オンラインでのコミュニケーションは空気感に頼れない

2020年、新型コロナウイルス感染症の影響で急速に拡大したリモートワークにより、チャット(※)を始め、オンラインによるコミュニケーション手段を利用する機会が増えました。では、オンラインでのコミュニケーションと対面でのコミュニケーションにはどのような違いがあるのでしょうか。
2016年からフルリモートでIT企業に勤務、ビジネス上のやりとりの8割はチャットだという壽さんによると、対面においては、非言語情報を多く伝えられるメリットが大きいといいます。非言語情報とは、文字通り「言葉(=言語)」以外の情報です。具体的には、表情や声色、身振り手振り、話し手との物理的な距離などがあげられます。
対面だと、例えば、話すスピードが早いので急いでいるのだろうとか、プレゼンテーションした相手が眉をひそめているので良い提案ではなかったのかな、などと推察できます。声の抑揚や身振りなどの非言語情報で形成された空気感からも、自然と相手の状態や意図を汲み取って状況を判断しているのです。
オンライン会議も相手の顔を見てコミュニケーションできますが、その場の環境や通信が安定しない場合などはビデオをオフにすることも多く、そもそも、読み取れる非言語情報は、対面でのコミュニケーションに比べて圧倒的に少ないのが一般的です。
さらに、社内の業務連絡程度であればチャットで済ますことが多く、リモートワークが主となった環境においては、文章がコミュニケーション手段の中心となりがちです。そのような環境においては、非言語情報、つまり、空気感に頼らない意思疎通が重要になるのです。
※チャットとは、インターネットを介してリアルタイムにメッセージを送受信するためのシステム
リモートワークでは「情報を具体的に伝える」ことが大事

空気感に頼らない意思疎通が重要になるリモートワークのコミュニケーションにおいては、文章から情報を読み取ることが多くなります。壽さんは、「だからこそ、できる限り丁寧な情報伝達(書く力)が必要になる」といいます。
例えば対面の場合は、同僚が深刻な雰囲気で取引先のA社と長電話をしたのち、「A社との取引状況を教えて」と、普段より神妙な口調で聞かれたら、取引で何かしらの想定外の事態があったのかな、と察することができます。その場合、考えられるリスクの提示や資料の準備といった対応を同時にできるかもしれません。
しかし文章の場合、「A社との取引状況を教えて」と聞かれても、深刻度合いまで伝わることは少ないでしょう。そのため、「A社に納めている〇〇に△△という想定外の事態が見つかり、急いで××したいので取引状況を教えて」と、問いかけの背景をできるだけ詳細に伝えることが求められます。
対面での会話がコミュニケーションの前提であった従来は、空気感を読むことも大事なコミュニケーション能力の一つでした。しかし、その前提が揺らいだ今、従来型のコミュニケーションでは対応が難しくなることもあるでしょう。一方で、文章で伝えることが得意な人は、コミュニケーション能力が高いと評価されるようになるかもしれません。
代名詞をできるだけ使わない

丁寧な情報伝達のためにも意識したいのが、曖昧な表現や代名詞の使用を避けることだそう。
例えば、対面で使われることが多かった「あの件どうなった?」といった代名詞を使ったコミュニケーションは、リモートワークの場合は避けたほうが無難です。その場ですぐ聞くことができるとは限らないリモートワークの場合、「あの件って何でしょう?」といった一手間が生じる懸念があるからです。具体的な固有名詞を用いて情報を伝えるようにしましょう。
もし文章で伝えにくいニュアンスがあれば、絵文字を使うのも有効とのこと。とはいえ、自分の意図したニュアンスが正確に相手に伝わるとは限りません。そのため、絵文字はオマケ程度に捉える方が、変に深読みすることなくコミュニケーションを図れるかもしれませんね。
まだまだある!リモートワークで意識したいコミュニケーション
リモートワークでは、情報を丁寧かつ具体的に伝えることが大事だと分かりました。では、その他に何を意識すれば良いのでしょうか。リモートワークでのコミュニケーションを円滑にする方法について、いくつかご紹介します。
コミュニケーションの「頻度」をあげる

