不妊治療の助成金が拡充!対象となる治療や助成額とは?

不妊治療の助成金が拡充!対象となる治療や助成額とは?

不妊治療の助成金が拡充!対象となる治療や助成額とは?

不妊治療の一部は健康保険の対象外のため、治療費が高額になることもあります。そこで知っておきたいのが不妊治療の助成金制度。この記事では、対象となる不妊治療の種類や助成金額について解説します。

2022年にも保険適用となる見通しの不妊治療。そもそも治療を検討するケースとは

2022年にも保険適用となる見通しの不妊治療。そもそも治療を検討するケースとは

一般的に「不妊」とは、妊娠を希望して夫婦生活を送りながら、1年以上妊娠しない状態を指します。不妊の原因症状は、男女ともに起こりうるものです。女性側の要因としては、排卵がない場合や、子宮内膜症(子宮内膜の組織が子宮の内側以外の場所で増えてしまう病気)等が原因で妊娠が難しい場合があります。

また、男性不妊は精子の数の減少、活動力の低下が原因とされています。日本人男性の約1パーセントが精液中に精子が全く見られない無精子症ともいわれています。

このような症状があれば、期間にかかわらず医師によって「不妊」と診断されることもあります。「不妊かもしれない」と思ったら、まずはパートナーと一緒に検査を受けてみましょう。

不妊治療の種類と流れ

不妊治療の種類と流れ

まず不妊かどうかを調べるには、エコー検査や血液検査、精液検査などの基本検査を行います。

その結果、排卵障害や子宮内膜症、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう。精巣へと流れる静脈に静脈瘤ができてしまい血流が悪くなる疾患)などが発覚した場合には、それぞれの症状に対する薬物治療や手術を行うことになります。

しかし、日本産婦人科医会の産婦人科ゼミナールによると、不妊症のうち10~25パーセントは明確な原因が分からないともいわれています。基本検査による異常や病気が見つからない不妊の場合、後述する不妊治療に取り組みます。

では、不妊治療にはどんな種類があるのでしょうか。治療の流れとともに解説します。

1.タイミング療法

明確な症状が見られない不妊の場合にまず行うのがタイミング療法です。医師が排卵日を予測し、自然妊娠の可能性が高いタイミングを指導します。

具体的な治療内容は医院により異なりますが、主に尿検査で排卵日を予測し、内診で排卵の確認を行います。

タイミング療法の1周期あたりの治療費用は、公的医療保険(国民健康保険や社会保険)の適用範囲内であれば5,000円ほどになります。しかし、排卵日が近づくと1日おきに内診をする場合もあり、診察の回数に応じて費用がかかります。

また、排卵を促すための排卵誘発剤が処方される場合もありますが、薬の種類によっては公的医療保険適用外のため、1回当たりの治療料金が合計1〜2万円程度になることもあります。

タイミング療法は一般的に6~12ヵ月かけて行います。それでも妊娠が難しい場合は、次のステップとして人工授精をアドバイスされることが多いようです。

2.人工授精

タイミング療法を続けても妊娠しなかった場合や、運動精子の少ない場合などに検討されるのが人工授精です。

人工授精は「AIH」(Artificial Insemination with Husband’s semen)とも呼ばれ、あらかじめ採取した精子を、子宮内に直接注入する方法です。治療時間はおよそ10分程度で、入院の必要はありません。

ただし、公的医療保険の適用外なので、1回当たり1〜3万円の費用負担が生じます。日本生殖医学会の生殖医療Q&A(外部サイト)によると「AIHでの妊娠率は施行回数6回程度で頭打ちとなりますので、それまでに妊娠に至らない場合は体外受精を考えた方が良い」とのことです。

なお、女性の年齢や精子の状態によっては、医師の判断で不妊治療の段階を早めに進めることもあるようです。

3.体外受精

体外受精は、採卵手術により排卵前の卵子を体内から取り出し、体外で精子と受精させる治療法です。女性の体内から取り出した卵子に男性の精子を振りかけて受精させる方法が一般的です。

2〜5日間の体外培養で細胞分裂を始めた受精卵(胚)を体内に移植すると、妊娠率を高めることが期待できるそうです。

採卵時の年齢なども影響しますが、日本産科婦人科学会の報告によると体外受精での妊娠率は20〜30パーセント程度。費用は公的医療保険の適用外で、平均費用は約50万円。医院によっては100万円近いケースもあるようです。

体外受精の主な行程には採卵、受精、胚培養、胚移植があり、それぞれの行程で費用を支払うのが一般的です。

例えば、採卵時には5〜10万円程度の費用がかかり、受精卵数に応じて5〜15万円、さらに胚培養に3万円、胚移植に8万円程度の費用がかかります。

なお、体外受精には顕微鏡で拡大視しながら精子を直接卵子に注入して受精を促す、顕微授精という方法もあります。

他の不妊治療では、不妊の原因が体内の状態にあるのか、精子や卵子の力が落ちているからなのかが分かりませんが、体外受精では精子と卵子を顕微鏡で観察するため、不妊要因が新たに明らかになる場合もあります。

2021年に拡充された助成金。対象の治療と助成額

2021年に拡充された助成金。対象の治療と助成額

2021年1月に不妊治療に関わる助成金が拡充されました。

不妊治療の助成金
(2021年1月〜2022年3月)
対象治療顕微授精を含む体外受精、男性不妊治療
適用期間2021年1月〜2022年3月
所得制限制限なし
対象年齢妻の年齢が43歳未満
助成額1回30万円
助成回数1子ごとに6回まで
(40歳以上43歳未満は3回)
医療機関指定医療機関

