シビックテックとは?私たちの生活をどう変える?その定義や事例を紹介

シビックテックとは?私たちの生活をどう変える?その定義や事例を紹介

シビックテックとは?私たちの生活をどう変える?その定義や事例を紹介

「シビックテック」は、市民が行政と連携し、テクノロジーを活用して、社会課題の解決や生活の利便性向上をめざす取り組みです。近年、国内外を問わず広がりを見せている「シビックテック」の目的や事例を紹介します。

デジタル庁も推進する「シビックテック」

「シビックテック」とは?

「シビックテック(civic-tech)」とは、市民(civic)と技術(technology)を組み合わせた造語です。市民がテクノロジーを活用し、行政サービスや地域社会が抱える課題を改善・解決する取り組みを指しており、市民と行政がともに活動していくことでより良い社会をめざすという、民主的な社会づくりを目的としています。

シビックテックにおいては、NPO法人や民間企業、市民などが主体となってアプリやサービスを開発することによって、誰もが公共サービスや地域の課題解決につながる活動に参加できます。

市民と行政の連携を生み出す「シビックテック」

これまで行政サービスの創出や提供に市民は関与することができませんでした。行政側は「サービス提供者」、市民は受動的な「サービス消費者」といった枠組みがあり、関係が希薄だったのです。

しかし、一人ひとりの生き方や暮らし方が多様化する現代において、行政だけでは市民のニーズを正しく把握することが難しくなっています。そこで行政と市民が一緒になって、必要なサービスを考え、形にしていくことができるシビックテックの重要性が高まっているのです。

「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」をミッションとして掲げるデジタル庁も、シビックテックに注目。庁内にシビックテックを推進する職責をおいたり、民間企業内でシビックテックをリードする人材の育成などに力を注ぎ、シビックテックの活動を後押ししています。

コロナ禍で広がりを見せたシビックテックの事例

コロナ禍で広がりを見せたシビックテックの事例

シビックテックは急速に広がりを見せています。日本において、シビックテックが本格的に動き出すきっかけとなったのは、2011年に発生した東日本大震災。全国のエンジニアを中心としたボランティアが、地図上で被害状況や支援物資の不足などが分かる「sinsai.info」を開設しました。

また、コロナ禍においては、正確な情報に触れ、現状を知ることが多くの人々から求められたことで感染症対策サイトや地域活性化サービスなどが開発され、シビックテックはより一層の広がりを見せました。

マスクの在庫状況をAPI公開(台湾)

コロナ禍でシビックテックが注目された事例といえば、台湾が筆頭にあげられます。台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏は、2020年2月、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めたばかりの頃にマスク不足を予測。政府が買い上げたマスクの在庫状況をオープンAPI※で提供しました。

※「アプリケーション」や「ソフトウェア」と「プログラム」をつなぐための仕様や手続きなどのインターフェース=API(Application Programming Interface)を公開(オープン)し、外部から連携できるようにすること。

そして、オープンAPIを利用して6,000以上ある販売拠点の在庫状況が自動更新されるマップをシビックハッカー(民間のエンジニア)とともにわずか3日で開発。このニュースは日本でも報じられ、先進的な新型コロナウイルス感染症対策として世界中から注目を集めました。

新型コロナウイルス感染症対策サイト(東京都)

日本でもコロナ禍で大きな動きがありました。2013年からシビックテックを推進する「一般社団法人Code for Japan(コード・フォー・ジャパン)」が、都内の患者数やその属性、検査の実施数、相談件数などのデータを分かりやすいグラフなどで表示する東京都公式の新型コロナウイルス感染症対策サイトを開発。

Code for Japanはこのソースコードを公開して、市民がバグの修正や改良ができるようにし、さらに各地のシビックテック団体や有志のエンジニアによって、全国で地域ごとの情報サイトが作られたのです。

社会が不安定な状況になり危機感が高まると、市民の地域社会への貢献意識が高まり、シビックテックの広がりにつながると見られています。

その他の国内のシビックテックの事例

その他の国内のシビックテックの事例

他にシビックテックの事例はどのようなものがあるでしょうか。国内のシビックテックの3つの事例をご紹介します。

5374.jp(ゴミナシドットジェーピー)

