デジタル庁発足の背景と目的

デジタル庁は2021年9月1日に設置されました。発足に至った背景には、新型コロナウイルス感染症への対応の中で実施した、給付金の支給やワクチン接種などの手続きにおいて混乱が生じ、改めて政府のデジタル化の遅れが浮き彫りとなったことがあげられます。また、従来からの縦割り行政の影響によって、省庁間や自治体間でのやりとりがスムーズに行えていなかった点もあげられるでしょう。
設置の目的として、様々な行政手続きをデジタル化し、行政機関同士のやりとりを円滑にすることで、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」をめざすことが掲げられている点も押さえておきましょう。
デジタル庁では、マイナンバーカードの利活用の促進や、ライフイベントに関する行政手続きをオンライン上で行える仕組みづくりを進めています。行政の効率化によってサービスの質の向上や、コストの削減が期待されているのです。
デジタル庁がめざす未来
デジタル庁がめざす未来は、ミッション・ビジョン・バリューという形で活動指針にまとめられています。また、デジタル庁が特に力を入れている3つの柱についても解説します。
ミッション・ビジョン・バリュー
ミッションとして「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」を掲げており、一人ひとりの多様な幸せを実現するためのデジタル社会の実現をめざすと謳っています。

また、ミッションの実現をめざすためにあるべき姿をビジョンとして、「優しいサービスのつくり手へ(Government as a Service)」「大胆に革新していく行政へ(Government as a Startup)」と定めました。国や地方公共団体、民間事業者などあらゆる関係者が連携をしながら、ユーザーのサービスの認知から利用までをスムーズにし、「体験価値」を高める取り組みを進めるとともに、官民の人材を幅広く活用するとしています。
そして、バリューには「この国に暮らす一人ひとりのために」「常に目的を問い」「あらゆる立場を超えて」「成果への挑戦を続けます」の4つを定め、職員が大切にする価値観としています。ユーザー中心のサービスを提供し、新たな手法や概念を積極的に取り入れ、オープンで風通しの良い環境のもとでスピーディーに施策を実行していくという行動指針です。
デジタル庁の「3つの柱」

デジタル庁では特に力を入れて推進していくものを全体戦略として、次の3つの柱を定義付けています。
1.生活者、事業者、職員にやさしい公共サービスの提供
2.デジタル基盤の整備による成長戦略の推進
3.安全安心で強靭なデジタル基盤の実現
これらの柱をもとに推進された具体的な取り組みの事例と内容について紹介します。
1.生活者、事業者、職員にやさしい公共サービスの提供
生活者、事業者、職員、それぞれのニーズをくみ取った公共サービスの実現や、それに向けてのシステム整備を行う活動です。
取り組みの事例 | 内容 |
---|---|
マイナンバーカードの普及 | マイナンバーカードの普及促進。交付枚数率の全国平均は53.9パーセント(2022年11月末時点)。 |
マイナポータルの改善 | 子育てや介護など、行政手続きのオンライン窓口。連携できるサービスの拡充。 |
新型コロナワクチン接種証明書アプリの提供 | 接種証明書を取得できるアプリの提供。 |
事業者向けサービス・認証基盤 | 補助金申請、社会保険手続き、各種認可申請など複数の行政サービスを1つのIDで利用可能となる「GビズID」を実施。電子申請の手続きの簡素化。 |
キャッシュレス法の成立 | 交通反則金や旅券の発給といった行政手数料への支払をキャッシュレス化。 |
2.デジタル基盤の整備による成長戦略の推進
デジタル化を進めるにあたって障壁となる規制の見直しや、データ基盤を整備することによって、デジタル改革、規制改革、行政改革を一体的に進める活動です。
取り組みの事例 | 内容 |
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デジタル臨時行政調査会の推進 | 規制・制度、行政や人材のあり方などを含めた本格的なデジタル改革に係る課題の検討や情報共有のための会議体実行の推進。 |
医療DXの推進 | 遠隔診療(オンライン診療)の実用化、スマホやウェアラブル端末による予防医療サービスの普及など。 |
教育分野のデジタル化 | GIGAスクール構想(全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する取り組み)の推進。 |
子どものデータ基盤整備 | 教育・保育・福祉・医療など子どもに関するデータの集約と支援への活用。 |
デジタルインボイスの普及定着 | インボイス(適格請求書)発行から仕訳、仕入税額控除の計算など、バックオフィス業務のデジタル化の推進。 |
デジタル田園都市国家構想の推進 | 生活や地域の経済活動を支える様々なサービス間でのデータ連携の中核を担う、データ仲介機能を提供し、地方におけるデジタル実装を推進。 |
教育分野のデジタル化へ向けて文部科学省が推進している行政改革、「GIGAスクール構想」の取り組みについてはこちらの記事でお読みいただけます。
新しい学びのカタチ。GIGAスクール構想で教育はどう変わる?
データとデジタル技術を活用した地域の防災や街づくりなどのために、国土交通省が設置した「インフラ分野のDX推進本部」の取り組みについてはこちらの記事でお読みいただけます。
インフラ分野のDXでめざす、私たちが暮らしやすい街とは?
3.安全安心で強靭なデジタル基盤の実現
各行政機関で統一されずに行われてきたシステムの調達・開発・運用・保守について、クラウドサービス環境を整え、品質やコストの最適化をめざす活動です。
取り組みの事例 | 内容 |
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ガバメントクラウドの整備 | 国の行政機関(中央省庁・独立行政法人など)や地方自治体が共同で行政システムをクラウドサービスとして利用できる環境の整備。 |
ガバメントソリューションサービス | デジタル庁が主体となって、政府の業務に必要なパソコンやネットワーク環境の整備。 |
DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)の推進 | プライバシーやセキュリティ、知的財産権などの信頼性を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが自由に行き来できる環境の整備。 |
上記のように、多くの領域で様々な施策が同時に展開されており、デジタル社会の実現に向けた取り組みを強力に推進しています。
デジタル庁の取り組みは、私たちの生活にも大きな変化をもたらすものが多いといえます。マイナンバーカードの普及やマイナポータルサービスの拡充によって、行政に関する手続きや情報の確認がスムーズに行えるようになりつつあります。
また、オンライン化・キャッシュレス化が進むことで、行政サービスの利便性が向上しており、いくつも行政機関の窓口を経由しなくても、ワンストップで手続きが行える環境整備が進んでいます。
デジタル庁によって私たちの生活はどのように変化する?

