食の選択で環境への意識が変わる?ovgo Bakerのヴィーガンスイーツへの想い

食の選択で環境への意識が変わる?ovgo Bakerのヴィーガンスイーツへの想い

食の選択で環境への意識が変わる?ovgo Bakerのヴィーガンスイーツへの想い

SDGsやエシカル消費をライフスタイルに取り入れている、若者に人気のアメリカンクッキー店ovgo Baker。お店に並ぶクッキーは動物性原材料を使わないヴィーガンスイーツです。商品に込めた想いを代表兼店長の溝渕由樹さんに聞きました。

そもそもヴィーガンって何?

――似た言葉に「ベジタリアン」がありますが、「ヴィーガン」とはどのような食生活や考え方なのでしょうか?

卵や乳製品などの動物性食品を食べない完全なベジタリアンで、動物を搾取しないライフスタイルを持つことです。例えば、家畜の放牧地や飼料を生産する農地のために森林を伐採して、生物多様性が失われたり、家畜の排泄物によって河川や海洋の汚染が広がったりしています。家畜が食べる穀物を人間が食べれば、食糧問題に貢献できるという試算もあります。

そもそもヴィーガンって何?
ovgo Baker代表兼店長の溝渕由樹さん

健康上の理由でヴィーガンやプラントベース(植物由来の食事を中心とした食生活)を選択する人もいますが、欧米では環境負荷や食糧問題を解決するためにプラントベースを選択する人が増えています。日本でも若い世代を中心に、SNSで情報を集めて、「環境に良いもの」「エシカルなもの」としてプラントベースをライフスタイルに取り入れる方が増えてきていると感じています。

――溝渕さんがヴィーガンやプラントベースに興味を持ったきっかけは?

ヴィーガンという言葉は知っていましたが、動物愛護や健康志向の一部の方のものという認識でした。きっかけは新卒で入社した商社を退社し、2ヵ月ほど北米と南米を旅したことです。

今から3年ほど前ですが、北米のスーパーマーケットにヴィーガン専用のコーナーがあったり、ヴィーガンのカフェでなくてもヴィーガンメニューがあったりなど、選択肢の一つとして生活の中にヴィーガンがあることに驚きました。

実際にヴィーガンフードを食べてみると、プラントベースでも色々な種類があり、想像していたよりバラエティに富んでいるので、日本でも受け入れられると思ったんです。

「ovgo B.A.K.E.R」の背景にあるのは「社会に貢献したい」という想い

――なぜヴィーガンやプラントベースを日本で広めたいと思われたのですか?

ずっと「人の役に立つことが実感できる」仕事をしたいと思っていました。20歳のときにロンドンに留学して、人種差別や階級社会、貧富の差を目の当たりにして、人権が保障され、だれもが平等に生きられる社会にしたいと考えていました。2年ほど「セーブ・ザ・チルドレン」というNGOでインターンをしたり、商社では途上国支援を希望していたのは、何か社会に役立ちたいという気持ちがあったからです。

「ovgo B.A.K.E.R」の背景にあるのは「社会に貢献したい」という想い

それとは別に、私は食べることが大好きで、食に関係する仕事にも興味がありました。ヴィーガンやプラントベースが欧米で注目されている状況を知り、植物性の食品を提供することで社会の役に立つことができる。自分にできることはスモールステップですが、好きなことと社会貢献が両立すると思ったんです。

――そうしてヴィーガン仕様のクッキーの販売をすることに興味を持ち始めたのですね?

クッキーやパンを焼くのが大好きで、会社員時代も同僚にクッキーを焼いて配ったりしていました。おしゃれなカフェやおいしいパン屋さん巡りもよくしていました。それでも私の中で、お菓子づくりはあくまで趣味。そういう自分の趣味に直結するような「やわらかい仕事」はリタイアした後の楽しみでもいいなと、仕事とは別だと考えていたんです。

ところが、プラントベースに興味を持ち、自分で調べながらお砂糖にも気を使ったヴィーガン仕様のプラントベースのクッキーを焼くうちに、何かが変化してきました。最初は厨房を借りて、青山の国連大学前で開催しているファーマーズマーケットに出店。ヴィーガンやプラントベースに関心がある方が多く、手応えを感じました。

