Eコマースの多様化が生み出した新業態、クイックコマースを基礎から解説

Eコマースの多様化が生み出した新業態、クイックコマースを基礎から解説

Eコマースの多様化が生み出した新業態、クイックコマースを基礎から解説

注文から最短10分も!驚くほどの短時間で品物が届く「クイックコマース」が都市部で注目されています。短時間配送を支えるダークストアや業界の動きなどについて、戦略物流の専門家、イー・ロジット代表の角井亮一さんに聞きました。

クイックコマースの登場で、Eコマースにおける選択肢が増えた

クイックコマースの登場で、Eコマースにおける選択肢が増えた

欧米や中国を中心に普及したフードデリバリーサービスは、コロナ禍をきっかけに日本にも広がり、街中を行きかう配達スタッフを日常的に見かけるようになりました。忙しい現代人の「今すぐ欲しい」というニーズを満たすこのサービス形態は、食材や日用品へと守備範囲を広げ、「クイックコマース(Qコマース/即配サービス)」と呼ばれて都市部を中心に展開されています。

今回お話を伺ったのは、株式会社イー・ロジット・代表取締役社長CEO兼チーフコンサルタントの角井亮一さん。『図解入門ビジネス 最新EC物流の動向と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム)など、多数の関連著書がある戦略物流の専門家です。

角井さんによると、クイックコマースとは、インターネットを介してモノを売ったり買ったりする「Eコマース」の一つであり、クイックコマースの登場でEコマースに「3つの選択肢」ができたといいます。以下に「食品」を例として紹介します。

1:食材宅配

サブスクリプション型の宅配サービスで、決まった日時に食材が届く定期配達が多く、「置き配」の形をとることが多い。高齢者向けや一人暮らし向け、食材だけでなく調理済みのものまで、様々なサービスが提供されている。

2:ネットスーパー

ECサイトやスマートフォンのアプリなどから注文を受け、既存のスーパーマーケット(店舗)から個人宅まで商品を配達するサービス。時間帯を指定しての配達となり、当日や翌日といった指定ができる。商品価格とは別に送料がかかり、最低注文金額が定められていることもある。

3:クイックコマース

ECサイトやスマートフォンのアプリなどから注文を受け、個人宅まで短時間で届けるサービス。配達時間は最速で10分~数十分と、非常にスピーディ。こちらも、商品価格とは別に送料がかかり、最低注文金額が定められていることもある。

最速10分!クイックコマースに集まる期待

最速10分!クイックコマースに集まる期待

角井さんによると、「クイックコマース」という言葉自体はヨーロッパ生まれ。米国では主に「フラッシュデリバリー」と呼ばれているといいます。その名の通り、注文から10数分~1時間以内といった短時間で注文者に商品を届ける“スピード”が特徴です。

また、クイックコマースで取り扱われる商品は、食品だけでなく、洗濯や掃除用品といった日用品から、ベビー用品、ペット用品など様々です。

日本国内におけるクイックコマース事情

日本において、クイックコマースに参入している企業には、国内のスタートアップ「OniGO(オニゴー)」やITサービス大手が手がける「Yahoo!マート by ASKUL」、フィンランドからフードデリバリーとして日本に進出した企業「Wolt(ウォルト)」などがあります。

「OniGO」は、2021年、東京都内に「最短10分で配達する宅配専門スーパー」の1号店を設置し、野菜や鮮魚などの生鮮食品から日用品まで約1,000品目を扱い、半径1~2キロメートルのエリアを対象に配達を行っています。

「Yahoo!マート by ASKUL」は、事務用品や日用品を扱う通信販売会社「ASKUL」と提携し、通販会社が扱う商品約1,500種類の注文を受けています。注文された商品は、別の宅配ポータルサイト大手「出前館」の配達員が都内のピックアップ専用施設で受け取り、最短10分で届きます。角井さんによると、こちらは2022年度中に都内23区全エリアをカバーする計画だと言います。

クイックコマースの登場により、消費者の選択肢が増え、生活スタイルに合わせて利用できるようになったことは、うれしい変化です。リサーチのためにクイックコマースを何社か利用した角井さんも、最速といわれる10分で高層ビルの一室まで品物が届けられたときには、そのスピード感に驚いたそう。

外出できる時間が限られる多忙な人や、紙おむつなど今すぐ必要なモノがあるのに買いに行けない時などは、クイックコマースが頼もしい味方になってくれるでしょう。

配達時間短縮のカギを握るのは「ダークストア」

配達時間短縮のカギを握るのは「ダークストア」

「クイックコマース」は新しい業態のように感じられますが、当日注文したモノが短時間で届くという点では、出前やピザの宅配のようなサービスが以前から日本にも存在していました。これらのフードデリバリーとクイックコマースは、どのような点が異なるのでしょうか。

角井さんによると、クイックコマースのカギを握るのは「ダークストア」だと言います。商品はあるけれど、一般客が来店してもその場で買い物をすることができない、商品ピックアップ専用の施設です。

「ダークストアはお客さまが直接訪れる店ではないので、場所にかかるコストを大幅に削減できるメリットがあります。路面店でなくても構わないし、ビルの2階以上など多少出入りが不便でも問題ありません。維持費や内装にかける初期費用も少なくて済みます」

注文者からアプリやサイトを通じて商品の注文が入ると、ダークストアで商品が梱包され、それを配達スタッフがピックアップして、注文者のもとに配達するというのが、基本的なクイックコマースの仕組みです。このダークストアを自社運営するか否かによって、以下の2つのスタイルに分けることができます。