厚生労働省「不妊に悩む方への特定治療支援事業の拡充について」を元に編集部が作成
※自治体ごとに助成内容が異なる場合があるため、お住まいの都道府県・指定都市・中核市の内容をご確認ください。

拡充前と比べて変更された点は以下の3点です。

拡大前
(~2020年12月)
拡充後
(2021年1月~2022年3月)
所得制限夫婦合算所得
730万円未満
制限なし
助成額1回15万円
(初回のみ30万円)
1回30万円
助成回数生涯で6回まで
(40歳以上43歳未満は3回)
1子ごとに6回まで
(40歳以上43歳未満は3回)

厚生労働省「不妊に悩む方への特定治療支援事業の拡充について」を元に編集部が作成
※自治体ごとに助成内容が異なる場合があるため、お住まいの都道府県・指定都市・中核市の内容をご確認ください。

なお、2022年4月以降は公的医療保険の対象となり、助成金制度は終了する予定となっています。
それでは、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。

対象治療

助成金の対象となる治療のこと。対象治療は、体外受精(顕微授精を含む)と男性の不妊治療で、「特定不妊治療」に指定されているものです。男性の不妊治療とは、体外受精及び顕微授精に至る過程の一環として行われる、精巣内精子生検採取法などのことで、精巣内又は精巣上体から精子を採取する治療を指します。

適用期間

助成金の給付が適用される期間のこと。2021年1月1日以降に終了した治療、かつ医師によって妊娠の有無が診断された治療が対象です。治療開始日が2020年であっても対象となります。

所得制限

助成金を受給するための所得条件のこと。これまで各種控除後の夫婦の合計所得金額が730万円未満の方に制限されていましたが、この制限が撤廃されました。

2017年に総務省が行った家計調査によると、共働き世帯の平均月収は60万8,491円で、年収にすると730万1,892円です。これまで世帯収入による制限がかかっていた人も、2021年からは助成を受けられるようになります。

対象年齢

助成金受給の対象となる年齢要件のこと。治療期間における妻の年齢が43歳未満であることが受給の条件であり、こちらは制度拡充前から変更はありません。

助成額

給付される助成金額のこと。体外受精か男性の不妊治療かにかかわらず、助成金の対象となる治療は1回につき30万円の給付が受けられます。なお、採卵を伴わない(以前に凍結した胚を利用する)凍結胚移植を行った場合や、採卵したが卵が得られないなどの理由で治療を中止した場合にも10万円の給付が受けられます。

助成回数

助成金を受給できる回数のこと。これまで助成回数は生涯で通算6回までとされていましたが、今回の拡充では1子ごとに6回(※)の助成を受けることができるようになりました。
(※)40歳以上43歳未満では1子につき3回まで

医療機関

治療に際して助成金を受けられる医療機関のこと。各都道府県に指定された医療機関での治療が対象となります。転勤などの引越しで通院できなくなった場合にも、指定医療機関への転院であれば引き続き助成の対象となります。

公的医療保険の適用で不妊治療の未来はどうなる?

公的医療保険の適用で不妊治療の未来はどうなる?

2022年4月からは、前述した助成金制度が廃止され、不妊治療の公的医療保険適用が予定されています。では、公的医療保険の適用により、どれくらい負担が軽減されるのでしょうか。

人工授精の場合

前述の通り、人工授精の費用は1回1〜3万円程度。公的医療保険適用後は3割の負担で済むようになるため、1回あたりの自己負担額は3,000円〜9,000円にまで減ります。

週に1回の通院を1年間続けたと仮定すると、従来は48万円かかっていた費用が14万4,000円に。33万6,000円も費用を抑えられます。

特定不妊治療の場合

詳細な条件については今後発表される見込みですが、「特定不妊治療」を受ける場合にも大きく負担が軽減されると予想できます。

例えば、体外受精の各ステップで都度支払いが生じていた場合、
採卵:10万円→3万円
受精:10万円→3万円
胚培養:3万円→9,000円
胚移植:8万円→2万4,000円
と、およそ31万円の費用が9万3,000円となり、21万7,000円の負担減になります。

現在も医師による診察や人工授精などにかかった不妊治療費は医療費に含まれ、医療費控除の対象になっていますが、2022年4月に不妊治療の公的医療保険が適用となれば、高額医療制度を利用することもできます。高額医療制度とは、同月内の医療費の自己負担が高額になった場合に一定金額が払い戻される制度です。

標準報酬月額(給与の平均月額を基に決められる額)が53〜79万円の方は、8万100円+(医療費-26万7,000円)×1パーセントが自己負担額の上限となり、超過分は申告することで還付されます。

例えば、体外受精の費用が合計で50万円となった場合、8万100円+(50万円-26万7,000円)×1パーセントで、自己負担の上限金額は8万2,430円となります。
不妊治療が公的医療保険の適用対象となれば、経済的な理由で不妊治療を始められない人や中断してしまう人の数も減るのではないでしょうか。子供を望む家庭が、適切な治療を受けやすくなる。そして子供の数が増えれば、社会全体も元気になるはずです。不妊治療のハードルを下げることは、明るい未来への第一歩ともいえそうです。

参考:
厚生労働省「不妊に悩む夫婦への支援について」(外部サイト)
一般社団法人日本生殖医学会(外部サイト)

ライタープロフィール
吉村 しおん
吉村 しおん
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。文系大学院修了後、企業ブランディング書籍の営業・編集を経て入社。各種メディア記事の編集・ライティングを担当。

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