センター試験廃止で大学入試はどう変わる?大学入学共通テストから見える社会の変化

センター試験廃止で大学入試はどう変わる?大学入学共通テストから見える社会の変化

センター試験廃止で大学入試はどう変わる?大学入学共通テストから見える社会の変化

2021年1月より、大学入試センター試験に代わって導入された「大学入学共通テスト」。解答には、これまで以上に個人の考える力が必要だといいます。この記事では、大学入学共通テストの導入から分かる「社会で求められる力」について解説していきます。

センター試験が廃止されて「大学入試共通テスト」が始まる

センター試験が廃止されて「大学入試共通テスト」が始まる

従来のセンター試験では、主に高校までの教育課程で身につけてきた「知識・技能」が問われてきました。しかし、2021年1月から導入された大学入学共通テストでは「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力」のほか、「主体性・多様性・協働性」などの新しい時代を生きる力も求められるといいます。

「新しい時代を生きる力ってなに?」と思う方もいるかもしれませんが、よくよく調べていくと、そこには背景として社会で求められる能力に変化が起こりつつあることが反映されているようです。これから求められる能力とは何か、過去に大学の入試試験を受けた方もぜひ知っておきたい入学試験の今と未来を紹介していきます。

これまでの試験と何が違うの?

大学入学共通テストでは、先ほども触れた通り「知識・技能」を活用して解答する「判断力・思考力・表現力」を重視した問題が増えます。

大学入試センターが実施した試行調査(プレテスト)を見てみると英語であれば、友人が書いた簡単なメモを基に長文を読み解いていく問題など、問題の中から得た知識を利用して解答する問題が増えるようです。

しかし、問題の傾向が変わるからといって高校で学んだ内容とは別の知識が必要になるわけではありません。高校までの授業範囲を定める「学習指導要領」はこれまでと同様のため網羅する知識の範囲は、センター試験と変わりません。

これまでの試験と何が違うの?

学習へ向かう姿勢も判断基準に!?

大学入学共通テストの導入で変わるのは問題の内容だけではなく、大学側の評価方法も変更されます。

ではどう変わるのか、新しい入試の仕組みもみていきましょう。

まず、従来の「センター試験利用入試」は「大学入学共通テスト利用入試」に名称が改められ、2種類の方法が判定に使われます。一つは、大学入学共通テストの結果のみで合否が決まる「単独型」。そして、大学入学共通テストの点数に、大学側が独自に指定した評価項目も合算できる「併用型」です。

また、高校での取り組みや実績を基に評価を行う従来の推薦入試は「学校推薦選抜」へと名称が変更。高校の先生が生徒の学力を詳しく記した推薦書に加え、「小論文」「プレゼンテーション」「口頭試問」「共通テスト」などが実施されます。また大学が指定する書類の提出なども必要となる場合があります。

さらに筆記試験だけでなく、小論文や面接などで人物を評価するこれまでのAO入試は「総合型選抜」へと名称が変更。志望理由書などの書類に加えて「小論文」「プレゼンテーション」「口頭試問」「共通テスト」などが課されます。

これら変更後の仕組みに共通しているのは、生徒が自分自身の得意分野に応じて、評価方法を選択できる点にあるといえるでしょう。

なぜセンター試験といった一律テストは始まったか

ここまで共通テストの概要をみてきましたが、どうして従来のセンター試験が導入されるようになったのか、改めて学力評価の変遷も振り返ってみましょう。

学生の学力を相対的に測る基準である「偏差値」が全国的に広がったのが1960年代中頃とされています。ただこの頃から、全国の教育現場では偏差値の向上のみを目的とする、つまりは「テストで良い点数を取る」ための授業に傾き、「詰め込み教育」とも呼ばれる暗記に特化した勉強が前提になったそう。偏差値の向上だけを目的とした学習方法は「自発的に課題を見つけて解決する力が養われない」と、問題視されるようになったのです。

そのため1979年には偏差値だけではない、大学教育を受ける意欲や適性などから評価して入学者を選抜する仕組みとして、センター試験の前身となる「共通第一次学力試験」という一律テストが実施されました。

その後、1990年にセンター試験が導入され、従来の筆記試験の代わりに、小論文や面接など独自の評価方法を取り入れる大学も増えてきたわけです。

共通テストで求められる「今の時代を生きる力」とは?

共通テストで求められる「今の時代を生きる力」とは?

