ティール組織とは?
ティール組織とは、2014年にフレデリック・ラルーの著書「Reinventing Organizations」で紹介された組織に対する新しい価値観です。日本では、2018年に出版された日本語訳の『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』が10万部のベストセラーになり、大きなムーブメントを起こしました。
ティール組織は、従来のピラミッド型組織とは明確に異なる組織です。まず、組織に階層構造や管理マネジメントの仕組みは存在しません。さらに、個々人が裁量権を持ち、互いに信頼関係を築いて、助言し合いながら動きます。そして、メンバーは組織の中で変化し続ける目的に沿って行動するのです。

上下関係がない1,000チームが、自律的に働く組織
ここで、より具体的にティール組織を理解してもらうために事例を紹介しましょう。
オランダの非営利の在宅ケア組織「ビュートゾルフ(BUURTZORG)」では、約1万人の看護師が高齢者や病人の在宅ケアサービスを提供しています。
ビュートゾルフでは最大12人のスタッフを率いるチームが約1,000組横並びになっており、チームリーダーは存在せず、チーム同士に上下関係もありません。バックオフィスは50名ほどで、看護師のコーチや管理部門の役割を担っています。
あるとき、このビュートゾルフのあるチームが、理学療法士とともに「高齢者のケガを予防するプログラム」を開発して一定の成果を出しました。従来型の組織ならこのプログラムを他のチームに横展開し、同様のプログラムを実施させようとするでしょう。しかし、この組織は違いました。
横展開すると他のチームに「やらされている感」が生じて主体性が奪われてしまいます。そのため、プログラムのノウハウや成果だけを各チームに共有したそうです。
結果的に、他チームのメンバーたちは「予防の段階でも支援する人の役に立てる」と気付き、どんどん新たな試みを始めていきました。つまり、組織のトップがコントロールしなくても組織が勝手に進化していきました。
このように、ティール組織とは、現場で働く人々の自発性や意思を尊重する組織のあり方なのです。
ティール組織を構成する3つの要素
私たちは、一人ひとりが異なる性質を持ちます。当然、組織を構成する人々も千差万別です。集まる人が異なればチームの形も変化するため、ティール組織には「こうすれば良い」という体制や手法はありません。一方で、組織がティール的かどうかを判断する指標や要素は3つあります。
1つ目は「セルフ・マネジメント(自主経営)」。これは、組織を取り巻く環境の変化に対して、個々のメンバーが他者からの指示を待たず、チームメイトと連携して対応すること。すべての意思決定は、メンバー同士がアドバイスやフィードバックをし合いながら行います。
2つ目は「ホールネス(全体性)」で、これは個々人が互いに自身の感情や考え方をオープンにして、組織の中で一人ひとりがありのままの自分が出せる状態をさします。他者から「期待される自分」として振る舞うのでなく、お互いに長所や短所など、自分の内面をさらけ出せる「心理的に安全な場所」を設ける必要があります。
3つ目は「存在目的」で、組織が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを探求し続けることです。これは、組織のトップである社長や創業者が決めた目的ではなく、メンバー間で探求する「変化し続ける目的」を指します。
このように、ティール組織は自然界の生態系のような「生きた組織システム」です。有機的に変化していくものなので、社会の変化に合わせて「組織の目的」「事業内容」「形態」も柔軟に変わっていきます。

組織がたどる5つの成長段階
ここでティール組織について、もう一歩理解を深めてみましょう。フレデリック・ラルー氏は著書の中で、組織には以下のような5つの成長段階がある、と説明しました。