「ovgo B.A.K.E.R」の背景にあるのは「社会に貢献したい」という想い
ファーマーズマーケット出店時から販売していたヴィーガンクッキー

ところが、新型コロナウイルス感染症の影響で、ファーマーズマーケットも中止。しばらくお休みと思っていたら、ありがたいことにSNSで話題となり、オンラインショップにたくさんの注文が入るようになったんです。

これからのトレンドをつくる若者に商品を届けたい

――2020年6月にオープンした路面1号店となる「ovgo Baker Edo St.店」を皮切りに、軽井沢、ラフォーレ原宿に出店。コロナ禍にもかかわらずとても順調ですね。

ラフォーレ原宿に自分の店を出すなんて、私のプランにはありませんでした(笑)。考え方に共感していただき、こういう仕事を続けていってほしいと応援してくれるディベロッパーの方やお客さまの声に後押しされてやってきました。

これからのトレンドをつくる若者に商品を届けたい
2022年3月にオープンした、ovgo Baker Meiji St.店

ラフォーレ原宿は「若い世代が来てくれる場所」という理由で選びました。ファーマーズマーケットで販売していたとき、年齢層によってヴィーガンの捉え方が違うことに気付いたんです。30、40代はソーシャルな問題や環境問題にすごく関心がある人と、全くない人に分かれます。

ところが、20代前後のいわゆるZ世代と呼ばれる世代は、環境問題を身近なものとして自然に受け入れている印象がありました。小学校で地球温暖化やSDGsについて学び、環境に良い選択をするのは彼らにはごく普通のことなんです。

ビジネス的な視点で冷静に考えると、幅広い年代層が来る場所や、売上単価が高い場所を選択すべきかもしれません。しかし、若い世代の感度の良さや、柔軟性、ポジティヴな姿勢は魅力的です。この世代に訴えかけることで、トレンドやブームが生まれ、上の世代にも影響を与えることができる。どの顧客層に届けるかと優先順位をつける中で、まず若者に商品を届けたいと思いました。

――これまで、どんなトラブルや悩みがありましたか?

スタート時は小学校の同級生と「おいしいヴィーガンクッキーを作ろう」と部活のノリでやっていたんです。一人でクッキーを焼いて、店舗に並べたり、配送をしたり。それがこの2年間で3店舗となり、スタッフは30人という大所帯に。

起業家になろうとしていたわけではなく、「おいしいクッキーを作りたい」と思っていただけの私が、経営とか組織を考えなくてはいけない立場になったことに戸惑うこともあります…。とても贅沢な悩みだと思いますが。

これからのトレンドをつくる若者に商品を届けたい

自分たちが「おいしい」と思うものしか売らない

――商品のこだわりやコンセプトを教えてください。

もっとも大切にしているのは、自分たちが「おいしい」「食べたい」と思えるものを提供すること。お店のスタンスとして、植物性の食材をなるべく多く摂取して、環境問題や食糧問題の解決に貢献することや、アレルギーや宗教上の理由など様々な食の制限のある人たちが、誰でも食べられるような商品を作りたいという思いがあります。

自分たちが「おいしい」と思うものしか売らない

ヴィーガンというコンセプトやマーケティングから入ると、味が二の次になってしまうことがあるかもしれませんが、私たちにとっては「おいしさ」が第一です。もちろん100パーセント植物性のプラントベースの材料であることにはこだわっています。また、精製時に動物の骨炭を使用している可能性がある白砂糖は使わず、ブラウンシュガーやてんさい糖を使用してヴィーガン仕様にするなど素材の製造過程にも目を向けながら、「おいしさ」をひたすら追求しています。

――他のヴィーガンフードとは違いがありそうですね。

誰に対して売りたいと思っているか、ターゲット顧客の設定が違うかもしれません。ヴィーガンの人にヴィーガンのクッキーを提供したいと思っているのか、コンビニのお菓子やバターや砂糖をたっぷり使ったフランス菓子が好きな人にも選んでほしいと思っているかで、どんな商品を作るかが全く違ってきます。

自分たちが「おいしい」と思うものしか売らない
Meiji St.店で提供しているブラウニー、スコッキー、クッキー(2022年9月撮影当時)

