地方移住は国も後押ししている

総務省統計局によると2020年度は、東京都への「転入数」から「転出数」を差し引いた「転入超過数」が3万1,125人となりました。前年度の8万2,982人から、5万人以上も減少しています。東京都からの転出も、37道県において増加しており、東京都から外へ出ていく人の数が目立ち始めています。
また、2020年12月に国土交通省は、東京圏から地方移住するために住宅購入やリフォームを行った方に、家電などと交換できるポイント発行制度の導入を発表。地方移住を選択する人に向けた政府の後押しが期待されています。
地方移住への関心は今後さらに高くなっていきそうですが、生活するためには収入を得ることが必要。どこで暮らすかだけでなく、どこでどう働くか、ということも重要です。
そこで福岡への移住・転職をサポートする「株式会社YOUTURN」代表の中村義之さんに、地方移住を伴うキャリアアップの実例を教えてもらいました。
地方移住×キャリアアップの成功例

東京から福岡への移住を伴う転職事例
まずは、ワクチンを作るために蚕を研究するベンチャー企業へ転職するため、東京から福岡へ移住したバイオ系研究職の方の事例から紹介していきます。
「もともと製薬会社で研究職として働いていた方の事例です。この方は、いずれは出身地である九州に戻りたいと考えていましたが、自分の専門領域と九州の求人がなかなかマッチせず、一旦は諦めたそうです」(中村さん、以下同)
その後、株式会社YOUTURNの存在を知り登録。バイオ系企業の求人に興味を持ち、代表との面談後に無事転職することが決まりました。今は自分の興味のある分野の研究もできて、なおかつベンチャー企業だからこそプレゼンや商談など、色々な業務を経験できることに非常に満足されているそうです。
東京の総合商社から福岡へ異業種転職した事例
また、東京の総合商社から、福岡のビジネスコンサルティング企業の異業種へ転職した例もあります。
この方は福岡の農家で生まれ育ち、大学では農学部へと進学。卒業後は一度東京でスキルを身につけて、福岡の発展にいかしたいと東京の総合商社に入社し農作物のトレーディング業務に従事していました。
その後、福岡のビジネスプランコンテストに応募したり、福岡企業の採用試験を受けたりと転職活動を行ったのち、東京で培ったビジネススキルを地元の活性化へいかせる異業種への転職につながったというわけです。
地方移住×転職の注意点は?
一方で、移住を伴う転職をする際には、「その地方の環境が自分に合うか」「自分に合った仕事がその地方にあるか」などに注意する必要があるといいます。
「よく知っている地元に戻るのであれば、どんな地域かは既に知っているため問題ないですが、特にこれまで住んだことがない地域に移住する場合は、環境が合わない可能性があります。また、地方の環境を気に入ったとしても、仕事に満足できなければ地方での生活は苦しくなります。首都圏であれば、転職先が合わなくとも、次の会社をまた見つけやすいかもしれませんが、地方だとやはり求人数は限られますから、そう簡単にはいきません。」
住みたい地域と満足できる仕事があるかどうかは、やはり事前にセットで検討しておく必要があるそうです。
ただ、相談を受けた時点で募集はなくとも、時期によってマッチする求人が出る可能性はあるそう。そのため移住を伴う転職活動は、長期で望むのが理想だといいます。
地方移住でキャリアをいかせる仕事とは?

地方移住だけでなく転職も同時に行いたい場合、「これまでのキャリアをいかせる仕事はあるか」と疑問を持つ方もいるでしょう。中村さんは「ネット検索で探すのは難しい」といいます。
「移住を伴う転職をめざす方が、地方移住とキャリアアップの両立が難しいと考える背景には、地方の求人を探すとなると、インターネットで検索する人が多いことが影響しているようです。転職先を探しても、地方企業がインターネット上に求人を出していないことも多いのです」
しかし、地方にもキャリアアップにつながる仕事はあるといいます。
地方に本社を置く大企業や地方銀行、ベンチャー企業などの経営層に話を聞くと「事業を広げていくために、即戦力となる専門性が高い人材が欲しい」との声もあり、首都圏と同様に経営者の右腕となる人材の他、ファンドマネージャーやエンジニアといった専門性の高い人材も必要とされています。
他にも新規事業に関わる求人もあるようです。このような募集では、まだ事業が立ちあがっていないことも多く、具体的な成果が見えにくいため、最初に提示できる年収はどうしても低くなってしまうそうです。
「新規事業の成果が目に見えて分かってくると、年収は大きくあがる傾向にあります。事業作りのノウハウが構築しきれていないことが多い環境だからこそ、首都圏での仕事よりも難易度は高い。でも、難しい分、成功した実績は今後のキャリアに大きくプラスになると思いますよ」
地方への転職情報はどうしても求職者の目に留まりにくく、また企業側もどのように採用して良いのか分からず、困っていることも多いとのこと。そのため首都圏でキャリアを積んだ即戦力人材と、地方企業が出会うことは難しく、なかなか採用につながらないそうです。
そこで大切になるのが、前述の通り長期的な目線でキャリアを考え、自分の希望にマッチする求人が出るのを長い目で待つことです。
長い目で自分の希望に合う仕事を探し、移住を検討している地方の環境が自分に合っているかを見極めることで、地方移住とキャリアアップを両立させる可能性を高めることができるかもしれません。
この人に聞いてみた

中村 義之さん
1984年生まれ。福岡県出身。2008年、株式会社ディー・エヌ・エー入社。2010年10月、同社から分社・独立した株式会社みんなのウェディングの設立時に取締役兼マーケティング部長として参画。2014年3月、同社取締役兼事業本部長として東証マザーズに上場を果たす。2016年5月、地元福岡で株式会社YOUTURNを創業。
ライタープロフィール

育児系雑誌の編集アシスタント、美術系出版社にて編集記者を経て2020年にペロンパワークス・プロダクション入社。マネー系を中心にカルチャーなど幅広いテーマで記事執筆・コンテンツ制作を行う。
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