・Red(レッド)組織
・Amber(アンバー/琥珀)組織
・Orange(オレンジ)組織
・Green(グリーン)組織
・Teal(ティール/進化型)組織
初めに「レッド組織」はリーダーやトップが支配的にマネジメントするチームです。この段階では短期的な組織目標に焦点があてられます。
「アンバー組織」は軍隊的なヒエラルキー構造を持ちます。メンバーには役割を厳格に全うすることが求められ、規律が重視されます。
アンバーの次が「オレンジ組織」です。ヒエラルキーは存在しますが、合理性や結果を重視し、分権的な制度や柔軟性もある程度備えています。
「グリーン組織」は成果より人間関係を重視するボトムアップ型のチームで、メンバーの主体性が発揮しやすく、組織の中に多様性が生まれます。
最後に「ティール組織」は組織を一つの生命体としてとらえます。個々のメンバーに意思決定権があり、社会の変化に合わせて組織の存在目的や事業などを進化させ続ける組織です。
この中で、従来のピラミッド型チームは「アンバー組織」や「オレンジ組織」にあたります。
これらの組織では、機械を修理改善するように組織がマネジメントされていました。社内のメンバーを機械のパーツのように職能で分け、特定の指標で組織や個人のパフォーマンスを測り、問題があれば分析や改善をする。すべてのメンバーは特定の指標で評価されるため、個々の内発的な動機は発揮できません。自発的に実験することができないので、イノベーションも生まれにくい組織でした。
対するティール組織は、「アンバー組織」や「オレンジ組織」が抱えるこれらの課題を解決できる長所を持っています。
ティール組織が持つ、3つの長所
従来、日本の組織では「計画を立て、実行できる人」が管理職になりやすい傾向にありました。しかし、新しい価値を生み出せる人が少なければイノベーションは生まれず、人間関係を大切にしてケアできる人が少なければ働きやすさが軽視されてしまう。ここに限界を感じていた組織は多いはずです。
一方でティール組織はどのような長所を持っているのでしょうか?
1つ目は、組織で働く一人ひとりの人生の豊かさが失われないこと。ティール組織は個々の資質や価値観、内発的動機を尊重して活かすチームです。適材適所で助け合うため、業務のために我慢することが少なく、自発性を持ってやりたいことに取り組めるので、一人ひとりがやりがいを持って働けます。
2つ目は、市場や社会の変化に強いこと。各メンバーに意思決定権があり、行動が任されているため、市場や社会の変化を察知して、すぐに行動に移せます。これは「メンバー全員が、社会変化へのセンサーを持っているチーム」と言い換えられるかもしれません。
3つ目が、イノベーションが起こりやすいこと。一人ひとりが市場や社会の変化を察知しながら動けるため、変化に対応するための実験がしやすく、そこからイノベーションが生まれるようになるのです。
日本では、東日本大震災などの自然災害において人の命や住む場所が突然奪われるといった経験を通じ、多くの人が「どこで誰と暮らしていくか?」「人生にとって何が大事なのか?」を問うようになりました。こういったことから個々人の豊かな人生を実現してくれるティール組織に注目が集まるようになったのかもしれません。
組織のティール化は、チームの「OS」を入れ替える作業
ここまでの説明で、「すぐに自社にも取り入れたい」と考えた方もいらっしゃるでしょう。しかし、ティール組織は一朝一夕では実現できません。
なぜかというと、ティール組織は「方法論」ではなく、「価値観」や「概念」だからです。高い目標を達成するための目標管理手法「OKR」や上司と部下が1対1で対話を行う「1on1」などのマネジメント手法は、スマートフォンで例えるならアプリケーションにあたります。
対するティール組織は、オペレーション(操作・運用・運転)を司り、ユーザーが端末を操作できるようにする役割を果たしている「OS(Operating System)」なのです。
