DX銘柄とは

女性活躍に優れた上場企業を選定した「なでしこ銘柄」、従業員等の健康管理に取り組む上場企業を選定した「健康経営銘柄」など、長期的な視点で企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある企業を紹介することで、企業への投資を促進し、各社の取り組みを加速化していくことを狙って「〇〇銘柄」と選定される株式はいくつかあります。
その内の一つが、DX銘柄(デジタルトランスフォーメーション銘柄)です。DX銘柄の特徴や、なぜ選定されるようになったのかを解説していきます。
DX銘柄の概要
DX銘柄とは、経済産業省・東京証券取引所・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が年一回のペースで選定を行い、公表しているものです。
そもそもDXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略で、簡単に言うとデジタル技術の活用によって生活やビジネスを変革すること。経済産業省『デジタルガバナンス・コード2.0』(2022年9月)では、特に「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こととしています。
DX銘柄は、優れた情報システムの導入やデータの利活用だけでなく、デジタル技術を用いたビジネスモデルの確立や経営革新に果敢に挑戦している企業を業種ごとに選んでいるものです。DX銘柄に何度も選定されている企業もあります。
具体的な銘柄については、経済産業省のウェブサイトで公表されており、特に優秀な企業は「DXグランプリ」として選ばれています。また、DX銘柄に及ばないながらも、先進的な取り組みを進め、企業価値の向上が注目される企業については「DX注目企業」として紹介されます。
DX銘柄が選定されるようになった背景
DX銘柄が選定されるようになった理由は、社会情勢の大きな変化が影響しているといえます。経済産業省は「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(2018年)で、企業の多くがDXを推進できなかった場合、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると発表。このようなリスクを「2025年の崖」と称し、企業のDX実現に向けて立ちはだかる課題を整理しています。
デジタル技術の普及によってこれまでのビジネスモデルや産業構造が根本的に変わる事例も出てきており、多くの企業が経営戦略の見直しやデジタル技術の利活用への取り組みが課題になっています。デジタル技術による変化が、自社の経営にどのような影響を及ぼすかを分析することは経営課題の一つとして捉えられるようになったといえるでしょう。
そこで、企業価値の向上や競争力の強化のために、積極的にIT利活用に取り組んでいる企業を選定する「攻めのIT経営銘柄」が2015年に開始されました、さらに、2020年からは、デジタル技術を前提としたビジネスモデルの構築や経営革新に積極的に取り組む企業をDX銘柄として選定することで、各企業がDX推進に取り組むことへの後押しや、企業がDXに取り組む際の参考とされることが期待されています。
DX銘柄の選定の手順

デジタル技術による企業価値の向上や競争力の向上が見込まれるDX銘柄はどのように選出されているのでしょうか?DX銘柄がどのような手順や選定基準で選ばれるのか、2023年の選定の手順について解説します。
DX認定を取得
企業がDX銘柄に選ばれるためには、DX認定を受ける必要があります。DX認定は経済産業省が取りまとめた認定基準(デジタルガバナンス・コード)を満たしたうえで、申請をすることで審査が行われます。
アンケート調査への回答
DX認定を受けたうえで、国内の上場企業を対象に毎年行われている「デジタルトランスフォーメーション調査(DX調査)」というアンケートに回答する必要があります。
アンケート調査に協力した企業にはフィードバックが行われ、DXを推進するために役立つ情報が提供されます。
選択項目とROEによるスコアリング調査
アンケート内の選択項目における評価と、企業が自己資本をどれだけ有効に活用して利益を上げているかを示す指標である自己資本利益率(Return On Equity)によってスコアリング、評価します。
「銘柄評価委員会」による最終選考
DX推進に関連する具体的な取り組みについての記述式項目を中心に、銘柄評価委員会にて最終選考が実施されます。
DX銘柄の選定基準

