら、その「やりたい」は本当に自分の意志に根ざしているかどうかを確認しましょう。多くの人材を見てきた曽和さんいわく、「自分はコレがやりたい!」と思っている仕事であっても、社会的要因や環境からそう思わされているだけであり、つまり「ねつ造されたWILL(意志)」の可能性もあるといいます。
自分の「WILL」がねつ造されたものではないと確認するには、自分自身に「なぜなぜ攻撃」、つまり「どうしてそれをやりたいのか」「きっかけは何なのか」と自問自答を繰り返してみると良いそう。本当に根っこのある意志を持っているなら、「あのときこんなことがあって、こういう経験をして、だから興味を持ち始めて…」と、理屈だけではない実体験に根ざしたエピソードが出てくるのです。
ただし、確固たる意志がないなら転職を考えてはいけないのかというと、決してそんなことはないとも話します。
「これまで2万人近く面接をしてきましたが、やりたいことがない人は実際多いです。やりたいことがないからダメなのではなく、『ねつ造されたWILL』であることが問題なのです。心からやりたいと思っているわけではないことにこだわってしまうと、視野を狭め、身につけられたはずの能力の学習機会を逃してしまいます。やりたいことがないならそれはそれで、できることを増やすのが最適です」
データ分析でも語学でも心理学でも、今できる勉強をしておくと良いそうです。「Excelで財務分析をまとめることができる」「ビジネス英語が話せる」など、特定の会社や業界に限らず発揮できる能力は「ポータブルスキル」といわれ、自分の可能性を広げてくれます。できることを増やしていくうちに、少しずつ責任のある業務を任されたり、自分の業務適性がより正確に把握できるようになったりします。次第に自分にとって優先したい価値観や、反対に前向きに取り組めない仕事が分かるようになり、本当の「やりたいこと」が見えてくるのです。
成長や成果を焦りすぎて、能力開発の機会を逃していないか?
前述したように、「ねつ造されたWILL」は自分の視野を狭めてしまいます。同様に、「早く実績を残したい」「とにかく成功したい」と焦ってしまうと、他に向いている仕事や本当なら伸ばせる能力に気付くチャンスを逃しかねません。
「例えば、若くして起業したい人やフリーランスになりたい人も多いですよね。でも、経験やスキルを培ってからのほうが経営のことも現場のことも分かるから成功しやすい。成果にこだわってばかりで能力開発のチャンスを逃すくらいなら、『やりたいことはないけど、できることを増やそう』とオープンマインドでいるほうが、長い目で見ると得られるものは多いと思いますよ。
20代は『能力開発期間』であって、成長が目に見える結果として現れるのは30〜40代の話。むしろ20代でアウトプットばかり意識しすぎてインプットが少ないと、30代以降で伸び悩む可能性が高くなります」
今勤めている企業で学べることを学び、「処理の自動化」ができるまで仕事を続ける方が能力開発には適している可能性もあります。今後の人生を拓くうえでも、本当に転職することが自分の成長につながるのかは、よく考えて決断したいですね。
「第二新卒」と「中途採用」はどう違う?

20代は能力開発期間であることを踏まえたうえで、「やっぱり転職をしたい」と思ったらどうすれば良いでしょうか。
20代での転職は、スキルや経験が足りず中途採用の募集要項を満たせない場合もあります。一方で、「第二新卒」にあてはまる人もいます。そもそも「第二新卒」と「中途採用」の違いは何でしょうか。
中途採用とは
スキルや経験があり、既に就業経験のある社会人が対象となります。前任者の休職や退職に伴う欠員補充、事業拡大に伴う人員増強に際して募集されるケースが多いようです。業界・職種の経験年数や保有資格の有無が問われる場合もあります。
とはいえ、企業側も20代のうちは能力開発期間であると認識しています。20代の中途採用においては実績よりも「これまでの経験からどんなことを学んだのか」「その学びは転職先でもいかせるか」が重視されるようです。
第二新卒とは
明確な定義はなく、「2020年以前に大学を卒業し、1995年以降に生まれた方」といった条件をその年により各企業が設定しています。一般的には、学校卒業後3年以内の求職者を指すことが多いようです。
ただし、「第二新卒」とは中途採用の中でもスキルや経験の少ない求職者を指す言葉であって、人材を多く採りたい企業が採用の枠を広げるために設けているケースも多いのだそう。
「短い期間で前職を退職してしまった方に対しては、企業としてもあえてプラス評価することは考えにくいですね。『またすぐに辞めてしまうのでは?』と思いますから。社会人経験があるとはいえ、わずかな期間でスキルが身についているとは考えにくいですし、どちらかといえば第二新卒より中途で能力の見込める人材か、柔軟で可能性のある新卒に期待する企業が多いのが現実でしょうね」
残念ながら、企業にとって「第二新卒」とは、「中途」「新卒」よりも魅力を感じにくいというのが実情だと曽和さんはいいます。もし「第二新卒」で転職活動をするなら、面接などで辞めた理由を正直に話し、一から前向きに取り組む姿勢をアピールするほうが良いそうです。
なお、ここで前職の悪口をいってしまうと不信感を持たれてしまう可能性があります。マイナスな発言をする際は、「あえていうなら…」などと枕詞を添えて、表現を和らげたいですね。
20代前半と後半で転職活動は変わってくるの?

