食が抱える諸問題とは?

「食」に関する課題は、国や地域によって大きく事情が異なります。例えば、日本国内で見れば、食料自給率の低下や農業従事者の減少などが重要なテーマです。
さらに、世界全体で見ると、今は深刻な食料危機に見舞われている時代といえます。ここでは、まず食に関する問題をグローバルな視点で見ていきましょう。
世界的な食料危機
2023年現在、紛争や気候変動、経済危機、肥料の価格高騰などの要因が重なり、世界的な食料危機が起きています。飢餓のない世界をめざして活動する国連の食料支援機関である国連WFP(WFP国連世界食糧計画)の調査によると、世界では8億2,800万の人々が飢餓に苦しんでいるとされています。
新型コロナウイルス感染症の蔓延による影響も大きく、コロナ禍前と比べて緊急の支援が必要とされる深刻な飢餓(急性食料不安)に苦しむ人口は2億人も増加。劇的な世界情勢の変化が人々の生活を脅かしています。
食料生産による環境破壊
食料生産は環境問題とも密接に紐づいています。そのうちの一つに、世界的な肉の消費量増加に伴う環境破壊があげられます。
人口増加や途上国の成長などで世界的に食肉の消費量は増加しています。需要の高まりにあわせ、効率的に食肉を生産する「工業型畜産」が広く普及しています。工業型畜産は効率的に食肉を生産できる一方、広い土地と膨大な水・化学物質、燃料を必要とするため、周辺環境に与える影響の大きさが問題視されています。
例えば、家畜の放牧や飼料の生産のために広大な土地を必要とするため、ブラジルを中心に急激な森林破壊が続いています。また、家畜による温室効果ガスの排出や生物多様性の喪失、水資源の枯渇、排せつ物による水質汚染なども環境破壊の課題として浮き彫りになっています。
一方、環境への影響は、農業においても共通する部分があります。農地開発のための森林伐採や焼き畑による気候変動や生態系への影響、産地からの運送に際しての温室効果ガスの発生などが課題としてあげられています。
サステナブルな食料生産をめざす取り組み