リモートワークではお互い、今何をしているのかが見えないことがほとんどです。そのため「自分が今取り組んでいる仕事」の進捗などをこまめに共有すべきと、壽さんはいいます。
自分がやっている仕事をできる限り周りに可視化することで、上司や同僚は「〇〇さんの仕事は、△△まで進んでいるんだな」と状況を把握し安心することができます。安心感や認識の共有は、信頼関係を維持することにつながるでしょう。また、仕事の進捗を共有することで、状況に応じてお互いにフォローすることもできますし、自分自身のタスクを整理するうえでも有効です。
チーム全員が1日1度は発信できる機会を設ける

コミュニケーションの頻度を高めるために、チーム全員が情報を発信できるような機会を意識的に設けることも大切だといいます。チャットでもオンライン会議でも問題ありませんが、全員が発言しやすい環境かどうかを重視すると良いそうです。
例えば、朝礼や夕礼などを設定すれば、みんなが定期的に自分のタスクを報告することが習慣になります。チーム全員が1日1度は情報を発信し共有することで、チームの連携もスムーズになり、仕事においても効果的に働くでしょう。
返信にはタイムラグがあることを想定する

チャットでのやりとりはいつでもメッセージが送れる一方、返信のタイミングも人それぞれ。すぐに返信が来るとは限りません。そのため、常に相手が返信できる環境であると期待しないことです。もしすぐに返信が欲しい場合は「1時間以内に確認お願いします」と、時間を指定して伝えましょう。
リモートワーク中でも迅速な対応が求められる仕事や、頻繁なやりとりが必要なプロジェクトなどにおいては、「コアタイム」を設けるのも一つの手です。例えば、「10時〜11時と15時〜16時はメッセージの返信を優先する」と決めておくと、コミュニケーションも取りやすくなります。
ジャンルごとに雑談ルームを設ける

会議の前のちょっとした空き時間や移動時間、ランチなど自然に生じる対面機会での雑談が、息抜きや仕事のアイデアにつながっていたという人は多いでしょう。これは、リモートワークにおいても同じ。そのため、雑談目的の機会を設けることも有効です。
「例えば、チャット上で雑談専用のトークルームが作れる機能を使って、音楽やゲーム、スポーツやアウトドアなど、趣味のジャンルごとに分けておきます。話したい人が話したいときに交流できる場を設けておくんです」
壽さんの会社ではオンライン会議が早く終わった場合、元々終了予定だった時刻までは雑談時間としたり、オンラインでランチ会を催すなどしているそうです。リモートワークでも工夫次第で雑談の機会は作ることができそうです。
リモートワーク時代は、“言葉”で伝えるスキルが重要になる

リモートワークにおいて求められるコミュニケーションや工夫を見てきましたが、意識しなければならないのは、書かれた文章や話した内容そのものである「言葉」の重要性です。
空気を読むのではなく言葉で伝えることは、リモートワークの基本です。さらに、これからの時代、働く場所だけでなく、年齢や国籍、文化が異なる多様な人々と仕事をする機会は増えるでしょう。多様性のあるチームでは、空気を読みあうのではなく具体的な言葉で明確に伝えるコミュニケーションは欠かせないでしょう。
新型コロナウイルス感染症の影響で、いわば強制的に広がったリモートワークですが、そろそろ慣れてきたという人も多いはずです。また、多くの企業がそのメリットに気付き、今後もリモートワークを併用していくでしょう。
「会わなくても仕事ができる働き方」が浸透し、ライフスタイルの幅も広がっていく。そんな時代を見据えて、リモートワークにおけるコミュニケーションの質を高めていきたいですね。
参考:
・『リモートワーク大全』(ポプラ社)壽 かおり著
この人に聞きました

2016年夏から社員全員がフルリモートで働くソフトウェア企業、シックス・アパート株式会社(外部サイト)の広報担当。リモートで働く社員のリアルな声とノウハウをTwitterのハッシュタグ「#リモワノウハウ語るよ」で発信中。著書に『リモートワーク大全』
ライタープロフィール

主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。文系大学院修了後、企業ブランディング書籍の営業・編集を経て入社。各種メディア記事の編集・ライティングを担当。
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