同じ20代の転職といっても、社会人経験が1〜2年程度である20代前半の人と、3〜5年程度の経験がある20代後半の人とでは、転職活動の状況やアプローチも変わってくるようです。それぞれのケースで特に押さえておきたいポイントを聞きました。
20代前半なら行動力が大事
「率直にいうと、今いる企業で少しでも経験を積み、できることを増やしていきたい時期ではあります。1〜2年程度で辞めてしまうと、どうしても転職活動は不利になりますし、職を変えても問題は解決しない可能性があるからです。それでも転職したいのであれば、デメリットを理解したうえでそれ以外の部分を積極的にアピールしていく必要があります」
人材の採用にはお金がかかるため、あえてマーケットの少ない第二新卒にターゲットを絞っている企業もあります。戦略的に第二新卒を歓迎している転職サイトを活用するのも一つの手です。
もしくは、企業に直接連絡する方法もあります。企業から見れば、直接連絡をくれる人には採用費用がかかりませんので、面接してもデメリットはありません。たとえ募集要項に「業界経験3年以上」などと条件があっても、多くの場合は採用担当者が便宜的に決めている年数なので、直接連絡すると面接してくれるケースも少なくないそうです。
新卒時の就職活動をもう一度するような状況ですから、選択肢を狭めずに挑戦していけるかどうかがポイントになります。
20代後半なら「軸」を意識する
中途採用であっても20代のうちに高度なスキルや実績が求められるケースは稀です。採用する企業側も、当然30代以降で経験年数が多い方のほうがスキルはあると認識しているでしょう。スキルや実績といった「成果の履歴」よりも、何を学び、どう向き合ったかといった「能力開発の履歴」が重視されるようです。
「とはいえ、全くの未経験業界・職種だと、企業側も『どうして転職したいの?』と疑問に感じるでしょうね。何もかも変えてしまうのではなく、同業界・同職種など『軸』は意識したいところです」
人事関係の仕事がしたいという軸なら、金融業界でも製造業界でもできます。具体的な業界・職種でなくても「まだ創業間もない成長ステージにある企業で働きたい」といった軸でも良いとのこと。逆に、ものづくりに興味を持っているのに給与条件だけで金融業界へ転職しようとすると「なぜ入社したいのだろう…?」と疑問に思われるかもしれません。
3〜5年程度の社会人経験がある20代後半なら、「社会貢献したい」「マネジメントスキルを磨きたい」など、自身がどういった仕事をしたいか、濃淡に差はあれど求める条件や要素はある程度見えているでしょう。明確なキャリアプランを描かずとも、そうした「軸」を意識した転職活動が大切です。
もちろん、「絶対この道しか歩まない」と決めてしまうのは成長機会を逃すことになるため逆効果。企業としても特定の業務しかやらないといっている人は採用しにくいのが本音です。「軸」を持ちながらも、柔軟な姿勢は忘れずにいたいですね。
20代が転職するときに知っておくべきこと
20代での転職は珍しいことではありませんが、今は「能力開発期間」です。仕事を辞めたいのは、まだまだ仕事が身についていないからかもしれません。ここまで話してきたように、20代でのキャリアアップや収入アップは、目先の一時的な増加であって、長い目で見るとメリットとはいえないこともあります。
転職する場合には、あまり選択肢を狭めず、あらゆる経験を積んでいくことを心がけましょう。今この瞬間ももちろん大切ですが、仕事人生はまだまだ続きます。20代の能力開発期間を大切にして学習機会を逃さない選択ができれば、30代、40代とキャリアを重ねたときにより大きく成長できるかもしれません。
この人に聞きました

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。
ライタープロフィール

主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。文系大学院修了後、企業ブランディング書籍の営業・編集を経て入社。各種メディア記事の編集・ライティングを担当。
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