食料に関する諸問題は、世界全体で解決すべき主要なテーマです。SDGsの17の目標においても2つめの目標に「飢餓をゼロに」が掲げられており、とりわけ重要度の高い課題として扱われています。
「飢餓をゼロに」の達成目標として、「2030年までに飢えをなくし、誰もが一年中安全で栄養のある食料を十分に手に入れられるようにする」「食料の生産性と生産量を増やし、同時に生態系を維持し、気候変動や干ばつ、洪水などの災害に対する適応能力を向上させ、サステナブルな食料生産システムを確保する」といった内容が掲げられています。食料問題は世界的な協力体制で対応する「人類共通の課題」といっても過言ではありません。
では、食料生産に関わる課題はどのように解決していけばよいのでしょうか? ここでは、食料生産の課題解決につながる具体的な取り組みをご紹介します。
畜産による環境問題の軽減をめざす「プラントベースフード」
「プラントベース」とは、Plant(植物)とBased(由来)を組み合わせた言葉で、植物性食品を積極的に取り入れる食事のスタイルを指しています。そして、プラントベースの考え方を支える存在が、「プラントベースフード」です。
プラントベースフードとは、肉や魚などの動物由来の原材料を使用せず、植物由来の原材料から生まれた様々な食品のことです。具体例としては大豆や小麦などから、肉や卵、ミルク、バターなどの動物性食品を再現した加工食品があげられます。
プラントベースフードの原材料となる大豆や穀物などを育てる際に排出される二酸化炭素や使用する水源の量は、畜産よりも少ないとされています。人口増加に伴う動物性たんぱく質の供給不足が危ぶまれる中、プラントベースフードはそれらの代替品として、環境への負荷軽減をめざせるサステナブルな食文化として注目を集めています。
ここでは、プラントベースフードの開発に取り組む企業の事例を2つ見ていきましょう。
プラントベースフードの事例
「ZENB(ゼンブ)」はミツカングループが取り組む新たな食のプロジェクトです。おいしく健康になれる「新しい主食」の開発に取り組むZENBでは、試行錯誤の結果、「黄えんどう豆」のポテンシャルに目を向けるようになりました。
黄えんどう豆は、人にとって必須栄養素である「たんぱく質」の含有量が他農作物よりも多く、加工後も酸化しにくいのが特徴です。さらに、窒素系肥料や水資源の使用量が少なく生育できるため、プラントベースフードにおける理想的な食材と判断されたのです。3年にわたる研究開発のすえ、黄えんどう豆を使ったロング麺「ゼンブヌードル」やショートパスタ「マメロニ」の開発に成功。環境への負荷が少ない食生活実現に向けて、植物性食材の新たな可能性を開拓しています。
ネクストミーツ株式会社は、代替肉の研究・開発を行う日本発の企業です。代替肉とは、大豆やえんどう豆といった植物性タンパク質を原料として、肉の味や食感を再現した食品のことです。「地球を終わらせない」のコンセプトのもと、サステナブルな食料開発に力を入れており、創業から7ヵ月でアメリカでの上場を果たすなど世界的な注目を集めています。焼肉用の代替肉や牛丼、チキン、ポークなど、代替肉の可能性を意欲的に追求し続け、プラントベースフードの分野をけん引する存在となっています。
100パーセント植物性の材料で作るスイーツを販売する「ovgo Baker」についての記事はこちらでお読みいただけます。
食の選択で環境への意識が変わる?ovgo Bakerのヴィーガンスイーツへの想い
野菜・果物の安定供給をめざす屋内栽培
長期的視点で食料問題を解決するためには、野菜と果物の供給安定化も重要な課題となります。ここでは、具体的な取り組みの一つとして、「屋内栽培」の事例をご紹介します。
屋内栽培とは、施設内で野菜などを育てる方法であり、天候に左右されずに収穫できるのがポイントです。主なものとしては水耕栽培があげられますが、土を使わずに水と液体肥料(養液)を用いて栽培する方法で安定的な収穫が見込めます。
屋内栽培の事例
次世代型屋内垂直農法に取り組む「Infarm(インファーム)」は、スーパーなどの店内にファーム(畑)を設置し、LEDで水耕栽培したハーブや葉物野菜などを販売しています。各店舗にInfarmのスタッフが定期的に訪れ、野菜の手入れや収穫などを行っているのが特徴です。
生産地から消費地までの輸送距離が削減できることが大きなメリットであり、化学農薬を使用せず土壌ベースの農業よりも少ない面積・水量で栽培することが可能です。栄養素と風味に満ちた新鮮な野菜を消費者に購入してもらえる仕組みです。日本においても、徐々にファームを設置する店舗が増えています。
また、株式会社村上農園は、山梨県に国内最大規模となる完全人工光型植物工場である「スーパースプラウトファクトリー」を完成させています。健康志向の高まりを背景として、本来野菜にごく微量にしか含まれない成分を、技術を用いて高い含有量にした「高成分野菜」の生産能力を拡大するために、生産拠点を新設しました。
コントロールルームで栽培装置や環境管理が行える中央制御システムを導入した最先端の植物工場で、フル稼働を行うことにより従来の生産能力を3倍にまで引き上げることができます。
同施設の従業員は地元から積極的に採用しており、地域の雇用を下支えすることにも貢献しているといえるでしょう。
食品廃棄の環境負荷軽減をめざす取り組み
食品廃棄物とは、食品の製造や調理の過程で出てくるものの他に、食品の流通や消費段階で生じる売れ残りや食べ残しなどを指します。まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物のことを「食品ロス」ともいいます。
FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界の食料生産量の3分の1にあたる約13億トンもの食料が毎年廃棄されています。日本においても、年間約612万トン(2017年度推計値)の食料が廃棄されています。
サステナブルな社会を実現するために、食品廃棄物を少しでも減らすべく、公共機関や民間企業などで多くの取り組みが行われています。ここでは食品廃棄物を素材として活用している二つの事例を紹介します。
食品廃棄物から生まれる新素材の事例
襖や壁紙を中心に和紙を制作している五十嵐製紙が手掛ける「Food Paper」は、廃棄された野菜や果物などから作られています。開発のきっかけは和紙の原材料が不足したこと。立ち行かない状況を打破するため、食べ物から紙を作るというご家族の自由研究をアイデアに新たなブランドを立ち上げました。
Food Paperは食品ロスを減らすだけでなく、伝統的な和紙の製法を伝える取り組みでもあります。使用した紙は100パーセント土に還ることから、環境への負荷を軽減でき、紙文具の可能性を広げるブランドとして期待されています。
また、食品廃棄物を活用する取り組みとして、東京大学発のベンチャー企業であるfabula株式会社では、「100パーセント食品廃棄物から作る新素材」の研究開発や商品の製造を行っています。東京大学生産技術研究所によって開発された新素材であり、コーヒーかすやみかんの皮、規格外の野菜などを乾燥させ、粉砕・加熱成形したものです。
例えば白菜の廃棄物で作った素材は厚さ5ミリで30キロの荷重に耐えることが可能であり、壊れても再成形することで何度でも利用できるという利点があります。素材を作成するための資源の採取が不要であり、また、食品廃棄物を焼却する際のCO2排出を削減できるなど、fabula株式会社の作る素材は環境問題の解決手段の一つとして注目されています。
まとめ:今後私たちの食生活が変わるかも?
世界規模では人口増加や環境破壊などによって、これからの食料生産が危ぶまれており、屋内栽培や食品ロスの解決など、公共機関だけではなく、民間企業でも様々な取り組みが行われています。
プラントベースフードを取り入れるといったことから、私たち一人ひとりもサステナブルな食料生産に意識を向けることができるでしょう。身近な話題である「食」のあり方について、日々の暮らしの中で少しずつ取り組んでいけるものを見つけていくことがこれからより大切になるかもしれません。
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ライタープロフィール

不動産・マネー・人事労務・知財法務の分野で強みを持つウェブコンテンツ制作会社を12年間経営、代表者兼ライター。同社ではビジネス系の書籍の編集・出版プロデュースにもあたっている。日本大学法学部卒、社会人学生として慶應義塾大学に在学中。著書に『ザ・ウェブライティング』(ゴマブックス)、FP資格取得。データサイエンス・AI分野を修得中。
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