DX銘柄について詳しく知るために、具体的な選定基準として、経済産業省が実施する「DX調査2023」から6つのカテゴリーの質問事項を紹介します。
経営ビジョン・ビジネスモデル
2023年版のDX調査によれば、経営ビジョン・ビジネスモデルの質問事項では、次の点が質問として掲げられています。
・DX推進に向けたビジョンの策定
・経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計
・エコシステム、企業間連携
・社会や業界の課題解決につながるDX
・経営方針転換やグローバル展開等への迅速な対応
戦略
戦略の部分では、より具体的なビジネスを生み出すための戦略について、次の質問が設定されています。
・ビジネスモデルを実現するための戦略の策定
・既存ビジネスの変革を実現する取り組み
・新規ビジネス創出
・既存ビジネスの変革や新規ビジネスを創出するための取り組みについての統合報告書での開示
・データを基にした意思決定
DXを推進するためのビジョンやビジネスモデルを実現するための戦略の有無や、データとデジタル技術を活用した既存ビジネスの変革をめざす取り組みが実施されているかといった質問が並んでいます。
組織づくり・人材・企業文化に関する方策
ガバナンス・コード2.0の改訂に合わせ、戦略を実現するためのデジタル⼈材の確保に向けた取り組みや社員のデジタルリテラシー向上の施策、行動指針の明示などの質問項目が追加されています。
・DX責任者、CTO(最高技術責任者)、CIO(最高情報責任者)、データ責任者の位置付け
・経営層のスキルマトリックス等の作成および公表
・経営層のデジタルに関する情報交換および主体的な戦略への落とし込み
・経営トップによる最新のデジタル技術等の情報収集
・企業価値向上のためのDX推進体制
・外部リソースの活用、外部組織との協調
・DX推進のための予算
・全社員のDX受け入れ、普及のための仕組み
・DX推進、新たな挑戦を支援する仕組み
・デジタルに関するスキルを身につけた社員の適切な人材配置
・デジタル人材の育成、確保に関するアピール
・経営ビジョンの実現に向けたデジタル活用の行動指針
上記のようにDXを推進するための組織づくりや人材に関する質問は、他の項目と比べてもボリュームが多いといえます。DXを支える人材や予算をどれだけ確保できるかが、重要な要素になっていると考えられます。
戦略実現のためのデジタル技術の活用・情報システム
DXを実現するには、デジタル技術や情報システムを利活用できる環境整備が欠かせません。主な質問事項として、以下の点があげられています。
・最新デジタル技術と既存の情報システムとの連携
・戦略実現のための情報システムの分析、評価
・情報システムの改善、見直し
・情報システムの全社最適化の取り組み
・事業部門のオーナーシップ
特徴的な質問事項としては、事業部門のオーナーシップがあげられます。情報システムの構築に関して各事業部門がIT部門に丸投げをしてしまうのではなく、きちんと責任を持って実行しているかが問われています。
成果と重要な成果指標の共有
成果と重要な成果指標の共有については、自社のステークホルダーに対してどれくらい情報発信が行われているかがチェック事項としてあげられています。
・DX推進における各種取り組みのKPI
・企業価値向上に関係するKPIの開示
・DXの成果に関する指標の策定とモニタリング
KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」とも呼ばれるもので、目的達成のために設ける目標のことを指します。DXの実現に向けた具体的な目標が掲げられているか、情報開示に関する企業姿勢が問われているといえるでしょう。
ガバナンスシステム
そして、最後にガバナンスに関する項目では、経営者がどのような姿勢と認識でDXに取り組んでいるかが問われています。
・経営トップのメッセージ
・経営トップとDX推進部署の責任者とのコミュニケーション
・経営トップによるITシステムの課題把握、分析
・企業価値向上のためのDX推進についての経営会議での議論
・経営トップのサイバーセキュリティリスクについての認識
・サイバーセキュリティリスクの把握と対策
・サイバーセキュリティリスクに対応できる体制の構築に向けた取り組み
・サイバーセキュリティへの取り組みに関する開示
DX銘柄は投資の基準の一つにもなる?

DX銘柄は経済産業省や東京証券取引所などが設定した評価項目でスコアリング、選定されている銘柄なので、社会的な信用が高いという特徴があります。またDXの推進により、更なる企業の競争力強化につながる可能性もあるでしょう。
DXは多くの投資家が注目しているテーマです。また、一般消費者に対しても、DX銘柄に認定されることで企業の認知度が向上する可能性があります。
2023年のDX銘柄の調査項目や基準は、前年の反省や社会情勢を踏まえてアップデートされています。DX銘柄に選ばれた企業は、これからの社会を変えていく牽引役として今後も注目されていくでしょう。
・本コンテンツは執筆時点(2022年12月)の情報に基づき作成しております。
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的とするものであり、証券投資取引の推奨・勧誘を目的とするものではありません。
ライタープロフィール

不動産・マネー・人事労務・知財法務の分野で強みを持つウェブコンテンツ制作会社を12年間経営、代表者兼ライター。同社ではビジネス系の書籍の編集・出版プロデュースにもあたっている。日本大学法学部卒、社会人学生として慶應義塾大学に在学中。著書に『ザ・ウェブライティング』(ゴマブックス)、FP資格取得。データサイエンス・AI分野を修得中。
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