デジタル庁は暮らしの様々な部分のデジタル化を推進しており、従来は複雑な手続きが必要だった行政サービスの一部が簡略化されています。例えば、マイナンバーカードは2021年10月から健康保険証と紐付けられるようになり、マイナポータルを通じて薬の情報や特定検診の情報などが閲覧可能になりました。
また、2021年11月からは医療費の閲覧が可能となり、確定申告における医療費控除の計算や処理に活用できます。今後もサービスの拡充が予定されており、全自治体でのマイナンバーカードによる子育て・介護などのオンライン手続き、運転免許証との一体化などがあげられます。
マイナンバーカードでできるようになることや申請方法についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
利用シーンが拡大するマイナンバーカードの申請や活用方法を解説。
暮らしに密接な部分の行政サービスがデジタル化すれば、手続きがスリム化し利用する際の手間が省け、各種サービスの活用促進にもつながります。私たちの生活はさらに便利になるはずです。
暮らしの身近なところからデジタル化を活用していこう
特に身近なところでは、健康保険や年金にかかる申請などにおける様々な手続きのデジタル化が推進されています。情報機器に不慣れな人でもサービスを利用できるよう、ユーザー視点に立った環境整備や、情報リテラシー向上のための取り組みもあわせて進んでいるようです。
デジタル化をうまく活用できるよう、自分に身近な行政サービスについてどのような変化があるのかウェブサイト上の活動報告などでおさえておくと良いでしょう。
デジタル社会が実現することで、年齢や地域を問わず多くの人の生活が変化していきます。新たな公共サービスのあり方を知ることで、身近なところからデジタル化について考えてみましょう。
・本コンテンツは執筆時点(2022年12月)の情報に基づき作成しております。
ライタープロフィール

不動産・マネー・人事労務・知財法務の分野で強みを持つウェブコンテンツ制作会社を12年間経営、代表者兼ライター。同社ではビジネス系の書籍の編集・出版プロデュースにもあたっている。日本大学法学部卒、社会人学生として慶應義塾大学に在学中。著書に『ザ・ウェブライティング』(ゴマブックス)、FP資格取得。データサイエンス・AI分野を修得中。
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