ティール組織を導入するためには、経営者を始め、メンバー一人ひとりの根本的な思想や哲学が変わらなければいけません。まず経営者が変わり、マネージャー層が変わり、現場の一人ひとりも変わっていく、その過程には4〜5年の年月が必要です。
それゆえ、いきなり組織の階層構造をなくしてみたり、意思決定権をすべてのメンバーに与えたりしても混乱が生じて大失敗に終わってしまいます。組織の中には「現場を担う専門的な仕事」と「幅広い視野を持ち全体を俯瞰する仕事」の2つが必要です。当然、階層構造をなくすために「幅広い視野を持つ仕事」をすべてなくして、「現場を担う専門的な仕事」だけにしてしまうと、組織は崩壊します。
もしティール化を始めたいなら、まずは経営者が自身の価値観を変えていきましょう。変革の過程では必ず組織が混沌化します。「その変化を乗り越える覚悟があるのか?」「いま本当にティール化が必要か?」「その動機はなんなのか?」を自問自答しなければいけません。
そのためには、しっかりとティール組織の価値観を学ぶ必要があります。単に階層構造を壊してトップダウンをやめるだけではティール組織にはなりません。ティールは「OS」であり、試行錯誤を繰り返しているうちに自然とそうなっていくものなのです。

コロナ禍から見えてきた、ヒエラルキー組織の限界
働き方に関わる話題として、近年の大きな変化に、新型コロナウイルス感染症によるテレワークの普及といった働き方の変化があります。この出来事は、多くの人に従来のヒエラルキー構造のデメリットを気付かせたでしょう。
例えば、オンラインミーティング一つとっても、どのアプリケーションを使って行うのか、上の判断に任せていると業務が滞ってしまい、特に上層部がITツールに苦手意識を持っている組織は変化の波に乗り遅れていました。
このような変化が激しい時代において、人々は恐れを感じて守りに入りがちです。一方、ティール組織は「混乱や混沌はチャンスの塊だ」と考えます。いち早く変化に対応すれば業界をリードできる。変化を恐れず「学びを与えてくれるか」「チャンスに変えられるか」「状況の変化に困っている人の助けになれるか」と考えられれば、業界の枠組みを超えて協力し合い、コミュニティを広げるチャンスにもなります。
コロナ禍は近年稀に見る社会の変化を引き起こしました。上からの支持を待たずに行動できるティール組織は、変化が早い現代に適した組織のあり方だともいえるでしょう。
一人ひとりが認め合えば、テレワークにも適応できる
テレワークが普及する一方で、「メンバー間の交流が減り、心理的安全性の確立が難しくなった」「雑談から生まれるアイデアが減った」「報告・相談がしにくい」など様々な課題も生まれています。
こういった課題は、従来型のヒエラルキー構造から生まれるものではないでしょうか。従来型の組織では、主に職能や業績で人と人とがつながっていたので、テレワークの会議においても「生産性に直結する発言」が求められます。その結果、雑談が減り、心理的安全性が構築できず、報告・相談がしにくい雰囲気が生まれてしまったとも考えられます。
これを解決する手法の一つとして、「チェックイン」と呼ばれるものがあります。チェックインは、会議の始めにその時感じていることを共有し合ったり、プライベートを含め「こんなことがあったよ」と一人ひとりの日常を報告しあってから会議を始めたりする方法です。こうすると、メンバー同士がお互いを知る機会を作ることができ、相互の理解が深まるので、心理的安全性も確保できます。
とはいえ、「チェックイン」を必ず取り入れなければならないわけではありません。ティール組織は方法論ではなく、価値観や「OS」のため、それぞれの組織で適した方法が異なり、各社で成果が出る手法を模索する必要があるでしょう。

覚悟し、学び、価値観を変えて、地道に進んでいく
それではどのように組織のティール化を進めていけば良いのでしょうか?