2013年に、金沢市のシビックテックコミュニティ「一般社団法人Code for Kanazawa(コード・フォー・カナザワ)」は、ゴミ収集に関するデータを活用し、「いつ、どのゴミが収集されているのか?」を分かりやすく表示させるウェブアプリ「5374.jp」を開発しました。

5374.jpは全国各地へと広がっています。各地に広がることで、引っ越した先でもゴミの分別や捨て方、捨てる曜日がすぐに分かり、市民にとって便利なサービスになっています。

台風リアルタイム・ウォッチャー

国立情報学研究所が発信する台風情報「デジタル台風」と、気象情報を発信する「ウェザーニュース」の会員やTwitterの利用者が提供する各地の被害状況に関する写真とコメントなどを、Google Earthのマップ上に同時に表示させ、台風の位置と周辺の被害状況とを同時に把握できるようにしたウェブサービス。首都大学東京の渡邉英徳教授が作りました。

「台風リアルタイム・ウォッチャー」では、浸水・冠水・氾濫や、強風災害、ライフライン停止といった表示まであり、テレビやラジオよりも、ピンポイントで、かつ即時性の高い情報を得ることができます。

のとノットアローン

地域で孤立しやすい子育て世代のために、子育てを応援したい人たちの活動情報を集約して発信しているウェブアプリです。子育てイベント情報や子どもと使いやすい施設、のとノットアローンのメンバーが独自におすすめする相談先リストなどの情報を提供しています。

石川県の能登地方で開催された、グループ単位で出し合ったアイデアを短時間でまとめていくイベント「アーバンデータチャレンジ2015 in 能登」でアイデアがまとまり、企画に共感した市民やエンジニアがともにアプリを開発しました。地域密着の利便性が高い情報を提供することができるのが、市民が関わるメリットの一つといえます。

シビックテックの今後

シビックテックの今後

シビックテックは市民同士の助け合いだけでなく、国や自治体との連携も求められており、各地では行政が民間との連携を推進する動きが始まっています。

各地で官民連携の動きが活発に

東京都では、オープンデータなどを活用しデジタルサービスの提案を行う大会「都知事杯ハッカソン」を実施し、優秀な提案は都の政策に取り入れるなど、シビックテックなどとの協働を実践。また、行政課題を発信し、スタートアップなどの企業がその課題解決のソリューションを提案できるエコシステムの構築をめざし、「TOKYO UPGRADE SQUARE」を開設しています。

そこでは、都のサービスをユーザー目線で評価する「シビックユーザーテスト」を実施し、行政とスタートアップ、相互の理解を深めて協働の実践を積み重ねています。強固な協働スタイルを構築することによって、都政のQOS(Quality of Service=ネットワーク上のサービス品質)を高めることをめざす取り組みです。

そのほかにも、行政・県民とスタートアップの協働によるシビックテックのプロジェクト「シビックテックチャレンジYAMAGUCHI」や、地域課題の解決につながるアプリケーションやサービスを提供し、シビックテックの推進を図る「金沢シビックテック推進協議会」といった組織が発足しています。

私たちの生活はどう変わる?

シビックテックによって、私たちは社会への要望や不満、困りごとを解決してくれる公共サービスができるのをただ待つのではなく、自分たちが解決する側に回って、ソリューションを生み出すという意識を持つことができます。

そして、官民問わず組織や地域の垣根を超えてつながり、アイデアやデジタルスキルを出し合って協力し、便利なウェブアプリやサービスが作られる。さらにそのサービスを無償で公開することで、ユーザーが改良したり、新たなサービスにいかしたりといった動きが生まれ、より便利なサービスへと発展させることができます。

こうした動きが積み重なることで、私たちは自分たちの手で社会をより暮らしやすくしていくことができる。それがシビックテックなのです。

・本コンテンツは執筆時点(2023年2月)の情報に基づき作成しております。

ライタープロフィール
安楽 由紀子
安楽 由紀子
1973年、千葉県生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経てフリーランスのライター、編集者に。ウェブ媒体や雑誌、広報誌で芸能人、スポーツ選手、文化人、ビジネスパーソンへのインタビューを行うほか、単行本の編集やライティングも行う。

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