ヴィーガンが健康志向とセットになると、さらにグルテンフリー(小麦抜き)にして、砂糖も使わないなど、制限を増やすことでおいしさが犠牲になってしまいがちです。当店にもグルテンフリーの商品はありますが、それはグルテンフリーでもおいしいから。グルテンフリーに変えることはできても、おいしくないならあえてグルテンフリーを選択しません。くどいようですが「おいしい!」が大切なんです。

想いに共感してくれるスタッフとともにチャレンジし続ける

――2022年5月にブランドロゴを刷新。これからの抱負を教えてください。

もともと使っていたロゴは、2019年夏にファーマーズマーケットに出店するときに使っていたもの。自分たちが好きなニューヨークのレトロなベイクショップというイメージで作りました。ラフォーレ原宿にも出店して、若い客層とずれがあると感じていたので、この先どういうお店にしたいかという想いを込めて、エキサイティングな遊び心をロゴで演出したんです。

想いに共感してくれるスタッフとともにチャレンジし続ける
2022年5月にリニューアルしたロゴ

商品を手にすることで、普段ヴィーガンやプラントベースに興味がない人が、興味を持つ「最初のきっかけ」がつくれたら嬉しいです。毎日の食事の中で、例えば朝食だけでもプラントベースにすることで、生活の他の部分にも影響を及ぼし、どんどん地球環境をより良くしていきたいという意識が芽生えるのではないでしょうか。私たちの商品が届いていない場所はまだまだ多いですし、商品に込めた想いも一緒に届けていきたいですね。

――溝渕さんはこれからどんなことにチャレンジしたいですか?

お店のスタッフたちがやってみたいことの後押しをしたいです。「農業×食」に興味があるスタッフもいますし、「アメリカでチャレンジしたい」というスタッフもいます。みんながやりたいことを通じて、商品やブランドに込めた考え方が広がっていけばと思います。

出店のオファーがあれば、私たちが想定していなかった場所でも出店します!これまでコーヒーショップやファッションブランドとコラボしたこともあります。自分たちが想像するレベルを超えることがあり大変な部分もありますが、コラボを通じて新しいお客さまと出会えることは嬉しいですね。

頭の中では、「次はこういうことをしたい」と色々考えています。例えば、店舗で使用する電力をカーボン・オフセット(※)できないか検討したり。ヴィーガンの商品を提供できるようになりましたが、まだまだ社会を良くするためにできることはたくさんあるので日々勉強です。

(※)人間の経済活動や生活などを通して排出された二酸化炭素などの温室効果ガスについて、削減できない分の全部または一部を、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業(排出権購入)などで、埋め合わせすること

会社員のときは「それ今必要?」「なんの効果があるの?」と聞かれたことも、自分が本当に必要と思えば思い切って実行できる楽しさはありますね。「社会を良くしていきたい」という想いが常に私の気持ちの中心にあります。とはいえ、楽しくなければ続きません。私の想いに共感してくれるスタッフと一緒に、楽しみながらやっていきたいです!

想いに共感してくれるスタッフとともにチャレンジし続ける
この人に聞きました
溝渕 由樹さん
溝渕 由樹さん
株式会社ovgo 代表取締役
1993年、東京都生まれ。大手商社に勤務した後、自分の仕事が誰かの役に立っていることを実感できる仕事がしたいと退社。ブラジルやアメリカを旅して、環境問題や食糧問題を知る。帰国後、フードビジネスの基礎を学びたいと食品会社に勤務。2020年5月から、オンラインでの販売を開始。2021年株式会社ovgoを設立。現在では日本橋(小伝馬町)、軽井沢、原宿に3つの店舗を構えるほか、全国各地でのPOPUP開催も定期的に行っている。
ライタープロフィール
小林 純子
小林 純子
フリーランスライター/キャリアコンサルタント
日系客室乗務員(CA)として勤務した後、大手監査法人でCO2排出量の審査やCSRコンサルタント業務に携わる。CA時代に培った接客マナーと、監査法人時代のビジネス知識、またキャリアコンサルタントの傾聴スキルでインタビュー記事を中心に幅広く執筆活動を行う。一児の母として、教育問題にも関心が高い。旅行と本が読める場所をこよなく愛する。

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