繰り返しになりますが、まず経営者が覚悟をすること、そして自身の価値観をアップデートすることから始める必要があります。そして、価値観のアップデートをメンバーにも広げていきます。
ティール組織においては、それは強制的に行うのではなく、自然に伝播させていくことしかできません。このときに役に立つのが「情報の透明性」です。日々感じていることや学んだこと、組織内のポジティブなストーリーが組織全体に広がっていくような仕組みを作りましょう。
ティール組織という価値観が広まり、個々人が意思決定できる体制が整えば、メンバー一人ひとりが「セルフ・マネジメント(自主経営)」「ホールネス(全体性)」「存在目的」を感じられる取り組みを自発的に実験してくれるはずです。
変革を始めると、思わぬことでつまずくことも多いと思います。それはまるで絡まった糸を一本一本ほどいていくように地道な作業です。有機的な要素が組み合わさって常に進化していく組織をめざすなら、実際に手を動かしながら、ときに迷いながら、一歩一歩進んでいくしかありません。しかし、その先には働く人にとって幸せな組織が待っているはずです。
シンプルに「どちらがより、人として自然な状況か?」を考えてみる
ティール組織の経営者の考えはシンプルで、彼ら、彼女らは「どちらがより、人として自然な状況か?」を指標にしています。「採用時に人をふるいにかけるような表現を使うことに違和感がある」「社員に経営のビジョンを浸透させるって一方的だよね」など、より人として「自然なこと」に敏感であれば勝手にティール化は進んでいくといいます。
この「自然なこと」を基準にすると、日常にたくさんの違和感があることに気付いていきます。ティール組織ではその違和感のことを「シグナル」と呼びます。
本来、人間の心は色々なシグナルを発しています。仕事の中でも「この仕事はワクワクする」「リラックスして作業できている」「今日は会社に行きたくないな」など、プラスマイナス含め様々な感情が生まれています。感情はとても役に立つシグナルになります。
しかし、従来型の「レッド組織」「アンバー組織」「オレンジ組織」では、シグナルを誤魔化しながら働くことも多かったはずです。
まずは、そういった自身のシグナルに気付き、与えられた役割でなく、本当にやりたいことを自分で選択する中で個人の内発的動機が見えてくるのではないでしょうか。
小さなところから自分の違和感に気付けるよう心がけ、その価値観を貫いていけば、麻痺している感覚が戻り、弱いシグナルにも気付けるようになるはずです。
組織の枠組みを超え、チームと個人が応援し合える社会へ
コロナ禍を経て、今後、組織はどう変わっていくべきなのでしょうか?
嘉村さんが構想しているのは、組織と組織が枠組みを超えて共生する「組織生態系」だといいます。ティール組織の価値観の中では、一人ひとりの人間は唯一無二の存在です。人には一人ひとり目的があり、その人生を歩めるのは本人しかいません。
ここで、「個人と組織のパーパス(目的)をどのように結びつけていくか?」が問われます。よく現代社会で見られるのは、「組織の中でどのようなパーパスを持って歩むか」という問いかけです。
組織における個人の仕事の目的や目標設定は、組織のものをもとに考えられることが多いでしょう。つまり、組織のパーパスをもとに個人のパーパスを決め、結びつけているということです。
しかし、一旦組織活動は置いておいて、自身のパーパスと向き合い、そのうえで組織のパーパスとつながることが重要になります。
なぜなら、組織に合わせたパーパスは外発的なものになりがちだからです。また、個人が人生を歩む中で、組織に自分のすべてを捧げて働くことは難しいからです。3割でも8割でも、個人が各自のパーパスの中でその組織に合う部分でコミットすれば良いのです。
そして、その個々人のパーパスをはみ出ている部分を含めて組織が応援してあげれば、メンバーは組織のことを好きになってくれるでしょう。一度組織を好きになってくれた人は、ボランティアや副業を通して、別のコミュニティで得た経験を組織に還元してくれます。
もし、その人が辞めてしまっても「あの会社で働いていたけど、すごく働きやすかったよ」「すごく良い製品を作っていたよ」と、組織外から採用や営業を応援してくれる。このように組織の枠組みを超え、人を媒介に、組織と組織が有機的につながる生態系を作り出せれば、変化に強い優秀な社会が形成されていくでしょう。
従来のように境界を設けて分離する考え方ではなく、これからは有機的に組織と人がいかし合う。そんな社会が実現できれば、より多くの人たちが生きがいを感じられるはずです。
この人に聞きました

東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開している。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。
ライタープロフィール

1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車で日本一周。旅先の自転車屋で働いた後、ユーラシア大陸横断旅行に出かける。2014年に上京して、ライターとして開業。2016年6月〜2017年9月に編集プロダクションへ所属して、オウンドメディアの編集者を担当する。退社後は再びフリーライターへ。現在はスタートアップや採用など、ビジネス領域を中心に執筆中。
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