ダークストア非運営型

ダークストアを自社で運営せず、自社の小売店(一般客も利用可能な普通のお店)や提携する他社のダークストアを活用する。

ダークストア運営型

ダークストアを自社で運営する。自社にクイックコマース専用の商品在庫があり、それを配達する。

「来店型の店舗と比べて維持費が少なくて済むとはいえ、ダークストアを運営するためにはコストがかかります。日本で最大手のクイックコマースであるYahoo!マート by ASKULが多くのダークストアを自社で運営しているのは、『マーケットをより強固なものにする』という意思表示でもあると思う」と角井さんは言います。

消費者の「今すぐ欲しい」に応える難しさ

消費者の「今すぐ欲しい」に応える難しさ

角井さんによると、海外では、欧米や中国で先進的に広まり、特にデリバリーコストが安い中国では「完全に根付いた感がある」と言います。一方、日本では、コロナ禍の影響が出始めた2020年ごろから街中で配達スタッフの姿をよく見かけるようになりました。しかし今、日本のクイックコマースが拡大の一途にあるかというと、必ずしもそうとはいえないようです。

「クイックコマースが一番盛りあがりを見せたのは、コロナ禍で外出しにくい状況が続いていたころだったと思います。今は少し落ち着いた印象です」

クイックコマースは利用者からの利便性が非常に高いサービスですが、「今すぐ欲しい」というニーズに応えるためにはダークストアの運営や配達スタッフの確保といった課題が多く、いつ採算がとれるかが事業のカギとなっています。実際、先行して日本各地でクイックコマースを展開したドイツの企業は、2021年12月にクイックコマース事業をWoltに売却することを発表しました。

また、そのWoltも同業の米国企業による買収が2022年6月に完了しており、クイックコマース事業はブランド名「Wolt」に統合されてサービスが継続されています。

Woltは、2020年3月から日本でクイックコマースを展開しており、既存の小売事業者と提携するだけでなく、自社のダークストア(8拠点)もつくるなど事業を拡大していました。しかし、2022年7月にダークストアをすべて閉店。配送網を生かした配達支援のみを行うとしています。

クイックコマースにおいては収益とサービスの両立がかなりの難問であることが分かります。利用者にとってはとても便利なサービスだけに、ぜひ発展して欲しいところですが…。

「サービスがなくなることはないでしょう。事業的には落ち着いてきていますが、マーケットは確立されたとみて良いと思います。コロナ禍前は顕在化していなかった『今すぐ欲しい』というニーズが、コロナ禍を経て認知され、『これは便利だ』という一定の支持を得るようになりました。潜在的な需要もまだまだあるはずです」と角井さんは言います。

クイックコマースを成立させたのはギグワーカー

クイックコマースを成立させたのはギグワーカー

クイックコマースは、「ギグワーカー」の存在や労働市場があってこそ成り立つ業態だと、角井さんは解説します。ギグワーカーとは、主にインターネットを経由して単発の仕事を請け負う労働者のこと。

「ギグワーカーがアプリなどを活用して、スキマ時間で配達するという方法が普及し、物流のシステムは大きく変わりました」

以前は、コストがかかっても自社で配達員を雇用するか、他社の配送システムを使うしかありませんでした。

「物流業界では、『素人は戦略を語り、プロはロジスティクスを語る』といわれることがあります。販売ビジネスにおいて物流は生命線。例えば、業態がデパートからスーパーに変われば物流も変わります。商流が変われば物流も変わり、物流を制する者が市場を制するのです」

つまり、ギグワーカーによる物流の仕組みができたことで、クイックコマースのようなサービスが提供できるようになったのです。

ギグワーカーについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
未来の働き方はどうなるの?働き方の新たなカタチ「ギグワーカー」

需要と物流の多様化が生み出したクイックコマース市場の可能性

需要と物流の多様化が生み出したクイックコマース市場の可能性

消費者の需要が枝分かれし、Eコマースの多様化を背景に、ギグワーカーによる新たな物流がクイックコマース市場を成立させている、というのが現在の状態だと角井さんは言います。

「今後、数年で爆発的にクイックコマースが拡大することはないかもしれません。ただし、需要は伸びていくでしょう。また、購入できるアイテム数が増えることによって、買えるモノが増えてきて、買い合わせもできるようになっていくはずです。今、ダークストアのアイテム数は約2,000品目ですが、4,000品目〜6,000品目へと拡大していく可能性もあります」

様々な企業が参入し、新しい試みを続けるクイックコマース。多様化する消費者のニーズに応えるべく、配達とサービスを進化させていく各社のチャレンジから、今後も目が離せなくなりそうです。

この人に聞きました
角井亮一さん
角井亮一さん
株式会社イー・ロジット、代表取締役社長CEO兼チーフコンサルタント。
上智大学を3年で単位取得修了後、ゴールデンゲート大学にてMBA取得。株式会社船井総合研究所への入社後、光輝物流株式会社にて物流コンサルティングや物流アウトソーシングを実施。2000年2月、主にEC通販事業者に向けて物流代行を行う株式会社イー・ロジットを設立、代表取締役社長に就任。2021年3月東証JASDAQスタンダード上場。そのほか物流に関する書籍を累計36冊出版。
株式会社イー・ロジット ウェブサイト(外部サイト)
ライタープロフィール
田邉 愛理
田邉 愛理
ライター。大学卒業後、私立ミュージアム学芸員、美術展音声ガイドの制作を経て独立。ライフスタイルやライフハック、アート、SDGsの取り組みなど幅広いジャンルでインタビュー記事や書籍の紹介などを手がける。

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