評価の在り方を見直すために導入されたセンター試験ですが、問われる問題の多くはまだまだ暗記が前提となっていました。そのため、より自分で考える力を伸ばしていくために今回導入されるのが「大学入学共通テスト」というわけです。

これからは正解のない問題を解く力が求められる

共通テストでは前述した通り「思考力・判断力・表現力」が問われます。具体的にどういった能力なのか、文部科学省の定義を一つずつみていきましょう。

まず「思考力」とは、文中の筆者の主張や参考資料などの情報を基に、本文全体の構造を理解する力と定義されています。

次に「判断力」は、グラフ・会話文・新聞記事など複数の資料を使って文章を読解する力です。

最後の「表現力」は本文を通じて理解した内容を整理し、根拠に基づいて論理的に記述する力となります。

ほかにも複数の選択肢から選んで回答する問題では「二つ以上の選択肢を選んで良い」と解答数を指定しないなど、状況に応じた判断が必要となる問題もあるようです。

2018年に実施された試行調査から、どのような問題が出題されるのかみていきましょう。

まず国語では、論理的・文学的・実用的なそれぞれ違う用途の文章から「事実と意見」を見極める力が求められました。例えば筆者の主張が本文のどこにあるのかを見つけ、その解答の根拠となった箇所を探すのです。つまり著者の意見と、根拠という事実を区別して解答しなくてはいけません。

※国語:「大学入学共通テスト」試行調査(平成30年度実施分)より一部抜粋
※国語:「大学入学共通テスト」試行調査(平成30年度実施分)より一部抜粋(大きな画像はこちらをクリック

英語では、「早く正確に読む力」が求められます。例えばウェブ上で公開されている一般の方が投稿したレシピから、情報を正確に判断する問題。また料理のレビューから、投稿した人の意見と事実を整理するといった問題などが出題されるようです。

※英語:「大学入学共通テスト」試行調査(平成30年度実施分)より一部抜粋
※英語:「大学入学共通テスト」試行調査(平成30年度実施分)より一部抜粋(大きな画像はこちらをクリック

最後に数学では答えだけではなく、どのようにして問題を解くのかという「過程」も重視しています。例えば以下のように、最終的な結論を導くための過程で考えられる計算が問われる問題も多くなるようです。

※数学:「大学入学共通テスト」試行調査(平成30年度実施分)より一部抜粋
※数学:「大学入学共通テスト」試行調査(平成30年度実施分)より一部抜粋(大きな画像はこちらをクリック

なお数学については、2021年度の共通テストでは問題を解く過程まで記載する「記述問題」の導入は見送られたものの、「考える時間」を考慮して試験時間は60分から70分へと変更されました。

答えが一つに定まるわけではない問題に対し、あらゆる角度から考えて最適解を見出していく力が必要な大学入学共通テスト。「思考力・判断力・表現力」と同時に「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を示す「主体性・多様性・協働性」の3要素も含めて、文部科学省は「生きる力」と定めています。

社会の変化に合わせた教育が必要

社会の変化に合わせた教育が必要

現在の9年間の義務教育を始めとした現代学校制度は、1947年に公布された教育基本法・学校教育法が基となっています。

しかし現代学校制度の基礎が構築されてから73年が経った2020年現在では、当時と比べて、社会の様子は大きく変化しているといえるでしょう。

例えば、現代学校制度の基礎ができた当時と比べてパソコンやスマートフォンといった情報通信機器が登場し、普及しました。こうしたツールを使って誰でも容易に海外の情報にアクセスできたり、国外の商品が手に入ったりする現在では、グローバルに対応した教育が必要といわれています。

さらにAIやロボティクス、ビッグデータなどの新たな技術も広がり、情報通信速度も格段に速くなっています。新技術の普及でビジネス環境の変化がさらに激しくなると予想される現在では、予測不能ともいえる未来を自分で切り開く力が求められるのです。

今の小中学生が社会に出て活躍する頃には、情報化社会や少子高齢化、さらにはグローバル化といった環境の大きな変化が予想されています。そのため各個人がそれぞれで自分の問題を見つけ、他者と協力して解決していく能力が必要とされるのです。

当然ながら、これからの社会を担う子供たちが学ぶ教育現場でも、大きな変化に対応できる力を育てていくことが大切だといえます。そのためにも、大学入学共通テストの導入を通じ、学力を評価する仕組みそのものを変えていく必要があるのです。

国は時代に合わせた教育を行うために「大学入試改革(高大接続改革)」を進めています。改革の一つの軸とされる共通テストでは、これまで以上に多面的・総合的に能力を評価するわけです。

一人ひとりが未来を切り拓く力を身につける

一人ひとりが未来を切り拓く力を身につける

目まぐるしく情報が行き交う現代社会では、予測がつかない変化のなかから、⾃ら課題を⾒出し、周囲と協働しながら解決する⼒が求められます。

そのため大学入学共通テストでは、暗記だけでは解決できない問題を解く力が問われるのです。共通テストで求められる力は、未来を自分で作り上げていく「生きる力」といえるかもしれません。

参考:
独立行政法人 大学入試センター(外部サイト)
文部科学省「高大接続改革」(外部サイト)
文部科学省「2030年の社会と子供たちの未来」(外部サイト)
内閣府 日本経済白書(外部サイト)
厚生労働省 厚生労働白書(外部サイト)

ライタープロフィール
八坂 都子
八坂 都子
育児系雑誌の編集アシスタント、美術系出版社にて編集記者を経て2020年にペロンパワークス・プロダクション入社。マネー系を中心にカルチャーなど幅広いテーマで記事執筆・コンテンツ制作を行う。

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